聴こえがわるい

難聴 -その1-

聴覚の意味

聴覚は、人の文明的生活を支えるもっとも重要な感覚の1つです。難聴は、人の快適な生活だけでなく、人生そのものに計り知れない影響を与えます。例えば、先天性難聴を放置すると、言語発達の遅れのみならず、社会性の発達までが遅れてしまうことになります。また、聴覚によって得られる情報を失うことは、人の正常な発達過程のみならず、情緒の形成、ひいては人間性まで大きく変化するであろうことは、想像に難くありません。

聴覚とは?

聴覚とはどう伝わるのでしょうか?
すこし読んでください。
音は空気の粗密波です。音波は外耳道から入り鼓膜を振動させます。鼓膜の振動は中耳腔の存在する3つの耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)に順番に伝わり、アブミ骨から内耳の蝸牛の中に存在する外リンパ液に伝わります。

鼓膜の振動が耳小骨、内耳に伝わるようす

(“アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について”
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/image/earnew.gif
から引用しています)

http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/index.html


蝸牛は2回転半の渦巻き状の構造をしていて、基底板とよばれる薄い板の上に、細胞の頂上に感覚毛をもつ有毛細胞が規則正しく並んでいます。それぞれの感覚毛は、蓋膜(がいまく)という硬い天井と接していて、有毛細胞と蓋膜は内リンパ液に接しています。
外リンパ液と内リンパ液はそれぞれ非常に薄い膜で区切られていますが、その化学組成は大きく違います。外リンパ液は高ナトリウム低カリウムで生理食塩水に近く、内リンパ液は逆に低ナトリウム高カリウムとなっています。

基底板の振動が有毛細胞頂部の感覚毛を刺激する

(“アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について”
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/image/koruchiki.gif
から引用しています)
図の”おおい膜”は蓋膜のことです。

http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/index.html


アブミ骨から伝わった外リンパ液の振動は、基底板を振動させます。基底板の上には有毛細胞蓋膜が内リンパ液に浸されて存在していますので、基底板の振動によって有毛細胞と蓋膜は振動します。その振動で有毛細胞の表面にあって蓋膜と接している感覚毛蓋膜が擦れて、有毛細胞の細胞膜のイオン透過性が変化します。有毛細胞を浸している内リンパ液は高カリウムですので、細胞内の低カリウムとの間に大きなカリウムイオンの差ができて、有毛細胞内にカリウムイオンが急速に流れ込みます。このとき有毛細胞内に電位が発生するのです。

内リンパ液、外リンパ液のイオン組成


(“アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について”
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/image/dennkaisitu.jpg
から引用しています)

http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/index.html

この電位がラセン神経節で集められ聴神経をケーブルとして大脳皮質の聴覚野に送られます。ここで初めて、音を感じるのです。
空気の振動が液体の振動へ、そして有毛細胞の機械的刺激から電気信号へと変換され、その電気信号が神経ケーブルを通って大脳皮質へ。これが聴覚の原理です。
有毛細胞は、外有毛細胞と内有毛細胞があり、外有毛細胞は3列に内有毛細胞は1列に規則正しく並んでいます。有毛細胞は内有毛細胞と外有毛細胞あわせて、片方の蝸牛で約1万5000個あると言われています。

参考文献
アニメで楽しく学ぶ脳と神経のお話
聴覚について
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/cyoukaku/index.html

難聴とは?

