ネブライザー

「ネブライザーをしましょう。」
「ネブライザーが効果があります。」

耳鼻咽喉科の外来に必ずあって、耳鼻科に行くと時々吸入する霧状の薬がでる不思議な器械。
それがネブライザーです。

でも、ネブライザーとは一体どんな構造で、どんな効果があるのか、知っていますか?

今回は、ネブライザーについて、書きます。

ネブライザーとは?

ネブライザーとは、何でしょう。

ネブライザーは、一般に「吸入器」に分類されます。
吸入器は、①定量吸入器 (Metered-dose inhaler, = MDI) 、②ドライパウダー吸入器 (Dry powder inhaler, = DPI)、そして③ネブライザー(Nebulizer) の3種類があります。
ドライパウダー吸入器(DPI)は粉末を吸入し、定量吸入器(MDI)とネブライザーは、エアロゾルを吸入します。

写真1 定量吸入器(MDI)
写真2 ドライパウダー吸入器(DPI)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%85%A5%E5%99%A8

写真3 ドライパウダー吸入器(DPI)
写真4 MDIとDPI
(喘息のコントロール)

写真1-4 は、原則的に吸入器であって、ネブライザーではありません。ただし写真1と写真4の定量吸入器(MDI)は、内容薬剤には、エアロゾルが入っています。厳密に言うと、エアロゾル吸収です。
喘息発作時のステロイド薬や気管支拡張薬、サルブタモール(短時間作用性β2アドレナリン受容体刺激剤)などの特殊な薬剤が、ワンプッシュで正確に定量吸入可能になっています。

ネブライザー(Nebulizer)は、これら吸入器(inhaler)と違い、簡単に言うと、「薬を霧状のミストにして吸入するための装置」のことです。

写真5 ネブライザー

もう少し正確に定義すると、「鼻腔、副鼻腔、咽頭、気管支、肺など、人体の中で狭く奥深いところへ、薬液を煙霧状にして届かせるための噴霧器」のことです。
耳鼻咽喉科、呼吸器内科、その他多くの診療科で使用されています。

ネブライザーは、装置の名称です。
ネブライザーで霧状の薬液を吸入する治療法を、「エアロゾル吸入療法」といいます。
これが正式名称です。

何のために?

ネブライザーは、何のためにあるのでしょうか。

「霧状の薬を吸入するため。」

では、どうして霧状の煙が出てくるようになっているのでしょう。
どうやら、この辺りにネブライザーの本質がありそうです。

エアロゾル?

ネブライザー吸入治療のことを正式名称では、エアロゾル吸入療法といいます。
エアロゾルとは、一体何でしょうか。

エアロゾルとは、エアロ(気体)、ゾル(分散媒)で、「気体分散媒(ばい)」のことです。

難解ですね。

分散系(dispersed system)とは、サイズが1 nm から1000 nm (1µm) の粒子が、気体、液体あるいは固体に浮遊あるいは懸濁(コロイド状になる)している物質のことです。すなわち気体分散媒とは、気体を分散系の媒体とする粒子状物質のことです。
簡単に言うなら、「粒子が気体を媒体として気体中に分散している状態」です。

つまりエアロゾルとは、直径 1 nm *から1000 nm (1µm *) の粒子が気体に浮遊して存在する状態を指します。

*(μm=マイクロメートル、10-6乗、1mm の1/1000、100万分の1メートル)
*(nm=ナノメートル、10-9乗、1 mm の1/100万、10億分の1メートル)

微粒子とは?

