嗄声(させい)

嗄声という言葉を知っていますか?

嗄声とは、声枯れの医学用語です。
医学用語には、簡単なことをすこし難しくて表現することが多くあります。
今回は、嗄声について書きます。

嗄声とは?

嗄声とは、一体何でしょう。
声枯れということはわかりましたが、一体声が枯れるということは、どういうことでしょうか?まず、この疑問を明らかにしないといけません。

喉頭は?

声は、どうやって出るのでしょう。
そのために、まず喉頭の解剖から理解しましょう。

喉頭は、頸部(くび)にあります。
前頸部の解剖です。

写真1 前頸部の解剖(1)

https://mobile.twitter.com/monicapuin/status/669348036661944321/photo/1

写真1で、h 舌骨、g 甲状軟骨、e 輪状軟骨、f 輪状甲状膜、d 気管、c 胸鎖乳突筋(左右)です。
喉頭は、主として甲状軟骨と輪状軟骨から構成されていて、声帯は写真1で輪状軟骨の向こう側に存在します。

写真2 喉頭(モデル)

写真2の喉頭の模型で、甲状軟骨=thyroid cartilage , 輪状軟骨=cricoid cartilage , 舌骨=hyoid bone です。喉頭蓋=epiglottis は、甲状軟骨の裏側にあります。

図1 喉頭の構造(イラスト)

https://www.intechopen.com/chapters/41621#F1

写真2の舌骨と甲状軟骨の間と、甲状軟骨と輪状軟骨の間には、図1のように、膜や靭帯が張っていて、全体構造を作っています。

図2 喉頭の構造

https://mgh.silverchair-cdn.com/mgh/content_public/book/mort/m_mort_c028f001.gif?Expires=1659080039&Signature=munGhV~dlgfDbKwM5S~6PUv8xUTY~iLvPnpOvKHXQdd-KglYNnxgQVZwav5G2kokCU6SVe2eX1WzO-Yj4Vdlhh6mSZFkWe7gyxiN3-CRjFOmLmcCr98cXTuc9ppMJ5kAeUP7xzMx8aXZCBew76cAVlAdEfTGvxAjRzaeeC1HVGP9Eu8rKxlargprmlnLh-cl5PA1xA073qaNVMntBBSd0Zm~~DB22ylGH6qS91LkuPeRNrahG9QPb5pqJ1EgjZgcN2~ccBb1Ccr20qQPodah8GtXPHBoeouluAgCKOVUMwQDIZ2z5wH45I2NrufqRu3NO41JJzpCpmGcRVay5J8q6A__&Key-Pair-Id=APKAIE5G5CRDK6RD3PGA

図2で、甲状軟骨と輪状軟骨の組み合わせ方(重ね方)がわかると思います。
図2 Bで、声帯(vocal cord)は、輪状軟骨前方リングの裏面から始まり、後方は、左右の被裂(ひれつ)軟骨=arytenoid cartilage に1本ずつ付着していることが理解できます。
(図2 Bでは、声帯靭帯=vocal ligament が描かれています。)

写真3 喉頭の構造(腹側から見る)

再び、喉頭を背側(後方)から見たモデル写真です。
甲状軟骨の裏側から喉頭蓋が突出して、被裂部がかなり低くなっています。写真3の4が、被裂軟骨 arytenoid cartilage で、このレベルに声帯 vocal cord があります。

なかなか立体感が掴めないかもしれません。喉頭は、このように非常に複雑な構造をしています。

図4 喉頭を上方から見た図

https://www.chegg.com/flashcards/anatomy-of-normal-swallow-0cf7a854-516b-4e93-94f2-37ccaccd34d3/deck

この立体構造を真上から見た図は、このようになります。図4の下方が腹側(前方)です。この図は2Dでわかりませんが、3Dでは、喉頭蓋 Epiglottis はかなり上方にあり、楔状軟骨 Cuneiform cartilage 、小角結節 Corniculate Tubercles など声帯の後方はかなり下方に位置していることがわかります。
写真3と図4で楔状軟骨 Cuneiform cartilage の位置を確認してみましょう。

図5 声帯 (左 吸気時 右 発声時)

