耳垢(じこう)

じこう。みみあか。
正式名称は「じこう」です。
これは病名でもあります。
耳のことでは、いちばん身近な病名(?)ですが、詳しくご存知の方は、意外にいらっしゃらないかもしれません。今日は、耳垢について書きます。

耳垢とは?

耳あかのことです。
耳鼻咽喉科の疾患としては、耳垢栓塞(じこうせんそく)という病名があります。
これは、”耳垢がたまって外耳道を完全に塞いでしまった状態” を言います。
単なる耳垢でも、外耳道に大量に溜まると鼓膜に音が到達せず、難聴の原因になります。

図1 外耳道のイラスト

この外耳道の部分を耳垢の塊(かたまり)が塞いでしまうと、聞こえませんね。

耳垢の種類は?

いわゆる乾性の耳垢と湿性の耳垢があります。ベタベタ耳とカサカサ耳です。
では何故、ベタベタ耳とカサカサ耳の人がいるのでしょう。
その理由を知る前に、外耳道の皮膚や汗腺について知らなければいけません。

外耳道は2種類?

人の外耳道は2つに分かれます。
外耳道は長さ3 cm の1本の道です。ところが外耳道は、外側の1/3と内側の2/3ですこし違うのです。
外側の1/3 (1 cm)は、軟骨部外耳道といいます。この部分は皮膚ですが、皮脂腺、耳垢腺があります。
内側の2/3 (2 cm)は、骨部外耳道といいます。この部分も皮膚ですが、皮脂腺、耳垢腺がありません。

皮脂腺と汗腺


皮脂腺とは、皮脂を分泌する小器官で、皮膚の真皮層に存在します。皮脂腺から分泌された皮脂は、毛穴を通り、皮膚の表面に出て、皮膚全体を潤いのある脂の膜で守ります。

図2 皮膚の構造 イラスト

皮膚には、皮脂腺と汗腺があります。

汗腺には、エクリン汗腺とアポクリン汗腺があります。全身の皮膚にある汗腺は、約400万。このうち300万がエクリン汗腺、100万がアポクリン汗腺と言われています。

エクリン汗腺は、ほぼ全身に分布していて、汗の水分の蒸発によって、体熱を奪い、体温を一定に保つ働きがあります。1日に最低1 L、真夏では3 Lもの汗を分泌しています。エクリン汗腺からでる汗は、色も匂いもなく、サラサラしています。

アポクリン汗腺は、体の特定の部位に存在しています。脇の下やデリケートゾーン、外耳道にも存在します。
アポクリン汗腺から出る汗は、匂いはほとんどなく乳白色ですが、脂質やタンパク質など匂いの素になる物質を豊富に含んでいます。

エクリン汗腺は、皮膚に直接開口しますが、アポクリン汗腺から出る汗は、毛穴から皮脂とともに分布されます。

図3 エクリン汗腺とアポクリン汗腺
(イラスト)

外耳道とアポクリン汗腺

耳垢腺とは、外耳道皮膚に存在するアポクリン汗腺のことです。
じつは、耳垢がベタベタ(湿性)か、カサカサ(乾性)かは、外耳道に存在するアポクリン汗腺の数によるものなのです。
外耳道の皮膚に、アポクリン汗腺が豊富な人は湿性の耳垢に、少ない人は乾性の耳垢になります。これは主としてアポクリン汗腺から分泌される汗の量によるものと考えられています。

アポクリン汗腺は、外耳道の外側1/3、1 cm の部分しか存在しません。これで、耳垢は外耳道の外側1 cm で作られることがわかります。

湿性、乾性耳垢の区別は、16番染色体上に存在するABCC11遺伝子によって、遺伝的に決定されることが、近年報告されています。

腋臭とアポクリン汗腺

アポクリン汗腺から出る汗の中の、脂肪酸が皮膚の表面の細菌によって分解され、3メチル2へキセノイン酸が生成されて、腋臭(わきが)の匂いの素になるといわれています。
腋の下にアポクリン汗腺が多く存在する人は、この匂い物質がたくさん生成されるため、腋臭として匂いやすくなります。
腋の下にアポクリン汗腺が多く存在する人は、外耳道皮膚にもアポクリン汗腺が多く、湿性の耳垢になりやすい、と考えられています。

これが、腋臭(わきが)と湿性の(ベタベタの)耳垢の関係です。

人種の差は? 遺伝?

