鼻中隔わん曲症 -その2- -手術すべきか?そうでないのか?-

「鼻中隔が曲がっています。」
「わん曲症があります。」

耳鼻科で言われたことがある方もおられると思います。

前回、鼻中隔わん曲症について書きました。
鼻中隔わん曲症
今回は、鼻中隔わん曲症の2回目です。

鼻中隔とは?

鼻中隔とは、どこでしょう。

図1 鼻中隔

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E4%B8%AD%E9%9A%94

鼻中隔は、左右の鼻腔を仕切る軟骨と骨の壁で、鼻粘膜で覆われています。
鼻中隔を構成するのは鼻中隔軟骨1枚、篩骨垂直板、鋤骨の骨2枚です。
図1で、青い部分が鼻中隔軟骨です。

図1で理解できるように鼻中隔は広く、前方は鼻入口部、後方は上咽頭、上方は頭蓋底骨まで拡がっています。

わん曲の形状は様々であり、C型、S型などの分類の他に、突出部の形状によって棘(spina)、櫛(crista) 、彎曲(deviation)などと表現します。
生理的わん曲は、成長期における頭蓋と鼻骨の成長の歪みが原因とされていますが、顔面外傷や鼻骨骨折などでも起こります。

顔面の成長に伴う鼻中隔わん曲は、通常17-18歳くらいまで続きますが、それ以降も進行することがあり個人差がみられます。

鼻中隔わん曲症は、軽微なわん曲を含めると成人の80-90%にみられるほど頻度の高い疾患です。

症状は?

鼻中隔わん曲症そのものが解剖学的異常ですので、鼻閉、口呼吸、頭重感、嗅覚障害、反復性鼻出血などが起こります。慢性の鼻閉にともなう後鼻漏をきたすこともあります。
鼻閉はわん曲側の鼻腔だけでなく、わん曲と反対側の鼻腔にも起こります。また、わん曲側と非わん曲側が交代に鼻閉を起こすこともあります。
鼻腔の通気障害や鼻腔内の気流異常によって、慢性副鼻腔炎を合併することがあり、アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎、とあわせて個別の治療が必要です。

また高度の鼻中隔わん曲症があり片方が完全につまっていますが、日中は反対側の鼻腔で鼻呼吸をしているためほとんど鼻閉の訴えがない場合もあります。

わん曲症の程度と自覚症状が必ずしも相関しないのも、鼻中隔わん曲症の症状の特徴の1つです。

診断は?

鼻腔観察、鼻内視鏡検査、CT撮影により診断は容易です。とくにCTは、鼻中隔の解剖学的異常だけでなく下鼻甲介の腫大や副鼻腔炎の状態も含めてすべてを総合的に把握することが可能です。
そのためCTは、手術治療を行うとき非常に参考になります。

写真1 鼻中隔わん曲症(白矢印⇨)

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/16-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%92%BD%E5%96%89%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%BC%BB%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E5%89%AF%E9%BC%BB%E8%85%94%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%BC%BB%E4%B8%AD%E9%9A%94%E5%BC%AF%E6%9B%B2%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E7%A9%BF%E5%AD%94

治療は? 治す?治さない?

鼻中隔わん曲症の治療はシンプルです。
そもそも解剖学的異常ですので、保存的に経過観察するか、手術治療で治すか、です。

保存的治療は、治さない判断です。
鼻中隔わん曲は当然そのままですから、慢性鼻炎や肥厚性鼻炎などに対して、抗アレルギー薬の内服や点鼻薬を使用することで、症状の改善だけを計ります。
一方、手術は完治を目指す治療です。
鼻中隔矯正術といって、片方の鼻腔から鼻中隔粘膜に小切開を加えて鼻中隔軟骨や後方の骨の一部分を切除する方法です。(鼻中隔矯正術)

通常、慢性の鼻閉を伴っていることが多く、下鼻甲介手術と同時に行なわれることがほとんどです。

鼻中隔わん曲症の治療は、わん曲症を治療するか、治療しないかの2者択一と考えて良いでしょう。

どんなときに手術する?