図5では、図4と前後逆です。声帯は、吸気時には開き(OPEN)、発声時には閉じて(CLOSE)、振動します。この声帯が閉じて粘膜が合わさるとき、この隙間を空気が通り、声帯粘膜が振動して声となるのです。

写真4 声帯 (非発声時)
写真5 声帯 (発声時)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%B0%E5%B8%AF

しかし、実際には、声帯を空気(呼気)が通過するときの声は、まだ私たちが聞いている声ではありません。声帯の振動によって発生する声は、「喉頭原音」といいます。

この喉頭原音が、咽頭、口腔、舌、歯列、鼻腔、などの声道(せいどう)と呼ばれる解剖学的部分を通過するときに、舌や歯、口腔の形などによって形作られる共鳴空間や鼻腔の共鳴空間で音が構成されて、初めて私たちが聞きとれる会話の声になるのです。

図6 人の声道(せいどう)

1 Nasal cavity
2 Oral cavity
3 Hard palate (Palatum)
4 Soft palate (Velum)
5 Teeth (Dentes)
6 Uvula
7 Lips (Labia)
8 Pharynx
9 Tip of tongue
10 Epiglottis
11 Blade of tongue
12 Vocal cords
13 Front of tongue
14 Glottis
15 Back of tongue
16 Wind pipe (Trachea)
17 Larynx

https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:VocalTract_withNumbers.svg#mw-jump-to-license

このようにして私たちの声は出るのです。
発声とは、とても複雑ですね。

嗄声の原因は?

喉頭の解剖学と声帯のしくみ、発声について理解しました。
次は、どうして声枯れが起こるかです。
その前に、声とは一体何でしょう?

声は、一種の音響現象です。
高さ、強さ、音質の3要素をもっています。
このうち、音質の異常を一般に嗄声と言い、最も多く起こります。

嗄声は一般に、GRBASスケールで評価され、4つに分けられています。

G: Grade (程度) 0, 1, 2, 3で表現する

R: Rough (粗慥性)
B: Breathy (気息性)
A: Asthenic (無力性)
S: Strained (努力性)

R(粗糙性(そぞうせい)嗄声)は、ガラガラ声、ダミ声です。声帯の振動が不規則になって起こります。
風邪、喉頭炎、声帯ポリープなどでみられます。声の出し過ぎやタバコの吸い過ぎ、お酒の飲み過ぎなどもこれに入ります。職業歌手や教師の方、仕事で1日中声を出している方などには、このタイプの嗄声が起こりやすく、声帯ポリープが発生することもあります。

B(気息性嗄声)は、すーすーと息漏れする、かすれ声です。声帯が完全に閉じないためにおこります。
声帯結節、声帯萎縮、声帯溝症、反回神経麻痺などのときにみられます。加齢による声帯の萎縮によっても起こりやすくなります。
他の病気によって起こる反回神経麻痺もありますので、注意が必要です。(甲状腺がん、肺がん、食道がん、大動脈瘤など)

A(無力性嗄声)は、力のない弱々しい声です。発声時に働く声帯筋の力が弱いことによります。神経筋疾患などで、筋肉に力が入らない場合などに起こりやすくなります。
反回神経麻痺などでもみられます。

S(努力性嗄声)は、過度に力の入った、息むような声です。痙攣性発声障害などでもみられます。

嗄声(声がれ)は、原因だけでもたくさんの種類があり、さまざまな病気や体の異常が隠れていることがあります。

診断は?

簡単です。喉頭ファイバースコープ喉頭を観察するだけで、ほとんどの場合、正確な診断が可能です。

喉頭ファイバースコープは、のどから入れるのではなく、鼻腔から入れて観察しますので、反射が起こりにくく、苦痛はほとんどありません。(鼻がつまっている人には、すこし辛いかもしれません。)

喉頭ファイバーの画像は、写真4, 写真5 のようにモニターで観察されます。現在はファイバースコープに内蔵されているCCD camera の精度が非常に高く、かなり鮮明で美しい画像がモニター上に映し出されます。

写真4 声帯 (非発声時)

喉頭ファイバースコープの時間は30秒以内。咽頭、喉頭、声帯直下の気管支に異常があるかどうかは、ほとんど瞬時に診断可能です。

喉頭ストロボスコープを使用して、声帯の振動様式を精密に観察する方法もあります。

しかし、一部の疾患に、喉頭ファイバーだけでは診断がつかない病気があります。

反回神経麻痺?

