好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎という病名を聞いたことがありますか?副鼻腔炎は”ちくのう症”のことです。何か特殊なタイプの副鼻腔炎だろうと想像できますね。今回は、いま話題になることの多い好酸球性副鼻腔炎について書いてみます。

好酸球とは?

そもそも好酸球とは、耳鼻科の言葉ではありません。血液の白血球の1種類です。白血球には、好酸球、好塩基球、好中球と3種類の血球があります。好酸球は、このうちアレルギー性炎症に関与することの多い白血球です。
好酸球は、アレルギー炎症、喘息、寄生虫感染で重要な役割を果たしています。好酸球は、体を守る免疫機能を担っている一方、アレルギー疾患における炎症の一因にもなるのです。体の中で好酸球が増加すると、組織に炎症を起こし、臓器に損傷を与えます。心臓、肺、皮膚、神経が多く損傷を受けますが、あらゆる臓器が損傷を受ける可能性があります。損傷を受けた臓器では好酸球の浸潤が見られます。
体の防衛をする白血球の1種類が、増加して逆に臓器や組織に損傷を与えることになるのです。これは前回、”鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎に対する生物学的製剤(デュピクセント)”の頁で述べた”タイプ2炎症”の進行過程で好酸球が増加することと無関係ではありません。

好酸球のイラスト
(MSDマニュアル日本語版より転載)

好酸球性副鼻腔炎とは?

好酸球については、大体わかりましたが、副鼻腔炎との関係はどうなのでしょうか。
好酸球性副鼻腔炎とは、一体どのようなものでしょうか?
好酸球性副鼻腔炎は、厚生労働省の指定難病306に認定されています。
まず、福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の藤枝重治先生の”好酸球性副鼻腔炎の概要説明”が最も的確ですので、お読みください。以下、

1.概要
両側の多発性鼻茸と粘調な鼻汁により、高度の鼻閉と嗅覚障害を示す、成人発症の難治性副鼻腔炎である。抗菌薬は無効であり、ステロイドの内服にのみ反応する。鼻腔内に鼻茸が充満しているため、鼻副鼻腔手術で鼻茸の摘出を行うが、すぐに再発する。鼻閉と嗅上皮の障害により嗅覚は消失する。嗅覚障害のため風味障害を含めた味覚障害を来す。気管支喘息、アスピリン喘息(アスピリン不耐症)を伴うことが多い。鼻閉のための口呼吸が喘息発作を誘発し、著しい呼吸障害を起こす。また中耳炎を伴うこともあり、好酸球性中耳炎と命名されている。この中耳炎は、難治性で聴力障害は進行し、聾に至る。鼻粘膜には多数の好酸球浸潤を認めるが、中耳炎を伴うと耳漏にも多数の好酸球浸潤が認められる。経口ステロイドは、本疾患が良性疾患のため、主治医は継続使用にためらいを感じ、数か月で投与を中止すると増悪をする。上気道感染によっても症状が増悪するため再度経口ステロイドを投与せざるを得ない状況となる。

2.原因
原因は不明。
 
3.症状
多発性鼻茸と粘調な鼻汁による高度の鼻閉と口呼吸。鼻閉と嗅上皮の障害による進行する嗅覚障害が生じ、最終的には嗅覚は消失する。味覚障害も起こす。成人発症であり、病側は両側である。気管支喘息を合併することが多く、口呼吸により誘発される喘息発作を起こすと、ひどい呼吸困難に陥る。粘調な耳漏や難聴を呈する難治性中耳炎を伴うこともあり、進行すると聾に至る。
 
4.治療法
経口ステロイドが唯一有効。手術により鼻腔に充満した鼻茸を摘出すると、鼻閉は一時的に改善するが、すぐに再発し、鼻腔を充満する。
 
5.予後
軽症から重症を含めて、内視鏡下鼻内副鼻腔手術を行った場合、術後6年間で50%の症例が再発する。特にアスピリン喘息に伴う好酸球性副鼻腔炎では術後4年以内に、全例再発する。
経口ステロイドの内服で軽快をみても、感染、体調変化などにより増悪し、これを生涯繰り返す。
好酸球性副鼻腔炎には、重症度が存在する。軽症では、手術で改善することもあるが、重症では、極めて難治性である。

以上、厚生労働省「好酸球性副鼻腔炎の診断基準」班(研究代表者 福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授 藤枝重治)より全文転載
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4538

診断基準は?

好酸球性副鼻腔炎の診断基準も明確に定義されています。
これも、厚生労働省の研究班報告から転載したほうが早くて理解しやすいので、そうします。以下、

<診断基準>
好酸球性副鼻腔炎の診断基準
<診断基準:JESRECスコア>
①    病側:両側                                    3点
②    鼻茸あり                                     2点
③    CTにて篩骨洞優位の陰影あり      2点
④    末梢血好酸球(%)    2<  ≦5   4点
      5<  ≦10 8点
                               10<       10点                                                                                                     
JESRECスコア合計:11点以上を示し、鼻茸組織中好酸球数(400倍視野)が70個以上存在した場合をDefinite(確定診断)とする。

<重症度分類>

1)又は2)の場合を対象とする。
1)重症度分類で中等症以上を対象とする。
2)好酸球性中耳炎を合併している場合
 
1)重症度分類
CT所見、末梢血好酸球率及び合併症の有無による指標で分類する。
 
A項目:①末梢血好酸球が5%以上
②CTにて篩骨洞優位の陰影が存在する。
B項目:   ①気管支喘息
②アスピリン不耐症
③NSAIDアレルギー
 
診断基準JESRECスコア11点以上であり、かつ
1.A項目陽性1項目以下+B項目合併なし:軽症
2.A項目ともに陽性+B項目合併なし or
A項目陽性1項目以下+B項目いずれかの合併あり:中等症
3.A項目ともに陽性+B項目いずれかの合併あり:重症
 
 
2)好酸球性中耳炎を合併している場合を重症とする。

上記記載が厚生労働省の診断基準ですが、一般の方にはすこし理解しにくい点があるかと思います。すこし補足します。
①まず、好酸球性副鼻腔炎を疑ったら、JESREC スコアを調べます。
<診断基準:JESRECスコア>
耳鼻科で両側の鼻腔に鼻茸があると指摘された時点ですでに5点です。CT撮影で篩骨洞に陰影があれば+2点、血液検査で末梢血中の好酸球%を調べて2%を超えていれば+4点ですので、診断基準の11点に達します。
鼻茸組織中の好酸球数のカウントは、通常、内視鏡下副鼻腔手術のときに切除してきた”鼻茸”を病理診断に提出して顕微鏡下に鼻茸組織中の好酸球数をカウントします。顕微鏡下×400倍の高倍率で1視野に70個以上の好酸球が確認されたとき、確定診断(definite)となるのです。ただし臨床的には、鼻茸に浸潤した好酸球数が1視野で70個に満たなくても、JESRECスコアが11点以上の段階で、ほぼ好酸球性副鼻腔炎の診断を下してよいのではないかと考えています。
重症分類では、CT陰影はすでに条件を満たしていることが多いと思われますので、末梢血好酸球が5%以上か喘息合併があるかどうかが重症度の判定に大きく影響すると思われます。

原因は?

診断基準にもありますが、原因不明です。
1990年頃から増加してきました。現在も増加中です。全国の有病者は約2万人と言われています。
現在まで、遺伝の報告はありません。

症状は?

先の概要にも記載がありましたが、副鼻腔炎の症状は、基本的に非好酸球性副鼻腔炎と類似の症状です。鼻茸の形成、高度の鼻閉、口呼吸、膿性鼻漏、後鼻漏、頭痛、嗅覚障害などです。
好酸球性副鼻腔炎に特徴的な症状の1つは、早期から嗅覚障害を発症することです。これは嗅粘膜上皮の障害によるものといわれています。もう1つは、手術を行なっても高率に再発することです。アスピリン不耐症、アスピリン喘息合併例ではさらに難治性になります。好酸球性副鼻腔炎の70%に喘息を合併すると報告されています。
喘息合併例では、喘息発作とともに副鼻腔炎も同時に増悪する所見が見られます。
好酸球性中耳炎を合併することがあり、粘稠な耳漏が続き、聴力低下を起こします。

治療は?

好酸球性副鼻腔炎の治療は、まず内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を行なって鼻腔内の鼻茸を切除し、副鼻腔を単洞化します。その後、経口ステロイド薬の内服とステロイド点鼻スプレーを継続しながら定期的な観察を続けていきます。治療を中断すると早期に鼻茸が再発してくることが報告されていますので、内服治療は副鼻腔粘膜の状態を見ながら何年にも及びます。
初回手術時に切除した鼻茸は病理診断を行い、鼻茸組織中の好酸球浸潤の程度を確認しておきます。診断基準から顕微鏡下×400倍1視野の好酸球数のカウントが問題となります。70個以上で確定診断(definite)が可能です。
好酸球性副鼻腔炎は6年間で50%再発することが報告されています。鼻茸が再発したら、症例によって再手術が必要になりますが、同時に前回トピックスで報告した生物学的製剤(デュピクセント)による治療の適応を考慮します。デュピクセント治療導入後も効果判定を行いながら、難治例には再手術が追加されます。保存的治療で現在有効とされているのは、経口ステロイド薬とステロイド点鼻薬、デュピクセント皮下注射のみです。
デュピクセントについては、当院トピックスで説明していますので参考にしてください。

治療期間は?

好酸球性副鼻腔炎と診断された時点で、すでに難治性の疾患です。良性疾患であるにもかかわらず厚生労働省の難病指定306として登録されています。それは何度も再発して治療が必要になり完治が難しいことによります。もちろん治療期間は長期間になります。内服治療、手術治療、デュピクセント皮下注射と適応となる治療を繰り返していく可能性が高くなるということなのです。
治療期間は、数年から10年間以上、場合によってはそれ以上になります。

治療継続するには?