微粒子とは、ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)から数百マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)サイズの微小な粒子です。

図1 粒子状物質の分類(μm)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%92%E5%AD%90%E7%8A%B6%E7%89%A9%E8%B3%AA

粒子状物質は、粒子の直径が 0.01-100 μm単位の大きさの微粒子です。
英語のparticulate matter の訳で、PMと表現します。PM 2.5 は粒子の直径が2.5 μm 以下の微粒子のことです。 
PM 2.5 は、非常に粒子が細かいため人体内の肺胞の中に入り込み、炎症反応を起こしたり、血液中に混入して毒性を発揮するなどの恐れがあり、問題になっています。
黄砂・PM 2.5 -その1-

また、よく耳にする黄砂も中国の砂漠を発生源とするエアロゾル粒子です。黄砂の粒子径は、4 μmくらい(0.5-5 μm)のものが多く、肺への吸入と健康被害が深刻な問題となっています。
参考までに、人の赤血球は直径6-8 μmです。
黄砂・PM 2.5 -その1-

0.2 μm ~10 µm の大きさのものを塵埃(ダスト、じんあい)と言います。
実際のエアロゾルでの微粒子のサイズは、10 nm から1 mm くらいまで幅広くあります。

何故、微粒子のサイズ?

何故、微粒子のサイズが問題になるのでしょう。

呼吸で微粒子を吸い込むとき、鼻、喉、気管、肺などの呼吸器官に微粒子が沈着します。
粒子の形状や呼吸速度などの要素もありますが、一般に微粒子の直径が小さいほど肺の奥まで達する可能性が高く、微粒子径が5 µm以下になると肺胞まで達するようになると言われています。

直径 1 µmでも肺胞まで達するのは吸入量の10-20%であり、残りの80%は呼吸により排出されます。
微粒子の直径が 0.02 µm (20 nm) くらいが、肺胞への沈着が最も多く、50%程度です。直径が0.02 μm 以下になると、肺胞よりも上気道へ沈着しやすくなります。

ただし、換気量や呼吸数が増えたときは、1 – 3 µm の微粒子の沈着量が増えると報告されています。

鼻腔、気道、肺胞などに沈着した微粒子の多くは、咳、鼻汁、線毛運動による輸送機能や、肺胞マクロファージによる貪食などによって除去されます。
このとき、肺胞で除去されにくい微粒子や直径0.1 μm 以下の超微粒子の体内残留や吸収が問題となるのです。

微粒子のサイズを問題にするのは、結論から言うと、直径が5 μm 以下の微粒子は呼吸によって容易に肺胞に入り込んで肺胞に沈着したり、血液中に溶け込んで全身に循環することになるからです。

ネブライザーの構造

エアロゾルについては理解できました。
次は、ネブライザーの構造です。

正式には、エアロゾルを発生させる装置がネブライザーであり、
①ジェット式 (微粒子径 5 μm)、
②超音波式 (微粒子径 1 μm)、
③メッシュ式 (微粒子径 1-8 μm)
などがあります。

①ジェット式は、高速の空気流(圧縮空気)を利用して霧吹きの原理で細かな液滴を作り出すものです。強力な空気流を作り出すための圧縮ポンプ(コンプレッサー)などが必要で、小型化は困難です。医療機関などで多く使用されます。
エアロゾルの微粒子径は5 μmくらいです。

図2 ジェット式ネブライザー

②超音波式は、超音波の振動で薬液を霧のようにして、その液滴をファンの風で噴霧します。小型化できるため、携帯用ネブライザーに採用されています。
エアロゾルの微粒子径は、1 μmくらいです。微粒子径が非常に細かいため、薬剤の多くが肺胞まで到達します。
大量の薬剤が肺胞に侵入するため、肺胞でのガス交換障害を引き起こすことがあると言われています。喘息発作中の小児では、急性低酸素血症を引き起こして、気道攣縮を誘発することがあるとの報告があります。

図3 超音波式ネブライザー

③メッシュ式は、薬液を振動させてメッシュ生地を通過させてエアロゾルを発生させます。エアロゾルの微粒子径は1-8 μm です。メッシュにつまる薬剤は使用できません。

図4 メッシュ式ネブライザー

https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/inhalers/feature03.html (図2-図4 引用)

