メニエル病について -その1-

今回は、耳鼻咽喉科外来で頻度の高いメニエル病について述べてみます。
メニエル病は、メニエール病とも表記されます。

メニエル病って何?

メニエル病という病名を聞いたことがない方はいないと思います。どんな病気か本当は詳しく知らないけれど、それが何となくめまいを起こす耳の病気だとはうっすらと理解されている方も多いのではないでしょうか。

メニエル病とは、回転性めまいを反復し、難聴や耳鳴などの蝸牛症状をともなう疾患であると定義されています。いわゆる、めまい、難聴、耳鳴の3主徴です。好発年齢は50-60歳で女性に多く、病態は、内耳の内リンパ水腫と言われています。

内リンパ水腫とは、内耳に繋がった内リンパ嚢(のう)と呼ばれる小さな袋で産生される内リンパ液が過剰に産生されて、内リンパ液が入った内耳の膜(内リンパ腔)がいわゆる水膨れを起こした状態です。

診断は?

メニエル病の診断は、じつは意外と複雑で、1974年の診断基準がわかりやすいので引用します。以下、

① 発作性の回転性めまいを反復する
②めまいに伴って変動する蝸牛症状(難聴、耳鳴)がある
③第8脳神経(聴神経)以外の神経症状がない
④原因が不明

2008年に診断基準が改定され、以下のようにすこし細かく分類されています。ここでは、メニエール病と表記されています。

Ⅰ. メニエール病確実例

難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する

Ⅱ. メニエール病非定型例

①メニエール病非定型例(蝸牛型)
聴覚症状の増悪、軽快を反復するが、めまい発作を伴わない

②メニエール病非定型例(前庭型)
メニエール病確実例に類似しためまい発作を反復する。一側または両側の難聴などの聴覚症状を合併している場合があるが、この聴覚症状は固定性でめまい発作に関連して変動することはない

○原因既知の疾患の除外
メニエール病と同様の症状を呈する、外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群などの内耳、後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など原因既知の疾患を除外する必要がある。

(メニエール病診療ガイドライン2011年度版
厚生労働省難治性疾患克服研究事業前庭機能異常に関する調査研究班(2008-2010年度)/編) 一部省略、抜粋

何か、ものすごく複雑な文言ですね。

診断基準がより細かく複雑になっています。これだけ診断基準が変わっているということは、原因と病態がまだよくわかっていなかったメニエール病が医学的にかなり解明されてきたということに他なりません。

診断基準の話が長くなってしまいましたが、重要な点は、今まで、めまい、耳鳴り、難聴の3主徴のみの診断だったメニエール病という疾患が、
①めまい発作を伴わないことがある
②難聴や耳鳴を伴わないことがある
の2点ではないでしょうか。診断の幅がより拡がっています。とにかく内耳の機能は、蝸牛と前庭ですから、その片方または両方が障害される内耳疾患と理解してください。内耳疾患の本体は、内リンパ水腫です。
最近では、内耳のMRIで内リンパ水腫を画像診断できる技術が一部で可能になっています。

症状は?

診断基準でかなり詳しく書いたので、その通りです。簡単に言うと、
回転性めまい(浮動性めまいのこともあります)を反復し、難聴や耳鳴りを伴ったり伴わなかったりする
ということになります。
メニエル病のめまいは、反復することが特徴です。逆に反復しないメニエル病はありません。くり返すめまいがいちばん重要な症状です。めまいは回転性(ぐるぐる回る)のことも浮動性(フラフラする)こともあります。めまいは、数時間から数日、数週間続くこともあります。めまいの激しさも、起き上がれないほどのめまいと嘔吐を起こすものから、軽くフラフラするめまいまで、個人差があります。難聴も先の診断基準の通り、ともなう場合も伴わない場合もあります。難聴を伴うときは、低音域の難聴が起こります。メニエル病は、めまい発作を繰り返すときは、比較的診断しやすいのですが、メニエル病の初回発作のときは、他の疾患の可能性を慎重に除外しながら診断しなければなりません。
一つ重要なことは、メニエル病は、慢性期に入ると、だんだん聴力が落ちてくることです。また、30%に両側性がみられます。

治療は?