まず、好酸球性副鼻腔炎の病態をしっかり理解する必要があります。難治性であること、容易に再発しやすいこと、治療継続が必要であること、などです。そのため最も重要なことは、治療を中断しないことです。

医療機関の受診、治療には経済的な負担がかかります。とくに短期間で終了する疾患と違い、治療期間が長期間におよぶ場合にはその負担は大きくなります。手術治療やデュピクセント治療などが必要になるとさらに高額な負担がかかります。

厚生労働省は、高額医療制度を制定しており、個人の年収に応じて月額の医療費の限度額を定めています。限度額を超えた金額は国が負担してくれます。高額医療の申請が必要になります。
厚生労働省に難病指定されている疾患に対しては、別に医療費補助制度があります。好酸球性副鼻腔炎と診断された場合、その医療機関から難病申請の診断書を提出してそれが受理されれば、指定難病として医療費の一部が補助されます。好酸球性副鼻腔炎の確定診断が必要ですので、詳しくは耳鼻咽喉科主治医に尋ねると良いと思います。

好酸球性副鼻腔炎と診断されたら?

まずは、好酸球性副鼻腔炎について理解してください。難治性だからと諦めたり、治療をやめるのが最も良くないことです。後々必ず、もっと辛い症状で再受診しなくてはならなくなります。
耳鼻咽喉科の主治医と治療方法について、良く相談することをお勧めします。その上で、納得する治療方法を選択してください。治療期間は長期間に及ぶことになるため、患者さんと医師の信頼関係も重要になります。

-鼻茸について-

鼻茸(はなたけ)について、よくわからない方も多いと思います。
以前投稿した当院のトピックス “鼻茸(はなたけ)って何?” をお読みください。

鼻茸(はなたけ)のイラスト
(当院HPより)

デュピクセント

近年、生物学的製剤という薬品が外来治療に使用され始めています。鼻茸がある慢性副鼻腔炎の治療には、デュピクセントと呼ばれる生物学的製剤が使用されます。今回は、この薬剤について書いてみます。

生物学的製剤とは?

生物学的製剤とはいったい何でしょうか?
一般的な医薬品は、化学的に合成された物質から作られます。それに対して生物学的製剤は、生物から産生されるタンパク質などの物質を応用して作られたものを言います。

病原体から作られるワクチン(インフルエンザワクチン、新型コロナワクチンなど)、ボツリヌス菌やジフテリア菌などに対する抗毒素製剤、人の血液から作られる血液製剤などがあります。これに加えて、遺伝子組み換えや細胞培養などのバイオテクノロジーの技術で開発された新しい薬も該当します。近年アレルギー疾患や自己免疫疾患、喘息や好酸球性副鼻腔炎などに使用されている生物学的製剤はこれにあたります。
今回取り上げる生物学的製剤は、デュピクセントという薬剤です。

タイプ2炎症

デュピクセントについて知る前に、タイプ2炎症について理解しておく必要があります。
前回の免疫についてのトピックス(アレルギーと免疫 -その2- )の中で書きましたが、生体にアレルゲンが侵入してくると、抗原提示細胞が “こんなアレルゲンが来てるよ!” と言って他の免疫細胞に教えます。すると、まだ分化したことのないナイーブT細胞がTh2細胞(2型ヘルパーT細胞)に変化します。Th2細胞からインターロイキン(IL-4, IL-5, IL-13, IL-31)が分泌されて、主としてB細胞からIgE抗体産生をともなう各種の免疫応答を起こしてくるのです。近年では自然免疫で抗原受容体をもたない2型自然リンパ球(ILC2)もIL-4, IL-5, IL-13 を分泌することがわかっています。
IL-4, IL-5, IL-13, IL-31 をタイプ2サイトカインと呼び、この4つのうち中心的に働くIL-4とIL-13 が主として関与する免疫反応をタイプ2炎症と言います。(図1)

図1

IL(インターロイキン)-4


IL(インターロイキン)-13

IL-4
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%B3-4

IL-13
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Interleukin_13

(Wikipedia より引用)

すなわちタイプ2炎症とは、Th2細胞や2型自然リンパ球(ILC2) が産生するタイプ2サイトカイン(主としてIL-4 IL-13)が引き起こす炎症のことです。
IL-4とIL-13 は、B細胞、好酸球、肥満細胞、気道上皮細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞、角化細胞などに作用して、タイプ2炎症や皮膚や粘膜のバリア機能低下を起こします。
このタイプ2炎症は、数多くのアレルギー疾患との関与が示唆されていて、アトピー性皮膚炎、喘息、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーだけでなく、好酸球性COPDや食道炎などとも関係していると言われています。
生物学的製剤のデュピクセントは、このIL-4,とIL-13 のシグナル伝達を阻害することで、タイプ2炎症を抑制するのです。

デュピクセントとは何?

デュピクセントは、ヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体です。
これは一体何でしょうか?
この名称を理解するには、モノクローナル抗体についての理解が必要です。
まずモノクローナル抗体について説明します。
モノクローナル抗体とは、単一の抗体産生細胞(B細胞)をクローニングして作られた抗体のことです。通常の抗体(ポリクローナル抗体)は、抗原に対して、複数の抗体がまとめて産生されます。通常の抗体産生では、ヒトや動物に抗原(弱毒化した毒素やウィルス)を投与して血清中にそれに対する抗体を産生させ、回収する方法をとります。通常、投与された抗原の表面には、いくつかのエピトープ(抗原決定基)が存在しています。エピトープは、1つの抗原に複数あり、それぞれ少しずつ性質が違います。B細胞は一つのエピトープに対して一つの抗体しか作りません。そのため複数のエピトープに対しては、それぞれ違うB細胞が別々の抗体を作ります。抗体は血清中にまとめて産生されるので、血清中に産生された抗体には、複数のエピトープに対する複数の違う抗体がバラバラに存在しています。これに対してモノクローナル抗体は、単一のエピトープに対する抗体だけを作る1種類のB細胞が大量に作られるので、全く同一の抗体が大量に産生されます。言い換えれば、たった1種類の同一の抗体を大量に産生するために、その抗体を作るある特定のB細胞を大量にクローン(大量コピー)する方法です。
モノクローナル抗体は1種類の受容体だけにくっついて作用するため、より細かい標的認識が可能になります。
モノクローナル抗体には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体の4種類があります。詳しい説明は省略しますが、デュピクセントは”完全ヒト抗体”です。遺伝子組み換え技術を用いて、ヒトモノクローナル抗体が産生されて、それがヒト標的細胞の表面に存在するIL-4 受容体とIL-13 受容体のみに結合する抗体が作製されました。それがデュピクセントです。
(遺伝子組み換えについては、本題から逸れるため、別の機会に書くことにします。)

どこに効くのか?


デュピクセント(正式名称 デュピルマブ)は、遺伝子組み換え技術を用いてアレルギー疾患治療の目的で作製されたヒト型抗ヒトモノクローナル抗体です。
デュピクセントは、IL-4受容体αサブユニット(IL-4Rα 図2)に特異的に結合するモノクローナル抗体です。IL-4受容体αサブユニットはIL-13受容体にも存在しますので、デュピクセントはIL-4, IL-13 受容体の両方に結合してブロックし、タイプ2炎症の進行を抑制します。
そのため、タイプ2炎症を進行させるIL-4とIL-13の作用がブロックされてしまい、それ以上免疫反応が進みません。(図3)

図2

IL(インターロイキン)-4受容体
α (アルファ)鎖



IL-4受容体 α鎖

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Interleukin-4_receptor#/media/File%3APDB_1iar_EBI.jpg

図3

IL-4受容体(左)とIL-13受容体(右)
IL-4受容体αサブユニット(青色)が
デュピクセント(黄緑色)にブロックされる。

https://www.dupixent.jp/crswnp/property/moa
 サノフィ株式会社 デュピクセント資料
  (サノフィ株式会社提供)

どのように効くのか?

IL-4、IL-5、IL-13などのType 2サイトカインは、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の病態形成において、①好酸球の分化・増殖・組織への遊走、②B細胞からIgE産生細胞へのクラススイッチ、③鼻副鼻腔粘膜上皮のバリア機能の破綻、 ④杯細胞の過形成及び粘液の過剰産生、⑤過剰なフィブリン網の形成による鼻茸の形成などの様々な生理学的特徴に関与しています。(図4)

したがってデュピクセントによって、IL-4, IL-13 のシグナル伝達がブロックされタイプ2炎症が進まなくなると、
①好酸球が増殖して組織中へ浸潤しないため、組織障害が起こらない。
②B細胞からIgE細胞へスイッチが起こらず抗体産生が進まない。
③鼻副鼻腔粘膜のバリア機能が保たれる。
④杯細胞の過形成が起こらない→鼻漏の減少
⑤過剰な線溶系亢進が起こらず、フィブリン網産生の減少から鼻茸(ポリープ)形成が進行せず、ポリープが縮小する。

図4

デュピクセントはタイプ2炎症を広い範囲で
ブロックするため、好酸球性副鼻腔炎の主体である
タイプ2炎症が進行しない。
(サノフィ株式会社提供資料より転載)

このような作用機序によって、デュピクセントは、重症のアスピリン喘息や難治性の好酸球性副鼻腔炎などの増悪を起こすタイプ2炎症の免疫反応を抑制しています。

今までは、喘息には気管支拡張剤やステロイドの吸入治療が中心であり、好酸球性副鼻腔炎に対しては、通常の慢性副鼻腔炎に効果のあるマクロライド系抗菌薬(クラリス錠など)が効果がないため、ステロイド内服治療に頼らなければならなかったのですが、この生物学的製剤のデュピクセントが登場してからは、この両者に対して非常に有効な治療成績が報告されています。再発率の高い好酸球性副鼻腔炎に対しては、手術後の鼻茸の再発症例に対しても効果的です。

何に効くのか?


デュピクセントは、アメリカで2017年にFDAから認可され、日本では2018年に認可されました。
デュピクセントの効能、効果は、
“既存治療で効果不十分な”
①アトピー性皮膚炎、②気管支喘息、③鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎です。
2020年から③鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎に対しての承認が下りました。
現在、デュピクセントの投与によって、鼻茸サイズ、鼻閉重症度、慢性的な副鼻腔病変(Lund Mackey CT スコア=副鼻腔炎の重症度をCT陰影で点数化したもの)及び嗅覚障害の改善が認められ、喘息合併症例では呼吸機能ならびに喘息コントロールの改善が認められています。さらにデュピクセントの投与により、全身ステロイド薬の使用及び副鼻腔手術回数の減少が示されています。
デュピクセントは、世界初で唯一のIL-4/IL-13受容体阻害薬となっています。

投与方法は?

