鼓膜切開

「切開しましょう。」
「鼓膜切開しないとだめです。」
お母さんたちには、嫌な響きです。お子さんの中耳炎の治療に来たのに、お薬では治らず、鼓膜形成が必要というかパターンは、何とも受け入れ難い気持ちでしょう。今回は、する側もされる側も嫌な、鼓膜切開について書きます。

鼓膜を切開する?

「どうして?」
「お薬では治らないんですか?」
そんな声が聞こえてきそうです。
鼓膜を切開するなんて…。かわいいわが子が泣き叫ぶ姿が目に浮かぶとお母さんたちはそれだけでうるうるします。
一体どこを切るの? 痛いでしょうに…。
鼓膜はどこで、どこを切開するのでしょう。

鼓膜の位置

鼓膜の位置は?

鼓膜の位置はどこ?
上のイラストで理解してください。
大人では、耳の入り口から3cm, 子どもでは2cmです。鼓膜の厚さは、大人で0.08mm, 9歳未満では、0.06-0.07 mm と論文では報告されています。半透明の非常に薄い膜です。
もちろん急性中耳炎では、鼓膜はかなり腫れて厚くなります。どのくらいかは報告がなくわかりませんが。こんなに薄い膜を切るのですね。

切開のしかた

鼓膜の位置はわかりました。
では、どうやって切るのでしょう。
鼓膜の表面の前半部分は、鋭敏な三叉神経が支配しています。(後半部分は迷走神経の支配です。)
三叉神経の痛みは、歯の痛みです。急性中耳炎でも書きましたが、鼓膜が腫れて引き伸ばされるとものすごく痛いです。ですから、鼓膜切開しないと治らないほどの中耳炎では、もともとものすごく痛い。そこを切るから痛いはずです。
通常は、鼓膜に局所麻酔をします。綿花に麻酔薬を浸して、鼓膜の表面に置き、15分くらい待ちます。その間に鼓膜の一部分が白く麻酔されますので、痛みがかなり軽減されます。完全に痛みがとれないことも多く、すこし痛いのが普通です。やはり小さな子どもさんは泣いたりします。危ないので、お母さんの了解をとって、子どもさんを押さえてすることもあります。

鼓膜の表面麻酔
(青: 麻酔薬を浸した綿花)

イラスト図で青いクシャクシャしたものが綿花です。麻酔液を浸しています。しばらくすると、鼓膜の表面が白くなって表面麻酔が完了します。
鼓膜表面に液体を置いて微弱な通電を行い、鼓膜全体を麻酔する方法もあります。イオントフォレーゼという方法ですが、ある程度聞き分けの良い年長児でないと麻酔ができません。

切開の位置

鼓膜切開の位置
鼓膜の前下方(赤色)

イラスト図の赤色の部分を切開します。
切開すると膿(うみ)が流れ出てきます。

鼓膜切開直後の鼓膜
(赤い丸が切開の穴)

イラストの赤い丸が鼓膜切開で開いた穴です。ここから膿を吸い出し、替わりに空気が入ります。中耳炎は、膿が出て、空気が入って治っていくのです。

どんなとき切開する?

鼓膜切開が必要な場合は、決まっています。
急性中耳炎で、抗菌薬の治療で治らないとき。重症で鼓膜の炎症がひどいとき。高熱や全身的な合併症を起こしているとき。
急性中耳炎で書きました。鼓膜切開は、ガイドラインを参考にして決定します。

痛いよね?

鼓膜切開は、痛いです。
全く痛がらないほうが稀かもしれません。
局所麻酔をしっかりしても、イオントフォレーゼ麻酔を十分しても、痛がる時があります。もちろん全く痛がらない子どもさんもいます。急性中耳炎の重症度と鼓膜の炎症の程度で、麻酔薬の浸透が違うのだと理解しています。
鼓膜切開の技術は大差ありません。なので、痛がる子は痛がりますし、痛がらない子は、痛がらないと思ってください。

鼓膜切開がいつの日か、全然痛くない時代が来れば良いといつも思っています。
最近では、オトラムと言って、CO2レーザーを使用して、鼓膜切開を一瞬で終了させる治療法もあります。

中耳炎の治療に必要なことであっても、子どもさんを痛がらせると、お母さんに睨まれますが…。
鼓膜切開はなくなりません。絶対に必要な場合があります。
鼓膜切開のとき、どれだけ子どもさんの痛みを少なくしてあげれるか、がとても重要になります。

聞いてください

中耳炎で、薬の治療でどうしても良くならないとき、鼓膜切開をした方が良いかどうか、悩むと思います。
その時は迷わず、かかりつけの耳鼻咽喉科の医師に正直に聞いてみましょう。

どうしたら良いですか? と。

中耳炎は痛い…
(イメージです)