耳鳴 -その1-

みなさん、疲れた時など、一度ならず耳鳴を感じたことがある方は、多いのではないでしょうか。今回は、外来診療でよく遭遇する、耳鳴について書いてみたいと思います。

耳鳴とは?

耳鳴とは、耳に生じる雑音です。
もっと専門的に言えば、音刺激がない状況での音の知覚です。10-15%の人が経験します。
自覚的耳鳴と他覚的耳鳴があります。自覚的耳鳴は、自分だけに聴こえます。他覚的耳鳴は、耳の近くの構造物から出る実際の音です。第3者にも聴こえることがあります。自覚的耳鳴がほとんどを占めます。

原因は?

耳に関連する病気の75%が症状として耳鳴を含み、難聴がある人はよく耳鳴が発生します。
感音難聴が原因となるものが多く、以下のものがあります。

突発性難聴

メニエール病

急性低音障害型感音難聴

中耳炎

外リンパ瘻

音響外傷(強大音暴露による)

内耳圧外傷(急激な圧変化による)

聴神経腫瘍

グロームス腫瘍

耳管狭窄・開放症

アブミ骨筋・鼓膜張筋の痙攣

老人性難聴

耳毒性薬剤による耳鳴 (アスピリン、抗がん剤など)

高位頸静脈球症

硬膜動静脈奇形(AVM)

脳血管・頚部動静脈雑音 (速流、乱流)

1つ1つの疾患の詳しい説明は省略しますが、ほとんどが耳の疾患としては、きちんと治療を行わないといけないものばかりです。
上記のほとんどが難聴を伴い、検査が必要です。
突発性難聴、外リンパ瘻、音響外傷、内耳圧外傷は早期の治療が必要です。
腫瘍は、正確な診断が必要です。

実際の診療で多いのは、突発性難聴などの急性内耳疾患にともなう耳鳴と、加齢にともなう耳鳴です。若い人は、ライブハウスなどで強大音を聴いたあと、キーンとした耳鳴が止まらないと訴えてきます。
中高年の年齢層に多く、脈拍に一致する血管性の耳鳴もあります。内耳に接している脳血管の血流(乱流)音が聴こえ、ザッザッとかシャアシャアなどと聴こえます。

原因をたくさん書きました。覚えきれませんね。
要点は、耳鳴は、耳の重大な病気にともなうことが多いこと (75%)。
こう単純に理解してください。
早く次にいきましょう。

症状は?

キーン、シーン、ジー、ゴー、ピー。
これが24時間、365日続くと精神的な苦痛は計り知れません。
耳鳴の音は、じつにさまざまです。片方の耳に複数の耳鳴を確認することも稀ではありません。また、日によって耳鳴の音が変化することもしばしば経験します。
耳鳴は一般に、昼間何かに集中しているときよりも、夜間、周囲の音が消えたとき、より大きく自覚する傾向にあります。したがって夜間の睡眠障害を伴うことも多く、入眠薬や精神安定剤の投与が必要になるケースも多くあります。
耳鳴は、ストレスや過労、睡眠不足で悪化します。自律神経失調症や体調の不良などがあるとなかなか改善しません。
耳鳴は、

1側性か両側性か?
断続的か持続的か?
耳鳴の性状 は?(どんな音か?)
急性発症か以前からか?
耳鳴以外の症状はないか?(難聴、めまい)
他の脳神経症状はないか?

問診でよく聞くことが重要です。

難聴と耳鳴は相関します。
難聴の50%に耳鳴をともない、持続する耳鳴の80%に難聴をともなうと報告されています。
65歳以上では,4人に1人が聴力障害があります。感音難聴があると耳鳴が多くみられます。高齢者では、耳鳴は多い症状の1つです。

検査は?診断は?

