耳管

耳管(じかん)。
聞いたことがありますか?
鼻の奥と中耳をつなぐ管。
耳管は、全ての中耳炎に関係がある重要な管です。
今回は、耳管について書きます。

耳管の名称

耳管。英語でEustachian tube ギリシャ語でエウスタキオ管。ギリシャ語が語源です。

図1 auditory tube が耳管
(wikipedia)

耳管とは?

耳管は、上咽頭と鼓室をつなぐ管状の器官です。中耳側の1/3は耳管骨部、咽頭側の2/3は耳管軟骨部といいます。耳管軟骨部から耳管骨部移行部の数mm上咽頭側に、耳管狭部と呼ばれる最も内腔が狭い部位があります。
耳管の内側はすべて粘膜で覆われています。また、上咽頭にある耳管の入り口は、耳管咽頭口といいます。耳管咽頭口周囲には、口蓋帆張筋と呼ばれる、耳管軟骨を引っ張って開大させる筋肉がついています。
耳管の長さは、成人では35-40mmといわれています。

図2 耳管の位置 (イラスト)

何のために?

耳管は、何のためにあるのでしょう。
耳管は、中耳の圧を外気圧と同じにするためにあります。体の外で、急激な気圧の変化が起きたとき、人の聴力を正常に保つために生体に備わっている圧調節機構であると言うことができます。
さらに耳管は、中耳の分泌物を上咽頭へ排出する働きもあります。耳管の内腔の粘膜は線毛上皮に覆われてあり、鼓室から上咽頭へと線毛運動によって分泌物が排出されます。
耳管は、小児と大人で形状が違います。

図3 子どもの耳管
子どもの耳管は短く水平
図4 大人の耳管
大人の耳管は、長く鋭角

一般に、小児の耳管は開きにくく、鼻すすりなどの陰圧で簡単に閉鎖します。一方で、低い鼻咽腔の圧で開くため、つよい鼻水かみなどで副鼻腔炎の感染が波及しやすい傾向にあります。

耳管のことについて、前回までのトピックスで書いていますので、ぜひお読みください。

急性中耳炎 -その1-

滲出性中耳炎

耳管のもう1つの重要な働きは、成長の過程で、側正常な頭骨の乳突蜂巣の発育をうながすことです。乳突蜂巣は、中耳から続く解剖学的な空気の貯留空間で、中耳炎の病態に非常に重要な役割を持っています。この乳突蜂巣が正常に発育していないと、将来さまざまな中耳炎を起こす可能性が高くなります。生後、耳管を通じて乳突蜂巣に空気が入ることで、ほぼ12歳までに成人に近い乳突蜂が完成します。

耳管は閉じている?

耳管は、通常閉じています。
耳管軟骨部の弾性で閉じているのです。嚥下運動やあくびなどのとき、口蓋帆張筋が収縮して耳管咽頭口が開き、耳管は開きます。唾を飲んだりあくびをしたりした直後に、耳抜きできることが多いのは、このためです。

耳管が狭窄ぎみになるか、開放ぎみになるかで、全く違う病態になります。

狭窄か? 開放か?

耳管狭窄症は、耳管がいつも閉じている病気です。
耳管開放症は、耳管がいつも開いている病気です。
耳管は上咽頭と鼓室の圧差を調整していますので、耳管の機能が悪くなると、気圧の調整がうまくできなくなります。つまり、閉じっぱなしになるか(耳管狭窄症)、開きっぱなしになるか(耳管開放症)です。
これは、直感的に理解できると思います。

耳管がいつも狭窄していると、上咽頭から鼓室に空気が入らないため、鼓室内は容易に陰圧になります。そのため、鼓膜が内側に引っ張られて耳小骨の動きが制限され、難聴が起こります。さらに耳閉塞感の症状があります。
耳管狭窄症が続くと、鼓室の陰圧から滲出性中耳炎になったり、乳突蜂巣の換気不全から、真珠種性中耳炎を発症したりします。