デュピクセントは皮下注射で投与されます。
デュピクセントは、300mgの皮下注射用シリンジです。
アトピー性皮膚炎、気管支喘息には初回に600mg, その後1回300mgを2週間隔で皮下注射します。鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎には、1回300mgを2週間隔で皮下注射します。症状安定後は、1回300mgを4週間隔で皮下注射します。
デュピクセントの適応年齢は、気管支喘息では12才以上、アトピー性皮膚炎、鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎では成人が対象となっています。
デュピクセントは、2018年1月に国内でアトピー性皮膚炎に対して皮下注射シリンジが製造販売承認取得後、2019年3月には気管支喘息が効能追加され、2019年5月には在宅自己注射が保険適用されました。その後、2020年3月には鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎が効能追加され、2020年11月からは携帯型ペン型製剤の自己注射シリンジも発売され、市場投入されています。したがって、耳鼻咽喉科領域での”鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎”への治療適用は現在で約2年になります。(2022年5月現在)
デュピクセント皮下注のペン型自己注射製剤は、最初に医療機関で2回、2週間隔で自己注射指導が行われた後、自宅で2週間に1回(症状安定後は4週間に1回)、腹部や大腿部に自己注射をして治療継続していきます。(自己注射部位 図6)

図5 デュピクセント

デュピクセント皮下注
300mg シリンジ
デュピクセント 皮下注
300mg ペン

図6

自己注射可能部位
(青色)

腹部(へその周り5cmは避ける)、大腿部、上腕部(二の腕)の皮下に注射します。
患者本人が自己注射する場合は、腹部、大腿部に投与します。
(サノフィ株式会社デュピクセント資料より転載)

窓口負担は?

デュピクセントは高価な薬です。
厚生労働省の薬価では、300mg皮下注射シリンジ1本が約6万6千円です。2週間に1回の注射となると、保険適応であっても3割負担で相当な金額になります。そのため治療を継続するには、高額医療制度を利用しての治療が望ましいでしょう。
高額医療制度とは、1ヶ月の医療費の総額が一定の限度額を超えた場合、医療費の総額がいくらであろうと国が限度額以上を負担してくれる制度です。限度額は個人によって年収などを参考に細かく設定されています。また毎月高額医療を適用する場合、さらに負担が軽減される制度もあります。高額医療については、仕組みがやや複雑ですので、後日、別の頁で説明したいと思います。
実際にデュピクセントを使用する場合には、医療機関から窓口負担について、高額医療制度についての詳しい説明があると思います。

治療を受けたいときは?

デュピクセントの治療を受けたいと思ったら、まず患者さんご自身がデュピクセントの適応であるかどうかを医師に診断してもらわなければなりません。高価な薬だけに、適応はある程度厳しくなっています。
デュピクセントの適用は、”既存の治療で効果が不十分な”となっていますが、実際どのくらい難治性であれば治療の適応になるのかは明言されていません。したがって、適応の判断にあたっては主治医の判断になると思います。

患者さんご自身が、”鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎”と診断されていること、既に通常の内服治療を受けておられることが条件になります。鼻茸があって以前に一度手術治療を受けておられる場合は、鼻茸スコア、鼻閉重症度スコアの点数で適用条件を満たせば適応になります。
“好酸球性副鼻腔炎”と診断されていれば難治性ですので、適用条件を満たせば使用は十分考慮できます。手術既往がない場合は、手術できない医学的理由が必要です。(高齢、高度の合併症、全身状態など)
鼻茸をともなう慢性副鼻腔炎であれば好酸球性副鼻腔炎の有無は問いませんので、適用条件をクリアして通常の治療に抵抗性であれば、デュピクセントは使用可能と考えられます。ただし手術治療の適応と判断される場合は、”まず手術治療が優先的に選択され、その後再発などがあり、難治性であればデュピクセントの適応が考慮される” と考えておいた方が良いと思います。
好酸球性副鼻腔炎で一度副鼻腔炎の手術治療を受けたことがあり、再発してまた内服治療を続けている場合、適用条件さえクリアしていれば、ほとんど間違いなくデュピクセントは使用可能です。
ここで述べている適用条件とは、主に①鼻茸スコア5点以上、(各鼻腔2点以上)、②鼻閉重症度スコア2(中等症)以上、③嗅覚障害、鼻汁(前鼻漏/後鼻漏)等、3つです。①-③すべてが8週間以上持続していることが条件になっています。
デュピクセントの最終的な適応は問診や内視鏡所見、治療経過などから主治医が総合的に判断します。

デュピクセントについて詳しく知りたい方は、一度かかりつけの耳鼻咽喉科医にご相談されてみると良いかもしれません。
当院でもデュピクセントの治療を希望される患者さんに対応していますので、ご遠慮なくご相談ください。詳しく説明したパンフレットやwebサイトもありますので、各自ご確認ください。

webサイト サノフィ株式会社
https://www.support-allergy.com/

口呼吸

今回のテーマは口呼吸です。前回の鼻づまりに続く内容です。

口呼吸の弊害

鼻呼吸が障害されると口呼吸になります。
人間は鼻と口からしか呼吸できませんから当然ですね。でも同じ呼吸だから、鼻からだろうと口からだろうと空気を吸うことに変わりはないだろうと考えてはいませんか? じつは鼻呼吸と口呼吸には単なる呼吸量だけでは論じられない多くの違いがあるのです。これからそのことについて書いていきます。
口呼吸はなぜ良くないのでしょうか?
それは、つぎの7点に要約されます。

不正咬合と上顎下顎の 発育異常


歯科口腔外科領域では、すでに1900年台から口呼吸が顎(がく)顔面や歯列咬合の成長に及ぼす影響についての記載が見られます。歯科医師の間で、上顎前突の原因と口呼吸を関連づける議論が長い間されてきました。最近の報告では、口呼吸では上顎と下顎が前下方へ突出していく成長が見られることが多いため、これに関した歯列異常や咬合(噛み合わせ)の異常が起こってくることが多いと言われています。以前より矯正歯科医師からは、歯列の矯正治療に口呼吸が弊害になることが指摘されています。

咀嚼(そしゃく)機能の低下

鼻呼吸がうまくできないと、食事中は食物塊を噛みながら(咀嚼)、口呼吸しなければならないので当然、呼吸のために咀嚼が一時中断される現象が起きます。また咀嚼が中断されるため、食物塊を嚥下するまでの時間が延長します。咀嚼力も低下して、咀嚼機能全体が悪くなります。

唾液のバリア機能低下

口呼吸によって口唇離開時間が長くなると、口腔粘膜の乾燥が進み、唾液の分泌量が減り、唾液による自浄作用(バリア機能)がなくなります。虫歯や歯周病のリスクが高くなり、結果的に心臓血管系の合併症の危険性が高まることになります。

呼吸の中断

鼻呼吸障害によって口腔において咀嚼と呼吸を同時に行う必要に迫られるとき、呼吸機能への影響も議論されています。口呼吸時の食物咀嚼は、呼吸運動を一部制限します。噛みながら連続的に呼吸をすることは難しいのです。すなわち、呼吸するときは咀嚼をやめ、咀嚼するときは呼吸を中断しながら、両者を同時に行わなければならないのです。咀嚼による呼吸運動の一時中断は、肺換気量の減少と血液中の酸素飽和度の低下をもたらし、肺の伸展運動の受容体による刺激が呼吸中枢へと伝達されて呼吸補助筋による胸郭の運動が活発になることが知られています。つまり簡単に言うと、滑らかな連続的な呼吸ではなく、ときどき大きく息をするような呼吸になってしまう、ということです。口呼吸ではリズミカルな呼吸が難しくなるのです。

鼻肺反射の減弱

鼻-肺反射 ( nasal ventilatory refrex ) と呼ばれる反射があります。これは、鼻呼吸をしている時は、空気の通過による鼻の粘膜上にある受容体刺激が、呼吸中枢に伝わり、呼吸を促進させる反射のことです。したがって口呼吸の時は鼻呼吸量が低下するため呼吸の促進が起こらず、肺の換気能力が低下します。そのため、呼吸中の気流流量や換気量の低下が見られます。

鼻呼吸量の低下による肺の酸素-二酸化炭素交換能の低下

NO(一酸化窒素)は、鼻副鼻腔で産生され、肺の血管拡張を起こす働きがあることが知られています。
口呼吸では鼻呼吸量が低下するため、NO産生量が低下して、肺におけるガス交換能= “肺胞における酸素-二酸化炭素の交換能”が低下することが報告されています。
これは、たとえ口呼吸によって鼻呼吸と同量の換気がなされたとしても、肺胞レベルでの酸素と二酸化炭素の交換能力に差が生じて、最終的に呼吸機能の低下を招いてしまう事実を示しています。
これは、生理学的に非常に重要なことです。

加湿加温不足による肺胞の伸展制限

鼻呼吸のもう一つの重要な機能は、鼻粘膜上の水分による吸気の加温、加湿機能です。口呼吸によって吸気が加湿、加温されていないと、肺の伸縮性が低下して、肺胞における酸素-二酸化炭素交換が十分に行われなくなります。

結論

口呼吸の弊害をご理解いただけたと思います。口呼吸が悪いのですから、鼻呼吸をすべきです。
呼吸は非常に重要な生理機能です。ひとが生まれてから死ぬまで数十年のあいだ、たった数秒さえ自分勝手には止まりません。今、息を止めてみてください。苦しくて1分間も止められないでしょう。これほど重要な呼吸を、悪いやり方でやってはいけないのです。

肺呼吸は鼻呼吸と深く関連している
(イラスト)


鼻づまり

鼻づまり…耳鼻科の鼻の症状で、最もつらいものかもしれません。鼻づまりは、医学的に難しく表現すると、「鼻呼吸障害」です。
今回は、鼻づまりについて、書いてみます。

鼻呼吸とは?

