アレルゲン免疫療法

舌下免疫療法 -その1-

飲み薬と点鼻スプレー。花粉を避けること。2週間前からの予防投与。
そうは言っても、毎年ひどい花粉症に悩まされる方は、この時期とても憂鬱です。それもほぼ2ヶ月間は続くのです。ヒノキをいれるともっと長引きます。
何かもっとすごい治療法はないのでしょうか?
その答えが、近年注目を集めている「舌下免疫(ぜっかめんえき)療法」です。これは、アレルゲンの原因物質であるスギ花粉の濃縮エキスを錠剤にして舌の裏側の粘膜に置き、1-2分間で少しづつ吸収させ、2週間で増量していくことでアレルゲンに「慣れていく」治療法です。2週目以降は、月1回の薬剤処方以外、ほとんど自宅で治療できます。
舌下免疫治療法は、自宅で治療できる部分が多く、通院回数を大幅に減らせるというメリットがあります。この10年で、欧米から始まった舌下免疫治療法は日本全国に普及して、現在では、ハウスダストは小児の年齢制限がなくなり、スギ花粉の治療は5歳から可能になりました。高齢では65歳未満が適応です。費用も保険適応で負担が軽減されており、優れた治療方法として花粉症治療の代表的な地位を築いたと言っても過言ではありません。平均の治療効果は、80%と報告されています。

減感作療法

減感作療法という免疫療法がありました。これは、アレルゲンエキスを少しずつ濃度を薄くしながら皮下注射していく方法で、少なくとも私が大学を卒業した平成2年には、すでに通年性性鼻炎やスギ花粉症の確固たる治療法として確立されていました。患者さんに始めは週2日通院してもらい、100万倍、10万倍という非常に薄めたアレルゲンエキスを皮下注射していました。「今日はすこし腫れたね。」「はい、また来週○曜日に。」などと言いながら、交代でアレルギー外来を担当したものです。舌下免疫療法の話をする前に、すこし減感作療法のことを聞いてください。
減感作療法では、治療初期は週2日、治療開始から3ヶ月経つと週1日になり、やがて2週に1日になり、6ヶ月くらいで月1日の通院になりました。初めの頃は、学生さんなどが学校を早退して治療に来るのが大変で、そのためアレルギー外来は午後からだったと記憶しています。半年以降は、ほぼ月1回になりますので通院の負担はかなり減りますが、この間にアレルゲンエキスの濃度は、10万倍から1万倍、1000倍、100倍と濃度を上げたらしばらく維持量を続けて体を慣らしながら、少しずつ免疫反応を高めていきます。最後は10倍の濃度でかなり濃いエキスを注射することになっていました。濃度の変化は、喘息などのアナフィラキシー反応が起こらなければ、わりと早く維持料に達することができるのですが、そのあと最低でも3年間は月1回の皮下注射を継続する必要がありました。最終維持量は、もちろん個人差があり、100倍で維持量に達する人、10倍の人、1000倍で止まる人、などさまざまです。個人の免疫応答はそれぞれ違うのですから、いま思えば当然です。治療は治療開始6ヶ月くらいで現れてきて、最終的な効果は、くしゃみ、鼻水 60-70%, 鼻づまり 40-50%くらいです。通年性鼻炎の患者さんの、鼻粘膜の不可逆的肥厚にはあまり効果が感じられないこともしばしばでしたが、アレルギー反応にはかなり効果的でした。
なぜ減感作療法の話を長々とするかというと、じつは舌下免疫療法も減感作療法も、「アレルゲン免疫療法」という同じ治療法なのです。治療の根本は全く同じで、アレルゲンを少量ずつ投与してしだいに量を増やしていくやり方です。

アレルゲン免疫療法

舌下免疫療法について述べる前に、もう少しだけ免疫の話を聞いてください。
このアレルゲン免疫療法とは、どんな治療法でしょうか。じつは、生体のアレルギー反応には、アレルゲンが入ってきても反応を起こさずに「見逃す」最低量があるのです。アレルゲンがごく少量だと、”これくらいなら、まあいいや”と免疫反応が起こらないのです。そのぎりぎりの量を投与してそれを繰り返していると、免疫反応はその最低量を少しずつ引き上げていくのです。生体には、環境の刺激に合わせて免疫反応を「再構成する」働きが備わっているのです。この免疫の再構成の力をうまく利用したのが、アレルゲン免疫療法です。
海外では100年の歴史がありますが、日本でも1960年代には確立されていた治療です。しかし、なんと古来の日本では、すでに漆職人が、漆のアレルギーを避けるため、弟子たちの舌下に漆を含ませて、漆アレルギーを起こしにくくしていたという記述が残っているそうです。これは、まさに後で述べる、舌下免疫療法そのものですよね。おそらく、漆器職人たちは、弟子たちが激しい漆アレルギーを起こすと仕事に困るので、何とか弟子たちの漆アレルギーを抑える方法を模索してきたのだろうと思います。人の知恵とはなんてすごいのでしょう。話が逸れましたが、減感作療法と舌下免疫療法は、じつは医学的には同じ治療法であることが理解していただけたと思います。

