花粉症 -その1- -花粉症とは何か?- -診断は?その治療方法は?-

花粉症とは?

花粉症という言葉はみなさんご存じの方が多いと思います。と言いますか、花粉症を知らない方はいないと思います。
それほど認知度の高い花粉症ですが、じつは花粉症という言葉ができたのは1970年代のことです。春に猛烈な勢いで発症するくしゃみ、鼻水、鼻づまり、眼のかゆみなどの激しいアレルギー症状が何であるのかは、それまではまだわかっていませんでした。当時の日本医科大学耳鼻咽喉科教授をされていた奥田稔(みのる)先生が、日本中で毎年2月から3月に起こる激しい鼻と目のアレルギー症状が、全国に植林されているスギの花粉によるものであることを、世界で初めて発見し報告したのです。これがスギ花粉症の歴史の始まりです。

花粉症は多い?

国民の42.5%が花粉症です。
国民の39%がスギ花粉症です。
日本では、植林面積のうちスギが約20%を占めますので、とりわけスギ花粉症が多くなっています。
数字をみると花粉症を知らない人がいないはずですね。

花粉症はスギだけ?

花粉症はスギだけではありません。
続いて起こるヒノキ花粉症は有名です。さらにスギ、ヒノキ以外にも代表的な花粉症は、ハンノキ、シラカバ、ハルガヤ、カモガヤ(イネ科)、ホソムギ(イネ科)、オオアワガエリ(イネ科)、ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ、セイタカアワダチソウなどが有名です。その他にもいくつかの代表的な花粉症があります。花粉の飛散は、地域差があり気象条件で変化します。(*)
これらの花粉症は、まさにカレンダーのようにその花粉の飛散時期がくると発症します。ですから花粉症といっても、複数の花粉をアレルゲン(アレルギーの原因物質)とする場合は、ひとつの花粉症が終わってもすぐ次の花粉症が始まり、ほとんど一年中、くしゃみ、鼻水、鼻づまりに悩まされることになります。
そうです。花粉は日本全国で一年中飛んでいるのです。

(*)現在、インターネット上に多くの花粉症サイトがあり、地域別に季節ごとにリアルタイムの花粉情報を検索できるようになっています。

花粉症はなぜ起こるの?

花粉症は季節性のアレルギー性鼻炎です。
したがってアレルゲンが花粉であるだけで、アレルギー性鼻炎の起こり方と同じです。
はじめて吸入した花粉が鼻粘膜や目の結膜に付着して、免疫反応を起こしIgE抗体が作られます。このIgE抗体は肥満細胞の表面ににたくさん付着しています。次に花粉が侵入してくると、このIgE抗体と花粉が反応して抗原抗体反応を起こし、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサン、PAFという物質が放出されます。このヒスタミンやロイコトリエンという物質が鼻粘膜の神経や血管に作用して、くしゃみ発作を起こしたり、鼻腺細胞から大量の鼻水が分泌されるのです。そして鼻粘膜の血管拡張が起こり、鼻粘膜が充血して鼻づまりが起こります。
目も同様です。花粉のアレルゲンが涙に溶けて目の結膜で肥満細胞との反応を起こします。肥満細胞から放出されたヒスタミンやロイコトリエンなどの物質が目の知覚神経や血管に作用して目の充血やかゆみ、涙が出るなどの症状が起こります。
これが花粉症です。

花粉症の症状は?

主な症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみです。
目は充血したり、涙目になったり。鼻の中がかゆい。皮膚のかゆみ。のどのかゆみ、咳。喘息の悪化などもあります。
耳の中がかゆいこともよくあります。
花粉はアトピー性皮膚炎を悪化させます。近年、アトピーのない人にも花粉皮膚炎という皮膚炎が発症することが知られています。
花粉症の症状は多彩です。
ひどい鼻づまりで夜間に口呼吸になるため、扁桃炎や咽頭炎を起こしやすく、風邪やウイルス感染症にもかかりやすくなります。
まさに花粉を浴びて全身の症状が起こるのが花粉症と言ってよいでしょう。

花粉症の診断は?

花粉症の診断は簡単です。
花粉症の時期に典型的な症状で受診し、鼻の中を直接またはファイバースコープで観察することで他の病気との鑑別ができ、ほとんど診断がつきます。
正確な診断は、血液検査でスギ花粉のIgE抗体の量を調べたり、鼻汁の好酸球を染色して顕微鏡で観察したり、花粉のエキスを少量皮下注射して反応を調べたりします。
鼻粘膜に花粉のエキスをふくむ紙片をおいて鼻粘膜がアレルギー反応を起こすかどうかを直接観察する「鼻粘膜誘発テスト」もあります。

花粉症の治療は?

