耳の手術

中耳炎の手術

真珠腫性中耳炎

真珠腫性中耳炎は、鼓膜の一部が陥凹して中耳腔に入り込み、真珠のような白いパールを形成する耳の疾患です。原因は耳管機能不全、子供のときの中耳炎の反復、鼻すすり癖、先天性などがあります。真珠腫は耳漏をともない、耳小骨や周囲の側頭骨を破壊して進展していくため、良性の腫瘍としての治療が必要です。基本的に手術が唯一の治療方法になっています。
耳の後ろの皮膚を6㎝ほど切開して耳介を倒し、乳突蜂巣という耳の後ろの側頭骨の一部をダイアモンドバーで開放して真珠腫を取り出し、真珠腫で壊れた耳小骨を顕微鏡で再建して人工のりでつなぎます。(鼓室形成手術+乳突削開術) 
出血の少ない手術ですが顕微鏡下に細かな操作を行うため、全身麻酔で行います。1泊入院が必要です。

慢性中耳炎

鼓膜に穿孔があり、難聴をおこす疾患です。感染が起こると耳漏を繰り返します。
鼓膜の穿孔が大きいと鼓膜を貼る手術を行います。(鼓膜形成手術)
多くの場合、耳介の後ろの皮膚を2㎝切開して皮下組織を採取して、耳の穴から人工のりで鼓膜を貼る手術をします。穿孔が小さくても穿孔が鼓膜の端にかかっている場合や鼓膜がうすくて血流がわるいときは、耳介の後ろを6㎝ほど切開して耳介を倒し、外耳道の皮膚を剥離して自分の筋膜を鼓膜の下に敷き込む手術方法をとります。耳後部の皮膚は数針縫合します。最近では皮膚の接着剤を使う方法もあります。(鼓室形成手術)
症例により局所麻酔、全身麻酔で行います。

伝音難聴の手術

鼓膜が正常であるにもかかわらず難聴がある症例があります。
このような場合は、一部の耳小骨が硬化して動きが悪くなっていたり耳小骨の連鎖が途中で外れていたりすることがあります。このような症例では、硬くなった耳小骨を外して人工の耳小骨を置くか削って形を整えて元の場所に嵌め込んで動くようにするかなどして鼓膜の振動が正しく伝わりやすい連鎖を形成します。(鼓室形成手術)
3番目の耳小骨(アブミ骨)が硬く動かない場合は、人工のアブミ骨(ピストン)を入れる手術もあります。(アブミ骨手術)
耳の後ろから手術する場合と耳の中に2 cmほどの切開をおくだけで手術ができる場合があります。全身麻酔で行います。

顔面神経麻痺の手術

顔面神経減荷術といいます。
重症の顔面神経麻痺でステロイド治療を行っても麻痺が改善しない症例では、顔面神経のそれ以上のダメージを防ぐ目的で顔面神経の骨のトンネルの壁をはずして、神経の圧迫を解除する手術をします。顔面神経は側頭骨の中を40ミリ以上にわたって走行しており、いったん麻痺が起こると硬い骨のトンネルの中で炎症によって腫れて膨らんだ神経がつよい圧迫をうけて血流障害に陥るため大きなダメージをうけてしまいます。ステロイドで神経の浮腫がひいて骨の圧迫が軽くなれば大丈夫ですが、神経の腫れがひかず骨の圧迫がつよい場合は、顔面神経がつぎつぎに変性壊死していくため将来高度の麻痺が残りやすく、早期に開放術が必要になります。この手術を顔面神経減荷術といい、麻痺の発症から14日以内に行うと効果が高いと言われています。現在までに70例以上行っています。
手術は4時間程度。全身麻酔で行います。1泊入院が必要です。

めまいの手術

外リンパ瘻(ろう)という内耳液の液漏れによる難治性のめまいに対して行います。
内耳窓閉鎖術といいます。
外リンパ瘻とは、つよいいきみや重量物をもったりした後、またつよい鼻かみなどでも起こる、内耳の液漏れ現象です。蝸牛、前庭などの内耳の膜迷路には振動を伝えるために少量の液体が入っています。通常、内耳は硬い骨に囲まれていて、振動や圧が上がっても簡単には液漏れは起こりません。しかし内耳には圧力に弱い部分が2カ所あります。1つはアブミ骨という内耳の蓋(ふた)になっている耳小骨で蓋が動きやすいようになっているため、内耳から圧が加わると隙間から内耳液が漏れることがあります。もう1つは正円窓(蝸牛窓)といわれる部分で、内耳液がうまく振動するために内耳液の骨の囲いが1カ所だけ膜になっています。この部分は膜のため、つよい圧によって何かの拍子に膜の一部が破れたり裂け目が入ったりすると内耳液が漏れ出します。この2カ所または1カ所から内耳の液漏れが起こると、聴力が低下したりフラフラするめまいやグルグル回転するめまいを起こします。液漏れが少なければ、時間がたてば自然に漏れがなくなる場合もありますが、骨の蓋からの液漏れが多いときや膜の破れが大きいときは、家の中での歩行にも支障をきたすだけでなく、放置すると片方の聴力が失われてしまうこともあるため、早期に液漏れを塞ぐ手術が必要です。
手術は鼓膜をめくり蝸牛窓とアブミ骨を確認して、液漏れがあったら筋膜の小片を人工のりで貼り付けて液漏れを塞ぎます。現在までに70例以上行っています。
手術は1.5-2時間。全身麻酔または局所麻酔。1泊入院で行います。

重症のメニエル病で薬によるコントロールが不良な症例に対しては、内耳圧を減圧する内リンパ嚢手術を行います。

当院で行っている耳の手術

  • 真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成手術・乳突削開術
  • 慢性中耳炎に対する鼓室形成手術(耳小骨再建をともなう)
  • 慢性中耳炎に対する鼓室形成手術(耳小骨再建をともなわない)
  • 慢性中耳炎に対する鼓膜形成術
  • 伝音難聴に対する鼓室形成手術(聴力改善手術)
  • 耳硬化症に対するアブミ骨手術(stapedotomy, stapedectomy )
  • 外リンパ漏に対する内耳窓閉鎖術
  • 顔面神経麻痺に対する顔面神経減荷術
  • 急性乳突洞炎に対する乳突削開術、乳突開放術
  • 外耳道骨腫(サーファーズイヤー)に対するサーファーズイヤー手術
  • 先天性耳瘻孔に対する先天性耳瘻孔摘出術
  • 耳介良性腫瘍に対する耳介腫瘍摘出術