好酸球性中耳炎

好酸球性副鼻腔炎について書きました。
好酸球性中耳炎という病気もあります。
通常の慢性中耳炎と違って、難治性です。
今回は、好酸球性中耳炎について書きます。

好酸球性とは?

好酸球性副鼻腔炎と同様に、type 2 炎症が起こす中耳炎です。
タイプ2炎症とは、主として寄生虫感染などに対して起こる生体の免疫応答です。アレルギー性炎症疾患の原因にもなります。

損傷した上皮細胞から分泌される、アラーミンと呼ばれるIL-25, IL-33, TSLP などのサイトカインは、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)、2型自然リンパ系細胞(ILC2細胞)、樹状細胞を活性化します。

Th2細胞とILC2細胞は、3種類のインターロイキン、IL-4、IL-5、IL-13を分泌します。
IL-4はT細胞をTh2細胞に分化させ、B細胞のIgE抗体産生を誘導します。
IL-4とIL-13は好酸球を炎症部位へ移動させ、IL-5は好酸球の炎症部位への移動と好酸球の産生を促進します。
このようにして、局所で好酸球を中心とした炎症が起こります。これがタイプ2炎症です。

タイプ2炎症によって起こる疾患には、喘息、アトピー性皮膚炎、鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎、などがあります。

好酸球性中耳炎の定義

タイプ2炎症を中心とした慢性中耳炎です。

好酸球性中耳炎は、「著しい好酸球の浸潤と膠(にかわ)状の耳漏を特徴とする難治性の慢性中耳炎」と定義されています。

この中耳炎は、多くの症例で、喘息やアスピリン不耐症、好酸球性副鼻腔炎の合併がみられます。
徐々に感音性難聴が進行して、急速に進行すると聾になる、難治性の中耳炎です。

分類は?

①滲出性中耳炎型と②慢性穿孔性中耳炎型に分類されます。

①滲出性中耳炎型では膠(にかわ)状の中耳滲出液が貯留し、その粘稠度のために鼓膜切開を行っても容易に排液されません。鼓膜穿孔の治癒とともに再貯留を繰り返し、鼓膜チューブ留置術が必要となりますが、鼓膜チューブ留置後も多くは、チューブの換気孔に膠状の滲出液がこびりつき、中耳腔の換気が不十分になります。この粘稠な固まりは吸引処置によっても簡単には除去されません。

②慢性中耳炎型は、滲出性中耳炎型に種々の原因で鼓膜穿孔が生じたものです。
中耳粘膜の炎症が軽度なものから高度の肉芽増性をともなうものまで、様々な病態を呈します。

診断は?

好酸球性中耳炎の診断基準を示します。

大項目
好酸球優位な中耳貯留液が存在する滲出液中耳炎/慢性中耳炎

小項目
1)膠状の中耳貯留液 2)中耳炎に対する従来の治療に抵抗 3)気管支喘息の合併
4)鼻茸の合併

確実例:大項目+小項目 2 つ以上
除外例:Churg-Strauss 症候群
Hypereosinophilic syndrome

(EOM study group. ANL, 2011, 38: 456–61)

診断基準は、何かとても複雑に見えます。

でも実際は、膠状の粘稠な中耳貯留液があって、喘息か鼻茸があれば、ほとんど診断基準を満たすと考えて良いと思います。
膠状の粘稠な貯留液は、ほとんど好酸球優位だからです。

確定診断には、除去した膠状の固まりを病理組織検査に提出して、好酸球の有無と程度を確認します。

治療は?

全身、局所のステロイド治療が中心となります。
全身的なステロイド内服は長期間の副作用の点から継続困難であるので、可能な限り局所治療を優先して行います。

ステロイド鼓室内投与とトリアムシノロンアセトニドの鼓室内投与が有効です。好酸球炎症の中心は、鼓室内よりも耳管内と言われているため、鼓室の貯留液は可能な限り除去した後に、上記薬剤の鼓室内投与を行うようにします。

①滲出性中耳炎型では、鼓膜切開を行い十分に貯留液を吸引除去した後、鼓室内に薬物投与を行なって、さらに外耳道側から加圧し、薬液が耳管内に圧入されるようにします。

②慢性中耳炎型では、中耳肉芽の増生が高度で中耳空間が確保できないことも多く、鉗子などで肉芽の除去を行なってから、鼓室内投与を行う必要があります。
また、膠状の耳漏が長期にわたることからMRSA感染などの合併がみられる場合は、鼓室内投与に先立って、適切な抗菌薬による感染のコントロールを行う必要があります。

膠状の耳漏は、ヘパリン生食で洗浄してから吸引すると除去しやすく、繰り返し行います。

これに併せて、好酸球性副鼻腔炎や喘息の治療やコントロールが重要な課題です。
呼吸器内科医との連携も必要になります。

②慢性中耳炎型に対する鼓室形成手術は、とくに慎重に選択されます。
感染のコントロールが不良で耐性菌が原因の耳漏が停止しない、中耳炎から頭蓋内合併症をともなう場合などの特殊な症例に対して、慎重な判断が必要とされます。
その理由は、通常の鼓室形成手術を行なっても治癒に導けないこと、聴力改善が困難であり、感音難聴が進行して聾になることがあること、等によります。通常は手術は行わず、保存的治療の継続を行います。

好酸球性中耳炎は、ときに突発性難聴のように急激な感音難聴の進行を示すことがあります。このような場合には、突発性難聴に準じてステロイド治療を行います。

治療経過は?

長期間の治療が必要になります。

好酸球性中耳炎では、50%に感音難聴の進行がみられ、10%が聾になるため、途切れない治療の継続と経過観察が必要です。

膠状の耳漏は、外来治療で繰り返し洗浄吸引を行なってコントロールしていく必要があります。

ステロイドやトリアムシノロンアセトニドの鼓室内投与も必要時に繰り返し行います。

感音難聴進行時には、ステロイド全身投与を行います。

好酸球性中耳炎は、好酸球性副鼻腔炎と喘息のコントロールに関係するため、併せて治療を行います。

そのため、患者さん本人の疾患に対する深い理解が必須になります。

どうすれば?

難治性の耳漏が続くとき、中耳炎を何度も繰り返すとき、まずは主治医に診断してもらうことから始まります。
好酸球性副鼻腔炎や喘息を持っている方は要注意です。

症状があり心配な方は、必ず、かかりつけの耳鼻咽喉科医に相談してみてください。
必要な検査と治療をしてくださると思います。

中耳炎の治療が必要です…
(イメージです)

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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