頭位性めまい

片方の耳を下にして寝ようとすると、突然ぐるぐる回るめまい。朝起きて起きあがろうとすると、ぐるぐる回って起きれない。頭がある方向を向いたときだけ起こります。
ご本人は非常に驚いて受診されますが、原因は内耳の石です。
今回は、耳が原因のめまいです。
頭位性めまいについて書きます。

まず初めに、正常の平衡感覚はどう保たれているのかについて、知る必要があります。

半規管と前庭

内耳には、蝸牛と前庭、半規管があります。
蝸牛は、聴覚を司る部位です。前庭と半規管は、平衡覚を司っています。

半規管は半円周状の管で、片方の内耳に3本あります。3本の半規管は1本ずつxyz軸の直交する平面に存在しています。
半規管は、前半規管、後半規管、水平半規管の3本です。3本あるので三半規管とも言われます。

前庭には、卵形嚢と球形嚢という、2つの耳石器があります。

図1 内耳の構造

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E8%80%B3

卵形嚢 球形嚢

前庭には、卵形嚢と球形嚢の2つの耳石器があります。卵形嚢は半規管側に連続していて、球形嚢は蝸牛に連続しています。
卵形嚢と3本の半規管の接合部は、膨大部と呼ばれ、半規管が太くなった部分の内側に感覚細胞が突出して稜(りょう)を作っている部位があり、膨大部稜と呼ばれています。

図2 卵形嚢と球形嚢

説明図。1: 蝸牛、2: 球形嚢(茶色の部分は平衡斑を示す)、3: 卵形嚢(茶色の部分は平衡斑を示す)、4 – 6: 半規管の膨大部(黒く細い三角形は膨大部稜を示す)

卵形嚢、球形嚢には、平衡斑と呼ばれる感覚細胞と支持細胞で構成される領域があり、それぞれ卵形嚢斑、球形嚢斑と呼ばれています。
平衡斑は、重力や直線加速度を感知します。

平衡斑

平衡斑は、上から、耳石層、ゼラチン層、クプラ下層の3層構造からなります。
最下層(クプラ下層)に有毛細胞が並んでおり、その上をゼラチン状の物質が覆い、最上層に炭酸カルシウムの結晶が載っています。この炭酸カルシウムの結晶を平衡砂(または耳石)といい、ゼラチン状の物質は平衡砂膜(または耳石膜)と呼ばれています。有毛細胞の毛は平衡砂膜の中に突き出ていて、直線の加速度が生じると、有毛細胞と平衡砂の位置にズレが生じ、有毛細胞の毛が刺激されます。その刺激が神経から脳に伝えられ直線加速度を感じるようになっています。

図3 平衡斑
ゼラチン状の耳石膜の上に
耳石(赤色)が載っています。

図3は、平衡斑のイラストです。
(稚拙な指ドローですが。)
有毛細胞の感覚毛(赤色)はゼラチン状の耳石膜(黄緑色)に突き刺さっていて、その上に耳石(赤色)が載っています。
走査型電子顕微鏡の画像で見ると、耳石膜の上下は非常に細いフィラメント繊維が網状に張り巡らされているようです。耳石と耳石の間も細いフィラメントが繋いでいます。
感覚細胞としての有毛細胞は、1型と2型の2種類あります。

平衡斑の周囲は内リンパ液に満たされています。直線加速度が発生すると、内リンパ液の中で、耳石は慣性の法則によってすぐには動きませんから、耳石膜との間にわずかな空間のずれが生じます。このずれを有毛細胞の感覚毛が感知して、有毛細胞に電気信号が発生し、電気信号が前庭神経を通って脳へと送られます。

卵形嚢の平衡斑と球形嚢の平衡斑は互いに垂直に配置されていて、前者は水平方向の直線加速度を、後者は垂直方向の加速度を感知します。頭部を傾けたときも重力によって耳石がずれて傾きを感知します。(これも直線加速度の1種です。)

難解ですので、もう一度、図2での確認が必要です。同じ図をコピーしています。(図4)
卵形嚢、球形嚢の位置、平衡斑の位置とその働きを確認してください。

図4 平衡斑と膨大部

説明図。1: 蝸牛、2: 球形嚢(茶色の部分は平衡斑を示す)、3: 卵形嚢(茶色の部分は平衡斑を示す)、4 – 6: 半規管の膨大部(黒く細い三角形は膨大部稜を示す)

膨大部

3本の半規管の両端は前庭の卵形嚢につながっています。両端のうち一方は膨隆しており、この部分は膨大部 (ampulla) と呼ばれています。この内側に角加速度を感受する膨大部稜(crista ampullaris)という装置があります。
膨大部稜の位置を、図4で確認してください。
図4の4, 5, 6 の黒く細い三角形が、膨大部稜です。これを拡大した図が、下の図5です。

膨大部の壁には、有毛細胞が並んでいます。有毛細胞の毛は半規管の内側を向いていてゼラチン状の物質(クプラ)に覆われています。頭部に角加速度が生じると半規管にも角加速度が起こりますが、半規管内の内リンパ液は、慣性の法則によってその場にとどまろうとするので、内リンパ液には、相対的に逆向きの流れが生じます。内リンパ液の流れによって有毛細胞の毛が刺激され、その刺激が前庭神経から脳に伝えられ、(回転)角加速度を感じます。

図5 膨大部稜(crista ampullaris)

有毛細胞は、クプラ(cupula)というゼラチン状の物質に覆われていて、半規管の内リンパ液の流れがクプラを押して、有毛細胞を刺激します。(図5)

このときの内リンパ液の流れの方向は、クプラを半規管方向へ偏位させる方向(反膨大部流 ampullo-fugal flow)と、クプラを卵形嚢方向へ偏位させる方向(向膨大部流 ampullo-petal flow)の2通りあります。

ここまでで、

① 卵形嚢と球形嚢の「平衡斑」と、半規管膨大部の「膨大部稜」が、重力や直線加速度、回転加速度を感知して、前庭神経から脳へ信号を送っていること。

② 平衡斑では、耳石膜の上に載っている耳石のずれを、膨大部稜では、内リンパ液の流れを直接、有毛細胞が感知していること。

この2つの基本的で重要なことを理解できました。

めまいの原因

基本的な知識は十分理解できました。つぎは、実際のめまいでは一体どういうことが起きているか、を確認しましょう。

ある特定の頭位(頭の位置)をとっても、正常ならば、めまいは起きません。では、どうしてめまいが起きる人がいるのでしょう。

これは、「卵形嚢の平衡斑の上に載っていた耳石が剥がれて、半規管内に入り込むから」です。

頭位性めまい

耳が原因で起こるめまいを一般に、末梢前庭性めまいと言いますが、このめまいの中で最も頻度が高いめまいが、「頭位性めまい」です。
では、頭位性めまいとは、一体どんなめまいでしょう。

良性発作性頭位めまい症(BPPV: benign paroxysmal positional vertigo)は,特定の頭位で短時間(60秒未満)の回転性めまいの発作が起こる病気です。
悪心を伴うことがあり、眼振が生じます。

典型的には、このようなパターンです。

めまい発作の大部分は、朝目覚めて最初に寝返りをうったときや、棚の高いところに手を伸ばそうとして頭を後ろにのけぞらせたときなど、頭の位置を変えたときに、急に起こります。めまいは激しく、回転性ですが、持続時間はふつうは短く10-20秒、長くても1分以内には完全に治ります。夜寝ようと横になるときに、また短時間の同じめまいが起こります。多くは寝返りで右を向いたとき、左を向いたとき、など特定の頭位や頭位の変換時のめまいを訴えます。ほとんどは、そのときだけの短時間のめまい発作ですが、ときに1日中、回転性めまいや浮動性めまいが続くこともあります。
めまい発作は繰り返し起こりますが、短時間に繰り返し起こるとめまいが軽くなる特徴があります。

原因は?

頭位性めまいは、卵形嚢の平衡斑にある耳石が剥がれて、半規管に入り込むことが原因です。

半規管は3本ありますが、後半規管が最も多いと言われています。これは就寝時、起立時とも後半規管が卵形嚢より下に位置しているため、夜間に卵形嚢から剥がれた耳石が、卵形嚢内で内リンパ液の中を浮遊するとき、後半規管が重力の影響で、1番落ち込みやすいからです。

(耳石は水平半規管、前半規管に入り込むこともあって、この時は、めまい起こり方や診断時の眼振のタイプが違ってきます。)

後半規管に落ち込む耳石の位置には、2通りあります。1つは、耳石が半規管内に入って泥状の塊になってしまうもの。もう1つは、耳石が膨大部稜に付着してクプラを刺激するもの。

膨大部と半規管の位置関係を再度、確認しましょう。(図4, 図5)

耳石が半規管内を浮遊するもの

耳石は1個だけ剥がれるのではありません。常に代謝で僅かずつ剥がれて吸収されていますが、ある一定の量の耳石が剥がれると、症状を起こします。

耳石が半規管の管の中に入り込むと泥状の塊を生じます。これが、頭位の変換に伴って重力の影響で半規管内を動くため、半規管内で内リンパ流が強く起こります。この内リンパ流を膨大部稜のクプラで感知して、回転性めまいが起こります。

図6 後半規管内の浮遊耳石
聴砂=耳石

浮遊耳石によって起こる内リンパ流は、半規管から卵形嚢へ向かう方向と、卵形嚢から半規管へ向かう方向の2通りあり、回転性めまいの方向や、診断のときの眼振の向きに関係しています。

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/19-%E8%80%B3%E3%80%81%E9%BC%BB%E3%80%81%E3%81%AE%E3%81%A9%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%86%85%E8%80%B3%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%89%AF%E6%80%A7%E7%99%BA%E4%BD%9C%E6%80%A7%E9%A0%AD%E4%BD%8D%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%84%E7%97%87

耳石が膨大部稜に付着するもの

耳石が膨大部稜のクプラに付着してしまうと、ある頭位のとき、重力によってクプラが偏位するため、めまいが起こります。クプラに耳石が着くので、クプラ結石症とも呼ばれます。内リンパ流と違い、クプラそのものが重力で強く引っ張られるため、めまいは激しく、持続時間も2分以上と少し長くなります。
図5の頭の部分が重力で傾いた状態です。

頭位性めまいは、2つの場合とも、平衡斑から剥がれた耳石が原因になって起こることが理解できました。ではどんな時に耳石が剥がれるのでしょう。

現在のところ、中耳炎、耳のウイルス感染症、頭部外傷、入院などの長期臥床、メニエル病、高齢によるもの、などが原因であると言われています。

診断は?

頭位性めまいの診断は、難しくありません。丁寧な問診と、神経耳科学の検査で診断できます。

めまいの診断は「問診がすべて」です。まずは、問診でどんなめまいか、詳しく聞くことが最も重要なことです。
問診では、先に書いたパターンのようなめまいの起こり方や症状があります。

神経耳科の検査では、聴力検査、頭位・頭位変換眼振検査(Dix-Hallspike 法)を行います。
眼振(めまいのときの眼球の動き)を、潜時(眼振が起こり始めるまでの時間)、強さ、方向、時間による変化(多くの症例では、crescendo decrescend の形式をとります)、持続時間、疲労現象(反復するとめまいや眼振が軽度になること)などをCCD眼振カメラを使用して調べます。

画像検査では、側頭骨CTによる、先天性を含めた内耳形態異常の有無、上半規管裂隙症候群との鑑別、外リンパ瘻との鑑別、他の腫瘍性疾患の可能性の有無などが診断されます。

頭位性めまいでは、聴力の異常はありません。

これでほとんどの症例は、診断がつきます。

例外は?