舌下免疫療法

舌下免疫療法の話をしましょう。
漆職人のことからわかりますね。漆をスギ花粉やハウスダストに置き換えたのが、舌下免疫療法です。さらに、アレルゲン免疫療法の原理を思い出してください。免疫反応は、反応を起こさずに見逃す最小量がありました。
ここで、やっと話が繋がります。そうです。舌下免疫療法とは、この2つなのです。さらに、減感作療法と舌下免疫療法は、同じ治療でした。減感作療法で、だんだん濃度を濃くしていく皮下注射の話を思い出しましょう。10万倍、1万倍、1000倍…。舌下免疫療法との違いは、舌下エキス錠剤の投与方法、スケジュールと初期の通院回数なのです。

舌下免疫療法のメリット

では何故、舌下免疫療法が、魔法の治療のように、もてはやされるのでしょうか?答えは単純です。ほとんどの治療が自宅でできるからです。皮下注射は病院では簡単ですが、自宅ではできません。舌下免疫療法は、舌下に1分間含ませるだけの飲み薬の治療です。自宅での治療が圧倒的に多いのです。治療開始月だけ、2週間に1回の通院が必要です。舌下投与錠剤を増量するためです。1週間後に増量して、2週目から維持量となり、以降はすべて維持量を毎日内服します。通院は処方のための月1回になります。月1回通院、1日1回1錠、1分間舌下。非常に負担が少ない治療です。減感作療法は、治療開始から初めだけでも週2回、3ヶ月間の通院が必要ですし、月1回の通院になるのは、やっと6ヶ月後です。舌下免疫療法は錠剤の治療なので、注射の痛みやストレスもありません。
しかし、舌下免疫療法には、減感作療法より厳しいところもあります。1分間舌下投与の後は、5分間、うがいや飲食ができません。治療が終わってすぐに歯磨きしたり、冷蔵庫のジュースを飲んだらダメです。治療後2時間、入浴ができません。運動も禁止です。お酒も飲めません。
減感作療法は、通院が多い上に、前腕への皮下注射がありますが、針のチクッとする痛みが終わったら、自宅に帰って、大好きなおやつを食べながら、ゴロゴロできます。入浴や部活動、食事の制限もありません。舌下免疫療法は、舌下投与の時間を決めて、定期的な運動や部活動の時間、お風呂の時間を調整しなくてはなりません。
1つ大きな違いは、減感作療法は皮下注射が我慢できる小学校低学年以上でないと治療が難しいですが、舌下免疫療法は舌の裏で溶ける錠剤なので、口腔で1分間錠剤を保持できる5歳児くらいから治療可能であることです。この違いは大きいかもしれません。
治療期間は両者ともに、3年間から5年間です。また両者とも、無効例、治療終了後の再発があります。

何ていう薬?

舌下免疫療法の薬だけ書きます。

スギ花粉はシダキュア。
開始1週間2000JAU、2週目以降5000JAU。
以降、問題なければ5000JAUで維持量。
3-5年間。

ダニはミティキュア。
開始1週間3300JAU、2週目以降10000JAU。以降、問題なければ10000JAUで維持量。
3-5年間。

減感作療法は、ハウスダスト、スギ、ブタクサ、カモガヤなどのアレルゲンエキス皮下注射製剤です。

治療用アレルゲンエキス皮下注「トリイ」ハウスダスト1:10
治療用アレルゲンエキス皮下注「トリイ」ハウスダスト1:100
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉200JAU
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉2000JAU

舌下免疫療法 vs 減感作療法

減感作療法の治療効果は、くしゃみ鼻水60-70%, 鼻づまり40-50% です。維持量に達したときの治療効果は60-70%と言われます。
舌下免疫療法は80%でやや治療効果が高いと言えるかもしれません。80%という数字は優れた治療効果を示します。しかしこれは改善がみられた人が60%で、症状がほとんどなくなった人が20%です。20%の人は効果がみられません。治療終了後の再発がありますので、開始前に知っておいてください。

何歳から?

日本では現在、ダニに対する治療は小児の年齢制限はありません。スギに対する治療は5歳以上です。高齢では65歳未満の方が対象です。すべて保険適応になります。

重症の気管支喘息、重症の心疾患、肺疾患、免疫系の病気、悪性疾患治療中、妊婦さんなどは、治療対象から外れます。

どうすれば治療を受けれるの?

まずは、お近くの耳鼻咽喉科へお問い合わせください。舌下免疫療法を行なっているかを確認してください。その上で、一度受診してきちんと主治医の説明を聞き、受けるかどうかを判断をされると良いと思います。

ダニ
スギ花粉
減感作療法 (イメージ)
アレルゲン検査