鼓室形成手術 -3-

鼓室形成手術について2つ書きました。
今回は3です。

鼓室形成手術

何度も聞いた用語ですね。
でも、具体的にどんな手術をするのか、詳しくご存知の方は少ないと思います。
今回は、実際の手術方法の説明です。

全身麻酔+局所麻酔

鼓室形成手術は、ほとんどの場合、全身麻酔で行います。そのため、手術にともなう痛みや不快感は皆無です。
それでも、手術後に痛みがないように、全身麻酔の導入後、耳の周囲に再度、局所麻酔剤を注射します。全身麻酔がかかった後に行いますので、注射の痛みもありません。

皮膚切開

多くの鼓室形成手術は、耳介後部の皮膚を5-6 cm 切開して手術を行います。
全身麻酔のため、痛みや不快は感じません。また、痛そうな場所ですが、手術後にほとんど痛みは感じません。

外耳道剥離

皮膚切開後、側頭筋の一部が出てきます。この側頭筋と外耳道皮膚を一連として、剥離して挙上します。顕微鏡下で操作を行います。

鼓膜剥離

外耳道皮膚が剥離されたら、続いて連続して鼓膜上皮を剥離します。

鼓膜には、耳小骨の第1番目の骨、ツチ骨の一部がついていますが、手術術式によって、鼓膜をツチ骨から剥離する術式と剥離しない術式があります。
その時の術式によって選択されます。

鼓膜の剥離には、鼓膜を2層に剥離する術式(2枚剥ぎ)と、鼓膜を全層で剥離する術式(1枚剥ぎ)の2種類の方法があり、術式によって選択されます。

例えば、鼓膜の大穿孔を塞ぐ手術のときは、鼓膜をツチ骨から剥離して、2層剥離にします。

外耳道皮膚から鼓膜まで一連の剥離が終了すると、それを手術野から挙上して保存します。これを tympano-meatal flap と呼びます。

耳小骨操作

必要な場合と、必要でない場合があります。

耳小骨は3つあり、鼓膜の振動を内耳に伝達する役割を持っています。
鼓膜に近い方から、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨と呼ばれていて、ツチ骨は鼓膜に、アブミ骨は内耳に接しています。

図1 耳の解剖 (イラスト)

https://www.medicinenet.com/image-collection/ear_picture/picture.htm

図1で、ツチ骨=Malleus, キヌタ骨=Incus, アブミ骨=Stapes です。

図2 3つの耳小骨 (イラスト)

https://i.pinimg.com/750x/c8/39/32/c8393219efc66cc174b87fef208d031b.jpg

3つの耳小骨は、鼓室と呼ばれる空気の入った小さな空間に、極小の腱や靭帯で宙吊りに固定されています。(図2)
このため、非常に効率の良い振動が可能です。

ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の医学用語は、各国で違い、
Malleus, Incus, Stapes (英語)
Hammer, Ambos, Stapes (独語)

などとなっています。

耳小骨の構造

3つの耳小骨は、1直線に繋がっているのではなく、軸が捻れた構造をしています。

図3 耳小骨の構造 (イラスト)

これは、鼓膜の振動を少しずつ増幅しながら、内耳へ効率よく伝えるための物理的特性と言えます。

実物の耳小骨は、このようになっています。

写真1 耳小骨 (実物)

鼓膜から、左からこの順番で並びます。

写真2 耳小骨 (実物)
写真3 耳小骨 (実物)

https://www.outlanderanatomy.com/category/anatomy-lessons/

非常に小さいですね。
アブミ骨は人体最小の骨です。

ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の3つの小さい骨が、鼓膜の振動を順番に伝導して、内耳のリンパ液に伝えているのです。

これら3つの耳小骨のどれか1つが欠けていたり、硬くて動かなかったり、外れていたりすると、振動がブロックされて聴こえが悪くなります。

したがって、鼓室形成手術では、耳小骨の操作が必要な手術と、耳小骨の操作が必要でない手術の2つに大きく分かれます。

耳小骨操作が必要な場合は、いったん摘出した耳小骨を細かくトリミングして再挿入したり、人工の耳小骨に置き換えて耳小骨の連続性を再建したりします。
この手術操作を耳小骨再建術といいます。

鼓室の清掃

真珠種性中耳炎や鼓室硬化症などでは、鼓室に存在する病変の清掃が必要になります。顕微鏡下に、丁寧に病変の清掃を行います。とくに、3つの耳小骨の周囲は、空間的に複雑です。先端の細い針状の手術器械や極小の鉗子を使用して、慎重に病変を除去します。
鼓室形成手術で非常に重要な場面です。

写真4 耳小骨の走査電子顕微鏡写真
(ツチ骨キヌタ骨アブミ骨の連鎖)

https://www.sickkids.ca/en/research/about-research-institute/

乳突削開術

外耳道の後ろにある側頭骨を専用のカッティングバー、ダイヤモンドバーを用いて削開する手術です。鼓室形成手術において、必要な場合と必要でない場合があります。
真珠種性中耳炎などでは必要な手術です。
乳突削開術が必要な鼓室形成手術では、鼓室の清掃と同時に行います。

鼓膜・外耳道皮膚を戻す

鼓室形成手術で必要な手術操作がすべて終了したら、剥離挙上していた、連続する鼓膜と外耳道皮膚を元の位置に戻します。
剥離した鼓膜が鼓膜の位置に、外耳道皮膚が外耳道の元の位置に戻ります。

皮膚縫合

耳後部の皮膚切開部を縫合します。
以前では吸収糸と絹糸で縫っていましたが、現在では、人工の糊で皮膚を押さえて皮膚をくっつける方法もあります。
抗凝固薬を内服している患者さんや糖尿病を有する患者さんなどでは、糸による縫合が確実です。

TEES

近年では、耳の後ろの皮膚を切開しない鼓室形成手術も開発されてきました。もともと開いている耳の穴(外耳道)から、すべての手術操作を行う手術方法です。
以前は、耳内法と呼ばれていました。

内視鏡、顕微鏡を使用して行いますが、とくに内視鏡を用いる手術方法は、TEES()として注目を集めています。これは現在、当院でも行なっています。

鼓室形成手術について思うこと

耳の手術は基本的操作の連続だと思います。
1つ1つのブロックを積み重ねていく作業が、良い結果を生むと思います。
手術の目的を明確にして、少なめの操作を心がけると良い結果に終わると思っています。

手術が必要なとき

もしあなたが、かかりつけの耳鼻咽喉科医師に、耳の手術が必要だと言われたら、ぜひ、今日読んだこの手術手順を思い出してください。

そして、自分の耳のどこが悪くて、どんな手術をするのか、よく説明してもらってください。自分が受ける手術について、しっかり理解されて、より良い治療を受けられると良いと思います。

聴こえが悪いんです…
(イメージです)