耳鳴の診断は、簡単です。
耳鳴の原因診断は、多くの場合、困難です。

突発性難聴と診断されても、耳鳴が発生している特定の部位は診断できないことが多いからです。メニエール病も同じです。内リンパ水腫が起こると何故、耳鳴が起こるのかは説明が困難です。

さておき、耳鳴の診断そのものは難しくありません。純音聴力検査、耳鳴検査を行います。めまいの眼振検査を行うこともあります。
耳鳴検査は、
①ピッチマッチ検査といって、耳鳴の周波数を確認する方法、
②ラウドネスバランス検査、
③耳鳴遮蔽検査(どのくらいの大きな音で耳鳴が遮蔽されるか)

などを適宜、追加検査します。
患者さんと1対1に向き合う検査です。時間がかかります。

側頭骨CT、頭部MRI撮影も重要です。画像診断で診断可能な疾患を調べます。
頚部の血管雑音による可能性があれば、頚部超音波検査を行い、頚動脈の内腔狭窄などがないかを精査します。
最終的に、治療すべき重要な内耳疾患を見つけます。内耳疾患以外でも、耳鳴の原因を可能なかぎり診断します。
聴神経腫瘍などの可能性が見つかれば、さらに追加検査を、他科(放射線科、脳神経外科)とも協力して正確に診断します。

重要な点は、耳鳴で受診された患者さんには、耳鳴以外の内耳疾患のほぼ全ての検査を行う必要があるということをご理解ください。

治療は?

耳鳴の治療は、耳鳴そのものに対する治療よりも、耳鳴の原因となっている疾患に対する治療を行います。
内耳の疾患が特定されたら、その治療を徹底して行います。これがもっとも耳鳴に対しても効果のある治療です。
耳鳴の治療は、難聴やめまいが存在するときは、それらの治療を行うことが間接的に治療になるのです。それは恐らく、同一の内耳疾患が難聴や耳鳴、めまいといった複数の症状を同時に起こしてくるからではないかと思います。
原因となっている内耳疾患が治療されると、その随伴症状として起こっていた耳鳴は、軽減されます。
一般に、耳鳴は難聴の治療を行うと、50%の例で改善することが知られています。

耳鳴単独の治療は、加齢による老人性難聴に伴うものや、難聴が長期間固定した状態で耳鳴がある場合です。このような耳鳴に対する根本的治療はありませんが、耳鳴をできるだけ緩和させる治療を行います。
循環改善薬、ビタミン剤、内耳賦活薬、耳鳴薬などを合わせて内服治療を行います。夜間、高齢者でも安全に使用できる入眠薬を併用すると効果的なことがあります。
麻酔科ペインクリニックで使用する、スーパーライザー治療はかなり有効です。頚部の交感神経節の非侵襲的ブロックであり、内服薬治療と併用して行うと、難治性の耳鳴に対してもかなり有効です。両側の難聴が進行してくると、それに伴い耳鳴も大きくなったりします。加齢による難聴も補聴器などで聴力の改善を図ると、50%で耳鳴は軽減すると報告されています。
難治性の耳鳴には、マスカー療法という耳鳴治療があります。内服治療、スーパーライザー治療で効果がないとき、試す価値がある治療です。耳鳴は、それ以上の音を聴くとマスクされて気にならなくなります。この原理を応用して、補聴器仕様のマスカー治療器から、常にバックグラウンドミュージックを流しておく方法です。次第に、マスクをしなくても耳鳴が小さくなったり気にならなくなったりします。
血管性耳鳴と診断されたら、内科疾患について精査します。高血圧、糖尿病、高脂血症、その他の内科的問題点を考え、内科主治医と相談してもらいます。全身状態の改善が、耳鳴の改善につながります。

TRT治療という、耳鳴に特化した特殊な治療方法があります。上記の治療を行ってみて、どうしても良くならないときは、試してみる価値があります。耳鳴カウンセリングを上手に利用した総合的な治療です。耳鳴をなくす治療だはなく、耳鳴があっても気にならなくなる治療法だとご理解ください。

おわりに

長くなりました。
耳鳴の診断と治療は、奥が深いです。
手術のようにシンプルにいかない分、いろいろな治療法を組み合わせて、自分にいちばんあった治療を見つけなければなりません。

