一般外来診療

多くの疾患に対して、耳鼻咽喉科一般の診療を行っています。
正確な診断と、適切な治療プランの提示を心がけています。
以下に、外来診療で多い代表的な病気について説明します。

急性中耳炎

乳幼児に多い急性中耳炎は、主としてウイルスや細菌によって起こります。
鼻やのどの炎症から、ウイルスや細菌が耳管経由で中耳へ侵入して中耳炎を起こします。
炎症がつよくなると鼓膜の内側に膿がたまります。中耳炎が進行すると鼓膜が膨れて、膿が流出し、耳漏となります。
急性中耳炎の症状は、発熱(39℃-40℃の高熱、感冒後の不明熱)、耳痛、耳漏などですが、乳幼児では耳が痛いことを伝えられないので、「耳を押さえて泣く」、「夜間にぐずる」、「機嫌がわるい」だけのこともあります。注意深く観察してあげることが必要です。
治療は、鼓膜の腫れと発赤だけなら、多くは抗菌薬と鎮痛剤の内服で治癒します。
高熱が続くとき、鎮痛薬が効かないとき、抗菌薬の投与で鼓膜初見の改善がないときは、鼓膜切開術を行って、鼓膜の中に貯まった膿を外に出します。耳から耳漏が出ているときは鼓膜が破れているときで、排膿はありますが、十分に排膿が確認されないときは耳漏が持続するために、鼓膜切開をした方が早期に治癒へ導けます。
抗菌薬の投与によって一時的に症状が軽快した急性中耳炎の中に、中耳貯留液の消失が不完全なまま、滲出性中耳炎と急性中耳炎の病態を往復する遷延性中耳炎(セミ・ホット・イヤー)とよばれる中耳炎を起こす子どもさんもいます。
乳幼児の急性中耳炎は、気道感染症を起こしやすい秋-冬期に好発します。乳幼児は耳管が太く水平に位置しており、耳管機能が未熟なため、容易に経耳管感染を起こすことが知られています。気道感染症からは、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスの関与が高く、起炎菌では、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスの関与が高いと報告されています。鼻副鼻腔炎が急性中耳炎を悪化させます。
一般に、2歳以下の乳幼児期に初発する中耳炎、約半数に薬剤耐性がみられる保育園などの集団保育児には、難治性反復性の中耳炎が多い傾向にあることが報告されています。
学童期になると自然に中耳炎を起こしにくくなります。

滲出性中耳炎

急性中耳炎が治癒した後、鼓膜の内側の中耳腔に中耳貯留液がたまり、長期間排泄されない中耳炎を言います。発熱や痛みはなく、症状は難聴だけですので、幼少児はまったく訴えがないことも珍しくありません。鼻副鼻腔炎、アデノイド増殖症の存在は、耳管機能を悪化させ、滲出性中耳炎が治癒しにくい原因になります。幼少児では、呼びかけに振り向かない、聞き返しが多い、テレビの音量が大きいなどから、両親が気づくことが多いようです。
受診時の鼓膜所見では、顕微鏡下の観察で中耳貯留液の存在が確認されます。一般に、発熱、耳痛などの急性炎症を繰り返すタイプと、ほとんど急性炎症を起こさない静かなタイプに分かれます。副鼻腔炎、アデノイド増殖症がある場合は、治療の妨げになるので、画像診断で病態の評価を行っておきます。
治療は、急性炎症を繰り返さない場合は、経過観察が基本です。
受動喫煙や、おしゃぶりの使用が滲出性中耳炎を悪化させますので、まず、これらを回避します。
発症から3ヶ月以上継続する滲出性中耳炎では、自然治癒が困難であると言われていますので、保存的治療を行います。
滲出性中耳炎の半数に副鼻腔炎を合併しますので、副鼻腔炎があれば、鼻処置、ネブライザー治療を行い、クラリスなどのマクロライド系抗菌薬を少量で一定期間内服して副鼻腔炎を積極的に治療します。クラリスの投与は原則として3歳以上が勧められます。さらにアレルギー性鼻炎は、滲出性中耳炎の増悪因子ですので、抗アレルギー薬を内服させて、鼻副鼻腔炎とともに治療します。
3歳未満の乳幼児では、冬期に急性上気道炎を起こしやすく、滲出性中耳炎に急性中耳炎を合併しやすいので、その治療を優先します。抗菌薬の投与はその時々に最小限にして、通常は、鼻処置、ネブライザー治療、内服薬は原則、カルボシステイン製剤の投与のみとします。
6ヶ月間経過観察と治療を行い、改善しない滲出性中耳炎に対しては、慎重に手術治療を計画します。
手術治療として、鼓膜チューブ留置術があります。全身麻酔または局所麻酔で行います。外耳道経由で、鼓膜切開の後に換気チューブを鼓膜に留置します。チューブ留置のために鼓膜を大きく切開する必要はなく、通常の鼓膜切開の大きさで十分です。その切開部にシリコン製の柔軟な鼓膜換気チューブを装着します。装着は30秒ほどで完了します。局所麻酔で行う場合は、通常の外来診療中に可能です。
鼓膜換気チューブは、合併症としてチューブ抜去後の鼓膜穿孔などがありますが、難治性の滲出性中耳炎に対しては、非常に高い治療効果のエビデンスが報告されています。
高度のアデノイド増殖症がある場合は、アデノイド増殖症に対する手術治療(アデノイド切除術)を選択する必要性があります。

