睡眠時無呼吸症候群

みなさん、聞き慣れた病名だと思います。
じつはこの疾患は以前からあったのですが、1990年台頃からメディアにもよく取り上げられるようになりました。従来の病気と違い、体の中に何かができたり、痛みがあったり、などの激しい症状はほとんどないために、重要性がいまひとつ理解しにくく、つい見過ごされていたと言っても良いのではないでしょうか。2000年台に入り、睡眠時無呼吸症候群が原因と思われる、列車の脱線事故や新幹線のオーバーランなどの事故、交通事故や産業事故、事件が全国各地で多発し、初めてこの病気の恐ろしさが理解され始めたと言えるかもしれません。

定義は?

睡眠時無呼吸症候群の定義は何でしょう。
もっとも古い定義は、1976年 Guilleminault による、「REM睡眠を除く7時間の睡眠中、10秒以上続く無呼吸が30回以上認められるもの、あるいは1時間あたり5回以上認められるもの」、です。時代を経て、実際の睡眠時無呼吸症候群の患者さんには、無呼吸だけでなく、低換気(低呼吸)の状態が混在することから、従来の無呼吸指数(Apnea Index)から、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index)による評価が導入されるようになり、
1時間あたりの無呼吸・低呼吸指数が5以上のもの」との定義になりました。
それに伴い、従来の睡眠時無呼吸症候群という病名から、最近では、睡眠呼吸障害(Sleep-disordered breathing =”SDB”)という病名に変更されました。これは、睡眠中の呼吸障害すべてを含み、睡眠中の異常な呼吸を示す病態の総称です。この中で最も多いのが、閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome : OSAS )です。
現在では、著明ないびきや日中の傾眠傾向がなくても、無呼吸低呼吸指数=AHI値が5以上であれば睡眠呼吸障害(SDB)と診断します。

病態は?


睡眠呼吸障害は、何故起こるのでしょうか?
これは、一言で言うと、咽頭の形態が軟組織で構成されていることによります。呼吸によって鼻腔や口腔から入った空気は咽頭で合流して喉頭、気管へと流れていきます。このとき、鼻腔は骨組織と軟骨組織の硬いフレーム構造です。内腔は粘膜に覆われ、下鼻甲介などの軟組織もありますが、鼻腔の構造は基本的には硬組織です。口腔も内部は舌がありますが、口蓋も硬い骨構造であり、内腔は粘膜で覆われてはいても、上顎と下顎の骨のフレーム構造は硬組織です。また、喉頭、気管も基本的に軟骨構造で外部からの軽度の圧迫でも容易には潰れない硬いフレーム構造です。生命の維持に大切な呼吸のための空気の通り道ですので、骨や軟骨の構造をとることで、外力に対しても簡単に潰れない構造になっているのです。
ところが、中間の咽頭腔はどうでしょう。咽頭は、空気の通り道であるとともに、口腔で咀嚼した食物塊を粘膜で包み込んで嚥下し、さらに咽頭収縮筋の働きで、食物塊を食道へと流入させる機能を担っています。そのために、骨や軟骨のみによる硬いフレーム構造ではそれができず、必然的に柔らかい軟組織で構成されているのです。したがって、睡眠時に軟組織である咽頭腔だけが呼吸による陰圧や軟組織自身の重力による沈下で閉塞しやすくなります。これが、睡眠呼吸障害が起こる最大の理由になっています。人間は原始の時代から、仰向けになるようになって以来、咽頭が塞がりやすくなっているのです。

分類は?

いびきは、睡眠中の上気道の狭窄による摩擦音です。狭窄が高度になると閉塞して無呼吸になります。
睡眠呼吸障害SDBは、上気道閉塞の有無から大きく閉塞性と中枢性に分けられます。

睡眠中に呼吸が停止した(無呼吸)、または呼吸が低下した(低呼吸)ときに、大きないびきを伴い、胸腹部の努力性呼吸運動が存在する場合には閉塞性。いびきがなく、胸腹部の努力性呼吸運動が見られない場合は中枢性です。閉塞性は頑張って呼吸しようとするが呼吸ができない無呼吸。中枢性は呼吸中枢からの指令で、努力なくストンと呼吸が止まる無呼吸です。9割以上は閉塞性です。心不全のある患者さんでは、中枢性が4割を占めると言われます。閉塞性と中枢性の混在した症例もあります。いずれにせよ、病態は単独ではなく、複雑な病態があり得ます。

睡眠呼吸障害には、いくつかの重症度分類が存在します。米国睡眠学会による無呼吸低呼吸指数(AHI)による分類等、酸素飽和度による分類、食道内圧による分類などです。
AHIによる分類は、無呼吸や低呼吸の頻度(回数)による重症度分類です。
酸素飽和度は無呼吸の持続時間が長く、血液中の酸素が大量に消費されて酸素欠乏になっている状態がどの程度深刻かを評価します。食道内圧は、無呼吸にともなう睡眠中の努力呼吸の状態を食道内圧の上昇で評価するものです。

原因は?

