好酸球性副鼻腔炎 -好酸球性炎症とは何か?- -喘息と鼻茸を合併する副鼻腔炎-

好酸球性副鼻腔炎という病名を聞いたことがありますか?副鼻腔炎は”ちくのう症”のことです。何か特殊なタイプの副鼻腔炎だろうと想像できますね。今回は、いま話題になることの多い好酸球性副鼻腔炎について書いてみます。

好酸球とは?

そもそも好酸球とは、耳鼻科の言葉ではありません。血液の白血球の1種類です。白血球には、好酸球、好塩基球、好中球と3種類の血球があります。好酸球は、このうちアレルギー性炎症に関与することの多い白血球です。
好酸球は、アレルギー炎症、喘息、寄生虫感染で重要な役割を果たしています。好酸球は、体を守る免疫機能を担っている一方、アレルギー疾患における炎症の一因にもなるのです。体の中で好酸球が増加すると、組織に炎症を起こし、臓器に損傷を与えます。心臓、肺、皮膚、神経が多く損傷を受けますが、あらゆる臓器が損傷を受ける可能性があります。損傷を受けた臓器では好酸球の浸潤が見られます。
体の防衛をする白血球の1種類が、増加して逆に臓器や組織に損傷を与えることになるのです。これは前回、”鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎に対する生物学的製剤(デュピクセント)”の頁で述べた”タイプ2炎症”の進行過程で好酸球が増加することと無関係ではありません。

好酸球のイラスト
(MSDマニュアル日本語版より転載)

好酸球性副鼻腔炎とは?

好酸球については、大体わかりましたが、副鼻腔炎との関係はどうなのでしょうか。
好酸球性副鼻腔炎とは、一体どのようなものでしょうか?
好酸球性副鼻腔炎は、厚生労働省の指定難病306に認定されています。
まず、福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の藤枝重治先生の”好酸球性副鼻腔炎の概要説明”が最も的確ですので、お読みください。以下、

1.概要
両側の多発性鼻茸と粘調な鼻汁により、高度の鼻閉と嗅覚障害を示す、成人発症の難治性副鼻腔炎である。抗菌薬は無効であり、ステロイドの内服にのみ反応する。鼻腔内に鼻茸が充満しているため、鼻副鼻腔手術で鼻茸の摘出を行うが、すぐに再発する。鼻閉と嗅上皮の障害により嗅覚は消失する。嗅覚障害のため風味障害を含めた味覚障害を来す。気管支喘息、アスピリン喘息(アスピリン不耐症)を伴うことが多い。鼻閉のための口呼吸が喘息発作を誘発し、著しい呼吸障害を起こす。また中耳炎を伴うこともあり、好酸球性中耳炎と命名されている。この中耳炎は、難治性で聴力障害は進行し、聾に至る。鼻粘膜には多数の好酸球浸潤を認めるが、中耳炎を伴うと耳漏にも多数の好酸球浸潤が認められる。経口ステロイドは、本疾患が良性疾患のため、主治医は継続使用にためらいを感じ、数か月で投与を中止すると増悪をする。上気道感染によっても症状が増悪するため再度経口ステロイドを投与せざるを得ない状況となる。

2.原因
原因は不明。
 
3.症状
多発性鼻茸と粘調な鼻汁による高度の鼻閉と口呼吸。鼻閉と嗅上皮の障害による進行する嗅覚障害が生じ、最終的には嗅覚は消失する。味覚障害も起こす。成人発症であり、病側は両側である。気管支喘息を合併することが多く、口呼吸により誘発される喘息発作を起こすと、ひどい呼吸困難に陥る。粘調な耳漏や難聴を呈する難治性中耳炎を伴うこともあり、進行すると聾に至る。
 
4.治療法
経口ステロイドが唯一有効。手術により鼻腔に充満した鼻茸を摘出すると、鼻閉は一時的に改善するが、すぐに再発し、鼻腔を充満する。
 
5.予後
軽症から重症を含めて、内視鏡下鼻内副鼻腔手術を行った場合、術後6年間で50%の症例が再発する。特にアスピリン喘息に伴う好酸球性副鼻腔炎では術後4年以内に、全例再発する。
経口ステロイドの内服で軽快をみても、感染、体調変化などにより増悪し、これを生涯繰り返す。
好酸球性副鼻腔炎には、重症度が存在する。軽症では、手術で改善することもあるが、重症では、極めて難治性である。

以上、厚生労働省「好酸球性副鼻腔炎の診断基準」班(研究代表者 福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授 藤枝重治)より全文転載
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4538

診断基準は?

