中耳炎 

中耳炎。

聞いたことがない方はいないと思います。
“中耳”の”炎症”です。
とてもわかりやすいです。

しかし実際は、子どもの急性中耳炎から大人の真珠腫性中耳炎までじつにさまざまな病態があります。

今回は、中耳炎についてすこしまとめてみたいと思います。

中耳炎て何?

中耳に炎症が起こる病気です。
最も多いのは急性中耳炎です。
細菌感染症が多いですが、ウイルス感染による場合もあります。

鼓膜の陥凹や癒着によって起こる中耳炎もあります。また、免疫異常によって起こる中耳炎もあります。


中耳ってどこ?

中耳は、鼓膜の裏側の空間です。
イラストで理解してください。

図1 耳の構造(イラスト)

図1で鼓膜の内側の空間が中耳です。鼓室とも呼ばれます。

写真1 耳の構造(模型)

立体的に理解できます。
耳の穴(外耳道)の奥の白い円板が鼓膜です。その向こう側の空間が中耳です。


炎症とは?

炎症は病理学の用語です。

炎症とは、外傷、病原体の侵入、化学物質刺激などによって体内の組織が傷害されたとき、それを恒常性によって元に戻そうとする生体反応です。

発赤、熱感、腫脹、疼痛の4徴(セルスス)、
4徴+機能障害の5徴(ガレノス)が、
炎症の特徴とされています。

急性中耳炎の炎症は、中耳への細菌の侵入によって中耳粘膜や鼓膜が傷害された後の生体反応です。

どんな中耳炎があるの?

小児に多い急性中耳炎。

急性中耳炎の治癒後に滲出液が貯留している
滲出性中耳炎。

急性中耳炎を繰り返して鼓膜が破れ、鼓膜穿孔を残した慢性中耳炎。

鼓膜上皮が中耳に侵入して発症する、
真珠腫性中耳炎。

タイプ2炎症を病態とし、喘息や副鼻腔炎を合併する、難治性の好酸球性中耳炎。

ANCA関連疾患にともなって発症する、
ANCA関連中耳炎。


中耳炎と言ってもさまざまな病態があります。
最も多いのは小児の急性中耳炎です。

誌面の関係から、今回は急性中耳炎と滲出性中耳炎に的を絞って書いていきます。


急性中耳炎

急性に起こった中耳の炎症です。
細菌感染がほとんどですが、ウイルス感染症によっても起こります。

症状

多くは、急性上気道炎に続いて起こります。
小児が風邪症状の数日後、急に耳を痛がったり、耳を押さえて泣くときはほとんど中耳炎です。乳幼児では痛みの訴えができませんので、ただ不機嫌でぐぜったり、泣きじゃくるだけのことも多くあります。

症状は、耳痛、耳を押さえて泣く、発熱、不機嫌、泣き止まない、炎症が進むと耳漏(耳だれ)がでます。
急性中耳炎の痛みはかなり激しいので、夜間に救急外来を受診することも少なくありません。

急性中耳炎は、重症度が高い場合は、鼓膜切開などの外科的治療が必要になることがありますので、注意が必要です。

一般的な擦り傷や切り傷などの外傷は目で見えますので周囲も重症度や緊急度を判断しやすく、受診の必要性をはじめ心づもりや対策を立てやすい面がありますが、急性中耳炎は鼓膜と中耳の炎症で自分も周囲も全く見えませんので逆に心配になる一面はあります。

急性中耳炎はごく稀に、側頭骨の乳突洞に激しい炎症を起こしたり、頭蓋内に炎症が波及することもあります。

鼓膜の所見

写真2 急性中耳炎

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%80%B3%E7%82%8E

急性中耳炎。軽症です。鼓膜に軽度の充血とツチ骨柄につよい充血と血管拡張、炎症所見を認めます。(写真2)