一般に、エアロゾル薬剤の微粒子径による沈着部位は概略、

上気道(鼻腔内) 8 μm 以上
   (副鼻腔) 3-10 μm 以下
   (咽頭、喉頭) 10 μm 以上

下気道(肺) 5 μm 以下
(肺胞) 0.8-3 μm
   (沈着しない) 0.8 μm 以下

となっています。したがって、少なくとも気管支や肺に、吸入して薬剤を届けるためには、エアロゾル微粒子径が5 μm 以下でなければ効果がなく、ジェット式でなく超音波式のネブライザーでなければならないことが理解できます。
また、エアロゾル微粒子径が0.8 μm 以下になると、肺胞を通過して呼気に直接排出されてしまいやすいことも理解できます。

さらに、鼻腔内の細かな空間から薬剤が入り込む、副鼻腔炎に対するネブライザーは、理想的には超音波ネブライザーが最適なのですが、実際の耳鼻咽喉科臨床では、安価で耐久性に優れたジェット式ネブライザーが主流となっています。(90%)

写真6 ネブライザー(ジェット式)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%85%A5%E5%99%A8

ネブライザーの薬剤

ネブライザーのエアロゾル薬剤は、どのようなものが使用されているのでしょうか。

代表的な薬剤は、抗菌薬、ステロイド剤、エピネフリン、気管支拡張薬、その他となっています。

抗菌薬は、ネブライザーのエアロゾル薬剤として唯一保険適応があるCMX(外用セフメノキシム塩酸塩, ベストロン耳鼻科用1%), 喘息の患者さんに使用されるステロイド薬、エピネフリンや気管支拡張薬、代替抗菌薬のネブライザー薬液としてアミノグリコシド抗菌薬などが使用されています。
抗菌薬は鼻副鼻腔炎や咽喉頭の細菌感染症に対して、またステロイドはアレルギー性鼻炎や喉頭炎に、気管支拡張薬はステロイド薬と合わせて気管支炎、喘息の患者さんに対して、ネブライザー薬液として多く使用されています。

これらの薬液は正確に分量や濃度を調整して一定の混合液にしてあり、それが先のジェット式や超音波式などの方法で霧化されてエアロゾルとなります。

何のために?

ネブライザーについて書いてきましたが、一体何のためにネブライザー吸入をするのでしょうか。

最もわかりやすい回答は、「効率よく局所治療を行うため」と、私は理解しています。

内服薬で局所の治療を行う場合、必ず全身に投与されます。経口で内服された薬剤は、消化管で吸収され、血液中に溶解して全身に運ばれます。血漿のタンパク質と結合して血液中の濃度が上がりにくい薬剤もあります。局所には血液に乗って薬がやって来ますが、必要ない臓器にも大量の薬が血液によって運ばれます。したがって、投与された薬剤のほんの一部しか治療したい局所には作用しません。もちろん組織吸収率の問題もありますが、基本的にはそうです。

一方、ネブライザーは、エアロゾルにした薬剤を直接、患部に投与することが可能です。吸入という方法を用いて、鼻腔、副鼻腔、気管支、肺といった組織や臓器に、高濃度の薬剤を直接、届けることができるのです。消化や血液を介さずに。
必要ない臓器に薬が流れていくこともなく、副作用の心配もほとんどありません。

ネブライザーを使用することで、局所の病気に対して、内服薬とは違った非常に効率の良い治療を行うことが可能になります。

これが、ネブライザーの醍醐味です。

ネブライザー治療を!

もしあなたが、鼻炎や副鼻腔炎、喘息や咽頭炎、気管支炎などで、かかりつけの耳鼻咽喉科医師を受診することがあったら、ぜひ、ネブライザー治療を受けてください。
その効果に驚くとともに、また一段と早いスムーズな治癒が実感できるはずです。

携帯型吸入器
(イメージです)
携帯型ネブライザー
携帯型ネブライザーを
家庭で吸入する女の子
(イメージです)