後鼻漏

鼻からのどへ流れてくる、すごく嫌な症状。これが後鼻漏です。副鼻腔炎の症状の1つですが、難治性で治療が難しい症例もあり、患者さんも苦労します。

今回は、後鼻漏について書いてみたいと思います。

後鼻漏とは?

後鼻漏とは、鼻咽腔に何かあると感じ、繰り返しの嚥下などによる意図的な方法で除去できない状態と定義されています。
患者さんは、鼻汁がのどにおりてくる、鼻とのどの境にどろっとした鼻水や痰がへばりつく、などと訴えます。1日中流れてきて相当気持ち悪いようです。

原因は?

鼻副鼻腔からは1日約6lもの分泌液が産生されています。多くは、吸気の加湿、加温、水分の再吸収などで消費されて、残りが鼻腔の粘液線毛運動機能によって後鼻孔から咽頭に流れてきます。通常では、自覚されることなく嚥下されますが、鼻副鼻腔からの分泌液量の増加や粘度の変化、粘液線毛機能の障害などがあると、後鼻漏として自覚されます。

したがって後鼻漏の治療は、鼻副鼻腔の分泌液の減少、鼻漏の粘性の低下、粘液線毛機能の正常化の3つにほかなりません。

診断は?

鼻咽腔ファイバースコープで、鼻副鼻腔全体を、さらに上咽頭から下咽頭、喉頭までを詳細に観察します。
鼻副鼻腔炎はないか?中鼻道、上鼻道に粘膿性の分泌液はあるか?上鼻道、中鼻道、下鼻道に後鼻漏が流れているのが観察されるか?上咽頭の状態は?分泌液の貯留はあるか?下咽頭喉頭に痰が貯留しているか? などです。
実際に後鼻漏が観察されることもあります。また後鼻漏は全く観察されないにも関わらず、つよい後鼻漏感を訴えることもあります。

画像検査は必須です。
後鼻漏の原因としてもっとも多い慢性副鼻腔炎の診断を正確に行います。レントゲン撮影でも可能ですが、レントゲンで判定しにくい部位の炎症を見落とさないためには、CTが絶対的に有利です。CTでは、副鼻腔炎があるかないかが100%診断可能だからです。

疾患は?

後鼻漏を起こす代表的な疾患があります。

①慢性副鼻腔炎
②アレルギー性鼻炎
③かぜ症候群(急性上気道炎)
④下鼻甲介腫大、鼻中隔結節
⑤上咽頭炎
⑥Tornwaldt 病
⑦加齢性変化
以下、各疾患について要点を述べます。

①慢性副鼻腔炎

慢性副鼻腔炎では、膿性または粘性の鼻汁が増加し、前鼻孔から落下することはなくすべて後鼻孔に流れます。さらに副鼻腔炎により粘液線毛機能が低下しているため、鼻汁が鼻腔に停滞します。鼻汁の粘度、弾性は上昇し、後鼻漏として連続するため、嚥下運動のとき軟口蓋の挙上で切り離せすことができずに、後鼻漏の不快感が消えません。
鼻咽腔ファイバーでの観察では、慢性副鼻腔炎では粘性後鼻漏が多く、好酸球性副鼻腔炎では膠状の後鼻漏が観察されることがあります。

②アレルギー性鼻炎

2番目の原因として、アレルギー性鼻炎が報告されています。アレルギー性鼻炎の鼻汁は、漿液性でサラサラしており、容易に嚥下されるために、あまり臨床上問題にはなりません。アレルギー性鼻炎による鼻汁の増加、つよい鼻閉による鼻汁クリアランスの低下、口呼吸による咽頭乾燥などが増悪の因子と言われています。

③かぜ症候群(急性上気道炎)

3番目の原因です。急性鼻炎を発症すると、鼻汁分泌過多になり、粘性の低い水様性鼻漏は前鼻孔から出ますが、細菌性副鼻腔炎の併発による粘膿性の鼻汁が鼻腔内に貯留して、粘液線毛機能障害のため鼻汁クリアランスが低下し、後鼻漏となります。慢性副鼻腔炎に類似していますが、急性炎症によるものです。

④下鼻甲介腫大、鼻中隔結節

下鼻甲介の前端後端は、とくに鼻腺組織が多く存在しており、鼻腺からの過剰な鼻汁分泌で後鼻漏の症状を起こすことがあります。鼻中隔結節にも鼻腺が多く存在し、過剰な鼻汁分泌と鼻中隔結節腫大による鼻腔後方の気流減少が粘液線毛機能低下を起こして、鼻汁の停滞から後鼻漏症状を起こしやすくなります。