好酸球性副鼻腔炎の診断基準も明確に定義されています。
これも、厚生労働省の研究班報告から転載したほうが早くて理解しやすいので、そうします。以下、

<診断基準>
好酸球性副鼻腔炎の診断基準
<診断基準:JESRECスコア>
①    病側:両側                                    3点
②    鼻茸あり                                     2点
③    CTにて篩骨洞優位の陰影あり      2点
④    末梢血好酸球(%)    2<  ≦5   4点
      5<  ≦10 8点
                               10<       10点                                                                                                     
JESRECスコア合計:11点以上を示し、鼻茸組織中好酸球数(400倍視野)が70個以上存在した場合をDefinite(確定診断)とする。

<重症度分類>

1)又は2)の場合を対象とする。
1)重症度分類で中等症以上を対象とする。
2)好酸球性中耳炎を合併している場合
 
1)重症度分類
CT所見、末梢血好酸球率及び合併症の有無による指標で分類する。
 
A項目:①末梢血好酸球が5%以上
②CTにて篩骨洞優位の陰影が存在する。
B項目:   ①気管支喘息
②アスピリン不耐症
③NSAIDアレルギー
 
診断基準JESRECスコア11点以上であり、かつ
1.A項目陽性1項目以下+B項目合併なし:軽症
2.A項目ともに陽性+B項目合併なし or
A項目陽性1項目以下+B項目いずれかの合併あり:中等症
3.A項目ともに陽性+B項目いずれかの合併あり:重症
 
 
2)好酸球性中耳炎を合併している場合を重症とする。

上記記載が厚生労働省の診断基準ですが、一般の方にはすこし理解しにくい点があるかと思います。すこし補足します。
①まず、好酸球性副鼻腔炎を疑ったら、JESREC スコアを調べます。
<診断基準:JESRECスコア>
耳鼻科で両側の鼻腔に鼻茸があると指摘された時点ですでに5点です。CT撮影で篩骨洞に陰影があれば+2点、血液検査で末梢血中の好酸球%を調べて2%を超えていれば+4点ですので、診断基準の11点に達します。
鼻茸組織中の好酸球数のカウントは、通常、内視鏡下副鼻腔手術のときに切除してきた”鼻茸”を病理診断に提出して顕微鏡下に鼻茸組織中の好酸球数をカウントします。顕微鏡下×400倍の高倍率で1視野に70個以上の好酸球が確認されたとき、確定診断(definite)となるのです。ただし臨床的には、鼻茸に浸潤した好酸球数が1視野で70個に満たなくても、JESRECスコアが11点以上の段階で、ほぼ好酸球性副鼻腔炎の診断を下してよいのではないかと考えています。
重症分類では、CT陰影はすでに条件を満たしていることが多いと思われますので、末梢血好酸球が5%以上か喘息合併があるかどうかが重症度の判定に大きく影響すると思われます。

原因は?

診断基準にもありますが、原因不明です。
1990年頃から増加してきました。現在も増加中です。全国の有病者は約2万人と言われています。
現在まで、遺伝の報告はありません。

症状は?