あります。
良性発作性頭位性めまい(BPPV)に対して、悪性頭位性めまいと言います。これは、脳の腫瘍などによって、良性発作性頭位性めまいと同じような症状を起こすものです。

診断のとき、頭位頭位変換眼振検査で、眼振発現までの潜時がない、眼振が時間とともに減衰しない、疲労現象がない、など少し違う反応をします。

この場合の悪性という言葉は、必ずしも悪性の腫瘍を意味しません。良性に対してつけられた病名です。
疑われたら、頭部のMRI検査を予約します。

治療は?

頭位性めまいの治療は、経過観察とEpley法による治療があります。

頭位性めまいは、2-3週間で自然治癒する症例も多くあります。多くはめまい発作は繰り返しますが、症状は徐々に軽くなり、やがて治まります。なので、めまいがひどくなければ、抗めまい薬の内服などで経過観察するのも十分な治療です。

一方、めまい発作のひどい症例や、経過の長い症例、なかなか自然治癒しない症例などに対しては、Epley法と言って、半規管または膨大部クプラの耳石を重力を利用して移動させ、卵形嚢の中まで誘導する治療があります。
これは患側を診断して、患側の半規管を垂直に位置させることで耳石を重力で落下させ、体位を変換しながら少しずつ半規管から卵形嚢まで耳石を移動させる手技です。
大きな侵襲がなく、外来で簡単にできる治療方法ですが、めまいを誘発して症状を悪化させることが必要ですので、十分な説明と患者さんの理解が必要です。
即効性があり、効果は高い治療方法で、90%が改善をみると報告されています。
めまいが再発する場合は、Epley法を繰り返し行うこともあります。

めまいが起こったら?

まずは、頭位性めまいという病気があることを知っていてください。突然激しいめまい発作が起こるため、命に関わるめまいのように感じる方も多い病気ですが、全く逆で生命の危険のない安全なめまいです。
夜間など時間外に起こると、慌てて救急病院を探したり、パニックになって救急車を呼ぶ方も少なくありません。
脳血管疾患を疑われ、救急病院でCTを撮って異常なしと診断されて、耳鼻科を受診されることも多くあります。

まずは、頭位性めまいという病気があることを知っておきましょう。

どうすれば?

人は誰でも、突然めまいが起こったら驚き、慌てます。
自分で診断などできませんから、当然です。
慌てて良いのです。驚くのも当然です。
ですから、本当に異常を感じたら、まずは救急病院を受診しましょう。耳が原因となる以外のめまいも多いのです。
(高齢者のめまい)

とりあえずCTやMRIに異常がなければ、すぐに生命に影響のあるめまいではありません。翌日すこし落ち着いてから、かかりつけの耳鼻咽喉科医を受診してください。

丁寧な問診、めまいの検査、画像検査を経て、「頭位性めまい」の診断が下されます。

あとは、あなたの主治医の先生の治療方針に従って、きちんと治療してもらうと良いのです。

ぐるぐる回るめまいがする…
(イメージです)

高齢者のめまい

最近、めまいで受診する患者さんが多くなりました。めまい=耳鼻咽喉科と思い込んでおられる方も多いようです。しかし、高齢の方のめまいは、年齢の若い方とまったく同じではありません。
そのアプローチと診断について書いてみます。

高齢者とは?

高齢者は、何歳から言うのでしょう。
正確な定義はありません。
世界保健機構(WHO)の定義では、65歳以上となっています。日本の厚生労働省の定義では、65歳以上を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としています。
ここでは現代の社会認識も考慮して、70歳以上を高齢者と意識して文章を書いています。

高齢であることの意味

人は、みな歳をとります。
生まれてから年数を積み重ねるごとに、人は成長していき、いつしか歳をとっていきます。その折り返し地点がどこなのか僕はわかりませんが、歳をとることは老化が進んでいくことです。では、老化とは一体何なのでしょう。
老化とは、” 時間の経過とともに生物の個体に起こる変化であり、死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程。”と定義できそうです。老化は、人すべてに普遍性があり、必ず起こり、不可逆性です。老化の原因は、プログラム説、遺伝子修復エラー説など諸説がありますが、ここでは議論しません。年齢とともに起こる生体の機能低下が老化の本態です。
老化は、脳神経、心血管、呼吸器、消化器、腎、泌尿器、筋肉、骨、皮膚、目、耳に必ず起こります。じつはこの全てが、めまいの原因の一つかもしれないのです。

ぐるぐる、ふらふら

めまいで病院に行くと、担当医が必ず訪ねます。「ぐるぐる回るめまいですか?フラフラするめまいですか?」
めまいの標準的な教科書にはほとんど、
「 回転性の(ぐるぐる回る)めまいは前庭系のめまい、非回転性の(フラフラする)めまいは、中枢性のめまいのことが多い。」という記載があります。前庭とは内耳のことです。医学は確率の要素が多い自然科学なので、担当医はまず一番多い(確率の高い)病気から疑います。回転性めまい=前庭系(内耳)=耳鼻咽喉科、という図式が、ここで出来あがります。

糖尿病、高血圧、心臓病

70歳以上でめまいを訴える高齢の方は、一般に合併症と呼ばれる病気を持っておられます。1つだけでなく、2つ、3つと持っておられる方も決して少なくありません。これに起立性調節障害(立ちくらみ)を加えた4つが代表的な病気です。高血圧が最も多く、起立性調節障害が2番めに続きます。
これら以外にも、肝臓病、腎臓病、喘息、肺気腫、COPD、骨粗鬆症、ロコモティブ症候群、貧血、白内障、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症など…。がん治療中の方も、がん治療後の方もおられます。定期的にお薬を飲んでいない患者さんを探すのが難しいくらいです。

めまいの診断

めまいの診断と治療については、過去のトピックスでいくつか書いています。
ご興味のある方は是非お読みください。

めまい -その1-
メニエル病について -その1-
外リンパ瘻 -その1-

この頁では、例外の多い高齢者の方特有のめまいについて、書いておきたいと思います。

高齢者めまいの特徴は?

高齢者めまいの特徴は、先に述べたように高齢者では、老化によって身体機能が著しく低下していることです。
先の4つ、高血圧、糖尿病、心臓病、起立性調節障害などの合併症だけでなく、高次機能の低下、体性感覚の低下、代償能の低下、自律神経機能の低下、関節変形・姿勢の変化(屈曲姿勢)、筋力の低下、薬物代謝能の低下、視力低下、聴力・平衡機能の低下、意欲の低下などです。高齢者のめまいは、これらが複雑に合わさって起こっている可能性があります。

脳血管性?

高齢者のめまいで一番注意が必要な病気は、脳血管性のめまいです。見逃したら命にかかわることが多いからです。” 脳血管性のめまいは回転性ではない” と考えている方がおられるかもしれませんが、それは間違いです。脳血管性のめまいでもぐるぐる回るめまいはあります。小脳出血や梗塞などは回転性のめまいと嘔吐があります。前庭系のめまいとの鑑別はつよい頭痛があることです。手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない(構音障害と言います)などの症状があれば、脳梗塞など脳血管性の病気がめまいの原因だと早く気づきます。でも、そのようなわかりやすい症状がない場合も多いのです。脳幹の微小梗塞は、部位と範囲が良ければすぐには脳血管性だと診断がつきにくい場合があります。
回転性と非回転性のめまいで病気を診断したら診断を誤る可能性があります。もちろんクリニックでできる診断は100%ではありません。しかし、少しでも脳血管性のめまいが疑われたら、即座に脳神経外科医を紹介しています。

何のめまいが多い?

さて、明らかな脳血管性のめまいではないとき、耳鼻咽喉科で診る高齢者のめまいで多い疾患は、次の10個です。

  1. 椎骨脳底動脈循環不全症
  2. 起立性調節障害
  3. 良性発作性頭位性めまい
  4. 前庭神経炎
  5. メニエル病
  6. 心疾患
  7. 薬物によるめまい
  8. 聴神経腫瘍
  9. うつ病 
  10. 原因不明 

1-10を見ると、純粋に末梢前庭系のめまいは、3, 4, 5, の3つです。8 は中枢性も混ざっています。1番めと2番めはともに脳血流に関するものです。6も、不整脈や頸動脈洞反射、血管迷走反射によるものですので同じく脳血流低下が原因のめまいです。

1. 椎骨脳底動脈循環不全症

心臓から脳へ血流を送る椎骨脳底動脈の循環不全によって、脳幹、小脳、後頭葉の機能障害による発作を繰り返す疾患のことを言います。簡単に言えば、脳血流がうまく流れなくなったことによるめまいです。
症状は、回転性(ぐるぐる)または浮動性(フラフラ)のめまい、眼前暗黒感(突然目の前が真っ暗になる)、複視(ものが二重に見える)、構音障害(ろれつが回らない)などです。手足の一過性の痺れや麻痺を伴うこともあります。症状がひどくなると、一過性脳虚血発作(TIA)と言って、一時的で可逆性の脳梗塞になることもあります。
高齢者で、糖尿病、高血圧、高脂血症などの合併症を持っている方に多く起こります。脳へ行く太い動脈に動脈硬化が起こり、血管内腔が狭くなって血液がスムーズに流れません。進行するとめまいだけでなく、脳に血栓が詰まる脳梗塞が起こりやすくなります。めまいが、脳梗塞の前兆になっていることが多い病気です。耳鼻咽喉科の検査ではほとんど異常が見当たらず、めまいの薬だけ処方されることが多いですが、内科医や脳神経外科医による精密検査を受けて、原因を確認しなければなりません。通常、MRIやMRAの画像診断が必要です。
とくに65歳以上では、脳梗塞の症状が全然ないのに脳の細い血管がすでに微小血栓でつまっている無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)が起きていることがありますので、注意が必要です。
血流不全の原因は動脈硬化だけでなく、頚椎の加齢変化、骨による圧迫などの整形外科疾患によるものや、不整脈によって血流が連続的に流れないため心臓病が原因になっていることもあります。幅広い診療科での対応が望まれます。

2. 起立性調節障害

疾患の定義は、「自律神経の機能低下によって、起立や座位で脳血流が減少する病気」です。起立時に血圧の低下と心拍の上昇がみられます。主な症状として、立ちくらみが起こります。10歳から16歳くらいの小児に起こることが多いとされていますが、じつは成人にもある病気で、高齢者にも多い疾患です。
起立によって通常、血圧は変動せず、脈拍はすこし上がります。起立性調節障害があると、起立によって血圧が大きく低下して、脈拍が大きく上昇します。起立によって重力で血液が下方に集まりやすくなりますから、通常は下肢や腸管の血管が収縮して血液を上方(脳や心臓など)に集めます。同時に心拍数が少しだけ上がります。心臓から送り出す血液量を増やして、脳へ行く血液が減らないようにするためです。これは、自律神経の働きで無意識に反射的に起こります。人は、1日のうちで何度も椅子から立ち上がったり座ったりを繰り返しますが、その都度めまいが起こらないのは、自律神経の働きがあるためなのです。
しかし、高齢者では自律神経機能の低下も起こりますから、この働きがうまくいきません。起立によって下肢や腸管の血管が収縮せず、起立性の低血圧を起こします。逆に起立によって高血圧を起こす人もいます。食事の後1-2時間、起立時に低血圧を起こすことがあります。食後性の低血圧で、注意が必要です。
高齢者で起立性低血圧(高血圧)を起こす人は、1.の椎骨脳底動脈循環不全症を合併していることが多いと報告されています。一般に高齢者では、高血圧の人ほど起立時に血圧の低下が大きいと言われています。これは、血圧の薬を飲んでいても起こります。繰り返すと、脳血流の低下が反復されて、脳梗塞を起こす可能性もでてきます。

