咳(せき)

今回は、咳についてのお話です。

咳とは?

咳は、
①気道内に侵入した異物(ウィルス、細菌、粉塵、有毒ガス)の侵入阻止と、
②気道内で過剰生産された分泌物を排出させるための、
重要な生体防御機構の1つです。
症状としてつらい咳は、本来は、生体を守るためのなくてはならない機構の1つなのです。

咳のメカニズム

咳は、鼻腔、喉頭、気管、気管支、肺胞などの気道粘膜に存在する、4つの知覚受容体が刺激を受けることにより発現します。
その受容体は、
①刺激受容体
②伸展受容器
③気管支無髄C線維
④肺胞C線維
です。

これらの受容体や神経線維からの興奮刺激が、三叉神経、舌咽神経、上喉頭神経、迷走神経、横隔神経を介して、延髄網様体のせき中枢に伝えられ、せき中枢からのインパルスが、迷走神経、肋間神経、横隔神経、下咽頭神経、腹壁筋を支配する神経に脊髄前角経由で伝えられて、せき反射が起こります。

①は、異物や気道粘液、刺激性ガス、化学物質に対して、刺激に即座に反応します。②は、気管支壁の伸展によって呼吸の数と深さを規定する反射の受容体です。①②は、咳を促進します。③④は、気管支、肺胞に存在する無髄神経C線維で、咳の抑制に働きます。
この4つの受容体が、うまくバランスをとって、咳を調節していると考えて良いと思います。

最近では、せき反射は、単なる延髄の脳幹反射ではなく、せきが出るときは、せき衝動( urge to cough )が、まず起こり、それが大脳皮質のせき衝動感覚野に伝わり、せき運動野からのインパルスが延髄のせき中枢や脊髄前角細胞をコントロールしていることもわかってきています。すなわち、咳は延髄反射だけではなく、もっと上位の大脳皮質の制御を受けているということです。

最近の報告では、シクロオキシゲナーゼ(COX2)より生合成されるプロスタグランジン(PGE2、PGE2α)、アナンダマイド、NO、ATP、ヒスタミン、テトロドトキシン抵抗性Na+チャネル、冷刺激で活性化されるTRPA1、など非常に多くの受容体が複雑に関与していることがわかっています。
基礎生理学的な内容ですこし複雑なことを書きました。
せき反射は、生体の重要な中枢である延髄で起こっていること、さらに生体内の数多くの受容体や物質が、せき反射に関与していること、それほど咳は重要な生体反射であることが、理解できると思います。

咳の分類

臨床的な咳の分類は、咳の持続期間によって分けられます。咳のことを咳嗽(がいそう)といいます。
急性咳嗽  3週未満
遷延性咳嗽 3-8週間
慢性咳嗽  8週以上
問題となるのは8週以上続く慢性咳嗽です。喘息発作、肺炎による咳、その他、聴診や胸部レントゲンで異常があり、咳の原因となる明らかな疾患が存在するときは、その治療を行うことが原則です。ここで問題にするのは、原因がわからない慢性咳嗽のことです。
さらに、咳には喀痰ありの咳=湿性咳嗽(ゼロゼロ)と、喀痰なしの咳=乾性咳嗽(コンコン)があります。前者のときは、第一に、副鼻腔気管支症候群を疑うべきです。乾性咳嗽には、せき喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流による咳嗽、感染後咳嗽(感冒後咳嗽)が、あります。

症状と診断

先に書きましたが、咳はまず、喀痰がありとなしで大きく分かれます。

喀痰ありのとき、特殊な疾患の鑑別が必要な場合を除けば、多くは、副鼻腔気管支症候群と診断できます。これは、後鼻漏による咳と言うとわかりやすいと思います。風邪のときに副鼻腔炎を併発し、風邪が治ったあとも、副鼻腔炎による後鼻漏が続いて気管支に流れ込むために、湿性の咳が止まらなくなるものです。治療は、クラリス、エリスロマイシンなどマクロライド系の抗菌薬を少量長期投与(8週間)行う事で咳が改善します。

