アレルギーと免疫 -その1-

みなさん、アレルギー性鼻炎を知らない人はいないでしょう。くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3症状はあまりにも有名です。でも、アレルギー性鼻炎について、どこまでしっかり理解しているでしょうか。
アレルギーって何? どうして起こるの? 
今回は、みなさんが知っているつもりでじつは知らないアレルギーについて、お伝えしたいと思います。

アレルギー

アレルギーという言葉はあまりにも有名です。「アレルギーですね。」「薬のアレルギーでしょう。」「人によってアレルギーが起こります。」など。
アレルギーとは一体何でしょうか?
アレルギーとは、じつは免疫応答のことなのです。
今回は退屈ですが、すこし免疫の話を聞いてください。

免疫の講義です…

私たちの体には、自分で自分の身を守るためのさまざまな機能が備わっています。転んで擦りむいても、包丁で指を切っても、カットバンを貼っておけば、たいていの傷は化膿することなく、自然に治ってしまいます。また同じ小さな傷なのに、ある人はすぐ治り、ある人は化膿して感染症を発症することもあります。これらはすべて、「免疫」という働きのおかげです。では免疫とは何なのでしょう?

免疫とは?

免疫とは何でしょう?
免疫とは「異物を排除する働き」のことです。
でも何でもかんでも異物と認識したら、自分の細胞や臓器まで排除しようと働いてしまいますね。しかし、体の免疫システムは本当に良くできています。自分の細胞や臓器は異物と思わないのです。外から入ってきた細菌やウィルスなど、自分の知らないものを異物と認識して排除しようと働くのです。この免疫システムは大きく、液性免疫と細胞性免疫の2つに分けられます。
液性免疫は、B細胞が主役で抗体を産生します。
細胞性免疫は、T細胞が主役で免疫細胞が活躍します。

T細胞とB細胞

指に小さな切り傷ができると、体の外側を覆っている皮膚のバリアが途切れて、皮下組織や小血管が露出します。そこから細菌やウィルスが血管や周囲の組織に入り込んできます。すると、白血球の1つであるマクロファージ(大食細胞)がどんどん傷口に集まってきて、細菌やウィルスを飲み込んで殺してしまいます。相手が強いと、ヘルパーT細胞に抗原(細菌やウィルス)を提示して助けを求めます。ヘルパーT細胞は、殺し屋のキラーT細胞に、細菌やウィルスをやっつけるように頼みます。ヘルパーT細胞は、同時にB細胞にも頼んで、B細胞が形質細胞に「抗体」を作らせるのです。こうやって増えた免疫応援隊=①キラーT細胞、②NK細胞(ナチュラルキラー細胞)、③産生された「抗体」が、細菌やウィルスなどの「抗原」を殺してしまうことで、体を外敵から守っているのです。これが、免疫の1次応答です。1次応答のときの抗体は、主にIgM抗体で、初戦なのですこし苦労します。後により強いIgG抗体が作られます。
産生されたIgG抗体は、つぎに同じ抗原(細胞やウィルス)が入ってきたときのために記憶される仕組みになっています。初戦で戦ったT細胞やB細胞の一部が生き残って、メモリーT細胞やメモリーB細胞となってその役目を果たします。
次に同じ細菌やウィルスなどの「抗原」が体内に入ってきたとき、メモリーT細胞やメモリーB細胞は、前回戦った記憶があるため、初戦よりすばやく反応します。このとき作られる抗体はIgG抗体で、1次応答のときよりも長く強力に働きます。

ここまで長々と複雑な免疫の講義をしてきましたが、これが何故アレルギー性鼻炎につながるのでしょうか? じつはアレルギー性鼻炎も立派な免疫応答なのです。もう少しだけ、付き合ってください。

どんな抗体?

免疫の1次応答、2次応答ではたらく抗体がそれぞれ、IgM抗体、IgG抗体でした。
B細胞が形質細胞に指令を送って、形質細胞が産生する抗体には、IgM 、IgG 、IgE、IgA 、IgDの5種類あります。Igとは免疫グロブリンの略です。Igはタンパク質で5つとも少しずつ構造が違います。前者2つはわかりますね。
アレルギー性鼻炎に関係する抗体は、じつはIgE抗体なのです。IgE抗体は、即時型の反応といって異物に対してごく短時間で免疫応答が起こるとき働く抗体です。
やっと少しだけつながってきましたね。

アレルギーとは?

再度、アレルギーの話にもどります。
アレルギーは免疫応答の1つです。
免疫応答のバランスが崩れて、特定の物質に対して過剰に免疫応答が起こってしまう状態です。
例えば食物アレルギー。牛乳、卵、大豆、小麦粉。ピーナッツ、落花生。エビ、カニ、牡蠣、サバ。バナナ、キウイ、メロンなど特定のフルーツ。そもそもこれらは食物であり、ふつうは異物として認識することはありません。ところが、免疫応答のバランスが崩れると、特定の無害な食物に対しても、激しい免疫応答が起こってしまいます。
例えば花粉症。花粉症のない人は60%います。同じ大量の花粉を吸入しても全く免疫応答が起こりません。しかし一度、花粉を異物と認識してしまうと、過剰な免疫応答によりひどい花粉症が発症するのです。花粉に対する過剰な免疫応答。これが花粉症の正体です。
ハウスダストによる通年性アレルギー性鼻炎も同様です。
そうです。花粉症、通年性アレルギー性鼻炎は、免疫応答だったのです。
アレルギー以前に。

アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎は免疫応答です。
それも、免疫応答のバランスが崩れた過剰な免疫応答であることがわかりました。

ハウスダストや花粉に鼻粘膜が暴露されたとき、過剰な免疫応答が起こると、ハウスダストや花粉を異物と認識して、ハウスダストや花粉に対する抗体が作られます。このときの抗体はIgE抗体です。作られたIgE抗体は、細胞内にたくさんの顆粒をもつ肥満細胞の表面に突起状にくっつき、つぎの抗原を待ちます。次に抗原(ハウスダストや花粉)が鼻粘膜にくっつくと免疫応答が起こり、抗原のタンパク質の一部が肥満細胞表面のIgE抗体と抗原抗体反応を起こします。すると、肥満細胞からヒスタミンを初めとする多くの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出されます。このヒスタミンやロイコトリエンが鼻粘膜の血管や神経に作用して、通年性アレルギー性鼻炎や花粉症に特有の、くしゃみ、鼻水、鼻づまりを引き起こすのです。

おわりに

最後にやっと、アレルギー性鼻炎とつながりました。ほっとしています。
私たち耳鼻咽喉科医が主として扱っているアレルギー性鼻炎は、医学の中で非常に重要で深遠な研究領域である「免疫学」に深く根ざしていることがご理解いただけたと思います。
今回は、基礎医学のお話でした。

免疫応答は、体中のあらゆるところで起こっています
(イメージ)

 

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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