6. 心疾患

高齢者のめまいで、心臓病が原因のことがあります。不整脈、頸動脈洞症候群、血管迷走神経性失神などです。
重症の不整脈があると脳血流が一時的に途切れたり、脳の血流がスムーズでないために脳血流低下によるめまいが起こります。とくに高齢者で心臓病のある方は要注意です。心房細動などは、常に心臓で小さな血栓(血の塊り)ができやすく、脳の血管に血栓が飛んで脳梗塞を起こす危険性が高くなります。微小血栓のときは、一時的な血液途絶や血流不全によってめまいが起こることがあり、心臓病の治療をする必要があります。重症の不整脈の場合も、頻繁に脈が飛んだりすると脳血流が一定せず、めまいの原因になります。
人の頚部にある太い動脈の周りには圧受容体が存在し、自律神経のコントロールをしています。この受容体を首の皮膚の上からつよく押すと、過剰な迷走神経反射が起こり、一時的な心停止や重篤な血圧低下や徐脈(異常に脈が遅くなること)が起こることがあります。心停止は3秒以上、血圧低下は50mmHg以上におよび、失神が起こり生命の危機に瀕します。これを頸動脈洞症候群と言います。高齢者で心臓の血管が細くなっている方や高血圧がある方に起こりやすいとされています。
急激な頚部の回旋,伸展や、ひげ剃り、ネクタイ 締め,着替え,車の運転,荷物の上げ下ろしなどの行動 に伴って症状が出現しやすいため,それらの誘因を 避けるように注意しなければなりません。失神までいたらず、めまい症状だけのことも多くあります。
血管迷走神経性失神で高齢者に多いのが、排尿失神です。高齢になると夜間トイレに起きることが多くなり、睡眠中に血圧が低下していたところへ、排尿後の血管迷走神経反射によって急激な血圧低下が起こり失神します。脳貧血と同じですので回復しやすいですが、転倒しますので転倒による外傷に注意が必要です。
これらは純粋に循環器内科専門医の疾患です。循環器内科で治療する必要があります。

7. 薬物によるめまい

高齢者の方は、高血圧などの合併症のために、複数の医師から多くの薬を処方されていることが少なくありません。とくに、不眠による睡眠導入剤、気分がすぐれないことによる抗うつ薬、抗不安薬などの継続は、複数の薬剤の相乗効果によって、昼間のふらつきや歩行時の不安定につながっていることがあります。耳鼻咽喉科や他の診療科でも異常が見られないめまいのときは、お薬の確認も必要になります。

3, 4, 5, 8

耳鼻咽喉科のめまいは、3, 4, 5, 8 です。それぞれ高齢者では、若年者と違う特徴がありますが、ここでは頁の関係で省略します。これらの疾患は、受診されたら治療可能だからです。8 の聴神経腫瘍は、50-60歳台に多い疾患ですが、高齢者でも見つかります。良性腫瘍で発育が緩徐なことが多いため、高齢者では経過観察も選択されます。

10. 原因不明

耳鼻咽喉科であらゆる神経耳科的な検査を行なっても異常がなく、他診療科へのコンサルトを経ても異常が確認でない、いわゆる”原因不明のめまい”が、高齢者にはみられます。
高齢者のめまいの20%を占めているとの報告もあります。presbyastasis と呼ばれています。
海外の論文での定義によると、presbyastasis は、” 加齢にともなう平衡障害。知覚系運動系を含めた脳神経機能の加齢が原因で起こる浮動性めまいと平衡失調。”と訳されます。
今後明らかにされてくると考えています。

結論は?

高齢者のめまいについて、書きました。
高齢者でめまいがあったら、まずは症状をしっかり観察しましょう。ぐるぐる回るめまいのときは、とても冷静に自分のことなど観察できないと思いますが、できる範囲で大丈夫です。

つよい頭痛はないか?
手足の痺れや麻痺はないか?
ろれつが回らないか?
ものが2重に見えないか?
目の前が真っ暗にならなかったか?

これらの症状がなかったり、はっきり自覚されないのなら、とりあえず慌てる必要はありません。かかりつけの耳鼻咽喉科医を受診してください。ただし、症状は常に変化しますので、途中で危険な症状が出たら、担当医に必ず伝えることが大切です。
めまいは、つらい症状です。
とにかくお大事に!

フラフラする高齢の女性
(イメージです)


急性鼻炎 

急性鼻炎の多くは、いわゆる鼻かぜと同じと考えてよいでしょう。大部分がかぜのウイルスによって引き起こされます。
代表的なウイルスとして、ライノウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルスがあります。ウイルス感染に合併して細菌感染を生じることもあります。

ウイルス感染によって急性鼻炎が長く続くと、多くは鼻づまりから細菌感染が起こり、副鼻腔炎を起こしてきます。
副鼻腔炎は90%がウイルス性と言われますが、多くの場合、のちに細菌感染を併発してウイルスと細菌の混合感染になります。

鼻粘膜にウイルス感染が起こると、炎症メディエイターであるヒスタミン、ブラジキニンが放出され、この2つによって、三叉神経終末の刺激反射による鼻腺分泌亢進と毛細血管からの血漿漏出が起こります。
そのため、鼻水が大量に出てきます。これが急性鼻炎の正体です。
急性鼻炎の鼻水は、水様性で無色透明です。

子どもの鼻水

子どもさんが鼻水をずるずるしています。
熱はなさそうですが、とにかく鼻水が出ています。色は透明です。のどもぜろぜろして、機嫌が悪そう。
こんな時、お母さんたちは、どうするでしょう。熱がないからとりあえず様子をみる。熱がなくても小児科や耳鼻科に連れていく。もちろん、どちらも正解です。子どもさんの具合とお母さんの希望で決めて良いのです。でも、どちらの場合も、子どもさんの鼻水をお母さんが吸ってあげてください。とくに小さい子どもさんは、自分で鼻をかむことができません。鼻水が出ていると、出たままになります。子どもさんの鼻腔は狭いので、副鼻腔炎を起こすと膿性の鼻水がのどへ落ちてきます。細い気管支に流れ込んで、気管支炎を起こし、ぜろぜろするのです。この時の咳は、湿性(湿り気のある)の咳です。痰がからんだ咳をします。
この状態の子どもさんが、外来には非常に多く来ます。

どんな鼻水?

水っぽい鼻水、どろっとした黄色い鼻水、どちらもお母さんは心配されます。
風邪のウイルスによる水っぽい鼻水は、ウイルス感染が治まると自然に治ってきます。治りかけに一過性に黄色い鼻水が出ることがありますが、そのまま治ります。
問題は、水っぽい鼻水が長く続いて、副鼻腔炎を起こしたときです。黄色や緑っぽい色のどろっとした膿のような鼻水がずるずる出てきます。のどの方へも流れてきて気管支炎の原因になります。

鼻水の治療は?

では、治療はどうすれば良いのでしょう。
子どもさんの鼻水の治療は、まず吸引してあげることです。これが一番重要な治療になります。小さな子どもさんは自分で鼻をかむことができませんから、吸ってあげるのです。

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鼻吸引器には、たくさんの種類があります。web上には多くの良い商品が売られています。とくに医療用にこだわる必要は全くありません。価格の高いものでなくて十分です。希望と用途によって、お好きな商品を選んでお使いください。webサイトの1例をお知らせしておきます。

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鼻吸い器のおすすめ人気ランキング19選 (徹底比較)

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他にもいろいろなwebサイトがあります。ご自身でお調べください。

何のために?

鼻水が出て、鼻吸引の治療がベストなことは理解できました。でも一体何のために、鼻の吸引が必要なのでしょうか。

その1番の理由は、口呼吸を回避して、正常な鼻呼吸を取り戻すことです。
鼻呼吸の必要性と口呼吸の弊害は、繰り返し述べても述べても、決して言い過ぎではありません。
以前に書いたトピックスです。
ぜひ、お読みください。

鼻づまり

口呼吸

鼻水が出ると…
お母さんは心配です。
(イメージです。)

アデノイド

アデノイドという病気を知っていますか?
アデノイドは、子どもの鼻の奥、突き当たりのところにある扁桃腺の一部です。
目に見えないアデノイドは、じつは子どもさんにとても大きな影響を与えています。
今回は、アデノイドについて知ってください。

アデノイドはどこ?

扁桃腺と聞くと、のどの奥、左右に見えるごつごつした半球状の塊を思い浮かべます。でもじつは、子どもさんの鼻の奥にも存在しています。鼻の奥の扁桃腺を咽頭扁桃と言い、アデノイドと呼びます。医学名は、adenoids と書きます。疾患名は、アデノイド増殖症 adenoid vegetation と言います。
アデノイドは鼻とのどの堺の部分、解剖学的には上咽頭という場所にあります。(図1)

図1 アデノイドは上咽頭にある


では、アデノイドは、一体何のためにあって、何をしているのでしょう。

アデノイドの役割

アデノイドは、何のためにあるのでしょうか。アデノイドは、組織学的には扁桃腺ですから、扁桃のはたらきをします。
外界からの細菌やウイルスの侵入があると、アデノイド表面のリンパ上皮共生で、上皮細胞、M細胞や樹状細胞などが抗原を取り込み認識して、上皮直下のリンパ濾胞でナイーブT細胞の誘導、活性化やB細胞の抗体産生、免疫記憶などの免疫応答を行なって体を防御します。
医学的には、粘膜関連リンパ装置(mucosa-associated lymphoid tissue : MALT )と言います。
すこし難しく書きましたが、要は感染防御のためのリンパ組織なのです。
人の体では、アデノイド、のどに見える口蓋扁桃、舌の後ろの舌根扁桃を合わせて、円周状のリンパ組織が形成されています。これを”ワルダイエルの扁桃輪”と言います。
この円周状の扁桃輪は、細菌やウイルスなどの侵入に対して、生体を防御する防波堤のはたらきをしています。
アデノイドは正式名称を咽頭扁桃と言い、ワルダイエル扁桃輪の一部分を担っています。

リンパ上皮共生 : 扁桃表面の上皮細胞の間隙に、炎症がないのにリンパ球が浸潤している状態 アデノイド(咽頭扁桃)にも見られる上皮構造

M細胞 : Microfold 細胞 
腸管上皮や扁桃に存在する、抗原提示細胞

アデノイドの大きさ

アデノイドは、年齢による生理的変化をします。
アデノイドは生まれたときは小さく、2歳頃から大きくなり始め、4-5歳ごろに最大になり、成長とともに小さくなります。成人ではアデノイドはほとんどありません。
アデノイドは、鼻とのどの境目で大きくなるため、物理的な閉塞による症状と、感染による症状が起こります。