鼻呼吸とは、外鼻孔から鼻腔を通り、咽頭、喉頭、気管を介して行う呼吸のことを言いますが、そもそも鼻呼吸とは何のためにあるのでしょう。
鼻呼吸の役割は、吸気の加温、加湿、浄化作用による、下気道の保護にあります。下気道とは、気管、気管支、肺のことです。さらに鼻呼吸には、鼻粘膜の知覚によって、呼吸の最適なリズムや深さを調整するという働きがあります。鼻呼吸が、呼吸のリズムや深さを調節するというのは不思議ですね。すこしずつ説明していきます。

鼻呼吸の生理

吸気時には、22.5℃の外気温は、鼻腔通過時に33.4℃まで加温され、吸気湿度は75-90%まで加湿されると報告されています。
外気湿度に関係なく、吸気の鼻腔内湿度は平均85%まで上昇するとされており、咽頭で90%、気管上部で最高99%に達すると報告されています。

15μmまでの塵埃(ダスト)はほぼ100%、鼻粘膜に吸着され、6μmまでの小粒子の80%は鼻粘膜で吸着されて除かれます。スギ花粉は30μm以上、ハウスダストは10μm以上ですので、ほとんどが鼻腔の粘膜に付着してしまう(=反応を起こす!)ことになります。

鼻粘膜は腫脹と収縮を繰り返し、呼吸のときに鼻腔内の通気性を自動的に調節することによって、通常の呼吸だけでなく花粉やハウスダスト、PM2.5、異物、有害物質などが、生命維持に重要な臓器である”肺”に直接侵入してくるのをブロックする働きを持っています。さらに吸気を極限まで加湿できる機能は、気管支、肺胞の粘膜を乾燥した空気から保護する重要な働きを担っています。

鼻呼吸障害とは?

“外鼻孔から鼻腔を通り咽喉頭、気管を介して行う生理的な鼻呼吸が障害され、口呼吸を余儀なくされている状態” をいいます。

鼻呼吸障害の原因は、①アレルギー性鼻炎、②慢性副鼻腔炎、③血管運動性鼻炎、④薬剤性鼻炎、⑤鼻中隔わん曲症、⑥アデノイド増殖症、⑦その他(腫瘍など)があります。

このうち、アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎による鼻粘膜の腫脹が、両側性の慢性の鼻づまりを、また鼻中隔わん曲症による鼻腔形態の解剖学的異常が一側性の鼻づまりと両側の交替性の鼻づまりを、それぞれ起こしやすい病態を作っています。薬剤性鼻炎も鼻づまりが起こる機序は違いますが、鼻粘膜の腫脹による鼻呼吸の障害という点では同じです。
慢性副鼻腔炎の鼻呼吸障害は鼻腔内の鼻茸(ポリープ)が大きくなった場合に起こりやすく、アレルギー性鼻炎や鼻中隔わん曲症の合併があるとさらに高度になります。
アデノイド増殖症による鼻呼吸障害は、主として小児にみられます。

上記から、鼻呼吸障害の原因は、鼻茸、アデノイドによる鼻腔内および鼻咽腔の機械的閉塞以外はほぼ全て、鼻中隔わん曲症および鼻腔内で最大の鼻粘膜容積を占める下鼻甲介粘膜の腫脹によるものであることがわかると思います。
とくに下鼻甲介粘膜の腫脹が鼻呼吸障害にもっとも影響を及ぼします。

神経伝達物質

鼻腔の通気性は、主として左右の鼻粘膜容積の増減によります。鼻粘膜容積の大部分を占める下鼻甲介粘膜は、左右ともす粘膜の腫脹と収縮を繰り返しており、自律神経の働きによってコントロールされています。これは、鼻サイクル( nasal cycle )と言われていて、片方の鼻粘膜が腫脹すると片方の鼻粘膜が収縮する反応を2-3時間ごとに左右交互に反復する、鼻内の生体現象です。
鼻粘膜を腫脹させる現象では、鼻内に分布している交感神経、副交感神経、三叉神経などの神経終末に存在している神経伝達物質が重要な働きをしています。

交感神経 
NE(norepinephrine ノルエピネフリン)
NPY(neuropeptide Y ニューロペプタイドY )
ATP(adenosine triphosphate アデノシン3リン酸)

副交感神経 
Ach(acethylcholine アセチルコリン)
VIP(vasoactive intestinal poly peptide バソアクティブインテスティナルポリペプタイド)
NO(nitric oxide 一酸化窒素)

三叉神経 
Substance P(サブスタンスP)
CGRP(calcitonin gene related peptide カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
ニューロキニン(neurokinin)

これらの神経伝達物質が鼻粘膜に細かく張り巡らされてる血管や神経に作用して、鼻粘膜の腫脹(鼻づまり)が起こるのです。
さらに、花粉症やアレルギー性鼻炎によって鼻粘膜周囲の肥満細胞その他の細胞から分泌される、ヒスタミン(histamine)、ロイコトリエン(leukotrien )、ブラディキニン(bladykinin )、血小板活性化因子(PAF: platelet activating factor)などが、NO(一酸化窒素)を介して鼻粘膜の腫脹を起こすと言われています。
一般に、昼間は交感神経優位になりますので鼻粘膜はやや腫脹しにくく、逆に夜間は副交感神経優位になりますので鼻粘膜は腫脹しやすくなります。また精神的に過度に緊張したり興奮したりしても、交感神経の働きでアドレナリン分泌が多くなり、鼻粘膜に分布する交感神経終末からのノルアドレナリン(norepinephrine ノルエピネフリン)分泌の増大によって鼻粘膜血管がつよく収縮するため鼻粘膜は収縮しやすく腫脹しにくくなります。夜間はこれと逆の現象が起こります。夜就寝時に鼻がつまってくることが多いのは、こういう理由によります。

鼻呼吸障害の診断

鼻呼吸障害は、簡単に言えば、鼻づまりです。鼻呼吸障害の検査は、鼻づまりを客観的に捉える検査方法です。

①Glatzel(グレッツェル)鼻息計
ステンレス製の金属板を外鼻孔直下において、鼻からの呼気に含まれる水蒸気によって金属板上の曇りの大きさで鼻腔の通過性を検査する方法です。窓ガラスに鼻息を吹きかけて見るのと同じ原理です。原理が単純で測定も簡単、結果を自分で容易に確認できる利点があります。一方、測定値を数値で表すことができず、客観性に乏しい難点があります。

②鼻腔通気度検査(Rhinomanometry リノマノメトリー)
電気回路のオームの法則を応用して鼻腔抵抗を求める方法です。鼻腔抵抗を鼻腔の圧/通気量と考え、電気抵抗(R)=電圧の差(V)/電流(I)の公式を応用します。
鼻腔抵抗=前鼻孔圧(P1)-後鼻孔圧(P2)/鼻腔通気量として計算します。前鼻孔圧の測定は容易ですが、後鼻孔圧の測定が難しいので、通常は対側の前鼻孔圧を代用して測定を行います。
片方の前鼻孔に圧センサーノズルをつめ、対側の前鼻孔に後鼻孔圧を代用する圧センサーノズルをつめて鼻呼吸を行い、片方ずつ測定します。これはノズルアンテリオール法といい、一般に最も多く行われている測定法です。鼻腔抵抗は、モニター画面にS字状の圧-気流量曲線として描出されます。左右の鼻腔通気性は、先に書いた鼻サイクル(nasal cycle) によって大きな影響を受けるとされていますので、仮に測定時の鼻腔抵抗が明らかな高値でなかったとしても、一度のみの測定では正確な鼻呼吸障害の診断が行えない危険性が指摘されています。鼻粘膜腫脹の環境による変化や日内の変動も考慮して、必要ならば複数回の測定を行なって総合的に判断を行うのが正しい評価方法とされています。
鼻腔抵抗の正常値を決定することは前述の理由で困難とされていますが、あくまで参考値として、0.25Pa/cm3/sが提唱されています。

鼻腔通気度計 (チェスト社製)
鼻腔通気度センサー
(チェスト社製)

https://www.chest-mi.co.jp/product/respiratory/hi-801.html

③CT, MRI
骨軟膏と粘膜に覆われた鼻副鼻腔の解剖学的特徴から、鼻腔通気に関係する解剖学的空間の確認にはCTによる画像診断が優れています。MRIは軟部組織の描出に優れていますので、特殊な鼻副鼻腔疾患の診断を除けば、通常はCTのみで十分有意な情報が得られます。

④音響鼻腔計測検査(Acoustic Rhinometry アコースティックリノメトリー)
原理は、鼻腔内に放射した音の反射を利用して前鼻孔から任意の距離の鼻腔断面積を測定する検査方法です。
長さ50cmの金属筒の先端ノーズピースを前鼻孔にあて、開口し息を止めて片方ずつ鼻腔抵抗を測定します。日本国内で医療機器として承認されているのは英国製の測定機器(A-1 Executive acoustic rhino meter) 1台のみですが、現在、保険適応外の検査になります。
非常に詳細な鼻腔通気の測定が可能です。
縦軸に前鼻孔からの距離、横軸に左右の鼻腔断面積をとった断面積-距離曲線(area-distance curve) が描かれ、左右別にどの位置でどれくらい鼻づまりが起こっているかを正確に評価できます。鼻腔内の正確な位置による鼻腔の開存性を視覚的に理解し客観的に評価できるため、現在もっとも優れた鼻腔通気度の検査方法と言えます。
グラフより最も鼻腔通気のわるい部分=最小鼻腔断面積(minimum cross-sectional area MCA)の検出と、積分法を用いて任意の鼻腔空間における鼻腔容積(=鼻腔空間の体積 nasal volume)を計算可能です。
最小鼻腔断面積の日本人の平均値は、0.5-1.0 cm2 と報告されています。
かなり狭い数値ですね。

reset
アコースティックリノメトリー
The A1 Acoustic Rhinometer
(GM Instruments )
Nasal Investigation - A1 Rhinometer & NR6 Rhinomanometer

(https://pdf.medicalexpo.com/ja/pdf-en/gm-instruments/nasal-investigation-a1-rhinometer-nr6-rhinomanometer/96001-234279.html#open597269)

Acoustic Rhinometer の使用
https://www.medicalexpo.com/ja/prod/happersberger-otopront/product-69631-448648.html

鼻腔通気度検査の数値

先の項で、鼻腔通気度検査が最も一般的な検査であること、しかし鼻サイクルなどの理由により検査結果の数値は正確に判定するには困難がともなうことを書きました。
しかし、実際の臨床では検査を行なって何らかの判定を行い、治療を進めなければなりません。一般には、鼻腔通気抵抗値が、0.25未満を正常、0.25-0.50を軽度鼻閉、0.50-0.75を中程度、0.75以上を高度鼻閉と分類する基準が提唱されています。したがって、この数値を基準に、実際の鼻症状とあわせて総合的に判断することが望ましいと思われます。

鼻呼吸障害の弊害

鼻呼吸障害について述べてきました。鼻呼吸の生理、原因や診断、検査についても理解しました。
鼻呼吸障害= “鼻呼吸ができないこと” は、いったい何がそんなに悪いのでしょうか? それは極論すれば、鼻呼吸ができないと最終的に口呼吸に移行することなのです。言い換えれば、鼻呼吸ができず口呼吸をするようになって、口呼吸の弊害が問題になるのです。

口呼吸と鼻呼吸!