耳垢の乾性と湿性の割合は、人種によって大きく差があるようです。
湿性耳垢は、白人は90%以上、黒人は99.5%、ミクロネシア人やメラネシア人では60 – 70%、日本人は16%、中国人や韓国人は4 – 7%と報告されています。

日本国内でも北海道や沖縄と、本州では割合に大きな差があり、北海道のアイヌ民族では約50%が湿性耳垢であるとの報告があります。
古代の縄文人は湿性耳垢、弥生人は乾性耳垢だったとの報告もあります。乾性耳垢は西日本に多いが、南九州地方の人では湿性耳垢が多いことがわかっています。

2006年、長崎大学の研究グループの論文で、耳垢が湿性か乾性かを決定するのは、16番目の染色体にあるABCC 11遺伝子のDNA塩基配列の一か所の違いであることが、報告されました。
このABCC11遺伝子は、湿性耳垢、腋臭(腋窩にアポクリン汗腺が多く発現することによる)、と関係があることが報告されており、近年は乳がんの罹患しやすさと関連がある可能性が報告されています。
ABCC11遺伝子によってコードされるABCC11(ATP-binding cassette transporter sub-family C member 11)は、細胞内から細胞外に物質移動を行う、膜輸送タンパク質です。
ABCC11

このABCC11遺伝子でアポクリン汗腺の数が多い人は、湿性耳垢になります。

現在、耳垢の型は、大昔の人類の1人の祖先に由来するものではないか、との仮説が立てられています。

耳垢は、遺伝するのです。
そして大昔の人類から遺伝してきたのです。

耳垢とは何?

外耳道皮膚の構造とアポクリン汗腺について理解しました。耳垢の湿性、乾性についても勉強しました。さらにそれが、遺伝子によって決められていることも理解しました。

では結局、耳垢は一体何なのでしょうか。
そして、どこでどのようにして作られるのでしょう。

その前に、再び、外耳道皮膚の性質について、勉強しなくてはなりません。

外耳道皮膚の移動能

外耳道の皮膚は、通常の皮膚と違う性質をもっています。
移動能です。
外耳道の皮膚は、鼓膜の中心部から、少しずつ移動して、外耳道の外側まで移動してきます。これは、鼓膜の再生能力と関連しています。外耳道の皮膚は、外界に面した通常の皮膚のように、落屑物が剥がれ落ちても気にならない環境にはありません。通常の皮膚は、皮膚が毎日少しずつ剥がれ落ちて、新しい皮膚に置き換わっています。ところが、外耳道では、皮膚が落屑すると、奥に溜まってしまうのです。そのため生体は、耳掃除をしなくて良いように、外耳道皮膚の落屑(皮膚の剥がれ落ちた屑)物を、外耳道皮膚の移動能によって、耳の外側まで運んでいるのです。皮膚の移動能は、軟骨部皮膚までです。(外側から1 cm )

図4 外耳道皮膚には、移動能がある

耳垢とは?

耳垢とは、外耳道の皮膚が落屑(らくせつ=剥がれ落ちること)したものと、アポクリン汗腺からの汗や皮脂腺からの皮脂が全部、混じってできたものです。

外耳道皮膚は軟骨部で落屑しますので、皮膚の落屑物は、この部分でアポクリン汗腺や皮脂腺と混ざり、耳垢になります。

原則としては、耳の外側にしか耳垢はないことになりますね。

図5 軟骨部外耳道で耳垢(Earwax)ができる

Otolaryngology-Head and Neck Surgery
Clinical Practice Guideline (Update): Earwax (Cerumen Impaction) より転載
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0194599816671491

図5で、黄緑色のEarwax (Cerumen)が耳垢です。

これで、耳垢が、何もので、どこで、どのようにしてできるのか、わかりました。
結構、奥深いです。

耳垢栓塞とは?

耳垢栓塞(じこうせんそく)という病名があります。
耳垢が大きな塊になって外耳道に詰まってしまい、自分では取れなくなってしまった状態です。

では何故、耳垢が奥まで入り込むのでしょう? 先の理屈では、耳垢は外側にしかできないはずでは?
その理由は、はっきり言ってわかりません。

ただ一つ、確認はできませんが、自分で耳掃除をするとき、綿棒などで耳垢を奥へ奥へと押し込んでしまっている可能性があります。誰も確認はできませんが…。

耳掃除は?

さて、耳掃除(そうじ)はした方が良いのか?
しない方が良いのか?

これは、現在まで様々な意見があります。
医学的意見から、そうでないものまで、実にたくさんあって最終的に結論は出ていません。ですから、ここで耳掃除の是非を論じることは避けたいと思います。

ただし、2017年アメリカ耳鼻咽喉科学会・頭頚部外科学会(AAO-HNS)から、耳垢に対するガイドラインが出されました。
この1つの項に、

1. 過剰な耳掃除はしない。過剰な耳掃除は外耳道の炎症や感染の原因となり、耳垢塞栓率が高まる綿棒、ヘアピン、つまようじなどは耳を傷つけることがある。これにより外耳道裂傷、鼓膜の穿孔、耳小骨変位が生じて聴力低下、目まい、耳鳴りなどを招く恐れがある。

との記載があります。
これによると、少なくとも日常的な耳掃除は推奨していないことが窺えます。

あなたの耳は?

耳垢が溜まっているかどうか心配になったときは、ぜひ、かかりつけの耳鼻咽喉科医を受診してみてください。
耳垢があれば、きれいに除去してくださると思います。

耳掃除する女性
(イメージです)