肥大による症状

アデノイドが上咽頭の狭い空間で、生理的に肥大するとき、物理的閉塞による症状が起こります。代表的なものは、睡眠時無呼吸症候群です。小児は鼻呼吸が重要ですが、アデノイドが上咽頭を完全に閉塞すると、鼻呼吸ができなくなります。さらに5歳くらいでアデノイドが最大になる頃、のどの口蓋扁桃も肥大し始めますから、両者が相まって睡眠時に咽頭を完全に閉塞して、高度の睡眠時無呼吸症候群が起こってきます。

図2 上咽頭でボール状に肥大したアデノイド

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Adenoid
(adenoid wikipedia より引用)

感染による症状

アデノイドは上咽頭にあります。この部位は、鼻腔後方の位置で、アデノイドのすぐ横に耳管が開口しています。アデノイドで細菌やウイルスの感染を繰り返すと、耳管経由で急性中耳炎や滲出性中耳炎が起こりやすくなります。また、鼻腔後方をブロックしてしまいますから、高度の鼻閉が起こり、鼻汁や後鼻漏が咽頭へ流れず、副鼻腔炎が増悪します。アデノイドの肥大は、子どもの鼻副鼻腔炎、中耳炎を引き起こし、悪化させるのです。

診断

アデノイドが、どこにあってどんなものかは理解しました。アデノイドによって、何が起こるかも知りました。
次は、お子さんにアデノイドの肥大があるかどうかを調べなければなりません。
アデノイドの診断は、レントゲン撮影1枚で診断できます。上咽頭高圧撮影といいます。難しくありません。どこのクリニックでも診断可能です。ただし、患者さんが小さな子どもさんのため、レントゲン撮影に協力できないことが、しばしばあります。概ね4歳以上で、聞き分けの良いお子さんなら可能でしょう。泣いてお母さんから離れないお子さんは、レントゲン診断が難しくなります。

図3 アデノイド (上咽頭高圧撮影)

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/16-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%92%BD%E5%96%89%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%BC%BB%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E7%82%8E?ruleredirectid=24

アデノイド疾患
(MSD マニュアル プロフェッショナル版)
より転載

小学生くらいで、我慢ができる子どもさんであれば、鼻からの軟性内視鏡(ファイバースコープ)によるアデノイドの直接観察が可能になります。

治療

アデノイドの肥大があるとき、治療のほとんどは、経過観察になります。5歳以降は、アデノイドの生理的退縮がみられるからです。退縮のスピードは個人差があります。12歳頃までにかなり小さくなることが多いですが、時々、中学生になってもアデノイドが大きい子どもさんがいます。ごく稀に大人になっても残っている人もいます。要は、アデノイド肥大による症状が、どれだけひどく、どれくらい続いているかによって、治療方針が変わってきます。ほとんどの場合、アデノイド肥大の症状は高度ではなく、許容範囲内です。ごく一部の子どもさんが、4-5歳頃に重症の睡眠時無呼吸症候群を起こして夜間に陥没呼吸やシーソー呼吸が見られたり、漏斗胸などの胸郭の発育異常を起こしてきます。また、夜間に呼吸が苦しくて頻繁に覚醒したり、慢性的な睡眠不足のため日中の傾眠傾向や、”アデノイド顔貌”といって、常に口呼吸で集中力が低下したような顔貌(顔つき)になることが知られています。アデノイド顔貌は、鼻性注意散漫症とも言われています。
高度のアデノイド肥大に扁桃肥大、小児肥満をともなっている場合などは、重症の睡眠時無呼吸症候群がさらに悪化して、仰臥位だけでなく側臥位でも眠れずに起坐位(座る姿勢)になって眠るお子さんもいます。
このような場合には、正常な発育を促し、夜間の異常睡眠を改善するために、全身麻酔下にアデノイド切除術が必要になります。

何に気をつければ?

お母さんがたは、何に気をつけていれば良いでしょうか。まずは、お子さんが口呼吸になっていないか。鼻から呼吸ができているか。夜間に仰向けに寝ているとき、呼吸が止まっていないか。十分睡眠時間をとっているのに、昼間うとうとしていることが多くないか。口元がだらんとして(?)、顔の筋肉が弛緩していないか。(アデノイド顔貌) いつも、ぼーっとしていることが多くないか。
こんな症状が1つでもあったら、まず、かかりつけの耳鼻咽喉科を受診してみてください。

アデノイドは、お子さんの訴えがまずありません。中耳炎みたいに痛くないからです。お母さんが、注意深く、ご自分のお子さんを観察してあげないといけないのです。

アデノイド顔貌
アデノイド顔貌のイラスト
加藤整骨院 (東京都)のHPより転載


アデノイド顔貌をお見せしたくて、耳鼻咽喉科の教科書、イラスト等を探しましたが、どうしても一目でわかりインパクトのあるイラストが見つからず、webで検索中、東京都の加藤整骨院さんのホームページにいちばん素晴らしいイラストを見つけました。出典を明示してここに掲載させていただきます。

東京都町田市 加藤整骨院

https://katosei.com/1973

後鼻神経切断術

後鼻神経切断術について書きます。
すでに当院HP上で説明していますが、どのような手術でどのような症状にする手術なのか、再度理解していただきたいと思います。
後鼻神経の読み方は “こうびしんけい” です。

後鼻神経とは?

後鼻神経とは何でしょう。
後鼻神経は、上顎洞の後壁後方に存在する翼口蓋神経節から始まり、鼻腔の約7-8cm奥の鼻腔側壁にある蝶口蓋孔から、鼻腔を栄養する血管の1本である蝶口蓋動脈に伴走して鼻腔内に出てきます。翼口蓋神経節は、翼突管神経(ヴィディアン神経)とも繋がっています。後鼻神経は副交感神経の1つの種類であり、鼻腔内の副交感神経バランスを調節しています。元来、鼻腔内の粘膜は自律神経支配によるコントロールを受けているため、交感神経-副交感神経系の調節による影響を多く受けやすい器官です。後鼻神経は蝶口蓋孔から出た後、枝分かれしながら鼻腔側壁を走行し、主として左右の下鼻甲介、中鼻甲介に分布しています。
重症のアレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎などで、過剰な副交感神経刺激が続くと、後鼻神経が過度に興奮した状態となり、もとに戻らなくなって、くしゃみや鼻汁分泌が亢進したまま鼻炎が抑制されずに悪循環に陥ってしまいます。

翼口蓋神経節とは?

上顎洞後壁後方に存在する副交感神経節です。前回のトピックス(くしゃみ はなみず)でも書きましたが、翼口蓋神経節はアレルギー性、非アレルギー性にかかわらず”鼻炎のセンター”としての役割を担っていると言えるのです。
翼突管神経も翼口蓋神経節から始まり、別方向に走行しますが、同じく鼻炎のセンター神経の役割があります。

神経の興奮を抑える?

後鼻神経の過剰な興奮が続くことが、慢性鼻炎の病態であることがわかっています。したがって慢性鼻炎を根本的に治療するには、後鼻神経の興奮を抑える必要があります。軽症の鼻炎であれば薬の内服で一時的にせよ効果が期待できますが、重症の鼻炎や慢性鼻炎を反復する例に対して、もっとも確実な方法は神経切除です。外科的に後鼻神経を切除する手術を、後鼻神経切断術といいます。現在、慢性鼻炎に対してもっとも効果の高い治療方法と位置づけられています。アレルギー性鼻炎だけでなく、アレルギーのない温度差や自律神経のアンバランスで起こる血管運動性鼻炎などを含めた鼻過敏症が、この手術の治療対象となっています。

後鼻神経切断術とは?

後鼻神経切断術の手術方法については、当院ホームページに手術の概略が載せてあります。詳しく知りたい方は参照してください。(鼻の手術→後鼻神経切断術)

鼻炎の抑制は?

後鼻神経切断術を行ったときの慢性鼻炎の抑制効果は一体どのくらいでしょうか。1997年に始めて報告された比較的新しい手術方法であり、まだこの手術の歴史は20年くらいと言って良いと思います。長期間の手術後経過を体系的に評価した報告はまだありません。当院での鼻症状改善度は、鼻づまりはほぼ100%、鼻水は80%以上、くしゃみは50%以上の治療効果が認められています。全国的な諸施設での手術成績もそれに近い数値が報告されています。
手術後一定期間経過(数年)後に一時的に鼻炎症状が再発することはありますが、多くの場合、一時的な内服治療で症状を抑えることができます。
根治性の高い治療方法です。

適応は?

後鼻神経切断術の適応は、アレルギー性、非アレルギー性の鼻過敏症で、症状がひどく内服治療でのコントロールが不良である患者さんが対象になります。

合併症は?

現在報告されているこの手術に関する合併症で、いちばん問題になるのは術後3-4週間くらいで起こる遅発性の術後出血です。手術中の出血量は10cc程度であり侵襲の少ない手術ですが、手術から3-4週経過後に、手術後の創部感染につよい鼻かみや重量物運搬などのいきみや怒責動作が加わったとき、条件が揃うと出血が起こることがあります。怒責をしないことと感染の治療コントロールでほとんど回避できます。頻度は0.5%前後との報告がありますが、当院の症例では、2022年現在全く見られなくなっています。

後鼻神経切断術を受けたいとき

アレルギー性鼻炎、非アレルギー性鼻炎の鼻過敏症や慢性鼻炎で、鼻症状がつよく、薬の治療で症状が良くならないとき、再発を繰り返すときなどは、後鼻神経切断術の適応になります。まずは、かかりつけの耳鼻咽喉科でご相談ください。

当院はアレルギー性鼻炎に関して50年以上の手術治療の歴史があり、後鼻神経切断術は現在までに4000例以上行っています。
ご興味がおありの方は当院ホームページの下記ページでご確認ください。

後鼻神経切断術

当院独自の手術治療
手術術式の改良
-後鼻神経切断術について-

重症のアレルギー性鼻炎に効果のある「後鼻神経切断術(こうびしんけいせつだんじゅつ)」とは?

鼻ばっかりかんで
辛いよね…
(イメージです)

子どもの鼻副鼻腔炎

今回は、乳幼児の鼻副鼻腔炎について書きました。
小さい子どもさんの副鼻腔炎は、大人とかなり病態が違います。
その理由も合わせて読んでください。

子どもの鼻水

子どもさんは、よく鼻水を垂らしています。
昔ほど青洟(あおばな)を垂らしている子どもさんは、さすがに見なくなりましたが、サラサラの鼻水、どろっとした鼻水が鼻の入り口でずるずるしている子どもさんは相変わらずたくさんいます。
子どもさんの鼻水については、まずはこちらをご覧ください。
(子どものはなみず)

どうして鼻水が出るの?

子どもさんは、どうして鼻水が出るのでしょう。その理由をよく考えたことはないのではないでしょうか。
小さいから?風邪をひくから?免疫力が弱いから? じつは全て正しいのです。

小さな子どもさんは、風邪をひきやすいです。生後しばらくすると母体の免疫がなくなりますので、乳幼児は、風邪いわゆるウイルス感染に罹りやすくなります。

風邪のウイルスは、鼻粘膜に炎症を起こして急性鼻炎を起こしますので、急性鼻炎の症状として、初めはサラサラの鼻水が大量に出てきます。そこに、白血球やマクロファージが集まってウイルスを攻撃しますが、この時に死滅した好中球の色素顆粒で風邪の治りかけに黄色い鼻水がでます。(黄色い鼻水)

小さな子どもさん、とくに2歳未満の乳幼児では免疫力が低下しています。そのためウイルス感染を起こしやすく、鼻水が出やすくなります。さらに、乳幼児の鼻腔には中耳炎の3大起炎菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラカタラーリス)がいつもいますから、これらの細菌の菌量が増えて、副鼻腔炎を起こします。3大起炎菌は急性中耳炎だけでなく、急性副鼻腔炎の起炎菌でもあるのです。細菌感染によって副鼻腔炎を起こした子どもさんは、これらの菌の種類によって、色のついた鼻水がたくさん出ます。(子どものはなみず)

また乳幼児では、当然ながら鼻腔がせまく、物理的に粘膜の腫れによってすぐに鼻づまりが起こります。鼻水が多くても鼻かみができないため、鼻汁の吸引をしてあげないと細菌をたくさん含んだ鼻汁が鼻腔に溜まってしまいます。鼻腔の通過も悪くなり、結果的に鼻副鼻腔炎が悪化します。

こうして、小さな子どもさんは鼻水が多くなるのです。

副鼻腔炎って何?