口呼吸は何故悪いの?

それでは何故、口呼吸はそれほど悪いのでしょうか。これはかなり複雑な問題です。単に口が開いてるとだらしないから… などの問題ではありません。呼吸の生理学や上顎下顎、咽頭喉頭の解剖学が深く関係してくることなのです。
口呼吸についての議論は長くなります。それはつぎの頁で詳しく書くことにします。

(→ Topics 口呼吸 に続きます。)

つらい鼻づまりは自然に口呼吸へ
(イメージです)

後鼻神経切断術

後鼻神経切断術について書きます。
すでに当院HP上で説明していますが、どのような手術でどのような症状にする手術なのか、再度理解していただきたいと思います。
後鼻神経の読み方は “こうびしんけい” です。

後鼻神経とは?

後鼻神経とは何でしょう。
後鼻神経は、上顎洞の後壁後方に存在する翼口蓋神経節から始まり、鼻腔の約7-8cm奥の鼻腔側壁にある蝶口蓋孔から、鼻腔を栄養する血管の1本である蝶口蓋動脈に伴走して鼻腔内に出てきます。翼口蓋神経節は、翼突管神経(ヴィディアン神経)とも繋がっています。後鼻神経は副交感神経の1つの種類であり、鼻腔内の副交感神経バランスを調節しています。元来、鼻腔内の粘膜は自律神経支配によるコントロールを受けているため、交感神経-副交感神経系の調節による影響を多く受けやすい器官です。後鼻神経は蝶口蓋孔から出た後、枝分かれしながら鼻腔側壁を走行し、主として左右の下鼻甲介、中鼻甲介に分布しています。
重症のアレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎などで、過剰な副交感神経刺激が続くと、後鼻神経が過度に興奮した状態となり、もとに戻らなくなって、くしゃみや鼻汁分泌が亢進したまま鼻炎が抑制されずに悪循環に陥ってしまいます。

翼口蓋神経節とは?

上顎洞後壁後方に存在する副交感神経節です。前回のトピックス(くしゃみ はなみず)でも書きましたが、翼口蓋神経節はアレルギー性、非アレルギー性にかかわらず”鼻炎のセンター”としての役割を担っていると言えるのです。
翼突管神経も翼口蓋神経節から始まり、別方向に走行しますが、同じく鼻炎のセンター神経の役割があります。

神経の興奮を抑える?

後鼻神経の過剰な興奮が続くことが、慢性鼻炎の病態であることがわかっています。したがって慢性鼻炎を根本的に治療するには、後鼻神経の興奮を抑える必要があります。軽症の鼻炎であれば薬の内服で一時的にせよ効果が期待できますが、重症の鼻炎や慢性鼻炎を反復する例に対して、もっとも確実な方法は神経切除です。外科的に後鼻神経を切除する手術を、後鼻神経切断術といいます。現在、慢性鼻炎に対してもっとも効果の高い治療方法と位置づけられています。アレルギー性鼻炎だけでなく、アレルギーのない温度差や自律神経のアンバランスで起こる血管運動性鼻炎などを含めた鼻過敏症が、この手術の治療対象となっています。

後鼻神経切断術とは?

後鼻神経切断術の手術方法については、当院ホームページに手術の概略が載せてあります。詳しく知りたい方は参照してください。(鼻の手術→後鼻神経切断術)

鼻炎の抑制は?

後鼻神経切断術を行ったときの慢性鼻炎の抑制効果は一体どのくらいでしょうか。1997年に始めて報告された比較的新しい手術方法であり、まだこの手術の歴史は20年くらいと言って良いと思います。長期間の手術後経過を体系的に評価した報告はまだありません。当院での鼻症状改善度は、鼻づまりはほぼ100%、鼻水は80%以上、くしゃみは50%以上の治療効果が認められています。全国的な諸施設での手術成績もそれに近い数値が報告されています。
手術後一定期間経過(数年)後に一時的に鼻炎症状が再発することはありますが、多くの場合、一時的な内服治療で症状を抑えることができます。
根治性の高い治療方法です。

適応は?

後鼻神経切断術の適応は、アレルギー性、非アレルギー性の鼻過敏症で、症状がひどく内服治療でのコントロールが不良である患者さんが対象になります。

合併症は?

現在報告されているこの手術に関する合併症で、いちばん問題になるのは術後3-4週間くらいで起こる遅発性の術後出血です。手術中の出血量は10cc程度であり侵襲の少ない手術ですが、手術から3-4週経過後に、手術後の創部感染につよい鼻かみや重量物運搬などのいきみや怒責動作が加わったとき、条件が揃うと出血が起こることがあります。怒責をしないことと感染の治療コントロールでほとんど回避できます。頻度は0.5%前後との報告がありますが、当院の症例では、2022年現在全く見られなくなっています。

後鼻神経切断術を受けたいとき

アレルギー性鼻炎、非アレルギー性鼻炎の鼻過敏症や慢性鼻炎で、鼻症状がつよく、薬の治療で症状が良くならないとき、再発を繰り返すときなどは、後鼻神経切断術の適応になります。まずは、かかりつけの耳鼻咽喉科でご相談ください。

当院はアレルギー性鼻炎に関して50年以上の手術治療の歴史があり、後鼻神経切断術は現在までに4000例以上行っています。
ご興味がおありの方は当院ホームページの下記ページでご確認ください。

後鼻神経切断術

当院独自の手術治療
手術術式の改良
-後鼻神経切断術について-

重症のアレルギー性鼻炎に効果のある「後鼻神経切断術(こうびしんけいせつだんじゅつ)」とは?

鼻ばっかりかんで
辛いよね…
(イメージです)

耳の気圧外傷

圧外傷て何?と聞かれそうです。圧外傷とは、水圧や気圧で外傷を負うこと。生体に急激な水圧や気圧の変化がかかったとき、耳にも圧変化による障害が起こります。これを、圧外傷と言います。ここでは、一般に多い気圧外傷について述べます。あなたが、飛行機に搭乗した時の話です。

気圧外傷のメカニズム

周囲の気圧が、上昇するときと、下降する時の2つに分かれます。

問題になるのは、中耳圧です。中耳とは、鼓膜の内側、内耳との間の空間です。鼓室ともいいます。耳小骨が並んでおり、周囲は空間です。わずか0.3 mlの空気しかありません。耳管という細い管で咽頭につながり、ここが弁のようになって空気圧を調整しています。

周囲の気圧が変化するとき、人は、嚥下や開口動作を無意識に行って、中耳圧を気圧と等しくしています。飛行機の下降時、高層ビルのエレベーター上昇時。急勾配の長い坂道などです。

圧外傷が起こるのは、もともと耳管機能が不良な人、または、風邪や咽頭炎、鼻副鼻腔炎で耳管が閉塞しているとき。耳管咽頭口が開かず、中耳の圧調整が全然できなくなります。すなわち、中耳が閉鎖空間になるのです。

気圧上昇のときは、外耳道圧が上昇しますので、中耳圧は相対的に陰圧になります。このとき、陰圧の影響を受けるのは、鼓膜と、内耳にある2つの窓(前庭窓と蝸牛窓)です。陰圧ですから、これらは、中へ引き込まれます。ただし、前庭窓には、耳小骨のアブミ骨がはまっているので、鼓膜と耳小骨連鎖を介して、鼓膜と同じ方向の動きが生じます。前庭窓は内耳側へ押し込まれ、蝸牛窓だけが中耳側へ引っ張られます。(図1 赤色矢印)

気圧下降のときは、これと全く逆のメカニズムです。外耳道圧は下降します。中耳圧は相対的に上昇しますので、鼓膜と2つの窓は、どれも中耳側から押されます。上記のとおり、前庭窓は鼓膜と同じ方向に動きます。前庭窓は中耳側へ引っ張られ、蝸牛窓だけが内耳側へ押し込まれる形になります。(下図 青色矢印)

わかりやすいように、図にしました。

図1 気圧上昇時と下降時の中耳圧と内耳圧の変化
外気圧上昇時(赤色矢印) 飛行機着陸 潜水上昇
外気圧下降時(青色矢印) 飛行機離陸 潜水下降

アップルペンシルがなくて、指先で描きました。図がきれいでなくてすみません。

中耳圧外傷

基本的に、中耳の空気は、耳管から外(咽頭)へは出やすいが、中には入りにくい特徴があります。そのため、中耳圧外傷は、気圧が上昇するときに多く起こります。このとき中耳は相対的に陰圧になるので、鼓膜の内側に滲出液や血液が貯留します。いわゆる中耳炎です。
ダイビングで起こる中耳炎や飛行機の搭乗時に起こる航空性中耳炎は、これです。
気圧の上昇時に起こりやすいので、ダイビングでは、潜っていくとき、飛行機では、着陸するときに起こりやすいことがわかります。

内耳圧外傷

内耳圧外傷も中耳圧外傷と同じメカニズムです。ただし、内耳圧外傷は、やや複雑です。
①気圧の変化によるもの
②常圧下での急激な圧変化によるもの
③爆風によるもの

があります。このうち①は、中耳圧外傷と同じです。内耳圧外傷に特徴的な②と③について述べます。②の主な原因は、鼻かみ、怒責。③の原因は、爆風、平手打ちです。

鼻かみ・怒責

常圧下で起こることと、急激な圧変化で起こることが特徴です。メカニズムは、①の気圧の変化によるものと同じです。

つよい鼻かみのとき、耳管から空気が押し込まれ、急激に中耳圧が上昇します。鼓膜は外耳道側へ、2つの窓は内耳側へ押し込まれます。ただし、前庭窓は鼓膜の動きに連動しますので中耳側へ引かれます。ここまでは気圧が下降するときと同じです。これからがポイントです。