まずは、診断です。
耳鳴があり、お困りの方は、お近くの耳鼻咽喉科で一度調べてもらったらどうでしょうか。

日常生活で耐えがたい耳鳴 (イメージ)

突発性難聴

難聴 -その2-

今回は、耳鼻咽喉科の耳の疾患でも重要な位置を占める、突発性難聴について書いてみます。

突発性難聴という病名

一昔(20年)前は、突発性難聴などという病名は、患者さんは誰も知らず、外来で突発性難聴の診断がつくと、その治療の重要性と重篤性、予後の悪いことなど、患者さんへの説明に一苦労したものです。
それが今は、芸能人や著名人が、突発性難聴のカミングアウトをしたり、ブログに書いたり、インターネットの記事などで、ほとんどの患者さんに病名の説明はいらなくなりました。しかしまだ、突発性難聴について、一体何が大変なのか、よく知らない人が実はほとんどですので、その点について正確に伝えたいと思います。

突発性難聴とは?

突発性難聴とは、
突然発症する原因不明の感音難聴 の総称です。病態は単一ではないと考えられています。発症はほとんどが1側性で、再発は稀です。日本国内では、突然発症する高度難聴 と定義されますが、欧米では、隣接する3周波数において、30db以上の感音難聴が3日以内に生じたもの と定義されます。
50-60歳代に好発します。性差はありません。わが国では年間約3万5000人が罹患するとされています。難聴の程度はさまざまで、軽度なものから聾まであります。聴力型は、高音障害型が多いですが、水平型や山型、谷型、聾型を示す例もあります。原因として、内耳循環障害、ウィルス感染、外リンパ瘻、自己免疫などの関与が推定されています。ムンプス不顕性感染、内耳出血などの報告が増えていますが、原因がわかれば、突発性難聴とは言わず、突発難聴と診断されます。

症状は?

難聴(100%)と耳鳴(90%)、耳閉塞感(60-70%)、めまい(30-50%)の症状を起こします。
中枢神経症状を伴うことはありません。
難聴の発症は、何時何分と同定できるほど突然のことが多いですが、起床時に気づくことや電話をとったときに気づくこともあります。めまいは、前庭機能障害の合併を意味し、めまいを伴う例では、難聴は高度で聴力予後も悪いことが多いようです。めまい発作は1回のみで繰り返すことはありません。

問診で聞くこと

突発性難聴は、原因が不明なものをいいます。なので、原因が明らかなものは、除外して診断します。以下、
①既往歴(高血圧、免疫疾患)
②服薬歴(アスピリン、ストレプトマイシン、シスプラチン、抗凝固薬)
③手術歴(耳の手術、とくにアブミ骨手術)
④職業(重量物運搬、肉体労働、潜水、気圧の変化)
⑤発症直前に、鼻をつよくかんだか、重量物を持ち上げるなどの動作、怒責、咳、嘔吐
⑥頭部外傷や打撲、強大音響暴露
⑦脳神経症状の有無
⑧ムンプス、麻疹患者との接触の有無
などが重要です。

突発性難聴の治療には、原則としてステロイド薬を使用するので、糖尿病、高血圧、胃潰瘍などの疾患がないかどうかを確認します。

検査は?

基本的に、診断は難しくありません。
突然の発症、高度難聴、聴力検査などから、診断できます。

①純音聴力検査
②外耳、鼓膜の視診
③顔面神経麻痺、舌咽神経麻痺、他に中枢神経症状がないか
④CT、MRIの画像検査による聴神経腫瘍の除外診断
⑤ムンプス、単純ヘルペス、帯状疱疹の抗体価

これらから、取捨選択して実施します。

重症度は? 予後は?