そもそも副鼻腔炎とは、どんな病気なのでしょう。
副鼻腔炎を本当に理解するためには、副鼻腔の解剖を知らないといけません。まずは、図で確認してください。

頭蓋骨の中で、脳と脳を囲む骨を除いた部分を顔面骨といいます。
基本的に副鼻腔は、顔面骨の中の空間です。
左右4つずつ、合わせて8つの空間があります。

図1 成人の副鼻腔
緑色: 前頭洞 黄色:上顎洞
水色:篩骨洞 紫色:蝶形骨洞

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E7%82%8E

上顎洞は、ここにあります。

図2 上顎洞 (赤色)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b4/Rotation_Maxilla.gif

篩骨洞は、ここにあります。

図3 篩骨洞 (赤色)

https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Rotation_ethmoid.gif#mw-jump-to-license

上顎洞、篩骨洞の位置を確認してください。
前頭洞、蝶形骨洞は、良い画像が見つかりませんでした。図1で確認してください。
蝶形骨洞は篩骨洞の後方、副鼻腔の最深部にあります。
前頭洞は、(額の)前頭部の空間です。(図1)

簡単にいうと、副鼻腔は骨に囲まれた左右4つずつの空間です。前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨の4つの空間が顔面骨の両側にあります。(図1)

小児、乳幼児では、この空間は成人よりもずっと小さくなります。

副鼻腔の骨の空間の内側には、薄い粘膜のカーペットが敷かれています。この空間には通常、空気が入っており、自然孔という通気路で、鼻腔と交通しています。自然孔を通って鼻腔から空気が入り、副鼻腔の粘膜が産生する粘液が自然から鼻腔に出ていきます。

これが、正常の副鼻腔の構造です。
この副鼻腔の空間に炎症が起こったのが、副鼻腔炎です。

なぜ起こるの?

副鼻腔炎は、自然孔が塞がって起こります。

副鼻腔は自然孔で鼻腔と交通しています。この自然孔は粘膜の孔なので、鼻腔に炎症が起こると粘膜が腫れて内腔が狭くなります。自然孔が塞がってしまうと、空気の交通が遮断されて、副鼻腔は高度の炎症を起こし、細菌感染を起こして粘膜はさらに腫れます。細菌感染の持続によって副鼻腔に膿が溜まり、自然孔は閉じているため、膿が溜まったまま鼻腔に流れていきません。
副鼻腔に膿が溜まったままになると、さらに炎症が続いて粘膜は腫れる悪循環になります。これが副鼻腔炎です。
副鼻腔炎は別名、ちくのう(蓄膿)症と呼ばれています。これは、膿が溜まるという意味です。

副鼻腔炎の原因は、一言で言うと「自然孔が塞がるから」なのです。

乳幼児の副鼻腔炎?

理解しやすい成人で説明しましたが、テーマは乳幼児の副鼻腔炎です。

乳幼児の副鼻腔は、成人の副鼻腔よりもかなり小さく未熟です。
上顎洞、篩骨洞とも胎生期から存在します。
しかし生下時には、上顎洞は眼窩の下の小豆大ほどの小さな空間でしかなく、篩骨洞はわずかに2-3個の小さな骨の蜂巣が存在するのみです。
その後、上顎洞は4歳までに急速に発育、篩骨洞は3歳から6歳までに急速に発育します。その後も成長を続けて、上顎洞は10歳すぎた頃、篩骨洞は12歳頃にほぼ成人の副鼻腔に近づくと報告されています。
一方、蝶形骨洞は2歳頃から、前頭洞は4歳頃から空間の発育が始まります。

上顎洞、篩骨洞は0歳よりわずかな空間に含気が認められますが、蝶形骨洞は1歳以降で、前頭洞は3歳以降で初めて空間に含気が確認されます。

したがって、急性中耳炎を起こしやすい2歳未満の乳幼児では、副鼻腔は含気した空間はあるものの、まだ非常に小さく未熟であること、自然孔も小さく狭いため、換気も不十分で塞がりやすいこと、鼻腔そのものが狭いため、ウイルス感染による鼻粘膜の炎症によって容易に多量の鼻汁と鼻づまりが起こり、自然孔が塞がって細菌感染による副鼻腔炎を起こすことが予想されます。

2歳未満の乳幼児の副鼻腔は、ほとんど未熟な上顎洞、篩骨洞しかないため、この空間の炎症が中心です。したがって、乳幼児では副鼻腔炎とせずに、鼻腔の炎症と同時に起きる副鼻腔炎という概念で、「鼻副鼻腔炎」と呼ばれています。

症状は?

乳幼児の子どもさんは、症状の訴えはありませんので、鼻水がずるずる出ていることがすべてです。水っぽい鼻水だけでなく、黄色い鼻水がのどに流れてくると、鼻水が細い気管支に流れ込み、ぜろぜろと気管支炎のような咳が続きます。

2歳以降でアデノイド肥大が進行してくると、鼻汁、鼻閉の症状が悪化します。

また、鼻副鼻腔炎から急性中耳炎を起こしてくることが多くあります。
2歳未満の乳幼児で、鼻副鼻腔炎があると、中耳炎は難治性になりやすいとされています。
(難治性の中耳炎)

診断は?

乳幼児では、年長児や小児のようにレントゲン検査が困難です。そのため、鼻腔内の観察だけを参考にして、鼻副鼻腔炎の診断を下します。

図4 副鼻腔炎のレントゲン写真
(黒⬆︎ 左上顎洞炎)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E7%82%8E

治療は?

基本は、急性中耳炎の治療と同じです。3大起炎菌が存在します。ただし、乳幼児の鼻副鼻腔炎の場合は、急性中耳炎を併発していないならば、抗菌薬を使わずに、局所治療を優先すべきと考えます。薬剤耐性菌の発生を予防するためです。

丁寧な鼻汁の吸引処置を繰り返して、鼻腔の通気を改善し、鼻汁中の細菌量を減量することが最も重要で、これが急性中耳炎の併発を予防することにつながります。

乳幼児の鼻水は、「とにかく吸ってあげること」が重要なのです。

抗アレルギー薬とカルボシステインの内服薬は、鼻汁の量を減らし、鼻腔通気を改善するのに効果的です。

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どうすれば?

小さな子どもさんに鼻水がたくさん出ているとき、お母さん方はとても心配されます。

風邪かも…。ちくのう症かしら…。もしかしたらアレルギー?

そんなときは、まず、優しく鼻水を吸ってあげましょう。
そして是非、かかりつけの耳鼻咽喉科医を受診してみてください。きちんと処置してくださると思います。

黄色い鼻水が垂れていますよ…
(イメージです)

難治性の中耳炎

急性中耳炎。滲出性中耳炎。
子どもさんの中耳炎がなかなか治らない。
抗菌薬だけで多くの中耳炎が治っていた時代がありましたが、現在は中耳炎の治療がスムーズにいかない症例が増えています。
今回は、難治性の中耳炎について書きます。

急性中耳炎は細菌性?

急性中耳炎は、1歳までに60%以上、3歳までに80%以上の乳幼児が罹患します。
以前はほとんどウイルス性と考えられていましたが、近年、急性中耳炎のほとんどが細菌性の中耳炎であることがわかっています。

アメリカ小児科学会の急性中耳炎診療ガイドラ イン2013の記載では、急性中耳炎の65%が細菌とウイルスの混合感染、27%が細菌感染、4%がウイルス感染によるものであり、じつに92%の中耳炎が細菌感染が原因になっていることが報告されています。
急性副鼻腔炎は、85%が細菌性で、細菌とウイルスの混合感染は12%。計97%が細菌感染によるものです。

乳幼児の急性中耳炎の起炎菌は3つです。
肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラカタラーリス。
これら3つの菌は、1-2歳の乳幼児の30-70%に、鼻腔にすでに定着していて、細菌量が増えると急性中耳炎を発症します。

ウイルス性から細菌性

感染の初期は、多くがウイルス性です。

ウイルス感染によって、鼻粘膜が傷害され、粘膜のバリア機能が破綻、粘膜線毛運動の低下などが起こり、鼻腔に定着していた3大起炎菌が増殖します。起炎菌の増殖から、急性中耳炎を発症します。
これが、急性中耳炎の起こりかたです。

写真1 肺炎球菌

肺炎球菌はグラム陽性双球菌で、中耳炎、肺炎、髄膜炎、敗血症などの起炎菌になります。強毒性。菌体表面に莢膜と呼ばれる多糖体を持ち、現在90種類以上が分類されています。乳幼児の鼻腔に常在することが多いとされています。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%82%BA%E7%82%8E%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B5%E7%90%83%E8%8F%8C

写真2 インフルエンザ菌

インフルエンザ菌は、グラム陰性桿菌で、非莢膜型と莢膜型があります。
非莢膜型では、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎などを発症します。乳幼児の鼻腔、咽頭に常在しています。

莢膜株は、直接血流中に侵入して、敗血症、髄膜炎、結膜炎、急性喉頭蓋炎、関節炎などを起こします。莢膜株の感染症ではほとんどの場合b型が起炎菌で、Hibワクチン(ヒブワクチン)が普及しています。

https://gram-stain.com/?p=51

複数の細菌

急性中耳炎の細菌感染の多くは、単独細菌の感染ではありません。急性中耳炎の多くに、複数菌の同時感染が起こっています。
これらの菌では、単一菌感染があるとき、その40%以上が他の2菌と混合感染していることが知られています。

インフルエンザ菌と肺炎球菌の混合感染では、とくに急性中耳炎が重症化しやすく、その原因の1つは、集合菌が菌体外成分で作るバイオフィルム(菌膜)の形成と言われています。バイオフィルムがあると、その膜によって菌が守られるため、抗菌薬が効きにくくなります。

写真3 バイオフィルム

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0

細菌-ウイルス相互作用

インフルエンザウイルスが産生するノイラミニダーゼ、ライノウイルスが活性化する血小板活性化因子(PAF)受容体は、肺炎球菌の上皮細胞への接着を促進します。
インフルエンザ菌は、細胞接着因子1 (ICAM-1)やToll like receptor 3 の活性化を介して、ウイルス感染を増強します。

このように、ウイルスと細菌の混合感染が起こっている急性中耳炎では、細菌-ウイルス間の相互作用によって、感染が遷延し、難治化しやすくなります。

抗菌薬の選択

起炎菌の混合感染のところで書きましたが、中耳炎の3大起炎菌の半数近くが、混合感染を起こしている状態では、急性中耳炎の起炎菌を1つに絞ることは無理があります。

したがって、細菌検査で複数の細菌が同定された場合は、検出されたすべての細菌に有効な抗菌薬を投与する必要があります。必然的に、幅広い抗菌スペクトルを有する抗菌薬の選択が必要です。
簡単に言うと、これら3つの細菌の全部によく効く抗菌薬を使いなさいという意味です。

急性中耳炎のあとに…

遷延性中耳炎

急性中耳炎で耳痛や発熱があって、抗菌薬治療を開始した後、通常多くは、症状が軽快してきます。中耳の膿は滲出液になり、急性炎症は治まりますが、多くの場合、症状はなくても滲出液は2週間くらい残ったままになります。多くは3週間くらいで自然に滲出液が消失していきますが、一部に長期間中耳の滲出液が残る例があります。
3週間以上、治癒しない中耳炎を遷延性中耳炎といいます。

反復性中耳炎

急性中耳炎を起こした後、いったんは治癒しても、中耳炎を繰り返す例もあります。
6ヶ月間に3回以上、または12ヶ月間に4回以上、中耳炎を繰り返し起こす場合を、反復性中耳炎といいます。

遷延性中耳炎と反復性中耳炎の2つを、難治性中耳炎といいます。

難治性とは?