喀痰なしのときは、
①せき喘息
②アトピー咳嗽
③胃食道逆流による咳嗽
④感染後(感冒後)咳嗽
のことが多くなります。

①②せき喘息、アトピー咳嗽は、季節性があり、夜間から明け方に咳がひどい特徴があります。会話や運動によって悪化することが多く、話している途中で咳が出てきて話せなくなります。気温の変化などでも悪化します。
③胃食道逆流による咳嗽は、起床時、食事、会話で悪化しやすく、胸焼け、げっぷ、咽喉頭異常感をともないます。治療は、プロトンポンプ阻害薬を8週間内服します。咳の改善には時間を要します。
④感染後咳嗽は、ウィルスや細菌による気道感染後に炎症が残っている状態です。多くは、時間とともに自然軽快します。マイコプラズマや百日咳による咳は、長期化しますので、注意が必要です。
特殊な咳として、血圧の薬、ACE阻害薬による咳もあります。薬剤服用歴の確認も重要です。

治療

せきの治療は、基本的に原因疾患に対する治療を行います。

副鼻腔気管支症候群は、クラリス、エリスロマイシンを少量長期投与8週間、
胃食道逆流による咳嗽は、プロトンポンプ阻害薬 (PPI) を8週間、
せき喘息は、気管支拡張薬や吸入ステロイド、
アトピー咳嗽は、抗ヒスタミン薬と吸入ステロイド、
などの治療が標準的で多くの施設で行われます。
せき喘息とアトピー咳嗽の鑑別が難しいとき、抗ヒスタミン薬が奏功すれば、アトピー咳嗽の可能性が高いと言えます。

先に書きましたが、せきの治療は、基本的に原因疾患に対する治療を優先させなければなりません。鎮咳薬は効果がありますが、あくまで対症療法なので、根本的な治療にはなりません。ただし、症状を抑える意味での鎮咳薬の投与は認められるべきですので、すこし鎮咳薬について書きます。

鎮咳薬は、中枢性と末梢性があり、中枢性はさらに麻薬性と非麻薬性に分かれます。中枢性鎮咳薬は、咳中枢からのインパルス抑制に、末梢性鎮咳薬は、気道のせき受容体からのインパルス抑制に働きます。
中枢性鎮咳薬のうち、麻薬性は非常に効果が高く、非麻薬性が2番目、末梢性が3番目に効くとされてきます。ちなみに、ここでいう麻薬は習慣性などの心配の全くない量で処方されるようになっています。

見逃していけない咳

咳の原因を1つに絞ってしまうことはよくありません。常にいろいろな疾患の可能性を考えておくべきです。今まで書いてきた咳以外に、重篤で見逃してはいけない咳があります。
肺炎、結核、肺がん、間質性肺炎、肺血栓塞栓症、心不全、気胸、重症喘息発作などです。それぞれの疾患に鑑別診断の要点がありますので、その可能性を疑ったら、慎重に検査を進めていきます。
要は、他の原因の可能性を常に頭に置いておくことだと思います。

咳が続くとき

先に書いた内容をよく読んで自分がどれに当てはまるか考えましょう。おおよその検討はつくはずです。
風邪のあとか? 
後鼻漏はあるか? 
逆流性食道炎はないか? 
アトピーはあるか? 
季節性に悪くなるか? 
夜間明け方に多いか? 
喘息の吸入薬がよく効くか? 
抗ヒスタミン薬がよく効くか? など。

これらの症状と特徴を理解して、お近くの耳鼻咽喉科または内科へ受診してください。後鼻漏があるときは耳鼻咽喉科がおすすめです。

咳はつらい症状の一つです。
咳が続くと肉体的にも精神的にもかなりストレスになります。何週間も続いているなら尚更です。早くかかりつけ医を受診して診断をつけて治療してもらってください。

咳き込む女性 (イメージ)