オトラム (OtoLAM)

オトラムという装置をご存知ですか?
オトラム(OtoLAM)とは、レーザーを利用した鼓膜切開を行う医療器械です。
今回は、このオトラムについて書きます。

鼓膜切開について

鼓膜切開という言葉を聞いたことがあると思います。鼓膜切開とは、子どもさんに多く見られる急性中耳炎が、お薬の治療で治らないとき、鼓膜を切開して膿を出す治療のことを言います。
鼓膜切開は、通常、鼓膜の表面に麻酔薬を浸した綿花などを置き、一定時間が経過した後、先端が槍状に細くなった特殊なメスで鼓膜を小さく切開します。局所麻酔をすると言っても、鼓膜を触るだけで子どもさんは痛がるし、痛くなくても嫌がって泣きます。お母さんたちは、切開しないと治らないとわかっていても、大泣きするわが子がかわいそうで、できれば受けさせたくない治療です。耳鼻咽喉科では、伝統的な治療手技であり、大昔から変わらず続けられてきました。

鼓膜切開
(赤い部分を切開します!)

鼓膜切開は痛い?

上手に長時間、鼓膜の表面麻酔をすれば、ほとんど痛くなく鼓膜切開を行うことは十分に可能です。
しかし、急性中耳炎で腫れた鼓膜は非常に鋭敏です。綿花が乗るだけでも痛がって泣く子どもさんは多くいます。さらに全身麻酔のように完全に麻酔が効いているわけだはありませんので、少しは痛みが残っていますし、表面麻酔後も鼓膜に触る感覚は残ります。綿花で泣いて、本番の切開でまた泣いて…とお母さん方は、かわいいわが子が何度も泣く姿を見て、きっと胸が締めつけられることだと思います。
それでも、中耳炎の合併症を起こさないために、医学的にどうしてもやらなくてはならないのが、この治療なのです。痛がって薬が全く効かず、39-40℃の熱が続き、夜間も泣き止まず、お母さんも一睡もできないようなとき、鼓膜切開で中耳炎の膿が出ると、直後からすっと熱が下がり、痛みは消えて、子どもさんは劇的に元気になります。

非常に優れた良い治療方法である反面、嫌がる子どもさんを抑えてしなければならないこともままあるため、ある意味、時代に逆行する治療と捉えられる可能性もあります。

何とか痛みを与えずに鼓膜切開をしてあげることはできないだろうか? この疑問から、オトラムは生まれました。

レーザーについて

オトラムを理解するためには、レーザーについて知らなければなりません。
「レーザー とは、英語でLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation (誘導放出による光増幅放射)の頭文字の略語( LASER )であり、指向性と収束性に優れた、ほぼ単一波長の電磁波を発生させる装置である。」

難しい説明です。簡単に説明すると、”高いエネルギーを持った電子が低いエネルギーを持った電子になるとき、外部から当てた電磁波がより整った電磁波になって放出される” というものです。
1917年にアルベルト・アインシュタインが書いた量子力学の論文を基礎として、1960年に初めてルビー結晶によるレーザー発振が実現しました。続いて1964年にはCO2レーザーが、1968年には医療用の高出力レーザーが開発されました。

レーザーの特徴

レーザー光の性質は物理学的にいくつかありますが、最大の特徴は、”拡散せずに直進する” ことです。ピンポイントの光線がずっと遠くまで届くのです。この特徴は身近な例では、レーザーポインターなどに生かされています。
レーザー光のもう1つの特徴は、パルス発振ができることです。パルス発振とは、10の-9乗から10の-15乗 秒の非常に短い時間間隔で光をパルス波として(脈のようにオンオフを切り替えて)、出力することを言います。パルス波の特徴は、非常に短い時間に光を集めるため、1点に高いエネルギーを集中させることができることです。