難治性中耳炎の病態は、遷延性中耳炎と反復性中耳炎です。
長引く中耳炎と繰り返す中耳炎です。

難治性中耳炎のリスクファクターは、2022年現在、4つ指摘されています。

  1. 両側性
  2. 2歳未満
  3. 集団保育
  4. 鼻副鼻腔炎の合併 

2歳未満は免疫系が未熟なうえに、2歳未満の中耳炎の起炎菌として最も多いインフルエンザ菌は、90%が薬剤耐性であり、24時間でバイオフィルムを形成します。

つまり、2歳未満で鼻水がずるずる出ている子どもさん、さらに3歳児からの集団保育を受けている子どもさん、いつも鼻水が出ている子どもさんたちは、難治性中耳炎になる危険性が高く、注意が必要です。

難治性中耳炎の治療は?

難治性中耳炎の治療は、どうすれば良いのでしょう。

小児の急性中耳炎に対しては、日本耳科学会からの「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」があります。
しかし、この治療を行なっても順調に治らない中耳炎が、難治性中耳炎です。

難治性の4つのファクターは理解しましたが、どれも簡単に解決できることではありません。

基本的な治療は、同じです。
1つ1つ、検証していきます。

抗菌薬と鼓膜切開

抗菌薬

まず、適切な抗菌薬の選択が必要です。
先に書いたように、急性中耳炎の起炎菌すべてをカバーする良質な抗菌薬が必要になります。抗菌薬の内服期間も重要です。
急性中耳炎の症状は、5日くらいで消失することが多く、熱もなく痛がらない子どもさんに、お母さん方は薬を飲ませる必要性を感じなくなります。
しかし一方で、急性中耳炎の炎症は2週間以上続き、中耳炎の滲出液は2週間は存在しています。この間は、中耳では細菌が残って炎症が持続しているため、いつでも感染が再燃できる準備ができている、と考えなくてはなりません。したがって、発熱や耳痛がなくても、抗菌薬は細菌数が減少するまで、10日間以上、続けなくてはいけません。必要十分な抗菌薬治療は、難治性中耳炎への移行を予防します。

鼓膜切開

小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、急性中耳炎の重症度に合わせて治療を行います。
急性中耳炎が中等症で、治療経過が不良な例、また重症では、鼓膜切開が推奨されています。鼓膜切開で中耳炎の排膿を行い、中耳炎の菌量を劇的に減らすこと。中耳の膿を除去して、空気に置換すること。これによって、中耳炎を治癒へと導きます。

図1 Ear tube とあるが、
鼓膜切開では tube はない

イラストでは、Ear Tube とありますが、鼓膜切開の治療ですので、tube はありません。鼓膜切開の良いイラストがなく、使用しています。
紫色の液体が中耳炎の膿を表しています。

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Tympanostomy_tube

耐性菌対策

急性中耳炎において、2歳未満のインフルエンザ菌の90%が耐性菌を有しています。β-ラクタマーゼを産生するか産生しないかによって、β-ラクタマーゼ産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR) 、β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLPAR)と呼ばれます。
インフルエンザ菌の高いバイオフィルム形成能は、耐性菌の獲得を容易にしています。

肺炎球菌の耐性菌には、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)と、ペニシリン低感受性肺炎球菌(PISP)が存在します。
肺炎球菌の60%が、耐性菌と報告されています。

インフルエンザ菌、肺炎球菌の高い耐性菌比率は、抗菌薬治療を非常に困難なものにしています。

適切な抗菌薬の選択が重要です。
さらに、鼻汁の吸引など鼻副鼻腔炎の局所治療によって、耐性菌の量を減らす治療も重要です。

鼻副鼻腔炎の治療

鼻副鼻腔炎を合併していると難治性になりやすいため、合わせて治療が必要です。

2歳未満の乳幼児では、鼻汁吸引などの局所治療に対して協力が得られることはまずなく、できるだけ侵襲の少ない方法を選んで治療を継続する方法が勧められます。診療所受診は恐怖心がともなうので、個人的には、自宅で可能な鼻の吸引などがお勧めです。毎日、子どもさんの鼻汁を吸引してあげるだけでも、耐性菌を含めた鼻腔の細菌量を劇的に減らすことが可能で、耳管周囲の粘膜の腫れを改善して、中耳炎の治療効果を上げる効果が期待できます。

2歳未満

2歳未満では免疫系が未熟です。

2歳未満では、細菌やウイルスの侵入に対して、鼻腔や咽頭粘膜での自然免疫が未熟です。そのため、感染した細菌やウイルスが容易に増殖して、菌量が増加します。

2歳未満の鼻腔には、中耳炎の3つの起炎菌のうち複数が常在していると報告されています。
感染症を起こすとさらに菌量が増加します。
鼻咽頭に菌量が多くなると、耳管経由で容易に中耳炎を起こしてきます。

ステップアップ治療?

近年、難治性中耳炎の治療に、ステップアップ治療が推奨されています。

ステップアップ治療とは、「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」に100%従った治療を選択するのではなく、先にあげたリスクファクターがあるような乳幼児では、”1ランク上の治療を行ってみましょう” という治療方法なのです。

すなわち、軽症でもそのまま治療アルゴリズムに沿った治療をするのではなく、アルゴリズムを1つ飛ばして、改善しなかった場合の治療を行う。
中等症でも中等症の治療をそのまま行うのではなく、最初から治療アルゴリズムの1つ先の治療を行う。
条件によっては、ガイドラインの治療アルゴリズムを2つ飛ばすことも推奨されています。
ステップアップ治療とは、こういう治療を行うことです。

これは、軽症に軽症の治療を、中等症に中等症の治療を、ガイドライン通りに行なっても、2歳未満で、両側の中耳炎を起こし、鼻副鼻腔炎で黄色い鼻水がずるずるの子どもさんには、治療が上手くいかないことが多いからなのです。

このステップアップ治療を行うことは、実際の中耳炎の重症度スコアよりも悪いものとして臨床的には判断しましょうという意味なのです。

現在、先の4つのファクター、①2歳未満、②両側性、③集団保育、④鼻副鼻腔炎の合併、がある場合には、このステップアップ治療によって、ガイドラインを読み直した上で治療にあたることが望まれています。

結局どうすれば?

とは言っても実際に、子どもさんが夜間に耳を痛がり、中耳炎かもしれないと思ってかかりつけの耳鼻咽喉科医を受診されるとき、ガイドラインを読んで行かれる方は、まずいらっしゃらないでしょう。
ガイドラインは、確かに有益な治療指針ではありますが、すべて一律ではなく、またすべてがこの通りではありません。
まず、1分でも早く、痛みをとってあげたい。1日でも早く、治してほしい。
お母さん方は、そう思われるはずです。

子どもさんの中耳炎をよく理解しておられる、現場の耳鼻咽喉科医1人1人が、ベストと思われる判断を下すのです。
そしてそれが、1番正しい治療だと私は思っています。

小さい子どもさんの中耳炎、
心配ですよね…
(イメージです。)

耳管

耳管(じかん)。
聞いたことがありますか?
鼻の奥と中耳をつなぐ管。
耳管は、全ての中耳炎に関係がある重要な管です。
今回は、耳管について書きます。

耳管の名称

耳管。英語でEustachian tube ギリシャ語でエウスタキオ管。ギリシャ語が語源です。

図1 auditory tube が耳管
(wikipedia)

耳管とは?

耳管は、上咽頭と鼓室をつなぐ管状の器官です。中耳側の1/3は耳管骨部、咽頭側の2/3は耳管軟骨部といいます。耳管軟骨部から耳管骨部移行部の数mm上咽頭側に、耳管狭部と呼ばれる最も内腔が狭い部位があります。
耳管の内側はすべて粘膜で覆われています。また、上咽頭にある耳管の入り口は、耳管咽頭口といいます。耳管咽頭口周囲には、口蓋帆張筋と呼ばれる、耳管軟骨を引っ張って開大させる筋肉がついています。
耳管の長さは、成人では35-40mmといわれています。

図2 耳管の位置 (イラスト)

何のために?

耳管は、何のためにあるのでしょう。
耳管は、中耳の圧を外気圧と同じにするためにあります。体の外で、急激な気圧の変化が起きたとき、人の聴力を正常に保つために生体に備わっている圧調節機構であると言うことができます。
さらに耳管は、中耳の分泌物を上咽頭へ排出する働きもあります。耳管の内腔の粘膜は線毛上皮に覆われてあり、鼓室から上咽頭へと線毛運動によって分泌物が排出されます。
耳管は、小児と大人で形状が違います。

図3 子どもの耳管
子どもの耳管は短く水平
図4 大人の耳管
大人の耳管は、長く鋭角

一般に、小児の耳管は開きにくく、鼻すすりなどの陰圧で簡単に閉鎖します。一方で、低い鼻咽腔の圧で開くため、つよい鼻水かみなどで副鼻腔炎の感染が波及しやすい傾向にあります。

耳管のことについて、前回までのトピックスで書いていますので、ぜひお読みください。

急性中耳炎 -その1-

滲出性中耳炎

耳管のもう1つの重要な働きは、成長の過程で、側正常な頭骨の乳突蜂巣の発育をうながすことです。乳突蜂巣は、中耳から続く解剖学的な空気の貯留空間で、中耳炎の病態に非常に重要な役割を持っています。この乳突蜂巣が正常に発育していないと、将来さまざまな中耳炎を起こす可能性が高くなります。生後、耳管を通じて乳突蜂巣に空気が入ることで、ほぼ12歳までに成人に近い乳突蜂が完成します。

耳管は閉じている?

耳管は、通常閉じています。
耳管軟骨部の弾性で閉じているのです。嚥下運動やあくびなどのとき、口蓋帆張筋が収縮して耳管咽頭口が開き、耳管は開きます。唾を飲んだりあくびをしたりした直後に、耳抜きできることが多いのは、このためです。

耳管が狭窄ぎみになるか、開放ぎみになるかで、全く違う病態になります。

狭窄か? 開放か?