では、鼻中隔わん曲症に対して手術治療が望ましいのは一体どんなときでしょうか。

これに対しては明確な基準が示されているわけではなく、「鼻中隔わん曲症によって慢性的な鼻閉が自覚される場合」や「片方の鼻腔の高度な鼻づまりや頭痛が続いている場合」だけでなく、「慢性副鼻腔炎に対して内視鏡手術(ESS)を行う場合」もESSの安全な手術操作や手術後の良好な鼻腔通気を目的として行なわれることが多くあります。
また難治性反復性の鼻出血をきたす症例では、出血部位の内視鏡観察や止血処置のために、鼻中隔矯正術を考慮した方が望ましいことが報告されています。

これらに加えて私個人は、患者さんに睡眠時無呼吸症候群があるかどうかを必ず確認するようにしています。
慢性の鼻づまりはもう慣れていて、あまり自覚症状として気にならない方もいるからです。
そのような方も、重症の睡眠時無呼吸症候群を合併している場合には、鼻中隔わん曲症に対して積極的に手術治療を考慮すべきと考えています。
鼻中隔わん曲症が睡眠時無呼吸症候群を悪化させている場合が多くみられるからです。

さらに高度の鼻中隔わん曲症があると夜間睡眠時に鼻閉が起こるため、睡眠時無呼吸症候群に対する重要な治療であるCPAP治療がうまく行えないことが多いからです。

手術はどうするの?

鼻中隔矯正術は内視鏡下に行います。
局所麻酔、全身麻酔のどちらでも可能ですが、負担が少ないのは全身麻酔のようです。

手術は通常、以下の手順で行なわれます。

①鼻中隔左右の粘骨膜下に注射して、生理食塩水またはボスミン加生食を浸潤させます。

②鼻中隔の皮膚粘膜移行部から数mm 後方に15 mm くらいの軟骨膜切開を入れます。

③鼻中隔の軟骨と骨は、左右から粘膜によって覆われていますので、これを軟骨膜下、骨膜下に丁寧に剥離します。反対側の粘膜剥離は、対側の軟骨膜下に行います。

④可能な限り軟骨と骨を保存して、わん曲部のみを切除します。

⑤剥離した左右の粘膜を合わせて、左右からガーゼ固定します。

鼻中隔矯正術のみであれば、通常15mm の粘膜切開で手術時間も10-15分程度で終了します。
出血量も5 cc くらいです。

通常、前方の軟骨の切除はほとんど行わないか最小限に行って形を整え、後方の骨のわん曲を中心に切除して矯正します。
したがって鼻の形が変わったり、鼻が低くなったりすることはありません。
ただ1点、格闘技やコンタクト系のスポーツをしている方には、鼻のリコイル(recoil, 弾力性)が70%くらいになりますと説明しています。

多くの場合、左右の下鼻甲介手術を同時に行います。

図1 鼻中隔矯正術
(当院HPのイラストより)

https://www.sadanaga.jp/procedure/nose/

鼻中隔わん曲症と言われて…

耳鼻科で鼻が曲がっていることを言われた方は、何十年経ってもそのことを覚えているようです。例えそれが若い頃のことで、今は高齢になっていても。

「わん曲症があること」は、耳鼻咽喉科医には以前からよくお伝えすることが多い事実なのですが、患者さんご本人にとってはかなりインパクトのある言葉なのかもしれません。
将来、鼻づまりの症状で耳鼻科を受診されたときに必ず言われます。

ずっと心配されていたのかな、とよく思うのですが、「簡単に診断ができて、必ずしも手術する必要があるばかりでない」ことを知っていればそんなに心配しなくて良いのです。

もしあなたが以前にわん曲症があると耳鼻咽喉科で言われたことがあるのでしたら、思い切ってかかりつけの耳鼻咽喉科医に尋ねてみてください。

「手術をしたほうが良いですか?」と。

きっと正直な回答が返ってくるはずです。
それからゆっくり治療を考えれば良いのです。

鼻中隔わん曲症を心配する男性
(イメージです)

どんなに悩んでも自分で鼻の中は覗けません。

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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