以上、乳幼児の耳の病気でもっとも頻度の高い、急性中耳炎滲出性中耳炎について、簡単に診断と治療方針を説明しました。
小さなお子さんの耳の病気は、ご両親が早めに気づいて受診していただくことで診断ができます。少しでも気になる症状があるときは、耳鼻咽喉科を受診していただくことをお勧めします。

急性副鼻腔炎(乳幼児、小児)

乳幼児、小児には、もっとも頻繁に起こる鼻の病気です。
ウイルス性の感冒後に、鼻づまり、粘ちょうな膿性の黄色い鼻水、後鼻漏による咳や喘息様の症状を起こします。耳管経由で、前述の急性中耳炎を合併することも少なくありません。急性副鼻腔炎は、乳幼児の場合、後鼻漏による気道症状を反復することが多く、お母さんがお子さんの咳が続くことで受診することが多くあります。
急性副鼻腔炎は90%以上がウイルス性です。2次的に細菌感染を起こすと抗菌薬の内服が必要になります。起炎菌は、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスの3種です。3歳未満、集団保育児、反復感染、1ヶ月以内に抗菌薬を使用しているお子さん、などでは治療抵抗性であることが報告されています。膿性の鼻漏が多量にみられたら、抗菌薬を使用します。局所治療として鼻処置、鼻漏の吸引処置、ネブライザー治療なども重要です。併発しやすい急性中耳炎、ひいては遷延する滲出性中耳炎に移行する可能性もあるので、急性中耳炎を起こさないように、早期の治療が必要になります。
アレルギー性鼻炎を有する乳幼児も多く、鼻閉の改善も重要ですので、抗アレルギー薬の併用も推奨されます。
お子さんの鼻水がいつもと違うとき、黄色い鼻水が出ているとき、咳がなかなか止まらないときなどは、早めに耳鼻咽喉科を受診していただくと良いかもしれません。

一般外来で多く遭遇する、乳幼児、小児の鼻と耳の病気について、ごく代表的な疾患だけを選んで説明しました。

急性副鼻腔炎(成人)

成人の感冒後に罹患することの多い疾患です。ウイルスによる上気道感染が先行します。高度な鼻の疾患を合併していなければ、通常は2-3週間ほどで治癒します。医療機関を受診せずに自然治癒していることも多いと考えられます。成人の急性副鼻腔炎も小児同様、ほとんどがウイルス性です。10日経過しても改善しない場合は、細菌性副鼻腔炎の混合感染を起こしていますので抗菌薬投与が必要です。起炎菌は、インフルエンザ桿菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスの3種です。受診時、鼻内視鏡検査で、鼻閉とともに中鼻道に膿性鼻漏が観察されることが多く、後鼻漏症状も多く認めます。頰部、眼周囲痛、前額部痛を訴えることが多く、急性炎症を起こした副鼻腔に一致した部位に症状がでます。
レントゲン撮影やCT撮影によって副鼻腔炎の罹患部位、重症度などの正確な診断を行います。治療は、急性気管支炎などの気道症状を合併していることが多いため、成人ではニューキノロン系抗菌薬等が多く使用されます。耐性菌の存在も考慮されます。小児と同様、鼻処置、ネブライザー治療の反復は非常に効果的です。
70歳以上、反復感染例、糖尿病などの基礎疾患があると、治療における危険因子になります。3週間以内に治癒する場合は、とくに問題はありませんが、重症のアレルギー性鼻炎や高度の鼻中隔わん曲症によって、長期間にわたって鼻閉が続くと、副鼻腔炎が十分に治癒せず、いわゆる慢性副鼻腔炎へ移行することが多いため、注意が必要です。