先の概要にも記載がありましたが、副鼻腔炎の症状は、基本的に非好酸球性副鼻腔炎と類似の症状です。鼻茸の形成、高度の鼻閉、口呼吸、膿性鼻漏、後鼻漏、頭痛、嗅覚障害などです。
好酸球性副鼻腔炎に特徴的な症状の1つは、早期から嗅覚障害を発症することです。これは嗅粘膜上皮の障害によるものといわれています。もう1つは、手術を行なっても高率に再発することです。アスピリン不耐症、アスピリン喘息合併例ではさらに難治性になります。好酸球性副鼻腔炎の70%に喘息を合併すると報告されています。
喘息合併例では、喘息発作とともに副鼻腔炎も同時に増悪する所見が見られます。
好酸球性中耳炎を合併することがあり、粘稠な耳漏が続き、聴力低下を起こします。

治療は?

好酸球性副鼻腔炎の治療は、まず内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を行なって鼻腔内の鼻茸を切除し、副鼻腔を単洞化します。その後、経口ステロイド薬の内服とステロイド点鼻スプレーを継続しながら定期的な観察を続けていきます。治療を中断すると早期に鼻茸が再発してくることが報告されていますので、内服治療は副鼻腔粘膜の状態を見ながら何年にも及びます。
初回手術時に切除した鼻茸は病理診断を行い、鼻茸組織中の好酸球浸潤の程度を確認しておきます。診断基準から顕微鏡下×400倍1視野の好酸球数のカウントが問題となります。70個以上で確定診断(definite)が可能です。
好酸球性副鼻腔炎は6年間で50%再発することが報告されています。鼻茸が再発したら、症例によって再手術が必要になりますが、同時に前回トピックスで報告した生物学的製剤(デュピクセント)による治療の適応を考慮します。デュピクセント治療導入後も効果判定を行いながら、難治例には再手術が追加されます。保存的治療で現在有効とされているのは、経口ステロイド薬とステロイド点鼻薬、デュピクセント皮下注射のみです。
デュピクセントについては、当院トピックスで説明していますので参考にしてください。

治療期間は?

好酸球性副鼻腔炎と診断された時点で、すでに難治性の疾患です。良性疾患であるにもかかわらず厚生労働省の難病指定306として登録されています。それは何度も再発して治療が必要になり完治が難しいことによります。もちろん治療期間は長期間になります。内服治療、手術治療、デュピクセント皮下注射と適応となる治療を繰り返していく可能性が高くなるということなのです。
治療期間は、数年から10年間以上、場合によってはそれ以上になります。

治療継続するには?

まず、好酸球性副鼻腔炎の病態をしっかり理解する必要があります。難治性であること、容易に再発しやすいこと、治療継続が必要であること、などです。そのため最も重要なことは、治療を中断しないことです。

医療機関の受診、治療には経済的な負担がかかります。とくに短期間で終了する疾患と違い、治療期間が長期間におよぶ場合にはその負担は大きくなります。手術治療やデュピクセント治療などが必要になるとさらに高額な負担がかかります。

厚生労働省は、高額医療制度を制定しており、個人の年収に応じて月額の医療費の限度額を定めています。限度額を超えた金額は国が負担してくれます。高額医療の申請が必要になります。
厚生労働省に難病指定されている疾患に対しては、別に医療費補助制度があります。好酸球性副鼻腔炎と診断された場合、その医療機関から難病申請の診断書を提出してそれが受理されれば、指定難病として医療費の一部が補助されます。好酸球性副鼻腔炎の確定診断が必要ですので、詳しくは耳鼻咽喉科主治医に尋ねると良いと思います。

好酸球性副鼻腔炎と診断されたら?

まずは、好酸球性副鼻腔炎について理解してください。難治性だからと諦めたり、治療をやめるのが最も良くないことです。後々必ず、もっと辛い症状で再受診しなくてはならなくなります。
耳鼻咽喉科の主治医と治療方法について、良く相談することをお勧めします。その上で、納得する治療方法を選択してください。治療期間は長期間に及ぶことになるため、患者さんと医師の信頼関係も重要になります。

-鼻茸について-

鼻茸(はなたけ)について、よくわからない方も多いと思います。
以前投稿した当院のトピックス “鼻茸(はなたけ)って何?” をお読みください。

鼻茸(はなたけ)のイラスト
(当院HPより)

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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