メニエル病の治療は、内耳の内リンパ水腫に対する治療です。内リンパ水腫が改善されれば症状は良くなります。
内リンパ水腫の治療薬の代表は、イソバイドとよばれる浸透圧利尿薬です。とても飲みにくい薬ですが、非常に効果のある薬です。
メニエル病の治療は、完治させる治療ではなく、あくまで症状をコントロールする治療になります。
急性期のめまい発作が激しいときには薬も飲めないため、めまい止めの点滴と安静臥床が治療の中心になります。暗い静かな部屋で楽な姿勢で、頭を動かさないようにして目を閉じて安静にします。メイロンというつよいめまい止めの点滴が効果的です。激しいめまい発作でも1-2時間でかなり楽になります。急性期に一時的にステロイド剤を使用することもあります。感音難聴が進行するとき、両側性に悪化するときにも、ステロイド剤の投与を行います。めまいが落ち着いてくると飲み薬での治療を行います。特効薬のイソバイド、抗めまい薬、利尿剤、循環改善薬、ビタミン剤、抗不安薬などを内服します。メニエル病は、過労やストレス、睡眠不足などで悪化することが知られています。日常生活を見直し、ストレスを回避して、軽い有酸素運動などは勧められます。めまいの不安をとってあげることは自信にもつながり治療にとても有効です。日常生活に支障をきたさない範囲で安定剤を上手に使います。夜間ぐっすり眠れると内耳の疾患は良くなることが多い印象があります。めまいが起きなくなってもしばらくの間は、内リンパ水腫が存在する事を念頭に置いて、内服薬を続けます。先ほどのストレスによる悪化を防ぐため、規則正しい生活習慣も重要です。症状が完全に消失して時間も経過すれば、治療はいったん中断してかまいません。また症状が起きたときに治療を開始します。人によっては、症状が出そうな感じがわかることが多く、早めにお薬を取りにきたりします。少しずつ、自分で上手にコントロールできるようになってきます。ここまでくれば、メニエル病はまったく怖い病気ではなくなります。

難治性のメニエル病は?

生活習慣に気をつけ、イソバイドの内服治療を継続して行っても、めまい発作がコントロールできない難治性のメニエル病が存在します。
このような症例では、外科的な治療が必要になることがあります。内リンパ嚢(のう)開放術といって、内耳の奥の小さな嚢状の袋を切開して内リンパの排泄路を作り、減圧する手術です。再発がみられること、効果が永続的でないことなどから、最重症の症例が手術の適応になります。
2018年、中耳加圧治療が、新しい治療法として保険適応となりました。これは、耳栓から強弱をつけた圧波を送り、鼓膜と耳小骨の振動を通して内耳に伝わった圧波が内耳の内リンパ水腫を改善させる、非侵襲的な治療法です。1日2回、3分間の治療を自宅で行います。必ず月1回の受診と毎日のめまい日記の記入が必要です。難治性メニエル病と遅発性内リンパ水腫が適応になります。長期的な報告はまだ少ないですが、難治性のメニエル病の新しい治療法として注目されています。

予後は?

メニエル病の長期予後は、良く知っておく必要があります。メニエル病の予後で最も問題になるのは難聴です。初期のメニエル病は、難聴は可逆性です。しかし、めまい発作を反復すると、難聴は次第に不可逆性になります。
難聴の進行は、40db程度の中等度感音難聴で停止します。メニエル病で聾になることはありません。さらにめまい発作を繰り返していくと良聴耳の難聴が進行します。長期的には30%の症例が両側性のメニエル病に移行すると言われています。最終的に両側のメニエル病が進行して内リンパ水腫が高度になると、両耳の中等度難聴が固定して進行は停止します。
メニエル病の治療の最終目標は、めまい発作の反復を抑制し、難聴の進行を予防することに尽きます。

おわりに

メニエル病は、完治しないので、ある意味嫌な病気かもしれません。症状が軽くてもときどき調子が悪くなれば医療機関に通わなければなりません。しかし、考え方を変えれば、別の見方もできます。
メニエル病がある人は、何もない人よりもきっと生活習慣に気をつけるでしょう。お酒を飲みすぎないようにし、夜更かしをせず、規則正しい生活をこころがけ、睡眠時間を十分にとり、ストレスを避けて適度な有酸素運動をするでしょう。これは、もっと重大な心臓や脳血管の病気、または肝臓や腎臓の病気を起こさないように予防していることにはならないでしょうか。
メニエル病の方には叱られるかもしれませんが、一病息災とは、まさにこのことです。

回転性めまい (イメージ) (実際の見え方とは違います)
浮動性めまい (イメージ) (実際の見え方とは違います)