喉頭ファイバースコープによる診断で、ほとんどの症例は正確な診断が可能ですが、反回神経麻痺があるときは、診断に気をつけなければいけません。
喉頭以外の、重大な疾患が隠れていることがあるからです。

反回神経麻痺とは、片方の声帯が動かない、または動きが悪くなった状態をいいます。稀に両側起こることがあります。

咽頭がん、喉頭がん、などの喉頭の病気で片方または両方の声帯が動かなくなった場合は、ファイバーで腫瘍が直視できますから、原因がわかります。ところが、喉頭に病変がなく、反回神経麻痺だけがある場合も多いのです。このような場合は、反回神経の走行に沿って、何か異常がないか、探さなくてはなりません。

反回神経は、頸部を左右の迷走神経(脳神経10番)として下行していき、右は鎖骨下動脈の下方で、左は大動脈の下方で、左右とも迷走神経から分岐して、180度Uターンして上行します。180度のUターンをするため、反回神経と呼ばれています。
反回神経は、喉頭の支配神経です。左右の反回神経は、それぞれの声帯の運動を支配しています。そのため、片方の反回神経に異常があって麻痺すると、片方だけ声帯麻痺が起こるのです。
これが反回神経麻痺です。

図7 迷走神経の走行 (黄色)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Recurrent_laryngeal_nerve

図7で、左右の黄色の太い神経が、迷走神経(vagus)です。反回神経は、これからUターンします。

重要なことは、反回神経は、前頸部から胸部、縦隔まで広い範囲を走行していることなのです。そのため、反回神経の走行部位のどこかに腫瘍ができたりすると、反回神経が神経麻痺に陥り、その結果、遠く離れた部位の声帯の麻痺が起こることになるのです。
これは、逆に、片方の声帯麻痺(反回神経麻痺)を見たら、反回神経の走行のどこかに腫瘍などの異常があることを疑わなければならないということなのです。
これは診断の盲点になるので、要注意です。

治療は?

ステロイドの吸入治療と日常生活における声帯の安静が、治療の中心です。
風邪や鼻副鼻腔炎などがある場合は、同時に治療します。
声の出しすぎなど、声帯の酷使が原因となっている場合には、まず声帯の安静のために、できるだけ声を出さない治療が最優先されます。
ステロイドの吸入治療は、炎症で腫れた声帯粘膜の炎症を抑え、嗄声の改善に非常に効果的です。

口呼吸があると、声帯粘膜が乾燥し、また鼻粘膜による吸気の加湿ができませんから、嗄声はなかなか良くなりません。したがって、慢性鼻炎や副鼻腔炎がある方は、その病気の治療も同じくらい重要になってきます。

ネブライザーによるステロイド吸入治療の継続は、非常に効果的です。

まれに、ステロイド吸入治療や声帯の安静を守っても、嗄声が治らないことがあります。それは、大きな声帯ポリープや、声帯そのものが高度の浮腫を起こしたポリープ様声帯、声帯嚢胞、喉頭乳頭腫などです。

これらの疾患の治療には、外科的切除が行われます。これは、ラリンゴマイクロサージャリー(Laryngo-micro surgery, 喉頭微細手術)と呼ばれる特殊な手術です。
全身麻酔下に、喉頭鏡と呼ばれる筒状の金属管を口から咽頭に挿入して、金属管の中から顕微鏡で観察しながら、長い鉗子でポリープを切除します。非常に繊細な手術ですが、皮膚を切開することもなく、出血もほとんどなく、綺麗な手術が可能です。
乳頭腫の切除には、レーザーや高周波メスなどのhot knife が用いられます。

喉頭疾患は非常に多いため、治療については、各疾患ごとに記載が必要です。

声枯れのとき

貴方の声が枯れたとき、どうすれば良いでしょう。
ご自分で自身の喉頭は、覗けません。
これだけ、いろいろな疾患が隠れています。
ぜひ、かかりつけの耳鼻咽喉科医師に診察してもらってください。
必ず的確な診断と治療方法を教えてくださると思います。

何か声が枯れて…
(イメージです)
コールセンターにて
毎日長時間の電話
(イメージです)