内耳の2つの窓で閉鎖されている空間には外リンパ液が充填されています。前庭窓を押すと蝸牛窓が、蝸牛窓を押すと前庭窓が、それぞれ逆方向に動きます。片方の窓を押し込むと、片方の窓は浮き上がる、という動きです。この外リンパ液は、細い管で脳脊髄液と交通しています。

ここで、つよい鼻かみの場合を考えてみます。つよい鼻かみのとき、先のメカニズムで、前庭窓は中耳側に引っ張られ、蝸牛窓は内耳側へ押し込まれます。同時に、鼻かみによってつよい脳脊髄圧の上昇が起こります。脳脊髄液と外リンパ液は交通していますので、鼻かみによる脳脊髄圧の上昇は、外リンパ液に伝わり、2つの窓を中耳側へ押し出そうとします。このとき蝸牛窓は、中耳圧によって内耳側へ押し込まれていますから、圧がキャンセルされてしまいます。一方、前庭窓は、鼓膜と連動して中耳側へ引っ張られているところに、外リンパ液の圧上昇によって、さらに中耳側へ押し出されます。2つの動きが重なって大きな動きになります。つよい圧変化が前庭窓にかかることになり、アブミ骨の底板が浮き上がったりズレたりして、外リンパ瘻が起こりやすくなります。

怒責のときも、全く同様です。怒責のときは、多くの人が、大きく息を吸い込んで止めていきみます。中耳圧の上昇と脳脊髄圧の上昇が起こります。鼻かみと同じメカニズムが起こります。前庭窓が中耳側へつよく引っ張られ、アブミ骨の底板が浮き上がり、外リンパ瘻を起こします

つよい鼻かみと怒責作業は、外リンパ瘻の原因で多いものですが、このときは、前庭窓からの外リンパ瘻が起きている可能性が高いと予想されます。

爆風

工場での爆発などで、つよい爆風を受けると、どうなるでしょうか。圧変化からは、気圧の上昇時と同じメカニズムです。ただし常圧下で起こるため、蝸牛窓は、中耳側でなく、内耳側へ押し込まれます。蝸牛窓は、鼓膜が爆風によるつよい圧によって急激に押し込まれるため、前庭窓が、内耳側へつよく押し込まれることになります。周囲の気圧変化のように一定の時間を経過せず、一瞬での急激な圧上昇ですから、前庭窓も、急激に内耳側へ押し込まれます。この急激なアブミ骨の押し込みが、前庭窓からの外リンパ瘻を起こす可能性があり、さらに爆風では、蝸牛窓も同時に押し込まれますので、両窓の破裂が起こる可能性が予想されます。

爆風では、潜水や飛行機と違い、鼓膜にかかる一瞬の圧力は強大ですから、当然、外傷性鼓膜穿孔も生じることが多く、内耳圧外傷と中耳圧外傷を合併した病態になります。

爆風ほど強大ではありませんが、これは、平手打ちなどの耳への暴力によっても、起こります。平手打ちのときは、多くの場合、鼓膜穿孔がみられます。

まるで、物理の講義みたいでしたが、圧外傷は、圧がどっちにかかるか、だけがポイントです。図を見て理解していただくと、ありがたいです。再度、前にお見せした図を書きます。

図1 気圧上昇時と下降時の中耳圧と内耳圧の変化
つよい鼻かみ、怒責のときは、中耳圧が急上昇して
2つの内耳窓は内耳側へ押し込まれる(青色矢印)が、前庭窓は鼓膜と連動するため中耳側へ引かれる。鼻かみ、怒責による脳脊髄圧の上昇は、蝸牛窓、前庭窓を中耳側へ押し出し、結果として、蝸牛窓での圧はキャンセルされる一方、前庭窓の圧は同方向に加重される。

指先ドローです。見にくいかもしれませんが、図を見てよく考えてください。

検査・診断

視診、鼓膜の内視鏡検査、純音聴力検査、眼振検査を行います。側頭骨CTによる画像診断も必要です。

中耳圧外傷は、中耳炎の診断と治療になります。中耳滲出液の性状が、滲出性か血性かを診断します。伝音難聴の程度を確認します。
感音難聴が起こっているかどうかで、内耳圧外傷を合併しているかの予想がつきます。

内耳圧外傷は、感音難聴、めまい、耳鳴の症状があります。外リンパ瘻に準じて、検査、診断を進めていきます。爆風によるものでは、鼓膜穿孔を伴うことが多く、鼓膜穿孔の診断と治療も並行して行います。

純音聴力検査は、感音難聴が起こっているか、が重要です。内耳圧外傷による感音難聴は、低音障害型、高音障害型、水平型、聾型など、さまざまなパターンを示します。爆風によるものは、高音障害型が多くみられます。原因として、アブミ骨の急激な振動と偏位が考えられます。

外リンパ瘻の側頭骨CTでは、内耳、前庭腔に小気泡が確認されることもあります。また、内耳圧外傷による外リンパ瘻の診断のときは、上半規管裂隙症候群の鑑別診断の必要がありますので、側頭骨CTは、必須の検査です。

治療

中耳圧外傷で中耳に滲出液や血液が貯留しているとき、中耳炎に対する治療を行います。感音難聴がなければ、保存的に治療し、感染予防を行います。

内耳圧外傷は、治療パターンが複雑です。受傷機転が違いますので、症例ごとに慎重に行います。外リンパ瘻は、急性感音難聴ですので、突発性難聴に準じて治療します。ステロイド治療が中心です。鼓膜穿孔を合併するときは、合わせて、抗菌薬による感染予防を行います。

感音難聴の治療が、最優先されます。外リンパ瘻は、自然閉鎖もありますので、1週間ほどは保存的に治療します。頭部を高くして安静にし、つよい鼻かみや怒責を禁止します。
感音難聴が高度であるとき、聾型のとき、激しいめまい、めまいが改善しないとき、治療中に感音難聴が進行するときは、手術治療を考慮します。(内耳窓閉鎖術)
鼓膜穿孔は、手術時に閉鎖します。

感音難聴は、治療によっても改善せず、残ってしまうこともあります。治療開始は、できるだけ早期が望ましく、受傷から3週間以降は、治療効果がみられないことが多いことを理解する必要があります。

おわりに

内耳の気圧外傷について、書きました。簡単にまとめるつもりでしたが、長くなりました。

とにかく、耳は非常に繊細な器官で、さまざまな環境変化によって、障害を受けやすいことを理解してください。とくに内耳障害は、治療を行っても、感音難聴が生涯聴力として残ることがあります。できるだけ早く、耳鼻咽喉科を受診してください。

爆風などでは受診しますが、鼻かみや怒責作業のあと、平手打ちで、耳がつまった感じだけのときもあります。めまいがひどくなく、フラフラ感だけだと、つい大丈夫と思ってそのままにしている人がいます。3週間を過ぎると、落ちた聴力は治りません。

どうか、すぐに、耳鼻咽喉科へ。
決してそのままにしないで!

難聴とめまいで休んでいる女性 (イメージ)

5月8日在宅医のお知らせ

令和4年5月8日(日曜日)は在宅医です。

診療時間は、

午前9時-12時
午後1時-5時

です。当ホームページから時間指定予約が可能です。ご利用ください。待ち時間はかなり短縮されます。
ただし、緊急の患者さんがおられた場合、時間どおりに診察できないことがあります。ご了承ください。

外リンパ瘻 -その1-

今回は、特殊なめまい=外リンパ瘻 について書きます。

外リンパ瘻って何?

内耳の外リンパ液の漏出によって、めまい、難聴、耳鳴、平衡障害などの症状をきたす疾患です。内耳の蝸牛、前庭には、内リンパ液、外リンパ液が入った薄い膜のチューブのようなものが渦巻き状の骨のトンネルの中を2回転半しています。外リンパ瘻は、さまざまな原因で、この外リンパ液が内耳の外に漏れ出た状態です。蝸牛窓、前庭窓、内耳骨折部位などが漏出部位になります。頭部外傷後のアブミ骨底板骨折などは、ふだんは漏出が停止していても、外圧がかかると漏出が始まる、3rd mobile window (3番目の可動性の内耳窓)となっていることがあり、長期間にわたる慢性のめまいや変動する感音難聴の原因になったりします。

原因は?

耳鼻咽喉科の臨床で頻度が高いのは、耳かきによる耳小骨外傷や、転倒やエアバッグ外傷による頭部打撲、交通事故による頭部外傷、スポーツ中ボールが耳に当たる、耳介への平手打ち、ダイビングや飛行機搭乗後の圧変化、つよい鼻かみ、重量物運搬による怒責、トイレでのいきみ、激しい咳の後、くしゃみを無理に我慢したとき、強大音外傷、アブミ骨手術後や中耳手術後、真珠腫性中耳炎による内耳瘻孔(ろうこう)など、つよい振動や圧変化、怒責動作、手術による侵襲などが原因となっています。このうち急激な気圧変化による気圧外傷については、別頁で述べていますのでご確認ください。( 耳の気圧外傷 )
小児の反復性髄膜炎では、原因となる先天性の瘻孔の存在も見逃さないようにする必要があります。

診断は?

つよい鼻かみにより急激な鼓室、脳脊髄圧の上昇が起こり、外リンパの漏出が起こる場合は意外と多く、特発性外リンパ瘻と呼ばれています。めまいを伴う突発性難聴との鑑別が必要です。

重量物運搬時の怒責や力み動作によっても、脳脊髄圧の急激な上昇が起こり、つよい鼻かみと同じ病態が起こります。

これらの誘因によって、サーッと水の流れるような音、発症時の恐らくは内耳膜が破れるポン、パンという音(pop音)の存在、つよい鼻かみ直後から起こるめまい、ふらつき、難聴などの特徴的なエピソードが起こります。このような症状が聞き出せたら、外リンパ瘻を疑わなければなりません。

急激に難聴が進行して、数日で聾になる症例や、難聴は高度でなく、数ヶ月から数年間、または10年以上、慢性のめまい発作をたびたび繰り返しながら経過する例、感音難聴が数年間にわたり、変動する例など、外リンパ漏出のしかたや量などによって、さまざまな個別のエピソードを呈します。

眼振が観察されるのは70%、外耳道の加圧でめまいを生じる瘻孔症状は50%にみられます。しかし、どこまで疑わしくても、最終的な確定診断は、試験的鼓室開放術といい、実際に手術で中耳腔を観察して、内耳窓からのリンパ液の漏出を目視で確認することです。ただ、外リンパ瘻自体が、自然停止したり、漏出が始まったりを繰り返すことも多いため、手術中に必ずしも明らかな漏出が確認しにくい症例も存在します。

近年、生化学的診断マーカーとして、外リンパ中にコクリン蛋白の存在が確認され、中耳腔からのコクリン蛋白の検出と外リンパ瘻の存在が相関することが報告されています。中耳腔からのコクリン蛋白の測定を実施している医療機関もあります。ただ、その検査は100%には遠いため、検査結果の判定には慎重にならなければなりません。

治療は?