急性扁桃炎

成人、小児ともに起こる口蓋扁桃の急性炎症です。扁桃は赤く腫れ、膿栓(のうせん)や白い偽膜が見られ、つよい咽頭痛と嚥下痛があります。発熱は突発性に出現し、38℃以上の高熱が多くみられます。悪寒戦慄、関節痛、全身倦怠などのインフルエンザ様の症状を伴うことも多く、冬期には急性扁桃炎にウイルス感染症合併の鑑別診断を慎重に行う必要があります。
起炎菌は、溶血性連鎖球菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ桿菌などです。これらの菌は扁桃に常在しており、疲労、ウイルス感染、免疫力低下などの誘因が重なって発症すると考えられています。溶連菌による扁桃炎が多いため、治療は、ペニシリン系またはセフェム系の抗菌薬を7日間ほど内服すると通常は治癒します。Aβ溶連菌が起炎菌の場合は、ペニシリン系抗菌薬を10日-14日間内服する必要があります。Aβ溶連菌が起炎菌の場合1%以下の頻度ですが、急性糸球体腎炎、リウマチ熱、アレルギー性紫斑病などの合併症が、遅発性に起こってくることがありますので、扁桃炎が治癒した後も注意が必要です。

伝染性単核球症は、急性扁桃炎と同様の症状ですが、EBウイルスによる扁桃炎のため、1週間以上高熱が続き、抗菌薬が効きません。頸部のリンパ節が腫れ、肝脾腫がみられ、肝機能異常をともなうことがあります。ペニシリン系抗菌薬で皮疹が出現することがあり、注意が必要です。解熱剤と水分補給を十分に行い、対症療法で治療します。

扁桃周囲膿瘍

急性扁桃炎が重症化し、扁桃の炎症が周囲に波及すると、扁桃周囲炎から扁桃周囲膿瘍を発症することがあります。扁桃周囲の間隙に膿が貯留し、高熱、つよい嚥下痛、含み声、高度になると呼吸苦を起こしてきます。抗菌薬の点滴と重症化した場合は膿瘍の切開排膿処置が必要になりますので、扁桃炎が治癒しない、いつもと違う場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診して下さい。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

中高年男性に多く、夜間睡眠時に呼吸停止または低呼吸の状態が8時間の睡眠中に200-300回の頻度で起こります。睡眠時無呼吸症候群は、痛みなどの体のサインに乏しく、起床時に体がだるい、疲れやすい、日中眠気がつよい等の症状だけのことも多いため、多くの症例では、家族にも気づかれずに放置されることが多くあります。この病気の恐いところは、重症の睡眠時無呼吸が長期間放置されると、酸素欠乏に弱い臓器、すなわち心臓と脳の血管が毎日ダメージを受けつづけ、心臓血管系の病気や脳血管系の病気がふつうの人よりもずっと起こりやすくなることです。統計では数倍から10倍くらいと報告されています。耳鼻咽喉科の病気の中では、もっとも全身的な影響が大きい病気と言えるかもしれません。
睡眠時無呼吸症候群の診断は、睡眠1時間あたりに何回の無呼吸低呼吸があるかを計測して、無呼吸低呼吸指数(AHI)で表します。PSG検査という夜間の睡眠状態を持続的にモニター計測する検査を受ける必要があります。最近では、自宅で測定できる簡易型の無呼吸検査も普及しています。しかし中等症、重症が疑われる場合は、入院してPSG検査を行う必要があります。
AHIが睡眠時無呼吸症候群の重症度の指標になります。PSG検査を行うと正確なAHI値がわかりますので、数値が低ければ経過観察を行い、一定値を超えると治療介入が必要になります。治療は、CPAP治療といって鼻と口に夜間の呼吸を補助するマスクをつけて眠る治療が第一選択です。慣れるまではストレスのかかる治療ですので、治療を継続すべきかどうかをPSG検査で正確に診断する必要があります。
当院では、毎週木曜日にこのPSG検査を行っており、AHI値から治療が必要かどうかを診断しています。