耳管狭窄症は、耳管がいつも閉じている病気です。
耳管開放症は、耳管がいつも開いている病気です。
耳管は上咽頭と鼓室の圧差を調整していますので、耳管の機能が悪くなると、気圧の調整がうまくできなくなります。つまり、閉じっぱなしになるか(耳管狭窄症)、開きっぱなしになるか(耳管開放症)です。
これは、直感的に理解できると思います。

耳管がいつも狭窄していると、上咽頭から鼓室に空気が入らないため、鼓室内は容易に陰圧になります。そのため、鼓膜が内側に引っ張られて耳小骨の動きが制限され、難聴が起こります。さらに耳閉塞感の症状があります。
耳管狭窄症が続くと、鼓室の陰圧から滲出性中耳炎になったり、乳突蜂巣の換気不全から、真珠種性中耳炎を発症したりします。

逆に耳管がいつも開放していると、上咽頭の空気が簡単に鼓室に入ってしまい、耳管を通して空気がつながった状態に近くなるため、自分の声が内側から大きく響いたり、ひどくなると自分の呼吸音が耳管を通して聞こえたりします。この時もやはり耳閉塞感がします。

耳管開放症は、消化器がんの手術後や過度のダイエットによる、急激な体重現象の後に発症することが多いです。耳管周囲の脂肪体の減少が原因と言われます。
高齢者では耳管機能が不良で耳管開放症になりやすく、また吹奏楽の演奏者が演奏中につねに鼻咽腔圧の圧が上がることによって、耳管が開放されやすいと言われています。(吹奏楽器を息んで吹くため)

耳管開放症の症状を楽にするために、「鼻すすり」癖がある方は、真珠種性中耳炎を発症しやすいので、注意が必要です。

耳管狭窄症と耳管開放症を合わせて、耳管機能不全といいます。

耳管機能不全

現在、耳管機能不全についての診断は、以下のようになっています。

2014年イギリスNIHの診断基準、日本耳科学会の2016年耳管開放症診断基準案、2018年耳管狭窄症診断基準の3種類の診断基準が中心です。

耳管機能不全は、正確には3つに分かれます。

① 耳管狭窄症
② 圧変化による耳管機能不全
(baro-change-induced Eustachian tube dysfunction (2014NIH) )
③ 耳管開放症

③は、急激な圧変化で起こる耳管機能不全のことです。
スキューバダイビング、飛行機搭乗、高速のエレベーターなどで急激な気圧や水圧の変化が起こったとき、中耳空間で過度の圧変化が起こり、鼓室内で出血したり(血鼓室)、血性の滲出液が貯留したりします。
実際この場合は、急激な圧変化による内耳障害を起こすことがあり、注意が必要です。

耳の圧外傷

症状は?

① 耳閉塞感

「耳がつまった感じ」「耳が塞がった感じ」「耳に水が入った」「高いところに行ったときの感じ」などと表現されます。
耳管狭窄症、耳管開放症ともに訴えのある症状です。

② 自声強聴

「自分の声が耳の奥から響いて聞こえる」単に「自分の声が響く」「自分の声がこもって聞こえる」などと表現されます。
耳管開放症の特徴的な症状です。耳管狭窄症でも「声が響く」と表現されることがありますが、病態は違います。

③ 自分の呼吸音が聞こえる

この通りの症状です。
耳管開放症に特徴的な症状です。

④ 聴こえがわるい

耳管狭窄症では、鼓室が陰圧になり、鼓膜が外気圧でつよく押し込まれると耳小骨の動きが制限されます。軽度の伝音難聴を示すことがあります。また聴力検査上は難聴はなくても、陰圧になると耳小骨のインピーダンスが上昇して、難聴=「聞こえにくい」の訴えが起こります。
耳管開放症にもみられることがあります。

⑤ 臥位や前屈位(体を曲げて頭をしたにする)によって耳閉塞感が改善する

臥位や前屈位(頭を下げる)によって、重力の影響で一時的に耳管周囲粘膜が充血します。そのため、耳管開放症の人では耳管が閉鎖傾向になり、耳閉塞感の症状が劇的に改善されます。ただし症状の改善は一時的なものです。
この動作によって、耳閉塞感が改善するかどうかを確認することで、耳管開放症の診断の補助にすることもできます。

診断は?

先の症状から、耳管機能不全を類推して、検査で診断を確定します。

① 問診での症状の確認。とくに耳閉塞感、自声強聴。
② 鼻咽腔ファイバースコープによる、上咽頭の耳管咽頭口の目視確認。静止時と嚥下時での観察。
③ 聴力検査による、内耳障害の否定。
④ 鼓膜の顕微鏡下または内視鏡下の観察によって、鼓膜の呼吸性動揺がないかどうかの確認。またはインピーダンスオージオメーターによる確認。

⑤ 耳管機能検査による確定診断。

⑤の耳管機能検査には、耳管鼓室気流動態法(tubotympano- aero-dynamic graphy TTAG)、音響耳管法(sonotubometory)、加圧減圧法(inflation-deflation test)などがあります。

重症のアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎による、耳管機能障害増悪因子の有無を調べるため、アレルギー検査、副鼻腔レントゲン検査、CT検査などの鼻科一般検査が、場合によっては、必要になります。

⑥ ティンパノメトリー(tympanometory)
直接の耳管機能検査ではありませんが、ティンパノメトリーを行なって鼓膜のコンプライアンス(可動性)を測定することで、中耳圧が陰圧になっているかが判定できます。陰圧になっていれば、耳管狭窄が起こっていることがわかります。

これらを総合的に評価して、診断を確定します。

治療は?

耳管狭窄症と耳管開放症にわけて述べます。

耳管狭窄症

耳管を拡げる治療をします。

感冒などの感染症に対してはその治療。
重症のアレルギー性鼻炎に対しては抗アレルギー薬の内服や点鼻スプレー、副鼻腔炎に対してはマクロライド抗菌薬やカルボシステイン剤の投与。
鼻汁の吸引治療やネブライザー治療など。
耳管周囲の炎症を引かせるための治療が中心になります。

合わせて、耳管通気治療(カテーテルによる)による、直接カテーテルで耳管咽頭口を開大させる治療も行われます。

耳管開放症

耳管を狭くする治療を行います。

生理食塩水の点鼻。
ある種の漢方薬の内服が効果があります。
ルゴール、プロタルゴール、ベゾルト粉末などをカテーテル通気管を使用して直接、耳管内へ注入する治療もあります。これは薬剤で耳管粘膜に炎症を起こし、耳管を狭くする治療です。(耳管内注入治療)
顕微鏡下に、鼓膜に薄いテープを張る治療も有効です。(鼓膜パッチ) 
この方法は、呼吸や会話時の咽頭から鼓室への空気の流入による鼓膜の可動性を抑えるために、テープで鼓膜を厚くすることによって鼓膜の動きを少なくすることが目的です。

手術的な治療として、鼓膜を切開して鼓膜側の耳管から耳管を狭くするためのシリコン製の「耳管ピン」を挿入する手術があります。
咽頭側の耳管から自分の脂肪組織を挿入する手術もあります。
人工耳管も作製されています。
重症例に行われます。

図5 中耳(Middle Ear)の拡大図
赤色のauditory tube が耳管
耳管ピンはこの部分に挿入

耳管ピン

耳管ピンは、こういうものです。

図6 耳管ピン (富士システムズ株式会社)

耳管ピンの構造です。全長23mm です。

図7 耳管ピン (構造イラスト)
全長 23mm 各種サイズあり

耳管ピンは、シリコン製です。

図8 耳管ピン挿入 (イメージ)


図9 耳管ピン挿入 (イメージ) 拡大図

実際の手術のときの耳管ピン挿入イメージです。

富士システムズ株式会社
http://www.fujisys.co.jp/?p=6332

富士システムズ株式会社の製品情報サイトから引用しています。詳しくは上記ご参照ください。

結論は?

耳管について書いてきました。
耳管はとても大きなテーマです。とても1回では書ききれません。お伝えしたいのは、次のことです。

耳管の問題は、すべての中耳炎に何らかの形で関わっています。
耳管は中耳に空気を入れるためにあります。
耳管について知ってください。
中耳炎の診断や治療で、耳管の機能を正常に戻すことが、どれだけ重要かを知ってください。
そのためには鼻の治療も必要です。

鼻の病気と耳の病気は、じつは別々ではないのです。深い関係があるのです。

図10 耳管 Auditory tube




鼓膜切開

「切開しましょう。」
「鼓膜切開しないとだめです。」
お母さんたちには、嫌な響きです。お子さんの中耳炎の治療に来たのに、お薬では治らず、鼓膜形成が必要というかパターンは、何とも受け入れ難い気持ちでしょう。今回は、する側もされる側も嫌な、鼓膜切開について書きます。

鼓膜を切開する?

「どうして?」
「お薬では治らないんですか?」
そんな声が聞こえてきそうです。
鼓膜を切開するなんて…。かわいいわが子が泣き叫ぶ姿が目に浮かぶとお母さんたちはそれだけでうるうるします。
一体どこを切るの? 痛いでしょうに…。
鼓膜はどこで、どこを切開するのでしょう。

鼓膜の位置

鼓膜の位置は?

鼓膜の位置はどこ?
上のイラストで理解してください。
大人では、耳の入り口から3cm, 子どもでは2cmです。鼓膜の厚さは、大人で0.08mm, 9歳未満では、0.06-0.07 mm と論文では報告されています。半透明の非常に薄い膜です。
もちろん急性中耳炎では、鼓膜はかなり腫れて厚くなります。どのくらいかは報告がなくわかりませんが。こんなに薄い膜を切るのですね。

切開のしかた

鼓膜の位置はわかりました。
では、どうやって切るのでしょう。
鼓膜の表面の前半部分は、鋭敏な三叉神経が支配しています。(後半部分は迷走神経の支配です。)
三叉神経の痛みは、歯の痛みです。急性中耳炎でも書きましたが、鼓膜が腫れて引き伸ばされるとものすごく痛いです。ですから、鼓膜切開しないと治らないほどの中耳炎では、もともとものすごく痛い。そこを切るから痛いはずです。
通常は、鼓膜に局所麻酔をします。綿花に麻酔薬を浸して、鼓膜の表面に置き、15分くらい待ちます。その間に鼓膜の一部分が白く麻酔されますので、痛みがかなり軽減されます。完全に痛みがとれないことも多く、すこし痛いのが普通です。やはり小さな子どもさんは泣いたりします。危ないので、お母さんの了解をとって、子どもさんを押さえてすることもあります。

鼓膜の表面麻酔
(青: 麻酔薬を浸した綿花)

イラスト図で青いクシャクシャしたものが綿花です。麻酔液を浸しています。しばらくすると、鼓膜の表面が白くなって表面麻酔が完了します。
鼓膜表面に液体を置いて微弱な通電を行い、鼓膜全体を麻酔する方法もあります。イオントフォレーゼという方法ですが、ある程度聞き分けの良い年長児でないと麻酔ができません。

切開の位置

鼓膜切開の位置
鼓膜の前下方(赤色)

イラスト図の赤色の部分を切開します。
切開すると膿(うみ)が流れ出てきます。

鼓膜切開直後の鼓膜
(赤い丸が切開の穴)

イラストの赤い丸が鼓膜切開で開いた穴です。ここから膿を吸い出し、替わりに空気が入ります。中耳炎は、膿が出て、空気が入って治っていくのです。

どんなとき切開する?

鼓膜切開が必要な場合は、決まっています。
急性中耳炎で、抗菌薬の治療で治らないとき。重症で鼓膜の炎症がひどいとき。高熱や全身的な合併症を起こしているとき。
急性中耳炎で書きました。鼓膜切開は、ガイドラインを参考にして決定します。

痛いよね?

