鼻中隔わん曲症 -わん曲症とは何か?- -治療はどうすればよいのか?-

耳鼻咽喉科の鼻の疾患で、もっとも頻度が高いものの1つが、鼻中隔わん曲症です。
今回は、鼻中隔わん曲症について、書いてみます。

鼻中隔とは?

鼻中隔とは、左右の鼻腔を分けている仕切り板です。鼻中隔は軟骨と後方の2つの骨との3部分から構成されています。わん曲症と聞くと、いわゆる顔の「鼻筋 (はなすじ) 」の曲がりと思う人がいますが、全然違います。鼻中隔は自分で見えません。

わん曲とは?

曲がっていることです。
鼻中隔は、顔を正面から見て、前後、左右、上下の3方向にわん曲できるので自由度が高く、じつにさまざまな形態があります。数学のXYZ軸を考えてみてください。どの軸の方向へも曲がります。もちろん解剖学的な制限はありますが。鼻中隔わん曲症は、どれ一つ同じものがありません。CTなどで同じように見えるものも、手術のときには僅かずつ違っています。

わん曲の特徴は、鼻中隔が1つの軟骨と2つの骨で構成され、下方でさらに上顎と口蓋の2つの骨と接続していますので、その2つの骨の接続部分で鋭角に曲がりやすく、さまざまなパターンを生みます。。棘(とげ)のような骨の突起を形成していたり(棘 =きょく)、緩やかなカーブを描いたり、飛びだした骨が棚のように張り出していたり(櫛 =せつ)、と手術中に、それこそ無限の組み合わせがあるのでは、と思ってしまいます。また1つの軟骨は、後方と下方の骨の接続部で斜めに傾きやすい傾向があり、前方から鈍にわん曲していることもあります。
わん曲症の成因は諸説ありますが、治療に関係ないので、ここでは省略します。
わん曲は、軽度のものから、かなり高度のものまでありますが、成人の90%にわん曲症があると言われています。

症状は?

鼻づまりです。
1側または両側に起こります。一般に鼻中隔わん曲症は、凸側がつまりやすいのですが、凹側の下鼻甲介は代償性に肥大することが多いため、凹側の鼻づまりがひどいこともあります。また、慢性的な鼻づまりによる、副鼻腔炎の合併や鼻腔後方の通気不良による嗅覚障害や頭痛があったりします。鼻中隔の棘、櫛が鼻甲介に食い込むことで、鼻腔内の三叉神経刺激による頭痛が起こることもあります。
一側性の鼻づまりは、患者さん本人も慣れてしまっていることも、しばしばです。

診断は?

鼻中隔わん曲症の診断は簡単です。
鼻の中を鼻鏡という器械で見ると肉眼でもわかります。さらに後方はファイバースコープで観察できます。
CTを撮影すると、左右の鼻腔の奥まで立体的な構造が把握できますので、わん曲症の正確な診断が可能です。さらにCTでは、左右の鼻甲介の位置と肥大を正確に診断できるので、鼻腔通気の状態が一目瞭然です。左右の鼻腔通気の不良やアンバランスによる副鼻腔炎の合併もCTで診断できます。CTでは代償性肥大も正確に診断可能です。したがって鼻中隔わん曲症の診断にはCT撮影が欠かせません。
鼻づまりは、鼻腔通気度検査を行って客観的に評価できます。しかし、鼻腔通気度検査の数値は、nasal cycle という自律神経による下鼻甲介の交替性鼻閉のために、軽症と判断してしまう危険性がありますので、数値の評価には十分注意する必要があります。あくまで、鼻内視鏡検査(ファイバースコープ)やCT、鼻の症状とあわせた総合的な判断が重要です。

治療は?

根治的な治療は、手術です。
鼻中隔矯正術を行います。
解剖学的な異常ですので、根本的に治すには手術が必要です。
手術を回避したい場合は、内服治療、点鼻薬治療になりますが、症状の根治的な改善は、なかなか望めません。内服薬で無理やり鼻づまりだけを一時的に解消しようとしても、内服をやめると、すぐに元どおりに鼻がつまってしまいます。
鼻中隔矯正術は、単独で行うことは少なく、下鼻甲介の手術とあわせて行うことが一般的です。

手術はどうするの?

鼻中隔わん曲症の手術については、当院ホームページ上に記載しています。ご覧ください。簡単に説明すると、

1. 全身麻酔で、
2. 鼻の穴からの内視鏡で、
3. 15-20 mm の粘膜切開で、

終了します。
鼻中隔わん曲症単独の手術は、10-20分間です。実際は他の手術(下鼻甲介など)と合わせて行うことが多く、手術時間はもっと長くなります。簡単な手術の一つです。
わん曲症の高度な例を除いては、軟骨は切除せずに保存します。
年齢的に、通常15歳以上で行います。

放置すると?

放置して絶対に良くないことはありません。
鼻中隔わん曲症で、全く鼻づまりを感じない場合は、かなり軽症か、すでに鼻づまりに慣れてしまっているかのどちらか、です。

鼻中隔わん曲症で鼻づまりを自覚する場合は、次の2つのことが重要になってきます。1つは、慢性の鼻づまりによる苦痛。もう1つは、夜間の睡眠時無呼吸症候群。とくに後者は、自覚しないことが多く、家族もいびきが特別大きいくらいに思っていることが多いので、注意が必要です。睡眠時無呼吸が長期間続くと、睡眠の質の低下だけでなく、将来的に、心臓血管、脳血管の大きな病気を発症する確率が非常に高くなることが報告されています。これが最も注意を要する点です。

口呼吸の弊害?

鼻づまりによる口呼吸は、鼻づまりによる苦しさや不快感だけでなく、睡眠時無呼吸症候群や、そのほかにも風邪やインフルエンザに罹患しやすいなど、じつはさまざまな悪影響があります。自分の症状だけでなく、ご家族や子供さんをよく観察してあげて、口呼吸になっているようでしたら、気をつけなければなりません。一度、近くの耳鼻咽喉科の主治医に相談されると良いと思います。

いつも片方の鼻がつまっている (イメージ)



院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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