外リンパ瘻には、自然閉鎖があります。軽度の漏出と判断されたら、まず保存的に治療を行います。安静をこころがけ、怒責やつよい鼻かみを禁止して、1-2週間経過観察します。めまいには抗めまい薬、難聴にはステロイド薬を投与して、自然閉鎖を待ちます。

内服薬が効果なく、めまい症状がどんどん悪化するときや、急激な感音難聴の進行は、緊急手術の適応となります。また、安静時は症状の軽減があっても、安静解除とともにめまいや難聴が増悪する例も、手術の適応になります。

手術は、内耳窓閉鎖術といい、蝸牛窓および前庭窓を筋膜小片で閉鎖し生体糊で固めます。簡単な手術に入りますが、手術後にすぐに怒責やつよい鼻かみをすると再度漏出が起こりますので、手術後の安静が非常に重要です。2週間で通常の生活には戻れますが、重量物運搬などのつよい怒責作業や、飛行機搭乗、ダイビングなどは、3ヶ月間禁止する必要があります。稀ですが再発例もあります。

私の経験した例では、最長10年間以上、ふらつきが続いており、難聴はなく、他に鑑別疾患がなかった症例がありました。内耳窓閉鎖術によって、ふらつきは完全に停止しました。

また、入浴後、つよい鼻かみで発症した例は、数日でほとんど聾になり、緊急手術を行ったのち、聴力が完全回復した症例もあります。

強大音響で発症した外リンパ瘻では、10日後に聾になった直後、緊急手術を行いましたが、聴力の回復はみられませんでした。

外リンパ瘻かも?

めまいがあったとき、まずは外リンパ瘻の病名を頭の片隅におくことです。知らないとかんがえもしませんが、この頁を読まれた方は、すこし思い出してください。

そして、自分がどんなふうにしてめまいが起こったのか、よく考えてみることです。先の、つよい鼻かみの直後からだったり、仕事で重量物運搬をした後からふらつきが起こったとかのエピソードがあれば、外リンパ瘻の可能性はかなり高いと思われます。

迷わず、耳鼻咽喉科へ直行してください。

浮動性めまい (イメージ)
階段を降りるとフラフラします
外リンパ瘻がひどくなると仕事にも支障をきたします
(イメージ)

メニエル病について -その1-

今回は、耳鼻咽喉科外来で頻度の高いメニエル病について述べてみます。
メニエル病は、メニエール病とも表記されます。

メニエル病って何?

メニエル病という病名を聞いたことがない方はいないと思います。どんな病気か本当は詳しく知らないけれど、それが何となくめまいを起こす耳の病気だとはうっすらと理解されている方も多いのではないでしょうか。

メニエル病とは、回転性めまいを反復し、難聴や耳鳴などの蝸牛症状をともなう疾患であると定義されています。いわゆる、めまい、難聴、耳鳴の3主徴です。好発年齢は50-60歳で女性に多く、病態は、内耳の内リンパ水腫と言われています。

内リンパ水腫とは、内耳に繋がった内リンパ嚢(のう)と呼ばれる小さな袋で産生される内リンパ液が過剰に産生されて、内リンパ液が入った内耳の膜(内リンパ腔)がいわゆる水膨れを起こした状態です。

診断は?

メニエル病の診断は、じつは意外と複雑で、1974年の診断基準がわかりやすいので引用します。以下、

① 発作性の回転性めまいを反復する
②めまいに伴って変動する蝸牛症状(難聴、耳鳴)がある
③第8脳神経(聴神経)以外の神経症状がない
④原因が不明

2008年に診断基準が改定され、以下のようにすこし細かく分類されています。ここでは、メニエール病と表記されています。

Ⅰ. メニエール病確実例

難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する

Ⅱ. メニエール病非定型例

①メニエール病非定型例(蝸牛型)
聴覚症状の増悪、軽快を反復するが、めまい発作を伴わない

②メニエール病非定型例(前庭型)
メニエール病確実例に類似しためまい発作を反復する。一側または両側の難聴などの聴覚症状を合併している場合があるが、この聴覚症状は固定性でめまい発作に関連して変動することはない

○原因既知の疾患の除外
メニエール病と同様の症状を呈する、外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群などの内耳、後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など原因既知の疾患を除外する必要がある。

(メニエール病診療ガイドライン2011年度版
厚生労働省難治性疾患克服研究事業前庭機能異常に関する調査研究班(2008-2010年度)/編) 一部省略、抜粋

何か、ものすごく複雑な文言ですね。

診断基準がより細かく複雑になっています。これだけ診断基準が変わっているということは、原因と病態がまだよくわかっていなかったメニエール病が医学的にかなり解明されてきたということに他なりません。

診断基準の話が長くなってしまいましたが、重要な点は、今まで、めまい、耳鳴り、難聴の3主徴のみの診断だったメニエール病という疾患が、
①めまい発作を伴わないことがある
②難聴や耳鳴を伴わないことがある
の2点ではないでしょうか。診断の幅がより拡がっています。とにかく内耳の機能は、蝸牛と前庭ですから、その片方または両方が障害される内耳疾患と理解してください。内耳疾患の本体は、内リンパ水腫です。
最近では、内耳のMRIで内リンパ水腫を画像診断できる技術が一部で可能になっています。

症状は?

診断基準でかなり詳しく書いたので、その通りです。簡単に言うと、
回転性めまい(浮動性めまいのこともあります)を反復し、難聴や耳鳴りを伴ったり伴わなかったりする
ということになります。
メニエル病のめまいは、反復することが特徴です。逆に反復しないメニエル病はありません。くり返すめまいがいちばん重要な症状です。めまいは回転性(ぐるぐる回る)のことも浮動性(フラフラする)こともあります。めまいは、数時間から数日、数週間続くこともあります。めまいの激しさも、起き上がれないほどのめまいと嘔吐を起こすものから、軽くフラフラするめまいまで、個人差があります。難聴も先の診断基準の通り、ともなう場合も伴わない場合もあります。難聴を伴うときは、低音域の難聴が起こります。メニエル病は、めまい発作を繰り返すときは、比較的診断しやすいのですが、メニエル病の初回発作のときは、他の疾患の可能性を慎重に除外しながら診断しなければなりません。
一つ重要なことは、メニエル病は、慢性期に入ると、だんだん聴力が落ちてくることです。また、30%に両側性がみられます。

治療は?

メニエル病の治療は、内耳の内リンパ水腫に対する治療です。内リンパ水腫が改善されれば症状は良くなります。
内リンパ水腫の治療薬の代表は、イソバイドとよばれる浸透圧利尿薬です。とても飲みにくい薬ですが、非常に効果のある薬です。
メニエル病の治療は、完治させる治療ではなく、あくまで症状をコントロールする治療になります。
急性期のめまい発作が激しいときには薬も飲めないため、めまい止めの点滴と安静臥床が治療の中心になります。暗い静かな部屋で楽な姿勢で、頭を動かさないようにして目を閉じて安静にします。メイロンというつよいめまい止めの点滴が効果的です。激しいめまい発作でも1-2時間でかなり楽になります。急性期に一時的にステロイド剤を使用することもあります。感音難聴が進行するとき、両側性に悪化するときにも、ステロイド剤の投与を行います。めまいが落ち着いてくると飲み薬での治療を行います。特効薬のイソバイド、抗めまい薬、利尿剤、循環改善薬、ビタミン剤、抗不安薬などを内服します。メニエル病は、過労やストレス、睡眠不足などで悪化することが知られています。日常生活を見直し、ストレスを回避して、軽い有酸素運動などは勧められます。めまいの不安をとってあげることは自信にもつながり治療にとても有効です。日常生活に支障をきたさない範囲で安定剤を上手に使います。夜間ぐっすり眠れると内耳の疾患は良くなることが多い印象があります。めまいが起きなくなってもしばらくの間は、内リンパ水腫が存在する事を念頭に置いて、内服薬を続けます。先ほどのストレスによる悪化を防ぐため、規則正しい生活習慣も重要です。症状が完全に消失して時間も経過すれば、治療はいったん中断してかまいません。また症状が起きたときに治療を開始します。人によっては、症状が出そうな感じがわかることが多く、早めにお薬を取りにきたりします。少しずつ、自分で上手にコントロールできるようになってきます。ここまでくれば、メニエル病はまったく怖い病気ではなくなります。

難治性のメニエル病は?

生活習慣に気をつけ、イソバイドの内服治療を継続して行っても、めまい発作がコントロールできない難治性のメニエル病が存在します。
このような症例では、外科的な治療が必要になることがあります。内リンパ嚢(のう)開放術といって、内耳の奥の小さな嚢状の袋を切開して内リンパの排泄路を作り、減圧する手術です。再発がみられること、効果が永続的でないことなどから、最重症の症例が手術の適応になります。
2018年、中耳加圧治療が、新しい治療法として保険適応となりました。これは、耳栓から強弱をつけた圧波を送り、鼓膜と耳小骨の振動を通して内耳に伝わった圧波が内耳の内リンパ水腫を改善させる、非侵襲的な治療法です。1日2回、3分間の治療を自宅で行います。必ず月1回の受診と毎日のめまい日記の記入が必要です。難治性メニエル病と遅発性内リンパ水腫が適応になります。長期的な報告はまだ少ないですが、難治性のメニエル病の新しい治療法として注目されています。

予後は?