難聴とは、これらの外耳、中耳、内耳、有毛細胞、ラセン神経節、聴神経、中枢聴覚路、大脳聴皮質のどこが障害されても起こります。いわば1本のケーブルと同じです。どこか1ヶ所切れたら聴こえなくなるのです。
ふだん意識することもない、音を感じる仕組みは、こんなに精密な仕組みで成り立っているのですね。

難聴の診断

先に述べたように、聴覚という1本のケーブルのどこが切れても難聴が起こります。

外耳道が耳垢で詰まっても難聴。
鼓膜が破れたら難聴。
耳小骨が外れたり固くて動かないと難聴。
内耳のリンパ液が漏れたら難聴。
有毛細胞がダメージを受けたら難聴。
聴神経がダメージを受けたら難聴。
大脳皮質の聴覚野がダメージを受けたら難聴。

上記のそれぞれに適切な病名がついています。

耳垢
慢性中耳炎
鼓室硬化症、耳小骨離断、耳硬化症、真珠種性中耳炎、滲出性中耳炎、その他の中耳炎
外リンパ瘻(内リンパと繋がっているため)
騒音性難聴、音響外傷、薬剤性難聴、老人性難聴(加齢による)
聴神経腫瘍、後迷路性難聴
脳梗塞、脳出血、脳挫傷、脳腫瘍、後迷路性難聴(認知症などによる)

聴覚のケーブルが切れた位置と対応して難聴の原因が起こっています。

これらの疾患は、顕微鏡による視診、純音聴力検査、頭位頭位変換眼振検査、側頭骨CT、側頭骨MRI、頭部MRIなどで、ほとんど診断可能です。このうち、視診と聴力検査、CTの3つでほぼ診断できます。
外リンパ瘻だけは確定診断は手術時の確認になります。

実際は、難聴の診断はこれだけでなく、可逆性、不可逆性の内耳疾患がありますので、すこし複雑になります。
例えば、突発性難聴、メニエル病、急性低音障害型感音難聴、ウィルス性内耳炎、先天性難聴などです。これらは、上記の疾患のように単純に原因に対する治療を行えば良いというものではなく、時系列で変動する難聴に対しては、病態に合わせた保存的治療が最優先されます。また先天性難聴に対しては、高度難聴や聾が存在することが多いため、幼小児期に発見された時点で、人工内耳その他の多角的アプローチが必須になります。

難聴の治療

難聴の診断は、難聴の原因そのものです。
ですから、治療は、診断とストレートに直結します
単純に言うと、
鼓膜が破れているから貼り替える、
耳小骨が外れているから繋ぐ、
聴神経に腫瘍ができているから摘出する、

などです。

先に述べた急性に発症する内耳疾患、突発性難聴や急性低音障害型感音難聴、メニエル病に対しては、それぞれに対応した標準的な内服治療が存在していますので、その治療を行います。
高齢者の難聴は、多くの場合、加齢にともなう老人性難聴です。聴力の回復は困難ですので、純音聴力検査のほかに、言葉の聞き取りを調べる語音聴力検査を行って、補聴器の装用を考慮します。
また、先に述べた幼少児の先天性難聴は、放置すると、言語発達の遅れ、社会性、情緒形成に影響を及ぼしますので、早期の人工内耳の適応を慎重に考慮すべきです。

何が重要?

難聴の診断と治療は、多岐にわたるため、とてもこの頁一つで書き記すことは不可能です。
個別の疾患については、それぞれが1つ以上の別の頁が必要ですので、次の機会に譲ります。
ここで述べておきたいのは、次のことです。
難聴は、治療サイドから見ると、大きく2つに分けられます。それは、手術で治る難聴と、手術では治らない難聴という分け方です。どんな耳の疾患、難聴でもこの2つに分かれます。手術で治るまたは改善する可能性が高い疾患については、手術治療という選択肢が1つ増えますので、それだけ治療の可能性が拡がります。それと同時に、患者さん自身がそれを選択するかどうかが重要な岐路になってきます。
逆に、手術で治す方法がない疾患については、残された治療選択肢の中で精一杯、保存的治療を行う必要があります。
極言すると、その難聴が手術で治る病気かどうかを良く見極めて、治療方針を立てていくことが、逆説的ですがある意味、重要ではないかと思います。
難しいことを書いてきましたが、単純に、難聴があったら耳鼻咽喉科へ。
難聴は、聴力検査と鼓膜の視診、CTで、ほとんど診断がつきますので。

スマホでの会話に苦労する高齢の男性 (イメージ)