逆に耳管がいつも開放していると、上咽頭の空気が簡単に鼓室に入ってしまい、耳管を通して空気がつながった状態に近くなるため、自分の声が内側から大きく響いたり、ひどくなると自分の呼吸音が耳管を通して聞こえたりします。この時もやはり耳閉塞感がします。

耳管開放症は、消化器がんの手術後や過度のダイエットによる、急激な体重現象の後に発症することが多いです。耳管周囲の脂肪体の減少が原因と言われます。
高齢者では耳管機能が不良で耳管開放症になりやすく、また吹奏楽の演奏者が演奏中につねに鼻咽腔圧の圧が上がることによって、耳管が開放されやすいと言われています。(吹奏楽器を息んで吹くため)

耳管開放症の症状を楽にするために、「鼻すすり」癖がある方は、真珠種性中耳炎を発症しやすいので、注意が必要です。

耳管狭窄症と耳管開放症を合わせて、耳管機能不全といいます。

耳管機能不全

現在、耳管機能不全についての診断は、以下のようになっています。

2014年イギリスNIHの診断基準、日本耳科学会の2016年耳管開放症診断基準案、2018年耳管狭窄症診断基準の3種類の診断基準が中心です。

耳管機能不全は、正確には3つに分かれます。

① 耳管狭窄症
② 圧変化による耳管機能不全
(baro-change-induced Eustachian tube dysfunction (2014NIH) )
③ 耳管開放症

③は、急激な圧変化で起こる耳管機能不全のことです。
スキューバダイビング、飛行機搭乗、高速のエレベーターなどで急激な気圧や水圧の変化が起こったとき、中耳空間で過度の圧変化が起こり、鼓室内で出血したり(血鼓室)、血性の滲出液が貯留したりします。
実際この場合は、急激な圧変化による内耳障害を起こすことがあり、注意が必要です。

耳の圧外傷

症状は?

① 耳閉塞感

「耳がつまった感じ」「耳が塞がった感じ」「耳に水が入った」「高いところに行ったときの感じ」などと表現されます。
耳管狭窄症、耳管開放症ともに訴えのある症状です。

② 自声強聴

「自分の声が耳の奥から響いて聞こえる」単に「自分の声が響く」「自分の声がこもって聞こえる」などと表現されます。
耳管開放症の特徴的な症状です。耳管狭窄症でも「声が響く」と表現されることがありますが、病態は違います。

③ 自分の呼吸音が聞こえる

この通りの症状です。
耳管開放症に特徴的な症状です。

④ 聴こえがわるい

耳管狭窄症では、鼓室が陰圧になり、鼓膜が外気圧でつよく押し込まれると耳小骨の動きが制限されます。軽度の伝音難聴を示すことがあります。また聴力検査上は難聴はなくても、陰圧になると耳小骨のインピーダンスが上昇して、難聴=「聞こえにくい」の訴えが起こります。
耳管開放症にもみられることがあります。

⑤ 臥位や前屈位(体を曲げて頭をしたにする)によって耳閉塞感が改善する

臥位や前屈位(頭を下げる)によって、重力の影響で一時的に耳管周囲粘膜が充血します。そのため、耳管開放症の人では耳管が閉鎖傾向になり、耳閉塞感の症状が劇的に改善されます。ただし症状の改善は一時的なものです。
この動作によって、耳閉塞感が改善するかどうかを確認することで、耳管開放症の診断の補助にすることもできます。

診断は?