突発性難聴の診断で最も重要な点は、初診時の感音難聴の重症度です。
1998年の厚生省(現厚生労働省)の急性高度難聴調査研究班により作成された、突発性難聴の重症度分類は、感音難聴の閾値により、突発性難聴をグレード1-4まで分類し(グレード4が最重症)、めまいの有無(aまたはb)と初診時聴力が2週間以内か以降か(‘ )によってさらに細かく分類しています。

突発性難聴重症度基準(1998年 厚生省)

Grade 1 初診時純音聴力40db未満

Grade 2 初診時純音聴力40db以上60db未満

Grade 3 初診時純音聴力60db以上90db未満

Grade 4 初診時純音聴力90db以上

注1 聴力は0.25,0.5,1,2,4 KHz の5周波数の閾値の平均とする
注2 この分類は発症後2週間までの症例に適応する
注3 初診時めまいのあるものではaを、ないものではbを、2週間を過ぎたものでは’をつけて区分する (例 Grade3a, Grade4b’ )

この分類は、耳鼻咽喉科の一般外来で診療に多用されているというわけではなく、あくまで主として厚労省の統計処理を目的としたものではないかと思います。

突発性難聴は、
①初診時聴力が高度であるほど、
②発症から治療開始日までが長いほど、
予後が悪いとされています。さらに、
③めまいを伴う例は予後不良が多い傾向
があります。
逆に、初診時聴力が良く、めまいがなく、発症から受診までが短ければ、改善率が高くなる傾向があります。ただし、聴力の回復は個人差が大きく、一概には予想できません。

治療は?

一般に突発性難聴は、標準的な治療を行っても、
①完全治癒が1/3,
②回復するが元の聴力には戻らないものが1/3, ③全く回復しないものが1/3
であると言われています。不幸にも突発性難聴になってしまったら、他の原因が明確な疾患が除外されれば、ほぼこの確率に沿って治癒と回復、不変が決定されてしまうと考えなければなりません。もちろん、個人差は大きく、一概には結果の予想はできません。
予後の項で述べた通り、突発性難聴の治療予後は、①初診時聴力、②めまいの有無、③発症から治療開始までの日数が、大きく影響することは事実です。
それでも、できるだけの治療はやっておくべきです。仕事が忙しいから通院できないとか、出張が入っていて外せないとか、いろいろな制限を話される人がいます。そんな時私は、必ず、その仕事はあなたの一生の聴力と引き換えにできますか? と、聞くことにしています。あなたが片方の聴力を生涯失っても構わないならそうしてください。でも、生涯続く自分の難聴と引き換えにしなければならない仕事など、世の中にはそれほど多くはありません。いいえ、まずないはずです。
まずは、初診時聴力によって、重症度を判定します。先の分類ではGrade4は明らかに回復が非常に悪いことが報告されています。次に悪いのがGrade3です。めまいを伴う例は、同じGradeでもさらに悪くなります。

突発性難聴の治療は、ステロイド剤の投与に尽きます。治療方法は、重症度によってオーダーメイドです。具体的な投与方法は多岐にわたり、別頁に譲ります。ステロイドは全身的な副作用が大きい薬剤ですので、合併症に細心の注意を払って投与します。糖尿病でステロイドが使用できない場合は、替わりにプロスタグランジンの投与を行います。循環改善剤、ビタミン剤、内耳賦活剤などの内服薬を同時に使用し、場合によっては、ある種の血栓溶解剤やウログラフィンというヨード系造影剤が非常に効果があります。これらをうまく組み合わせて投与します。薬物治療の効果が乏しい症例には、高圧酸素療法、ステロイド鼓室内投与治療などを実施します。ペインクリニックで行われる、星状神経節ブロックは、繰り返すことで効果があります。
突発性難聴の治療の難しさは、その症例に、いったい何の薬がいちばん効くのかという、根本的なことがわかっていないことです。ある症例に非常に効果があった薬が、別の症例には、全く効かなかったということが、普通に起こります。ですから、標準的な治療から少しずつ幅を拡げて試していくような治療方法になります。全国どこの医療機関でも治療方法はほとんど同じです。突発性難聴とは、原因不明の難聴です。いわば原因が全くわからずに治療を開始するのです。
さらに、発症から4週間以上経過していると、聴力はすでに固定してしまって、治療を行っても聴力はほとんど回復しません。

どうすれば良いの?