声帯ポリープ

声帯に良性のポリープができる病気です。治らない嗄声(声がれ)が主な症状です。40歳-50歳の男性に多いという報告があります。
原因は声帯の酷使です。一般に声をよく使う職業、大きな声を長時間だす人などに多くできる傾向があります。声帯の酷使によって、声帯に遊離縁に小さな出血をくりかえし、声帯が変性してできると言われています。診断は、外来で喉頭ファイバースコープを用いて観察するだけで簡単に診断ができます。
治療は、声の乱用をやめること、吸入治療を行いますが、ポリープが大きいとき、保存的治療で小さくならないときは、ポリープの切除術が必要です。
局所麻酔、全身麻酔で口の中からファイバースコープまたは喉頭鏡とよばれる金属の管を挿入してポリープのみ切除します。簡単な手術ですが、手術後にすぐ発声を行うと、声帯が硬くなり、声がれが残ってしまいますので、手術後は1週間の発声禁止が必要です。類似の疾患に、声帯のう胞ポリープ様声帯と呼ばれる病気があります。

反回神経麻痺

声帯が片方、または両方とも動かなくなる病気です。ふつうは空気の漏れるような声がれ(気息性嗄声)がありますが、両側麻痺の場合は呼吸が苦しくなることがあります。
大きな病気が隠れていることがあり、胸部の病気、食道の病気、甲状腺の病気をふくめた内科的な全身検索が必要です。
診断は喉頭ファイバースコープですぐに診断できます。

以下、当院で診断、治療を行っている耳、鼻、のどの病気を病名一覧としました。

当院で診断・治療を行っている疾患のリスト

耳の疾患

急性中耳炎
滲出性中耳炎
外耳炎
外耳道湿疹
耳垢(耳あか)
外耳道異物
サーファーズイヤー(外耳道骨腫)
外耳道真珠腫
先天性耳瘻孔
耳介軟骨膜炎
耳介血腫
耳介腫瘍
急性乳突洞炎
外傷性鼓膜穿孔
慢性中耳炎
真珠腫性中耳炎

コレステリン肉芽腫
癒着性中耳炎
鼓室硬化症
耳硬化症
耳小骨奇形
外リンパ瘻
メニエル病
突発性難聴
顔面神経麻痺(ベル麻痺、ハント麻痺)
良性発作性頭位性めまい症
前庭神経炎
耳管開放症
音響外傷
老人性難聴
聴神経腫瘍
耳手術後の難聴

鼻の疾患

好酸球性副鼻腔炎
内翻性乳頭腫
鼻副鼻腔腫瘍
オスラー病
鼻出血
鼻骨骨折
上顎骨折
眼窩吹き抜け骨折(ブローアウト骨折)
鼻涙管閉塞
鼻手術後

咽頭・喉頭の疾患

急性咽頭炎
急性扁桃炎
急性扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍
慢性扁桃炎
扁桃肥大
伝染性単核球症
急性喉頭蓋炎
急性声門下喉頭炎
急性声帯炎・気管支炎
声帯ポリープ 声帯結節
声帯囊胞
ポリープ様声帯
喉頭肉芽腫

喉頭腫瘍
声帯溝症
反回神経麻痺
嗄声(声がれ)
咽喉頭異物
逆流性食道炎(GERD)
睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
咽喉頭異常感症
発声障害
嚥下障害
誤嚥
咽頭がん 喉頭がん 舌がん 口腔がん(→診断、早期発見)

声帯ポリープやポリープ様声帯に対しては全身麻酔下にラリンゴマイクロサージャリー(喉頭微細手術)を実施しています。1日入院が必要です。

頭頸部の疾患

急性耳下腺炎
急性顎下線炎
唾石症
口腔底蜂窩織炎、頸部蜂窩織炎、頸部膿瘍
頸部リンパ節炎
正中頸のう胞 側頸のう胞

耳下腺腫瘍(ワルチン腫瘍、多形腺腫)
顎下線腫瘍
甲状腺腫瘍
頸部腫瘍
亜急性甲状腺炎