外リンパ瘻 -その1- -めまいを起こす内耳の液漏れ- -内耳窓閉鎖術とは?-

今回は、特殊なめまい=外リンパ瘻 について書きます。

外リンパ瘻って何?

内耳の外リンパ液の漏出によって、めまい、難聴、耳鳴、平衡障害などの症状をきたす疾患です。内耳の蝸牛、前庭には、内リンパ液、外リンパ液が入った薄い膜のチューブのようなものが渦巻き状の骨のトンネルの中を2回転半しています。外リンパ瘻は、さまざまな原因で、この外リンパ液が内耳の外に漏れ出た状態です。蝸牛窓、前庭窓、内耳骨折部位などが漏出部位になります。頭部外傷後のアブミ骨底板骨折などは、ふだんは漏出が停止していても、外圧がかかると漏出が始まる、3rd mobile window (3番目の可動性の内耳窓)となっていることがあり、長期間にわたる慢性のめまいや変動する感音難聴の原因になったりします。

原因は?

耳鼻咽喉科の臨床で頻度が高いのは、耳かきによる耳小骨外傷や、転倒やエアバッグ外傷による頭部打撲、交通事故による頭部外傷、スポーツ中ボールが耳に当たる、耳介への平手打ち、ダイビングや飛行機搭乗後の圧変化、つよい鼻かみ、重量物運搬による怒責、トイレでのいきみ、激しい咳の後、くしゃみを無理に我慢したとき、強大音外傷、アブミ骨手術後や中耳手術後、真珠腫性中耳炎による内耳瘻孔(ろうこう)など、つよい振動や圧変化、怒責動作、手術による侵襲などが原因となっています。このうち急激な気圧変化による気圧外傷については、別頁で述べていますのでご確認ください。( 耳の気圧外傷 )
小児の反復性髄膜炎では、原因となる先天性の瘻孔の存在も見逃さないようにする必要があります。

診断は?

つよい鼻かみにより急激な鼓室、脳脊髄圧の上昇が起こり、外リンパの漏出が起こる場合は意外と多く、特発性外リンパ瘻と呼ばれています。めまいを伴う突発性難聴との鑑別が必要です。

重量物運搬時の怒責や力み動作によっても、脳脊髄圧の急激な上昇が起こり、つよい鼻かみと同じ病態が起こります。

これらの誘因によって、サーッと水の流れるような音、発症時の恐らくは内耳膜が破れるポン、パンという音(pop音)の存在、つよい鼻かみ直後から起こるめまい、ふらつき、難聴などの特徴的なエピソードが起こります。このような症状が聞き出せたら、外リンパ瘻を疑わなければなりません。

急激に難聴が進行して、数日で聾になる症例や、難聴は高度でなく、数ヶ月から数年間、または10年以上、慢性のめまい発作をたびたび繰り返しながら経過する例、感音難聴が数年間にわたり、変動する例など、外リンパ漏出のしかたや量などによって、さまざまな個別のエピソードを呈します。

眼振が観察されるのは70%、外耳道の加圧でめまいを生じる瘻孔症状は50%にみられます。しかし、どこまで疑わしくても、最終的な確定診断は、試験的鼓室開放術といい、実際に手術で中耳腔を観察して、内耳窓からのリンパ液の漏出を目視で確認することです。ただ、外リンパ瘻自体が、自然停止したり、漏出が始まったりを繰り返すことも多いため、手術中に必ずしも明らかな漏出が確認しにくい症例も存在します。

近年、生化学的診断マーカーとして、外リンパ中にコクリン蛋白の存在が確認され、中耳腔からのコクリン蛋白の検出と外リンパ瘻の存在が相関することが報告されています。中耳腔からのコクリン蛋白の測定を実施している医療機関もあります。ただ、その検査は100%には遠いため、検査結果の判定には慎重にならなければなりません。

治療は?

外リンパ瘻には、自然閉鎖があります。軽度の漏出と判断されたら、まず保存的に治療を行います。安静をこころがけ、怒責やつよい鼻かみを禁止して、1-2週間経過観察します。めまいには抗めまい薬、難聴にはステロイド薬を投与して、自然閉鎖を待ちます。

内服薬が効果なく、めまい症状がどんどん悪化するときや、急激な感音難聴の進行は、緊急手術の適応となります。また、安静時は症状の軽減があっても、安静解除とともにめまいや難聴が増悪する例も、手術の適応になります。

手術は、内耳窓閉鎖術といい、蝸牛窓および前庭窓を筋膜小片で閉鎖し生体糊で固めます。簡単な手術に入りますが、手術後にすぐに怒責やつよい鼻かみをすると再度漏出が起こりますので、手術後の安静が非常に重要です。2週間で通常の生活には戻れますが、重量物運搬などのつよい怒責作業や、飛行機搭乗、ダイビングなどは、3ヶ月間禁止する必要があります。稀ですが再発例もあります。

私の経験した例では、最長10年間以上、ふらつきが続いており、難聴はなく、他に鑑別疾患がなかった症例がありました。内耳窓閉鎖術によって、ふらつきは完全に停止しました。

また、入浴後、つよい鼻かみで発症した例は、数日でほとんど聾になり、緊急手術を行ったのち、聴力が完全回復した症例もあります。

強大音響で発症した外リンパ瘻では、10日後に聾になった直後、緊急手術を行いましたが、聴力の回復はみられませんでした。

外リンパ瘻かも?

めまいがあったとき、まずは外リンパ瘻の病名を頭の片隅におくことです。知らないとかんがえもしませんが、この頁を読まれた方は、すこし思い出してください。

そして、自分がどんなふうにしてめまいが起こったのか、よく考えてみることです。先の、つよい鼻かみの直後からだったり、仕事で重量物運搬をした後からふらつきが起こったとかのエピソードがあれば、外リンパ瘻の可能性はかなり高いと思われます。

迷わず、耳鼻咽喉科へ直行してください。

浮動性めまい (イメージ)
階段を降りるとフラフラします
外リンパ瘻がひどくなると仕事にも支障をきたします
(イメージ)

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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