鼓膜切開は、痛いです。
全く痛がらないほうが稀かもしれません。
局所麻酔をしっかりしても、イオントフォレーゼ麻酔を十分しても、痛がる時があります。もちろん全く痛がらない子どもさんもいます。急性中耳炎の重症度と鼓膜の炎症の程度で、麻酔薬の浸透が違うのだと理解しています。
鼓膜切開の技術は大差ありません。なので、痛がる子は痛がりますし、痛がらない子は、痛がらないと思ってください。

鼓膜切開がいつの日か、全然痛くない時代が来れば良いといつも思っています。
最近では、オトラムと言って、CO2レーザーを使用して、鼓膜切開を一瞬で終了させる治療法もあります。

中耳炎の治療に必要なことであっても、子どもさんを痛がらせると、お母さんに睨まれますが…。
鼓膜切開はなくなりません。絶対に必要な場合があります。
鼓膜切開のとき、どれだけ子どもさんの痛みを少なくしてあげれるか、がとても重要になります。

聞いてください

中耳炎で、薬の治療でどうしても良くならないとき、鼓膜切開をした方が良いかどうか、悩むと思います。
その時は迷わず、かかりつけの耳鼻咽喉科の医師に正直に聞いてみましょう。

どうしたら良いですか? と。

中耳炎は痛い…
(イメージです)

滲出性中耳炎

「滲出性」中耳炎。
“しんしゅつせい”と読みます。
難しい漢字ですが、どんな意味でしょう。
そして、どんな病気でしょう。
今回は、滲出性中耳炎について書きます。

中耳炎とは?

中耳とは、どこでしょう。

図1 中耳の位置


中耳とは、鼓膜の奥の空間です。
鼓室とも言います。
正常な中耳は、空気で満たされています。鼓膜の振動を内耳に伝える耳小骨が、抵抗なく振動するためです。

滲出性の定義

にじみ出ること。
医学的には、組織液が外にしみ出ること。

滲出性中耳炎は、
「鼓膜の奥の中耳に、滲出液が貯留した状態。」
と言い換えることができます。

2015年日本耳科学会の「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン」では、「鼓膜に穿孔がなく、中耳腔に貯留液をもたらし難聴の原因となるが、急性炎症症状すなわち耳痛や発熱のない中耳炎」と定義されています。

なぜ滲出液が?

中耳腔の空間が陰圧になるからです。
陰圧になると、中耳粘膜から組織液が滲出します。
では何故、中耳が陰圧になるのでしょう。

中耳は、耳管という管によって、鼻の奥の上咽頭につながっています。通常では、耳管を通して空気が中耳に入るため、中耳の圧は、外気圧と等しく調節されています。耳管は、主に嚥下やあくびのとき開くようになっています。ところが何かの原因で耳管が開かないと、中耳の圧を外気圧と同じにすることができなくなり、中耳は陰圧になってしまいます。いわゆる耳抜きができない状態です。中耳が陰圧になると滲出液が貯留します。これが滲出性中耳炎です。

滲出性中耳炎は小児に多く、急性中耳炎から移行することも多くあります。

なぜ耳管が?

なぜ、耳管が開かなくなるのでしょう。
耳管の入り口には、口蓋帆張筋、口蓋帆挙筋と呼ばれる細い筋肉があり、この筋肉の収縮で耳管が開きます。耳管の咽頭側は軟骨になっていて、ふだんは軟骨の弾性で閉じていますが、嚥下(飲み込むとき)やあくびのとき、主に口蓋帆張筋が収縮して、耳管が開くようになっています。
小児では、この口蓋帆張筋の発達が未熟なため、耳管機能が未熟です。そのため耳管が開きにくく、閉じたままになりやすい。
そのために小児は、耳管から中耳へ空気が入りにくく中耳が陰圧になりやすいため、滲出性中耳炎になりやすいのです。

もう1つ、滲出性中耳炎は、急性中耳炎に続いて起こることが多くあります。

小児では耳管が大人に比べて短く水平に近い構造をしていますので、アデノイドや副鼻腔炎の細菌が耳管から中耳に移りやすいことがあります。(図2 図3)

急性中耳炎でも書きましたが、耳管からの感染で急性中耳炎が起こります。

図2 子どもの耳管
耳管から感染が起こりやすい


図3 大人の耳管
耳管から感染が起こりにくい

小児は急性中耳炎になりやすく、いったん中耳炎になって膿が貯留すると、耳管が未熟で開きにくいため、膿がなかなか咽頭へ排泄されません。そのため、急性炎症が治っても膿が中耳から出ていかず、滲出性中耳炎になりやすいのです。

3歳までの滲出性中耳炎は急性中耳炎の関与が大きく、2歳までに60%以上の乳幼児が滲出性中耳炎になると報告されています。

原因は?

滲出性中耳炎は、耳管の解剖、耳管の機能が原因で起こることが、わかりました。

小児は耳管が未熟で開きにくいため、中耳が陰圧になりやすいこと、小児は耳管が短く水平なため、急性中耳炎を起こしやすいこと、この2つが滲出性中耳炎が小児に多い理由です。

急性中耳炎を起こす原因、アデノイドや副鼻腔炎などが、滲出性中耳炎の原因になります。
成人で滲出性中耳炎を起こす場合は、上咽頭がんの可能性を確認しなければなりません。上咽頭に腫瘍があると、腫瘍が耳管を塞ぐため、滲出性中耳炎になります。そのため、成人で滲出性中耳炎を繰り返すときは、必ず内視鏡検査で確認します。

症状は?

滲出性中耳炎の特徴は痛くないことです。
急性中耳炎はとても痛いのですが、滲出性中耳炎は全く痛みがありません。
滲出性中耳炎では発熱もありません。

滲出性中耳炎の症状は、耳が塞がった感じ(耳閉塞感)や難聴だけです。とくに小さな子どもさんでは、耳閉塞感や難聴を訴えませんから、「テレビの音が大きい」「呼びかけに反応しない」などが唯一の症状のことも多くみられます。

成人では、耳閉塞感や難聴に、「動くと耳の中でゴロゴロ音がする」などの訴えがあることがあります。

診断は?

滲出性中耳炎の診断は、簡単です。
耳鏡で耳の中を観察すればほとんど100%診断できます。顕微鏡や内視鏡を使用して詳しく観察します。

滲出液の色、量、鼓膜が陰圧で凹んでいるか、凹みの程度はどうか、などを詳しく観察し、記録します。

滲出性中耳炎(成人)
(Wikimedia commons)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5c/Adult_Serous_Otitis_Media.jpg

ティンパノメトリーという、鼓膜の張力やコンプライアンスを調べる検査で、確認することもあります。B型やC型を示します。

正常耳と比較してみましょう。

正常耳(左耳)
(wikipedia)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Eardrum#/media/File%3ANormal_Left_Tympanic_Membrane.jpg

聞き分けの良い子どもさんや、年長児では、聴力検査が可能ですので、難聴の程度を調べます。40dB以上の難聴があれば、要注意です。

合わせて、滲出性中耳炎の原因となる、アデノイドや副鼻腔炎の有無を、鼻内視鏡やレントゲンで調べる必要があります。

治療は?

滲出性中耳炎の治療は、まず保存的治療を行います。
カルボシステイン(シロップや細粒)を内服して、中耳粘膜と耳管粘膜の線毛運動を促進させ、中耳に溜まった貯留液を耳管から排泄しやすくします。副鼻腔炎があれば、合わせて副鼻腔炎の治療を行います。
さらに抗アレルギー薬を内服して、鼻腔や咽頭の粘膜の腫れを引かせます。鼻づまりは、耳管の機能を悪化させて中耳炎を治りにくくするからです。抗アレルギー薬は、耳管咽頭口周囲の粘膜の腫れも改善します。

ネブライザー治療ができる子どもさんなら、鼻からの吸入治療で、鼻副鼻腔炎による膿性の鼻水の改善と鼻の奥の耳管周囲の腫れの改善をめざします。

鼻水を吸い上げる、いわゆる”鼻すすり”の癖があると滲出性中耳炎になりやすく、また中耳炎が治りにくくなりますので、鼻すすりをしないように指導します。

3ヶ月以上治らない滲出性中耳炎は、難治性の中耳炎に分類されます。

40dBを超える難聴があるときは、鼓膜チューブ留置術などを考慮します。
上咽頭にアデノイド肥大が認められ、上気道病変がある場合は、鼓膜チューブ留置術と同時にアデノイド切除術を考慮します。

滲出性中耳炎が片方だけか、両側性かによっても治療方針がすこし違います。

2015年の小児滲出性中耳炎診療ガイドラインがあります。参考にしてください。

https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2015.pdf

鼓膜チューブ留置術のときの麻酔は、年長児や成人ではイオントフォレーゼ麻酔を行います。急性中耳炎のときと違い、炎症がないため、局所麻酔は効きやすくなります。

鼓膜ドレインBタイプ (高研)
鼓膜切開時に鼓膜に挿入する

https://www.kokenmpc.co.jp/products/medical_plastics/ent/drain-b/index.html

小児でアデノイドの肥大が高度なときは、アデノイド切除術を行う場合もあります。アデノイド切除術は全身麻酔で行いますので、同時に鼓膜チューブ留置を行うこともあります。

遷延性中耳炎とは?

乳幼児の滲出性中耳炎には、「急性中耳炎の後に耳痛、発熱などがなく急性中耳炎の炎症所見が続いている」、いわゆる”遷延性中耳炎(semi-hot ear)” と呼ばれる病態になっていることが多くあります。

遷延性(せんえんせい)中耳炎では、急性中耳炎の治療後に急性炎症が治って、耳痛や発熱は見られなくなりますが、まだ中耳に膿が貯留していて、鼓膜は厚く腫れて中耳の粘膜も炎症で肥厚しています。

このような遷延性中耳炎は、再度、上気道感染が起こると、溜まった膿が再感染を起こして、簡単に急性中耳炎に戻ってしまうのです。いわゆる、急性中耳炎と滲出性中耳炎を往復するように中耳炎が続く、複雑な病態をとるようになります。

遷延性中耳炎は、薬剤耐性菌の増加や、免疫力が未熟な低年齢児からの集団保育などの環境が増えていること、不適切な抗菌薬の選択などが、原因になっていることが指摘されています。
また、受動喫煙との関係も言われています。

遷延性中耳炎のような難治性中耳炎に対する治療は、鼓膜切開や、鼓膜チューブ留置術などの外科的治療を含めた、積極的な治療が必要になります。

どの子どもさんの中耳炎も難治化する可能性があります。そのため急性中耳炎になったあとは、症状がなくなっても、必ず定期的にフォローアップすることが必要です。

何に気をつければ?

滲出性中耳炎は、小児に多く、痛がらず、難聴だけです。お母さんが気づいてあげないと、病気が発見されません。
痛がらないので放置していると、大切な成長の時期に難聴のままでいることになります。
子どもさんが、「テレビの音が大きい」「呼びかけに反応しない」などの症状があることに気づいたら、すぐにかかりつけの耳鼻咽喉科医にご相談ください。
耳の中を見るだけで簡単に診断がつきますので。

図4 中耳に滲出液が貯留(紫色)
Middle ear が中耳
最近テレビの音が大きいかも…
(イメージです)