めまい -その1-

今回は一般外来診療で患者さんの訴えの多いめまいについて書いてみたいと思います。

めまいって何?

めまいとは何でしょう?

めまいは
安静にしているときあるいは運動中に、自分自身の体と周囲の空間との相互関係、位置関係が乱れていると感じ、不快感を伴ったときに生じる症状

と定義されています。なんだか難しそうな言葉ですね。でも簡単に言うと、自分の体と周囲の位置関係がわからなくなっている状態と言い換えることができるかもしれません。めまいは耳鼻咽喉科だけでなくそれこそ内科外科脳神経外科などすべての臨床科で多く訴えのある症状です。

どんな症状?

めまいは、症状の起こりかたから、回転性めまい(ぐるぐる回る)と非回転性めまい(フラフラする)に分けられます。また、急激に発症するめまいと緩徐に発症するめまいに分かれます。

原因は?

めまいは、その原因から、大きく分けて脳血管などからの中枢前庭系のめまいと内耳からの末梢前庭系のめまいに分けられます。
一般に回転性のめまいは内耳からのものが多く、非回転性のめまいは内耳以外の脳血管やその他の原因によることが多いと言われています。しかし、脳血管のめまいも小脳、延髄などの出血や梗塞などは激しい回転性のめまいと嘔吐が起こりますので一概に決めつけるのはたいへん危険です。

めまいの診かた

耳鼻咽喉科の外来では、ファイバースコープや顕微鏡で直接患部を見て診断できる疾患が多いのが特徴です。
しかし、めまいは自覚的な症状です。直接目に見える患部はありません。ですから、めまいの診断でもっとも大切なのは問診です。
日本めまい平衡医学会のめまい・平衡障害の診断ガイドラインに沿ってめまいの問診のポイントを整理すると、以下、

①めまいの発症様式②蝸牛症状随伴の有無③誘因の有無④蝸牛症状以外の症状の随伴⑤全身的要因の有無

となっています。

めまいの鑑別診断

耳鳴り、難聴、耳閉感などの蝸牛症状がめまいに随伴して起こったとき、メニエル病などの内耳障害を考えます。頭位の変換(寝た姿勢から起き上がったとき、寝返りを打ったときなど)に激しい回転性のめまいが起こったら、それは多くの場合、頭位性めまいです。耳石が半規管内を浮遊することが原因です。急に立ち上がったときに目の前が暗くなるめまいは起立性調節障害です。飛行機やダイビングなどの圧変化や、息みやつよい鼻かみの後に起こるめまいは、外リンパ瘻を疑います。

短時間の意識消失、構音障害(ろれつが回らない)、歩行障害、手足のしびれ、運動麻痺などの神経症状があったら、それは脳血管性のめまいの可能性が高いと考えなくてはなりません。とくに椎骨脳底動脈の梗塞や虚血を疑って検査を進めます。

脳血管性のめまいは、他の耳鼻咽喉科の疾患よりも、高血圧、動脈硬化、心疾患、糖尿病など生活習慣病とよばれる疾患群が深く関係していると言われます。これらの全身疾患が椎骨脳底動脈領域の循環障害を起こし、めまいを発症しやすくなるのです。
また、過去に特殊な薬剤、たとえば内耳毒性のあるストレプトマイシンやカナマイシン、内耳血管条に作用するある種の降圧薬、小脳変性をきたすフェニトインなどの薬剤を服用しているとそれがめまいの原因になることもあります。

めまいの検査は?

めまいの検査には、大きく分けて2つあります。1つは、体のバランスを観察する体平衡検査。もう1つは、眼球の動きを観察する眼振検査です。

体平衡検査には、以下、
起立検査
(ロンベルグ検査 マン検査 単脚起立検査) 
重心動揺検査
指示検査 書字検査 歩行検査 足踏み検査 
などがあります。

眼振検査には、
注視眼振検査 非注視眼振検査
頭振後眼振検査(ヘッドシェイキングテスト)
などがあります。

多くの場合、純音聴力検査をあわせて行い、メニエル病や外リンパ瘻、突発性難聴などの鑑別診断に用います。
これらのめまいの検査は一つ一つ説明すると非常に複雑で長くなりますので、ここでは詳しい検査方法とその評価方法は省きます。

要点だけ簡単に説明すると、
起立検査は、開眼と閉眼で両足や片足で立ち、体のバランスが崩れやすいかを観察する検査ですが、一般には開眼では立てるのに閉眼になるととたんに片側に倒れてしまうときは、末梢前庭系のめまい(耳からのめまい)の可能性が高くなります。
両足を揃えてふつうに立ち、開眼と閉眼でくらべるだけですので、これは自宅で簡単にできる検査ですね。