睡眠呼吸障害SDBの原因は多岐にわたります。

主なものは、肥満、加齢、鼻疾患(鼻中隔わん曲症、アレルギー性鼻炎)、咽頭疾患(口蓋扁桃肥大、舌扁桃肥大、軟口蓋形態異常、小児のアデノイド増殖症)、喉頭疾患(反回神経麻痺、喉頭軟化症)、顎口腔疾患(小顎症、下顎後退。巨舌症)、神経疾患(球麻痺)、甲状腺機能低下症などです。さらに、睡眠時の仰臥位によるとの、過度のアルコール摂取も増悪因子になります。

このうち、睡眠呼吸障害にとくに関与の大きい因子は、肥満、鼻疾患による鼻閉、口蓋扁桃肥大や舌扁桃肥大、小顎症や下顎後退などです。睡眠体位も重要です。

①肥満
肥満は、体脂肪の増加だけでなく、舌根や咽頭組織にも脂肪が沈着して気道が狭くなります。

②鼻疾患による鼻閉
鼻中隔わん曲症や重症のアレルギー性鼻炎があると、慢性的な鼻づまり症状と鼻腔の通気障害があります。慢性の鼻閉にともない常に口呼吸を必要とし、睡眠中の口呼吸の持続が無呼吸を起こします。(後述。)

③扁桃肥大
扁桃肥大や舌扁桃肥大があると、物理的に咽頭腔が狭くなります。このため、鼻腔の奥や口からの呼吸の通り道になっている部分が閉塞されて、無呼吸が起こりやすくなります。小児のアデノイド増殖症も上咽頭が閉塞して鼻呼吸ができず、無呼吸の原因になります。

④小顎症や下顎後退
小顎症や下顎後退などがあると、相対的に舌や咽頭後方の軟組織は後方へ移動します。仰臥位での睡眠時に後方に偏位した舌や咽頭組織によって咽頭腔が狭くなり、舌根部の閉塞が起こりやすくなります。

⑤睡眠体位の影響
仰臥位での睡眠は、その体勢の特徴から、睡眠呼吸障害を起こしやすくなります。軟口蓋と舌根が沈下して気道が狭小化します。

診断は?

睡眠呼吸障害の定義が診断基準になります。

無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上で診断されます。著明ないびきや日中の傾眠傾向などの特徴的な症状が存在しなくても診断基準をみたせば診断されます。

診断ための検査には、①問診、②喉頭ファイバースコープ、③顎顔面の形態異常を診断するセファログラム(X線撮影)、④CT、MRI、⑤終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)、などが重要です。

このうち、②喉頭ファイバーは、咽頭の閉塞状態を観察します。③セファログラムは、レントゲン撮影です。顎顔面の解剖学的特徴や各部位の距離を測定して鼻腔から咽頭、喉頭、気管までの空間の狭さや位置関係を見ます。④CTは、主に鼻腔から、中咽頭までの通気状態と鼻中隔わん曲症や肥厚性鼻炎などの鼻疾患がないかを検索します。MRIは、主に仰臥位での咽頭腔や舌根部の閉塞状態を観察します。最近では睡眠中のMRI撮影によりリアルタイムに無呼吸を観察する特殊な撮影方法もあります。⑤終夜睡眠ポリグラフ検査(通称PSG検査)。これが、睡眠呼吸障害の最も重要な検査であり、確定診断および重症度判定に必須の検査です。
①の問診は、睡眠呼吸障害の診断に重要な位置を占めます。患者さんの身体所見(身長、体重、BMI)だけでなく、生活環境や背景、成人後の体重増加や最近の変化、同室に就寝されている家族や友人からのいびきや無呼吸の聞き取り、観察情報が重要です。さらに高血圧、糖尿病、高脂血症、循環器疾患、脳血管疾患、喫煙歴の有無とCOPDなどの肺疾患の有無などの全身的な合併症の存在を明らかにしておくことが治療介入の判断に非常に重要になります。
PSG検査は、監視下に行うことが望ましいとされています。
PSG検査の結果から、無呼吸低呼吸指数(AHI)を計算して診断基準と比較、REM睡眠、non REM睡眠などの睡眠構築の診断、血中酸素飽和度の低下と回数、数値を測定記録、その他脳波や循環動態の異常の有無を確認します。