嫌なことばかり書いてきましたが、突発性難聴の事実です。実際に治療しても回復しなかった方は、全国にはたくさんおられるはずです。1/3は回復しないのですから。

では、いったいどうすれば良いのでしょうか。答えは1つだけ。耳が聞こえなくなったら、今すぐに近くの耳鼻咽喉科に駆け込むこと。たとえそれが耳垢だと笑われても構いません。あなたの片耳と引き換えにして良いものは何もないと思います。

突発性難聴の発症に悩む、働き盛りの男性 (イメージ)

鼓室形成手術 -その2-

今回は、耳の手術治療でよく遭遇する、真珠種性中耳炎について書いてみたいと思います。

真珠種性中耳炎とは?

耳の疾患の中でも、とくに治療の難易度が高いものに、真珠種性中耳炎があります。真珠種性中耳炎は、本来なら外耳道側にある鼓膜上皮(皮膚)が、何らかの原因で中耳腔側(粘膜)に迷入して、真珠のように角化上皮の堆積物を作りながら大きくなっていく疾患です。
特徴は、良性疾患にもかかわらず、耳小骨や周囲の側頭骨、内耳などを破壊しながら悪性のように進展していくことです。

分類は?

先天性と後天性に分類されます。
後天性は、真珠種の鼓膜上の発生部位によって、弛緩部型と緊張部型に分類されます。
鼓膜穿孔から上皮が鼓膜裏面に入り込んだ2次性真珠種の分類もあります。

症状は?

難聴と耳漏です。
後天性真珠種の弛緩部型は、早期に耳小骨破壊を伴うため、難聴の進行が早く、注意が必要です。弛緩部型も進行すると耳小骨破壊を伴い、難聴が進行します。
弛緩部型、緊張部型ともに、さらに進行すると、めまい、顔面神経麻痺を発症します。

診断は?

後天性は、弛緩部型、緊張部型ともに、鼓膜上皮が陥凹して発症します。大きく陥凹した上皮のポケットに、デブリとよばれる白色堆積物をみとめたり、痂皮(かひ)や肉芽を形成することがあります。炎症を伴うと耳漏が出ます。陥凹した部分の周囲は骨破壊をともなうことが多く、進行すると外耳道側壁から後壁を破壊します。骨破壊は真珠種の進行にともなって拡大します。
進行すると、半規管瘻孔によるめまい、顔面神経麻痺を起こします。さらに進行すると乳突洞から硬膜に達する例があります。

先天性は、発生の過程で中耳腔に生じるため、鼓膜は正常です。鼓膜を通して白色の真珠種が観察されることもあります。伝音難聴をともなうことがあります。
聴力検査では、後天性真珠種が進行して耳小骨破壊が起こると伝音難聴を示します。
側頭骨CTでは、真珠種の進行の程度に相関して、上鼓室から乳突洞にかけて軟部陰影がみられます。

真珠種性中耳炎の診断は、顕微鏡下の鼓膜の視診と、側頭骨CTから難しくはありません。

進展度は?

真珠種性中耳炎の進展度は、現在、ステージ分類が一般的です。

真珠種の病態分類、
弛緩部型、緊張部型、先天性、2次性の4つについて、それぞれ進展度がステージ分類されています。
真珠種の進展度の基本分類は、

Stage Ⅰ 真珠種が「初発区分」に限局する
Stage Ⅱ 真珠種が「初発区分」を超えて隣接区分へ進展する
Stage Ⅲ 側頭骨内合併症・随伴病態を伴うStage Ⅳ 頭蓋内合併症を伴う

です。さらに、病態分類別に進展度が評価されています。弛緩部型、緊張部型、先天性と。

弛緩部型
Stage Ⅰ 真珠種が上鼓室に限局する
Ⅰ a Ⅰ b
Stage Ⅱ 真珠種が上鼓室を超えて乳突洞や鼓室、前鼓室に進展する
(Stage Ⅲ Ⅳ は同上)

