はなみず

はなみず、鼻水、鼻汁、鼻漏。
いろいろな呼び方がありますが、要は鼻からでる液体のことです。耳鼻咽喉科の正しい語句は、鼻漏(びろう)といいますが、ここでは一般に鼻汁とします。
今回は、鼻汁について書きます。

鼻汁

鼻汁とは何でしょう?
鼻汁は、鼻腔、副鼻腔からの分泌液、涙液、粘膜からの漏出液、呼気から凝結した水分からなります。
鼻汁の成分は大部分が水分であり、ムチン、分泌型IgA、リゾチーム、ラクトフェリン等を含んでいます。
鼻汁は鼻粘膜の防御機構に深く関わっています。鼻汁は温かい鼻粘膜とともに、鼻呼吸に際して鼻からの吸気を加温、加湿し、さらに呼気中の水分を鼻粘膜で再吸収しており、鼻腔内の水分バランスを一定に保つ働きを担っています。24時間に鼻腔から分泌される鼻汁の量は約1Lですが、そのうちの700ml が吸気時の加湿に使われています。
鼻汁と鼻粘膜の加温加湿機能によって、冷たい空気を吸い込んでも、鼻腔の奥で、30℃、70%の空気となって肺へ吸い込まれていきます。
鼻汁は、漿液性、粘液性、膿性、ムチン、血性と、性状によって分類されています。

粘液ブランケット


鼻汁は、鼻粘膜を覆っており、粘液ブランケットという粘液層を形成しています。粘液ブランケットは2層で構成され、深層は粘性が低いゾル層、浅層は粘性が高いゲル層です。深層は鼻粘膜の最外層、呼吸上皮にある線毛を覆っており、1方向へ波打つように動いています。この線毛間隙を埋めているのが、粘性の低いゾル層で、ゾル層はわずか約7μmの高さです。
鼻汁は、鼻腔の生理機能にきわめて重要です。空気中の微粒子を粘液ブランケットで捉えて、呼吸上皮にある多列線毛上皮の線毛の動きにより、粘液ブランケットごと咽頭方向へ移動させることによって異物を排除しています。この粘液線毛輸送機能が効果的に働くには、適切な粘弾性が必要です。この粘弾性は、分子量数100万の巨大な高分子糖タンパクであり重合して複雑な集合体を形成する特徴をもつムチンと呼ばれる物質によって与えられています。
この粘液ブランケットが、鼻汁による生体防御機構に深く関わっているのです。

鼻粘膜

さて、鼻汁が覆っている鼻粘膜の構造はどうなっているのでしょう。鼻粘膜は、嗅裂に存在する嗅上皮と、大部分を占める呼吸上皮からなります。呼吸上皮には、多列線毛細胞と杯細胞が混在し、呼吸上皮の下層の粘膜固有層には、血管網、神経と鼻腺が存在します。
鼻汁産生に関与しているのは、呼吸上皮の杯細胞と粘膜固有層の鼻腺です。すなわち、鼻粘膜の表面の杯細胞とそのすぐ下にある鼻腺が鼻汁を産生していることになります。
杯細胞は、呼吸上皮の5-15%を占めており、細胞上部の細胞質に直径1-2μmのムチン分泌顆粒があり、ムチンの産生と分泌に関与しています。
鼻腺は、粘膜固有層に豊富に存在する混合腺です。混合腺なので、漿液腺細胞と粘液腺細胞から構成されており、鼻腺開口部から導管、粘液腺細胞、漿液腺細胞の順に配列しています。粘液腺細胞はムチンを分泌しており、漿液腺細胞は、水分や電解質、IgAを分泌します。末端の漿液腺細胞から分泌された水分が、粘液腺細胞から分泌されるムチンを押し出して、混合して鼻汁として鼻腺から分泌される仕組みになっています。