最終的に、睡眠呼吸障害と診断されるかどうかの判定と、AHIから重症度、治療介入が必要か否かの判断が求められます。
この治療が必要かどうかの判断が全ての始まりになります。

治療は?

睡眠呼吸障害の治療は、保存的治療と外科的な治療に分かれます。
1990年台は、米国や日本においても、口蓋垂口蓋咽頭形成術(UPPP)などの外科的治療が多く行われた時期がありました。非常に効果的な治療であり、その恩恵を受けた患者さんたちも多くおられます。しかし一方で、体重増加や生活習慣の未改善によるものや、睡眠呼吸障害の原因が複数の要因に依存する症例などでは、ある程度の効果しかみられなかった場合もありました。現在では、外科的治療の改善率が50-60%と報告されており、まずはnCPAPによる保存的治療が第一選択として行われるようになっています。ただし、現在でも高度の扁桃肥大や小児のアデノイド増殖症などでは、外科的治療によって咽頭の物理的閉塞が改善されて非常に高い効果をあげています。さらに、UPPPなどの軟口蓋手術のみでなく、顎顔面手術( maxillo-mandibular advancement )を追加することによって睡眠呼吸障害を最大80%まで改善したとするStanford 大学のデータも有名です。
n CPAPとは、nasal Continuous Airway Pressure (経鼻的持続陽圧呼吸療法)の略で、鼻腔から持続的に陽圧の空気を送り込み、無呼吸を改善させる治療方法です。日本では1998年に保健適応になりました。就寝時に、鼻にマスクを装着して頭部のバンドで固定します。マスクには陽圧の空気を送る15cmくらいの小型の器械からチューブが繋がっています。器械で陽圧に設定された空気を、持続的に鼻から睡眠中に送り込み、陽圧で咽頭腔を拡げることで無呼吸を改善します。 CPAPの機器には、一定圧の空気を送るタイプと、無呼吸の状態に合わせて自動的に圧力を調節するタイプの2通りあります。
n CPAPは、非常に効果的な治療で、結果はすぐに現れます。夜間の睡眠の質が向上し、無呼吸の改善により、日中の眠気やだるさなどの睡眠呼吸障害独特の症状がすぐに改善していきます。ただし、睡眠中、装置が顔面を覆うために慣れるまでそのストレスがあるのと、半永久的に継続する必要があることが難点になっています。

放置すると?

睡眠呼吸障害を放置するとどうなるのでしょうか。治療を受ける側からすると、最も重要なことだと思います。

ここで、睡眠呼吸障害の有名なデータがあります。閉塞性睡眠時無呼吸と診断された人たちを10年間追跡評価したデータです。

(Fukuda 電子提供)

このグラフを見ると、無呼吸指数(Apnea Index)が軽症または正常の場合(AI<20)は、10年後の生存率はほとんど100%であるのに対し、無呼吸指数が中等症以上または重症の場合(AI>20)は、10年後の生存率が約60%まで低下することがわかっています。言い換えれば、中等症以上の無呼吸があると10年後に4人は無呼吸による合併症で亡くなるのです。
さらに、睡眠時無呼吸がある人とない人を比較したデータでは、無呼吸がある人はない人と比べて、糖尿病で1.5倍、高血圧で2.0倍、虚血性心疾患で3.0倍、脳血管疾患で4.0倍、発症リスクが高くなることが報告されています。(Fukuda 電子の CPAP治療サイトより引用)

これは大変なことです。痛くも痒くもないために簡単に放置されてしまう、睡眠呼吸障害。
睡眠呼吸障害の治療は、心臓や脳血管の重大な病気を起こさないようにする素晴らしい治療方法ではないでしょうか。

睡眠呼吸障害は、内科、耳鼻咽喉科、歯科、呼吸器内科などの複数科にまたがって存在する疾患です。ただし、その診断は難しくなく、一泊入院のPSG検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)を受ければ簡単に診断できます。
ご家族にいびきが大きい、呼吸が止まっているなどと指摘された方は、まずはかかりつけ医、またはお近くの耳鼻咽喉科医に相談されてはいかがでしょうか。

その眠気、無呼吸かも…(イメージです)
危険な居眠り運転…(イメージです)

2022年6月

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副鼻腔真菌症 -その1-

今回は、外来診療の鼻疾患で、しばしば遭遇する、副鼻腔真菌症について書きます。

真菌症とは?