緊張部型
Stage Ⅰ 真珠種が鼓室(後〜下鼓室・鼓室洞)に限局する Ⅰ a Ⅰ b
Stage Ⅱ 真珠種が鼓室を超えて上鼓室や前鼓室、乳突腔に進展する
(Stage Ⅲ Ⅳ は同上)

と分類されています。

複雑で専門的すぎますね。
要は、StageがⅠ-Ⅳと進むほど、真珠種が大きくなることを示します。したがって、重症度は高くなります。先天性の進展度分類は、ここでは省略します。
簡単にわかりやすく言うと、真珠種が、鼓膜のところから、耳の後ろの側頭骨の空間へ、周囲の骨を壊しながら大きくなっていく、ということです。

治療は?

真珠種性中耳炎の治療は、手術治療が第一選択です。局所の保存的治療を行うことで、真珠種の進行を停止させたり緩やかにすることはできますが、根治は期待できません。
手術は、鼓室形成手術と乳突削開術を併せて行います。中耳腔と乳突洞に入り込んだ真珠種を摘出し、耳小骨の破壊があれば耳小骨再建を追加します。進展度に応じて、2期的に手術を行うこともあります。

真珠種性中耳炎の手術の目標は、

① 真珠種の完全摘出と再発がないこと
② 聴力の改善

この2点です。

注意点は?

真珠種性中耳炎は、良性疾患ですが、再発もあり、手術によっても、必ずしも聴力が良くならない症例があります。2期的な手術を計画することもあります。
手術はどうしても必要な疾患ですが、手術については、耳鼻咽喉科の主治医と十分に話し合う必要があります。

耳鼻咽喉科で処方された点耳薬

鼓室形成手術 -その1-

鼓室硬化症とは?

耳の手術でしばしば遭遇する病態に、鼓室硬化症(こしつこうかしょう)があります。

これは、慢性中耳炎の終末像と考えられています。数十年間にわたって鼓膜に穿孔があると、鼓室は数え切れないほどの炎症をくりかえし、炎症の治癒過程で、とくに耳小骨の周囲に骨増生が進行します。この骨増生が耳小骨の動きをわるくして、伝音難聴を起こします。これが、鼓室硬化症です。
40歳以上で女性にやや多く、慢性中耳炎の10-20%にみられます。

症状は?

難聴が唯一の症状です。徐々に進行する伝音難聴を示します。鼓膜穿孔が70%にあります。耳漏はほとんどありません。真珠種性中耳炎や癒着性中耳炎の合併が20%にみられます。鼓膜穿孔のないものが10%あります。

診断は?

顕微鏡下の鼓膜観察と純音聴力検査で、ほば診断がつきます。

鼓膜穿孔がありますが、耳漏はありません。乾燥耳です。残存鼓膜に高度の石灰沈着や瘢痕がみられます。
聴力検査は、伝音難聴。鼓膜穿孔の大きさに比して伝音難聴が高度のことが多いようです。

治療は?

鼓膜穿孔をともなう伝音難聴ですので、手術治療が選択されます。鼓膜穿孔がない症例でも伝音難聴ですので、手術治療の対象になります。鼓室形成手術によって、耳小骨周囲の硬化性病変を除去し、聴力改善を計ります。アブミ骨の固着がみられることがあり、2段階の手術治療が必要なこともあります。

手術治療の選択は?