メニエル病の長期予後は、良く知っておく必要があります。メニエル病の予後で最も問題になるのは難聴です。初期のメニエル病は、難聴は可逆性です。しかし、めまい発作を反復すると、難聴は次第に不可逆性になります。
難聴の進行は、40db程度の中等度感音難聴で停止します。メニエル病で聾になることはありません。さらにめまい発作を繰り返していくと良聴耳の難聴が進行します。長期的には30%の症例が両側性のメニエル病に移行すると言われています。最終的に両側のメニエル病が進行して内リンパ水腫が高度になると、両耳の中等度難聴が固定して進行は停止します。
メニエル病の治療の最終目標は、めまい発作の反復を抑制し、難聴の進行を予防することに尽きます。

おわりに

メニエル病は、完治しないので、ある意味嫌な病気かもしれません。症状が軽くてもときどき調子が悪くなれば医療機関に通わなければなりません。しかし、考え方を変えれば、別の見方もできます。
メニエル病がある人は、何もない人よりもきっと生活習慣に気をつけるでしょう。お酒を飲みすぎないようにし、夜更かしをせず、規則正しい生活をこころがけ、睡眠時間を十分にとり、ストレスを避けて適度な有酸素運動をするでしょう。これは、もっと重大な心臓や脳血管の病気、または肝臓や腎臓の病気を起こさないように予防していることにはならないでしょうか。
メニエル病の方には叱られるかもしれませんが、一病息災とは、まさにこのことです。

回転性めまい (イメージ) (実際の見え方とは違います)
浮動性めまい (イメージ) (実際の見え方とは違います)

めまい -その1-

今回は一般外来診療で患者さんの訴えの多いめまいについて書いてみたいと思います。

めまいって何?

めまいとは何でしょう?

めまいは
安静にしているときあるいは運動中に、自分自身の体と周囲の空間との相互関係、位置関係が乱れていると感じ、不快感を伴ったときに生じる症状

と定義されています。なんだか難しそうな言葉ですね。でも簡単に言うと、自分の体と周囲の位置関係がわからなくなっている状態と言い換えることができるかもしれません。めまいは耳鼻咽喉科だけでなくそれこそ内科外科脳神経外科などすべての臨床科で多く訴えのある症状です。

どんな症状?

めまいは、症状の起こりかたから、回転性めまい(ぐるぐる回る)と非回転性めまい(フラフラする)に分けられます。また、急激に発症するめまいと緩徐に発症するめまいに分かれます。

原因は?

めまいは、その原因から、大きく分けて脳血管などからの中枢前庭系のめまいと内耳からの末梢前庭系のめまいに分けられます。
一般に回転性のめまいは内耳からのものが多く、非回転性のめまいは内耳以外の脳血管やその他の原因によることが多いと言われています。しかし、脳血管のめまいも小脳、延髄などの出血や梗塞などは激しい回転性のめまいと嘔吐が起こりますので一概に決めつけるのはたいへん危険です。

めまいの診かた

耳鼻咽喉科の外来では、ファイバースコープや顕微鏡で直接患部を見て診断できる疾患が多いのが特徴です。
しかし、めまいは自覚的な症状です。直接目に見える患部はありません。ですから、めまいの診断でもっとも大切なのは問診です。
日本めまい平衡医学会のめまい・平衡障害の診断ガイドラインに沿ってめまいの問診のポイントを整理すると、以下、

①めまいの発症様式②蝸牛症状随伴の有無③誘因の有無④蝸牛症状以外の症状の随伴⑤全身的要因の有無

となっています。

めまいの鑑別診断

耳鳴り、難聴、耳閉感などの蝸牛症状がめまいに随伴して起こったとき、メニエル病などの内耳障害を考えます。頭位の変換(寝た姿勢から起き上がったとき、寝返りを打ったときなど)に激しい回転性のめまいが起こったら、それは多くの場合、頭位性めまいです。耳石が半規管内を浮遊することが原因です。急に立ち上がったときに目の前が暗くなるめまいは起立性調節障害です。飛行機やダイビングなどの圧変化や、息みやつよい鼻かみの後に起こるめまいは、外リンパ瘻を疑います。

短時間の意識消失、構音障害(ろれつが回らない)、歩行障害、手足のしびれ、運動麻痺などの神経症状があったら、それは脳血管性のめまいの可能性が高いと考えなくてはなりません。とくに椎骨脳底動脈の梗塞や虚血を疑って検査を進めます。

脳血管性のめまいは、他の耳鼻咽喉科の疾患よりも、高血圧、動脈硬化、心疾患、糖尿病など生活習慣病とよばれる疾患群が深く関係していると言われます。これらの全身疾患が椎骨脳底動脈領域の循環障害を起こし、めまいを発症しやすくなるのです。
また、過去に特殊な薬剤、たとえば内耳毒性のあるストレプトマイシンやカナマイシン、内耳血管条に作用するある種の降圧薬、小脳変性をきたすフェニトインなどの薬剤を服用しているとそれがめまいの原因になることもあります。

めまいの検査は?

めまいの検査には、大きく分けて2つあります。1つは、体のバランスを観察する体平衡検査。もう1つは、眼球の動きを観察する眼振検査です。

体平衡検査には、以下、
起立検査
(ロンベルグ検査 マン検査 単脚起立検査) 
重心動揺検査
指示検査 書字検査 歩行検査 足踏み検査 
などがあります。

眼振検査には、
注視眼振検査 非注視眼振検査
頭振後眼振検査(ヘッドシェイキングテスト)
などがあります。

多くの場合、純音聴力検査をあわせて行い、メニエル病や外リンパ瘻、突発性難聴などの鑑別診断に用います。
これらのめまいの検査は一つ一つ説明すると非常に複雑で長くなりますので、ここでは詳しい検査方法とその評価方法は省きます。

要点だけ簡単に説明すると、
起立検査は、開眼と閉眼で両足や片足で立ち、体のバランスが崩れやすいかを観察する検査ですが、一般には開眼では立てるのに閉眼になるととたんに片側に倒れてしまうときは、末梢前庭系のめまい(耳からのめまい)の可能性が高くなります。
両足を揃えてふつうに立ち、開眼と閉眼でくらべるだけですので、これは自宅で簡単にできる検査ですね。

また、指示検査で、検者の指と同じ方向を指差しできないとき、遮眼(閉眼して)書字検査で字が著しくずれたり大きさが変わるときなどは、小脳や脳幹にめまいの原因があると予想されます。このような場合は、中枢神経系のさらに詳しい検査を進めます。

耳鼻咽喉科の外来診療で、非常に多く行われるのが、眼振検査です。眼振とは、眼球が自発的にまたは誘発的に主に左右に振り子のように動く現象です。注視眼振といって、目の前50cmの指をずっと見つめたとき、眼振がでるなら、それは小脳橋角部の腫瘍か、中脳または大脳の一部の障害です。何もしないのに、異常な自発眼振が観察されるとき、それが特徴的なタイプなら、脳幹部の障害や腫瘍、小脳橋角部腫瘍(聴神経腫瘍)などがつよく疑われますので、要注意です。

耳鼻咽喉科の外来診療で、もっとも多いめまいは、非注視眼振が観察されるめまいです。これは、フレンツェル眼鏡という度の強い眼鏡をかけて暗所で眼振を観察すると見られるめまいです。何かを固視すると眼振は観察されませんが、暗所で固視しないと(フレンツェル眼鏡をかけると)眼振が観察されるようになります。左右の前庭系に差があるときに出現する眼振です。メニエル病、前庭神経炎などで起こります。

特定の頭位や頭位の変換(頭をどちらかに傾けたり寝返りを打ったりするとき、または寝た姿勢から急に上体を起こしたとき、またはその逆など)で誘発される眼振は、頭位性眼振といいます。
主に良性発作性頭位性めまい症、または頭位性めまい症で起こるめまいです。
上記のように、寝ている姿勢から急に上体を起こしたときや、その逆の動作、右や左など特定の方向に寝返りをうった瞬間に、10秒から20秒間の激しい回転性めまいが起こります。回転性のめまいは数秒のこともあれば30秒以上続くこともありますが、1分を超えて続くことはありません。患者さんは、非常にびっくりして、何か恐ろしいことが起こったのではないかと心配されて受診されます。この激しいめまいは、内耳の半規管の中で浮遊耳石(じせき)が重力の変化でコロコロと転がっているだけで、生命に危険を及ぼすめまいではありません。とは言っても、めまいを経験した患者さん本人は、激しく起こるめまい発作に驚いて心配されるのも無理ありません。このめまいは、良性発作性頭位性めまい症と診断されます。

めまいの治療は?

もちろんめまいの原因診断によります。
中枢性めまいを疑ったら、まずは脳のMRI検査やCT検査のオーダー、脳神経外科医、神経内科医への紹介などが、最優先になります。緊急性を慎重に判断することが重要になります。
末梢前庭系のめまい(耳からのめまい)と診断されたら、激しいめまいでも緊急性はありません。激しい回転性めまいで立てなくてもゲェゲェ吐いていても大丈夫です。めまいの薬を点滴や内服薬で投与します。点滴にはつよいめまい止めの薬がありますので、激しいめまいで一人で立てないようなら点滴をすると少し楽になります。のみ薬の抗めまい薬もかなり即効性の薬がありますので安心してください。外来受診したときひどいめまいでやつれて見えた患者さんも、数日後に来たときは、もうかなりシャキッとしてめまいがおさまっていることもよくあることです。

めまいが起こったら?

とにかく、めまいは、耳鼻咽喉科だけでなく急に起こる症状のなかでも自覚的にかなり激しくつらい症状の一つです。めまいが起こったら、まずはお近くの医療機関を訪ねましょう。内科や脳神経外科を先に受診するのも良い方法だと思います。MRIなどの画像検査で脳神経に異常がないことを確認してから耳鼻科へ受診しても良いのです。もしそれが耳からのめまいかどうかわからなくても構いません。耳からくるめまいと耳以外の疾患の可能性を診断して伝えてもらうだけでも、治療の重要な指針になるのです。

おわりに

めまいは、生体にとってとても重要なサインだと言われています。ときには生命を脅かすめまいもあり、激しいけれど生命にまったく影響のないめまいもあります。要は、めまいが自分の身におこったとき、それがどちらなのか自分ではわからないことが問題なのだと思います。

とにかく、すぐにお近くの医療機関へ!

浮動性めまい (イメージ ) (実際の見え方とは違います)
脳血管性の危険なめまい (イメージ)