⑤上咽頭炎

上咽頭の分泌物の増加と炎症刺激による異物感が原因です。鼻咽腔ファイバーで、上咽頭の発赤びらん、分泌物付着、痂皮形成が観察されます。

⑥Torn waldt病

胎生期の鼻咽頭囊が遺残し、感染などによって膿瘍を形成した状態です。鼻咽腔ファイバーで、上咽頭正中に嚢胞形成をみとめます。治療は嚢胞の外科的摘出、開放です。

⑦加齢性変化

高齢になると、鼻粘膜過敏性の亢進や副交感神経優位の状態から、漿液性鼻漏が増加します。粘液線毛機能は低下して、鼻腔内に停滞しやすくなります。唾液分泌減少や嚥下機能低下、咽頭乾燥などもあいまって、後鼻漏の原因となります。実際に後鼻漏を観察できる場合も観察できない場合もあります。

治療は?

原因疾患に対する治療を徹底的に行います。
①慢性副鼻腔炎

マクロライド系抗菌薬の内服治療を行います。ムコダイン(カルボシステイン)を併用すると効果が増大すると報告されてきます。内服治療で効果不十分な場合には、手術治療(ESS)が考慮されます。ESSによって副鼻腔を単洞化し、炎症性物質を洗い流して、粘膿性鼻汁の減少と粘液線毛機能の正常化を図ります。ただ、手術治療を行っても、後鼻漏症状が改善しない例があり、好酸球との関与が報告されています。

②アレルギー性鼻炎

前述のように、アレルギー性鼻炎では大きな問題にはならないことが多いようです。治療は、薬物治療、免疫療法、手術治療などがあります。坑ロイコトリエン拮抗薬が後鼻漏症状を有意に改善したとの報告があり、鼻粘膜の血管透過性の亢進が、後鼻漏症状に関与している可能性が示唆されています。

③かぜ症候群(急性上気道炎)

慢性副鼻腔炎の病態と類似しています。慢性副鼻腔炎の治療に準じてマクロライド系抗菌薬とカルボシステイン製剤の併用が中心となります。

④下鼻甲介腫大、鼻中隔結節

病態が、鼻腺からの水様性鼻汁分泌過多と鼻腔通気抵抗増大によるものです。アレルギー性鼻炎と類似の病態と考えられますので、アレルギー性鼻炎治療に準じて治療を進めます。薬物治療、免疫療法、手術治療です。

⑤上咽頭炎

生理食塩水による鼻洗浄が勧められます。1%塩化亜鉛製剤を上咽頭粘膜に綿棒でつよく塗布する治療(Bスポット治療)が昔から多くの耳鼻咽喉科で行われてきました。治療効果についての大規模なスタディはなくエビデンスは不明ですが、著効する症例が存在します。後鼻漏に対して60%以上の効果がみられたとの報告があります。疼痛があり、綿棒で出血するくらいつよく擦る治療で、繰り返しの治療が必要なため、他の明らかな原因がなく、後鼻漏症状が明らかな上咽頭炎によるものと診断されれば、行う価値があるかもしれません。
私個人的には、数例に施行した経験はありますが、効果については不明です。

⑥Torn waldt病

前述のように胎生期の嚢胞形成によるものです。良性疾患です。根治的には、外科的手術が考慮されます。

⑦加齢性変化

加齢のため、鼻粘膜の過敏性亢進や副交感神経優位の状態になり、水様性鼻漏が増加し、さらに鼻粘膜の温度低下により水分の再吸収が減少します。粘液線毛機能低下および嚥下機能低下などによって、後鼻漏が生じます。鼻腔生理機能の変化によるものですので、根本的な治療が難しく、マスク着用、体を温める、漢方薬の内服など、対症療法が望まれます。

おわりに

後鼻漏は、鼻の症状の中でも、なかなかすっきり治らない症状の1っです。それは、後鼻漏症状が単一の原因によるものではなく、恐らくは複数の原因が混在していることが理由の1つかもしれません。長く臨床医をしてきて、後鼻漏症状に対する治療でもっとも大切なことは、正しい診断のような気がします。
内視鏡、CT、MRI、必要があれば内科的な全身検索など。診断が正確で適切でないと、後鼻漏症状を和らげることは難しいと思っています。

「正しい診断は、治療への最短距離です。」

開院以来の、当院のポリシーです。

今回は、後鼻漏のお話でした。

何かのどに流れてくる (イメージです)