ムチン

鼻汁の粘弾性を決定する物質としてムチンがあります。ムチンは、分子量数100万の巨大な高分子糖タンパクで、重合して複雑な集合体を形成します。ムチンをコードする遺伝子はMUCで20種類以上あり、杯細胞や鼻腺にも発現しています。
ムチン産生には鼻腔粘膜と副鼻腔粘膜で違っています。鼻腔粘膜は粘膜固有層が多く、副鼻腔粘膜は粘膜固有層が少ないため、ムチン分泌は鼻腔粘膜が多くなります。
慢性副鼻腔炎では、MUC遺伝子発現が亢進し、ムチンの産生が亢進するために、粘稠な鼻汁が過剰に産生されます。ムチンは、初め分泌顆粒の状態で、鼻腺内にある粘液腺細胞から分泌され、同じく鼻腺内の漿液細胞から分泌される水分と混ざり、ムチン分泌顆粒が水分を吸収して最終的に粘弾性をもつ粘液になるのです。したがって、鼻汁の粘弾性は、ムチンの産生量と水分量のバランスで決定されます。

鼻汁、神経、血管

鼻副鼻腔の腺分泌と血管は、複雑な神経制御を受けています。
分布している神経は、三叉神経終末、交感神経、副交感神経です。
三叉神経は、鼻粘膜上皮、粘膜固有層に分布します。三叉神経→三叉神経脊髄路核→延髄網様体へ投射されます。
交感神経は、胸髄から起こり→上頚神経節→深錐体神経→翼突管神経(ヴィディアン神経)→翼口蓋神経節→鼻粘膜へ分布します。
副交感神経は、延髄の上唾液核から起こり→顔面神経→大錐体神経→深錐体神経→翼突管神経(ヴィディアン神経)→翼口蓋神経節→鼻粘膜へ分布します。
ここで、交感神経と副交感神経は、両方とも翼突管神経(ヴィディアン神経)と翼口蓋神経節を通過することがわかります。

鼻腺からの鼻汁分泌に関しては、コリン作動性の副交感神経が最も重要です。
アレルギー性鼻炎では、肥満細胞から分泌されたヒスタミンが知覚神経のヒスタミンH1受容体を刺激します。中枢性の反射を経由して副交感神経終末からアセチルコリンという物質が分泌されます。アセチルコリンは、鼻腺の腺細胞に作用して鼻汁産生を亢進します。アセチルコリン以外には、血管作動性腸管ペプチド(Vasoactive intestinal peptide : VIP)が、鼻腺の腺細胞に作用して鼻汁産生を亢進します。
VIP は同時に、血管網の動静脈の血管拡張を起こします。
非アレルギー性鼻炎では、化学的刺激、機械的刺激、温度刺激を感知するTRP ( Transient receptor potential )チャネルを介する神経制御があります。鼻粘膜には、vanilloid 受容体1と、ankyrin1 受容体の2つがあります。これらの受容体が刺激されると、中枢反射を通らない軸索反射によって、substance P その他の物質が分泌されて、粘膜固有層にある血管の拡張および血管透過性亢進が起こります。そのため、非アレルギー性鼻炎でも、アレルギー性鼻炎と同様な病態が起こるのです。
(この部分は難解なので忘れてください)

かなり複雑になりましたが、要点は、鼻粘膜の三叉神経刺激による中枢の神経反射によって、副交感神経からアセチルコリンが分泌されると、鼻汁がたくさん出てくる、ということです。

鼻水の意味

鼻水=鼻汁は、鼻粘膜を覆い、粘液ブランケットにより異物の除去を行い、吸気や呼気中の水分バランスを調整しています。そのバランスは、主に交感神経-副交感神経のバランスによって自動調整されています。しかしいったんそのバランスが崩れると、鼻汁分泌が多量になり、日常生活に支障をきたすほど不快な症状になってしまいます。
快適な鼻呼吸のためには、鼻づまりだけでなく、鼻水もコントロールされている状態が望ましいのです。鼻水、鼻づまりはセットで調子が良い状態に整えていきましょう。鼻水が多くて困るときは、ぜひお近くの耳鼻咽喉科へご相談ください。

鼻をかむ女性 (イメージです)