このレーザー光の特徴はすでに医療に利用されています。

炭酸ガスレーザー

略してCO 2レーザーと呼ばれます。
レーザー光には、レーザー発振に使用する媒質によって、ルビー、炭酸ガス(CO2)、YAG(ヤグ)、KTP、半導体などのレーザーがあります。

CO2レーザーは、波長10,600nmの赤外線領域の光を発し、医療に多く使用されています。
CO2レーザーの特徴として、深達度が非常に浅く、水に吸収されやすいことがあります。
CO2レーザーを照射すると、その部位の細胞内の水分が反応して一瞬で熱エネルギーが発生します。この一瞬で生じた熱で組織の水分が瞬間的に蒸散するので、熱損傷を最小限にすることが可能です。そのため、ごく短時間にメスで切開するよりずっときれいな出血のない傷がつきます。

オトラム

オトラムは、鼓膜にCO2レーザー光を照射して、ごく短時間に鼓膜に穴を開けてしまうレーザー装置です。

オトラムの鼓膜切開の原理は、前頁に書いた通りです。
CCDカメラが内蔵された耳鏡型ハンドピースを外耳道に挿入して、鼓膜をモニター画面で観察しながら、誘導ビームで照準を合わせ、CO2レーザー照射を行います。CO2レーザーで鼓膜に瞬間的に小穿孔を作製します。
メスで”切る”のではなく、オトラムでは、瞬間的に”切れる” と言ったほうが良いかもしれません。
オトラムの穿孔は円形で、鼓膜が閉じるまでの期間は、メスによる切開よりすこし長く、中耳炎が治癒しやすい傾向にあると言われています。

オトラムの特徴として、CO2レーザー光は、水分に吸収されて奥まで到達しないので、従来の鼓膜切開のメスのように鼓膜の裏側まで届くことはありません。あくまで鼓膜表面のみの切開が完了します。そのため鼓膜切開による損傷は最も小さくなります。
レーザー光が螺旋状に回転しながら照射される、いわゆるフォーカスビーム focus beam によって、照射周囲の鼓膜の熱ダメージを、従来のCO2レーザーと比較して約1/4程度の50μm(ミクロン)まで小さくできるのも、オトラムの優れた特徴です。

オトラムでは、あっという間に鼓膜が開窓されるため、子どもさんは痛みをほとんど感じることがありません。”あっという瞬間” は少しは感じるかもしれませんが…。

オトラムの実際

オトラムでの鼓膜切開は、イラストで書くと、こうなります。指でのイラストなので見にくくて申し訳ありません。

オトラムでの鼓膜切開の直後
CO2レーザーで一瞬で開窓する!
オトラムは座位で(すわって)行うため、
鼓膜のイラストが縦になっています。

出血はまったくありません。
傷が円形できれいです。
痛みはすこしだけあります。
レーザー照射時の刺激音(パン)などで、子どもさんは泣くことがあります。

何でオトラム?

オトラムで鼓膜切開をすることは、結局何が良いのでしょう。

1番は、子どもさんに鼓膜切開の痛みをほとんど感じさせずに、治療を終わらせてあげられることです。
2番目は、急性中耳炎の治癒が良いことです。メスによる鼓膜切開は、傷が3日ほどでくっついてしまうことが多く、中耳の炎症がまだ治まりきれないうちに鼓膜が閉じてしまうため、再び中耳炎が増悪したり、また膿(うみ)が貯まったりすることが多く見られました。その点、オトラムでの切開は、鼓膜の開窓期間が長めで、中耳炎が治癒する時間が十分確保できるため、急性中耳炎の治癒が良好であることが報告されています。

でも、お母さん方にとっては、まずは痛みが1番のポイントだと思います。

どうすれば?

急性中耳炎については、以前のトピックスで書いています。急性中耳炎になったら、まずは、かかりつけの耳鼻咽喉科医に相談して治療を受けましょう。
鼓膜切開の治療は、みんなが受けなければいけないものではありません。
万一、鼓膜切開が必要だと言われたとき、オトラムを探せばよいのです。