先の症状から、耳管機能不全を類推して、検査で診断を確定します。

① 問診での症状の確認。とくに耳閉塞感、自声強聴。
② 鼻咽腔ファイバースコープによる、上咽頭の耳管咽頭口の目視確認。静止時と嚥下時での観察。
③ 聴力検査による、内耳障害の否定。
④ 鼓膜の顕微鏡下または内視鏡下の観察によって、鼓膜の呼吸性動揺がないかどうかの確認。またはインピーダンスオージオメーターによる確認。

⑤ 耳管機能検査による確定診断。

⑤の耳管機能検査には、耳管鼓室気流動態法(tubotympano- aero-dynamic graphy TTAG)、音響耳管法(sonotubometory)、加圧減圧法(inflation-deflation test)などがあります。

重症のアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎による、耳管機能障害増悪因子の有無を調べるため、アレルギー検査、副鼻腔レントゲン検査、CT検査などの鼻科一般検査が、場合によっては、必要になります。

⑥ ティンパノメトリー(tympanometory)
直接の耳管機能検査ではありませんが、ティンパノメトリーを行なって鼓膜のコンプライアンス(可動性)を測定することで、中耳圧が陰圧になっているかが判定できます。陰圧になっていれば、耳管狭窄が起こっていることがわかります。

これらを総合的に評価して、診断を確定します。

治療は?

耳管狭窄症と耳管開放症にわけて述べます。

耳管狭窄症

耳管を拡げる治療をします。

感冒などの感染症に対してはその治療。
重症のアレルギー性鼻炎に対しては抗アレルギー薬の内服や点鼻スプレー、副鼻腔炎に対してはマクロライド抗菌薬やカルボシステイン剤の投与。
鼻汁の吸引治療やネブライザー治療など。
耳管周囲の炎症を引かせるための治療が中心になります。

合わせて、耳管通気治療(カテーテルによる)による、直接カテーテルで耳管咽頭口を開大させる治療も行われます。

耳管開放症

耳管を狭くする治療を行います。

生理食塩水の点鼻。
ある種の漢方薬の内服が効果があります。
ルゴール、プロタルゴール、ベゾルト粉末などをカテーテル通気管を使用して直接、耳管内へ注入する治療もあります。これは薬剤で耳管粘膜に炎症を起こし、耳管を狭くする治療です。(耳管内注入治療)
顕微鏡下に、鼓膜に薄いテープを張る治療も有効です。(鼓膜パッチ) 
この方法は、呼吸や会話時の咽頭から鼓室への空気の流入による鼓膜の可動性を抑えるために、テープで鼓膜を厚くすることによって鼓膜の動きを少なくすることが目的です。

手術的な治療として、鼓膜を切開して鼓膜側の耳管から耳管を狭くするためのシリコン製の「耳管ピン」を挿入する手術があります。
咽頭側の耳管から自分の脂肪組織を挿入する手術もあります。
人工耳管も作製されています。
重症例に行われます。

図5 中耳(Middle Ear)の拡大図
赤色のauditory tube が耳管
耳管ピンはこの部分に挿入

耳管ピン

耳管ピンは、こういうものです。

図6 耳管ピン (富士システムズ株式会社)

耳管ピンの構造です。全長23mm です。

図7 耳管ピン (構造イラスト)
全長 23mm 各種サイズあり

耳管ピンは、シリコン製です。

図8 耳管ピン挿入 (イメージ)


図9 耳管ピン挿入 (イメージ) 拡大図

実際の手術のときの耳管ピン挿入イメージです。

富士システムズ株式会社
http://www.fujisys.co.jp/?p=6332

富士システムズ株式会社の製品情報サイトから引用しています。詳しくは上記ご参照ください。

結論は?

耳管について書いてきました。
耳管はとても大きなテーマです。とても1回では書ききれません。お伝えしたいのは、次のことです。

耳管の問題は、すべての中耳炎に何らかの形で関わっています。
耳管は中耳に空気を入れるためにあります。
耳管について知ってください。
中耳炎の診断や治療で、耳管の機能を正常に戻すことが、どれだけ重要かを知ってください。
そのためには鼻の治療も必要です。

鼻の病気と耳の病気は、じつは別々ではないのです。深い関係があるのです。

図10 耳管 Auditory tube