カビのことです。
副鼻腔真菌症は、急性と慢性、浸潤性(しんじゅんせい)と非浸潤性に分けられます。
ほとんどは、慢性非浸潤性で、ふつう、副鼻腔真菌症というと、これを指します。
浸潤性と非浸潤性を、破壊型と寄生型と呼ぶ分類もあります。
浸潤性(破壊型)は、特殊な疾患です。また別の機会に述べます。

病態は?

40歳以上の中高年に多く、女性に多い傾向があります。真菌が寄生する部位は、左右4つずつある副鼻腔のうち、上顎洞が最多です。2番目が篩骨洞。ほとんどは片方だけです。
真菌は、副鼻腔に寄生菌として存在し、真菌塊を作ります。組織に浸潤することなく、おとなしくしています。

真菌の起炎菌は、Aspergillus, Mucor, Candida です。
読み方は、アスペルギルス、ムコール、カンジダです。
Aspergillusが最多です。

真菌症は、免疫不全の人だけでなく、健常人にも起こります。

症状は?

膿性鼻漏、頬部痛、頭重感を伴うことが多いが、無症状のこともあります。鼻漏は変な匂いがすることもあります。長期間無症状で、CT撮影や脳のMRI検査のときに指摘され、耳鼻科受診を勧められることも、しばしばのようです。

診断は?

糖尿病や透析治療中、免疫不全の病気があると、真菌が寄生しやすい環境になります。また、元気な方でも、慢性副鼻腔炎が長期間に及ぶと副鼻腔炎の一部に真菌塊を生じることがあります。

CTで副鼻腔炎陰影(上顎洞、篩骨洞)の中に、境界不明瞭な白い石灰化陰影が見られます。副鼻腔炎所見を伴うことが多く、真菌塊は、白色部分だけではなく周囲までに及んでいることが多くあります。真菌症の期間が長いと、上顎洞の骨が肥厚して不明瞭な硬化像を見せることもあります。

非浸潤性の真菌症では、血液検査でβ-Dグルカンという物質を調べることが、浸潤性でないことの診断につながりますので、重要です。
AFRS(アレルギー性真菌性副鼻腔炎)という、特殊な真菌症との鑑別診断も重要です。

鑑別診断として、悪性腫瘍との鑑別は絶対です。

治療は?

真菌症の治療は、基本的に手術によります。
ESS(内視鏡下副鼻腔手術)によって、主として上顎洞に寄生する真菌塊を除去します。真菌塊は、緑色がかった半乾燥の固形物として上顎洞に存在することが多く、上顎洞粘膜に強固に付着して容易に剥がれないこともあります。真菌塊は、干からびたチーズのようなものですので、内服薬による薬物治療では、排出を促すことはできません。ESSで、上顎洞内の真菌塊を完全に除去、清掃して手術は終了です。他に副鼻腔炎があれば同時に手術を行います。

手術後は、通常の副鼻腔炎と同じです。とくに抗菌薬の制限や抗真菌薬の投与は必要ありません。

通常は、再発もなく、予後は良好です。

真菌症だったら?

副鼻腔炎があり、副鼻腔炎の治療が必要であれば、ESSによる手術を選択します。
他の部位の副鼻腔炎がほとんどなく、真菌症だけである場合には、副鼻腔炎症状があれば、手術を勧めます。
症状が全くない真菌症は、本人がそのままにしたいと思われることもしばしばです。ただし、この場合は、将来、高齢や他の全身的な病気、免疫力低下になったとき、非浸潤性が浸潤性(=破壊型)に移行して、周囲の脳や眼球を破壊して感染症が広がり、重大な結果につながることを理解しておく必要があります。

一言で言えば、真菌症が見つかったら、元気なうちに、手術によって完治させておくことが望ましいと思われます。
体力が落ちて、真菌が暴れ出す前に。

チーズに付着したカビ(真菌)
(イメージです)