また、指示検査で、検者の指と同じ方向を指差しできないとき、遮眼(閉眼して)書字検査で字が著しくずれたり大きさが変わるときなどは、小脳や脳幹にめまいの原因があると予想されます。このような場合は、中枢神経系のさらに詳しい検査を進めます。

耳鼻咽喉科の外来診療で、非常に多く行われるのが、眼振検査です。眼振とは、眼球が自発的にまたは誘発的に主に左右に振り子のように動く現象です。注視眼振といって、目の前50cmの指をずっと見つめたとき、眼振がでるなら、それは小脳橋角部の腫瘍か、中脳または大脳の一部の障害です。何もしないのに、異常な自発眼振が観察されるとき、それが特徴的なタイプなら、脳幹部の障害や腫瘍、小脳橋角部腫瘍(聴神経腫瘍)などがつよく疑われますので、要注意です。

耳鼻咽喉科の外来診療で、もっとも多いめまいは、非注視眼振が観察されるめまいです。これは、フレンツェル眼鏡という度の強い眼鏡をかけて暗所で眼振を観察すると見られるめまいです。何かを固視すると眼振は観察されませんが、暗所で固視しないと(フレンツェル眼鏡をかけると)眼振が観察されるようになります。左右の前庭系に差があるときに出現する眼振です。メニエル病、前庭神経炎などで起こります。

特定の頭位や頭位の変換(頭をどちらかに傾けたり寝返りを打ったりするとき、または寝た姿勢から急に上体を起こしたとき、またはその逆など)で誘発される眼振は、頭位性眼振といいます。
主に良性発作性頭位性めまい症、または頭位性めまい症で起こるめまいです。
上記のように、寝ている姿勢から急に上体を起こしたときや、その逆の動作、右や左など特定の方向に寝返りをうった瞬間に、10秒から20秒間の激しい回転性めまいが起こります。回転性のめまいは数秒のこともあれば30秒以上続くこともありますが、1分を超えて続くことはありません。患者さんは、非常にびっくりして、何か恐ろしいことが起こったのではないかと心配されて受診されます。この激しいめまいは、内耳の半規管の中で浮遊耳石(じせき)が重力の変化でコロコロと転がっているだけで、生命に危険を及ぼすめまいではありません。とは言っても、めまいを経験した患者さん本人は、激しく起こるめまい発作に驚いて心配されるのも無理ありません。このめまいは、良性発作性頭位性めまい症と診断されます。

めまいの治療は?

もちろんめまいの原因診断によります。
中枢性めまいを疑ったら、まずは脳のMRI検査やCT検査のオーダー、脳神経外科医、神経内科医への紹介などが、最優先になります。緊急性を慎重に判断することが重要になります。
末梢前庭系のめまい(耳からのめまい)と診断されたら、激しいめまいでも緊急性はありません。激しい回転性めまいで立てなくてもゲェゲェ吐いていても大丈夫です。めまいの薬を点滴や内服薬で投与します。点滴にはつよいめまい止めの薬がありますので、激しいめまいで一人で立てないようなら点滴をすると少し楽になります。のみ薬の抗めまい薬もかなり即効性の薬がありますので安心してください。外来受診したときひどいめまいでやつれて見えた患者さんも、数日後に来たときは、もうかなりシャキッとしてめまいがおさまっていることもよくあることです。

めまいが起こったら?

とにかく、めまいは、耳鼻咽喉科だけでなく急に起こる症状のなかでも自覚的にかなり激しくつらい症状の一つです。めまいが起こったら、まずはお近くの医療機関を訪ねましょう。内科や脳神経外科を先に受診するのも良い方法だと思います。MRIなどの画像検査で脳神経に異常がないことを確認してから耳鼻科へ受診しても良いのです。もしそれが耳からのめまいかどうかわからなくても構いません。耳からくるめまいと耳以外の疾患の可能性を診断して伝えてもらうだけでも、治療の重要な指針になるのです。

おわりに

めまいは、生体にとってとても重要なサインだと言われています。ときには生命を脅かすめまいもあり、激しいけれど生命にまったく影響のないめまいもあります。要は、めまいが自分の身におこったとき、それがどちらなのか自分ではわからないことが問題なのだと思います。

とにかく、すぐにお近くの医療機関へ!

浮動性めまい (イメージ ) (実際の見え方とは違います)
脳血管性の危険なめまい (イメージ)

 

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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