患者さんは長期間、難聴がありますが、耳漏がないため不快感がありません。難聴もかなり以前から悪いため、慣れてしまっています。そのため、まず、この中耳炎について正しく情報を伝えなければなりません。手術治療の選択肢があり、聴力改善の可能性があることを知らない患者さんも少なくありません。その上で、患者さん本人からの手術治療に対するつよい希望があれば、手術治療を行います。手術後に聴力が良くなる症例も少なくありませんが、安易な聴力改善は約束できません。
結論から言うと、”手術をするか、そのままか” です。患者さん本人の希望にまかせるしかありません。
ただ、何もしないより、”聴力改善の可能性” に賭けてみる価値はじゅうぶんにあります。

右耳の難聴がある高齢女性 (イメージ)

聴こえがわるい

難聴 -その1-

聴覚の意味

聴覚は、人の文明的生活を支えるもっとも重要な感覚の1つです。難聴は、人の快適な生活だけでなく、人生そのものに計り知れない影響を与えます。例えば、先天性難聴を放置すると、言語発達の遅れのみならず、社会性の発達までが遅れてしまうことになります。また、聴覚によって得られる情報を失うことは、人の正常な発達過程のみならず、情緒の形成、ひいては人間性まで大きく変化するであろうことは、想像に難くありません。

聴覚とは?

聴覚とはどう伝わるのでしょうか?
すこし読んでください。
音は空気の粗密波です。音波は外耳道から入り鼓膜を振動させます。鼓膜の振動は中耳腔の存在する3つの耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)に順番に伝わり、アブミ骨から内耳の蝸牛の中に存在する外リンパ液に伝わります。

鼓膜の振動が耳小骨、内耳に伝わるようす

(“アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について”
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/image/earnew.gif
から引用しています)


蝸牛は2回転半の渦巻き状の構造をしていて、基底板とよばれる薄い板の上に、細胞の頂上に感覚毛をもつ有毛細胞が規則正しく並んでいます。それぞれの感覚毛は、蓋膜(がいまく)という硬い天井と接していて、有毛細胞と蓋膜は内リンパ液に接しています。
外リンパ液と内リンパ液はそれぞれ非常に薄い膜で区切られていますが、その化学組成は大きく違います。外リンパ液は高ナトリウム低カリウムで生理食塩水に近く、内リンパ液は逆に低ナトリウム高カリウムとなっています。

基底板の振動が有毛細胞頂部の感覚毛を刺激する

(“アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について”
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/image/koruchiki.gif
から引用しています)
図の”おおい膜”は蓋膜のことです。


アブミ骨から伝わった外リンパ液の振動は、基底板を振動させます。基底板の上には有毛細胞蓋膜が内リンパ液に浸されて存在していますので、基底板の振動によって有毛細胞と蓋膜は振動します。その振動で有毛細胞の表面にあって蓋膜と接している感覚毛蓋膜が擦れて、有毛細胞の細胞膜のイオン透過性が変化します。有毛細胞を浸している内リンパ液は高カリウムですので、細胞内の低カリウムとの間に大きなカリウムイオンの差ができて、有毛細胞内にカリウムイオンが急速に流れ込みます。このとき有毛細胞内に電位が発生するのです。

内リンパ液、外リンパ液のイオン組成


(“アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について”
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/image/dennkaisitu.jpg
から引用しています)

この電位がラセン神経節で集められ聴神経をケーブルとして大脳皮質の聴覚野に送られます。ここで初めて、音を感じるのです。
空気の振動が液体の振動へ、そして有毛細胞の機械的刺激から電気信号へと変換され、その電気信号が神経ケーブルを通って大脳皮質へ。これが聴覚の原理です。
有毛細胞は、外有毛細胞と内有毛細胞があり、外有毛細胞は3列に内有毛細胞は1列に規則正しく並んでいます。有毛細胞は内有毛細胞と外有毛細胞あわせて、片方の蝸牛で約1万5000個あると言われています。

参考文献
アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/index.html

難聴とは?