いちばん身近な治療は、飲み薬と点鼻薬でしょう。
いまや耳鼻咽喉科だけでなく、すべての診療科で花粉症のお薬が処方されています。薬局ではスギ花粉症の時期は、キャンペーンが展開されます。インターネットには花粉症グッズが溢れています。これが効いた、あれは効かないなど、ネット上の書き込みも多くなります。
そもそも花粉症とは、「(季節性の)アレルギー性鼻炎」ですから、基本的な治療はアレルギー性鼻炎の治療にほかなりません。したがって、抗アレルギー薬の内服とステロイド点鼻スプレーが治療の基本になります。抗アレルギー薬は現在、第2世代抗ヒスタミン薬が非常に効果がすぐれ、治療の中心となっています。抗ロイコトリエン薬も有効です。単独または併用で内服されます。


日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会の「鼻アレルギー診療ガイドライン(2020年度板)」には、花粉症の最重症型の患者さんの場合、内服薬は、第2世代抗ヒスタミン薬と抗ロイコトリエン薬の2剤が同時に処方できると記載されています。さらに、ステロイド鼻噴霧型スプレー、2週間の点鼻用血管収縮薬の使用、1週間の経口ステロイド薬の内服も可能となっています。
目のかゆみに対しては、点眼用抗ヒスタミン薬や点眼用ステロイド薬などの目薬を使用します。しかし、白内障や緑内障などの目の病気がある方では、ステロイドを含有する点眼薬はよくないことが多いので、かならず眼科医師の助言が必要です。

内服治療の他に、舌下免疫療法があります。スギ花粉のエキスを少量ずつ体内に吸収させて抗体を作り、花粉による過敏症を抑える治療です。非常に有効ですが、花粉症以外の季節にも治療を継続しなければならないデメリットがあります。

乳酸菌を含むヨーグルト、カテキンを含むお茶などは、一定の効果があると言われています。

予防方法は?

花粉症の治療でいちばん重要なことは、花粉を浴びないことです。(抗原回避)
花粉の飛散はコントロールできません。できるだけ花粉の吸入をしないようにします。以下、

インターネットの花粉情報をよく見る
飛散の多い日に外出を控える
外出時はマスク、眼鏡、ゴーグルを着用する
表面が毛ばだった毛織物などの上着やコートの使用は避ける
外出から帰ったら玄関の外で上着を脱ぎ、衣服や髪をよく払ってから家に入る
その後すぐ、洗顔、うがいをし、鼻をかむ
飛散の多いときは窓を閉めておく 換気時は小さく短時間だけ開ける
布団や洗濯物を外に干さない
掃除をしっかりする 窓際を念入りに

などたくさんの予防方法があります。まずは、花粉をできるだけ吸入しない、触れないようにすることが、飲み薬よりもずっとずっと重要な治療です。
さらに、毎年症状がでる方は、飛散開始(予想)日の約2週間前から、あらかじめ抗ヒスタミン薬(アレルギー性鼻炎の薬)を飲み始めておくと発症しても症状が軽くてすむと言われています。

新型コロナと花粉症

現在、新型コロナウイルス感染症が蔓延しています。
この時代の花粉症治療は特別なものとなります。もともと新型コロナウイルス感染症においての重要な感染源となり得る、くしゃみ、鼻水などの症状が、そのまま花粉症の症状なのですから、受診する方も診察する方も正直とまどいがあります。
体温測定や問診を徹底した上で、マスクの正しい着用、咳くしゃみエチケットを励行してもらい、感染防御に配慮した診察と治療が必要になります。
診察側は、フェイスガード、アイシールド、ゴーグルの着用、マスク、ゴム手袋の着用、診察中の患者さんと次の人の動線が重ならないようにする、診察時にマスクを外さず鼻の中を見たらすぐにマスクで鼻を覆う。
診察を受ける側は、手指の消毒をこまめに行う、待合室で間隔をあけて座る、駐車場での車内待機をうまく利用する、などに始まり、院内のアクリル板の有効利用、意図的な咳払いを極力控える、不要なものに触れないなど。日常で簡単にできる感染症対策は、たくさんあります。


前回の受診歴があり、内服する薬剤が決まっているときは、治療方針がすでに決定されていますので、診察が非常にスムーズです。電話再診やオンライン診療の利用も勧められます。
感染のリスクを減らしながら、スムーズな花粉症診療を行う。
これからの時代の花粉症治療は、新型コロナの時代にあわせて変わっていくかもしれません。
ともあれ、毎年、花粉症の症状でお悩みの方はいつでもご相談下さい。

 大量に飛散するスギ花粉

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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