難聴とは、これらの外耳、中耳、内耳、有毛細胞、ラセン神経節、聴神経、中枢聴覚路、大脳聴皮質のどこが障害されても起こります。いわば1本のケーブルと同じです。どこか1ヶ所切れたら聴こえなくなるのです。
ふだん意識することもない、音を感じる仕組みは、こんなに精密な仕組みで成り立っているのですね。

難聴の診断

先に述べたように、聴覚という1本のケーブルのどこが切れても難聴が起こります。

外耳道が耳垢で詰まっても難聴。
鼓膜が破れたら難聴。
耳小骨が外れたり固くて動かないと難聴。
内耳のリンパ液が漏れたら難聴。
有毛細胞がダメージを受けたら難聴。
聴神経がダメージを受けたら難聴。
大脳皮質の聴覚野がダメージを受けたら難聴。

上記のそれぞれに適切な病名がついています。

耳垢
慢性中耳炎
鼓室硬化症、耳小骨離断、耳硬化症、真珠種性中耳炎、滲出性中耳炎、その他の中耳炎
外リンパ瘻(内リンパと繋がっているため)
騒音性難聴、音響外傷、薬剤性難聴、老人性難聴(加齢による)
聴神経腫瘍、後迷路性難聴
脳梗塞、脳出血、脳挫傷、脳腫瘍、後迷路性難聴(認知症などによる)

聴覚のケーブルが切れた位置と対応して難聴の原因が起こっています。

これらの疾患は、顕微鏡による視診、純音聴力検査、頭位頭位変換眼振検査、側頭骨CT、側頭骨MRI、頭部MRIなどで、ほとんど診断可能です。このうち、視診と聴力検査、CTの3つでほぼ診断できます。
外リンパ瘻だけは確定診断は手術時の確認になります。

実際は、難聴の診断はこれだけでなく、可逆性、不可逆性の内耳疾患がありますので、すこし複雑になります。
例えば、突発性難聴、メニエル病、急性低音障害型感音難聴、ウィルス性内耳炎、先天性難聴などです。これらは、上記の疾患のように単純に原因に対する治療を行えば良いというものではなく、時系列で変動する難聴に対しては、病態に合わせた保存的治療が最優先されます。また先天性難聴に対しては、高度難聴や聾が存在することが多いため、幼小児期に発見された時点で、人工内耳その他の多角的アプローチが必須になります。

難聴の治療

難聴の診断は、難聴の原因そのものです。
ですから、治療は、診断とストレートに直結します
単純に言うと、
鼓膜が破れているから貼り替える、
耳小骨が外れているから繋ぐ、
聴神経に腫瘍ができているから摘出する、

などです。

先に述べた急性に発症する内耳疾患、突発性難聴や急性低音障害型感音難聴、メニエル病に対しては、それぞれに対応した標準的な内服治療が存在していますので、その治療を行います。
高齢者の難聴は、多くの場合、加齢にともなう老人性難聴です。聴力の回復は困難ですので、純音聴力検査のほかに、言葉の聞き取りを調べる語音聴力検査を行って、補聴器の装用を考慮します。
また、先に述べた幼少児の先天性難聴は、放置すると、言語発達の遅れ、社会性、情緒形成に影響を及ぼしますので、早期の人工内耳の適応を慎重に考慮すべきです。

何が重要?

難聴の診断と治療は、多岐にわたるため、とてもこの頁一つで書き記すことは不可能です。
個別の疾患については、それぞれが1つ以上の別の頁が必要ですので、次の機会に譲ります。
ここで述べておきたいのは、次のことです。
難聴は、治療サイドから見ると、大きく2つに分けられます。それは、手術で治る難聴と、手術では治らない難聴という分け方です。どんな耳の疾患、難聴でもこの2つに分かれます。手術で治るまたは改善する可能性が高い疾患については、手術治療という選択肢が1つ増えますので、それだけ治療の可能性が拡がります。それと同時に、患者さん自身がそれを選択するかどうかが重要な岐路になってきます。
逆に、手術で治す方法がない疾患については、残された治療選択肢の中で精一杯、保存的治療を行う必要があります。
極言すると、その難聴が手術で治る病気かどうかを良く見極めて、治療方針を立てていくことが、逆説的ですがある意味、重要ではないかと思います。
難しいことを書いてきましたが、単純に、難聴があったら耳鼻咽喉科へ。
難聴は、聴力検査と鼓膜の視診、CTで、ほとんど診断がつきますので。

スマホでの会話に苦労する高齢の男性 (イメージ)