写真3 急性中耳炎

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/16-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%92%BD%E5%96%89%E7%96%BE%E6%82%A3/%E4%B8%AD%E8%80%B3%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%BC%93%E8%86%9C%E3%81%AE%E7%96%BE%E6%82%A3/%E4%B8%AD%E8%80%B3%E7%82%8E%EF%BC%88%E6%80%A5%E6%80%A7%EF%BC%89

写真3は重症の急性中耳炎です。

鼓膜が全体に膨隆しており、高度の充血と血管拡張を認めます。鼓膜は著しく混濁しており、膿の貯留がみられます。

中耳炎の定義

“中耳炎”は漢字からほとんど理解できますが、医学的に正確に定義してみます。

(小児の急性中耳炎が圧倒的に多いため、ここでは小児の急性中耳炎に限定します。)

日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会 「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」の定義では、

「急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがある」

(小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版)
https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf

写真4 急性中耳炎
(鼓膜の膨隆)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Otitis_media

写真5 急性中耳炎
(鼓膜の発赤と水疱形成)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Otitis_media

写真6 急性中耳炎
(鼓膜の膨隆と水疱形成)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Otitis_media

同ガイドラインには、
急性中耳炎は、鼓膜の発赤、膨隆、耳漏(すべての所見が揃わないこともある)、光錘減弱、肥厚、水疱形成、混濁、穿孔を認めることがある、と記載されています。(写真4, 5, 6)

写真3 (再) 急性中耳炎(重症)

鼓膜が全体に膨隆しています。鼓膜表面の血管拡張と充血、中耳に大量の膿の貯留を認めます。 (重症の鼓膜所見)   (写真3)


急性中耳炎は、鼓膜所見と臨床症状から、
軽症、中等症、重症に分類されます。

鼓膜所見: 発赤、膨隆、耳漏
臨床症状: 耳痛、発熱、啼泣・不機嫌

上記6項目を0-1-2点、0-2-4点、0-4-8点の3段階でスコア化し、各項目のスコアの合計点数急性中耳炎重症度スコアとします。

軽症  5点以下
中等症 6点から11点まで
重症  12点以上


各重症度によって、推奨される治療アルゴリズムが記載されています。

下記のサイトからご覧ください。

小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版

アメリカ小児科学会およびアメリカ家庭医学会が報告した急性中耳炎診療ガイドライン(2013年改訂)では、

“中耳の炎症による徴候、症状が急性に発症するもの” を急性中耳炎と定義し、診断に下記3点が推奨されています。

中等度〜高度の鼓膜の膨隆、あるいは、急性外耳炎に起因しない耳漏の出現がみられる。

鼓膜の軽度膨隆および急性に(48時間以内)発症した耳痛(非言語期の児では耳を押さえる、引っ張る、またはこすりつける)がある、あるいは鼓膜のつよい発赤がある。

中耳貯留液がみられない(気密耳鏡検査やティンパノメトリーで)場合には急性中耳炎と診断するべきではない。

写真6 急性中耳炎の鼓膜所見(A-D)
A 正常鼓膜 B 鼓膜の軽度膨隆
C 鼓膜の中等度膨隆 D 鼓膜の高度膨隆

(アメリカ小児科学会, アメリカ家庭医学会
“急性中耳炎診療ガイドライン”2013年改訂版
より引用)

“The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media” (AAP, AAFP)
https://publications.aap.org/pediatrics/article/131/3/e964/30912/The-Diagnosis-and-Management-of-Acute-Otitis-Media


日米のガイドラインを比較しますと、両者とも鼓膜所見を重視する方針は同一ですが、とくにアメリカでは鼓膜のつよい発赤または膨隆以上の鼓膜所見をもって急性中耳炎の診断確定としており、単なる鼓膜の発赤のみでは急性中耳炎の診断には至らない(治療介入がない)とする方針を打ち出しています。
さらに欧米では、急性中耳炎はほとんどの場合、家庭医または小児科医が診察して治療にあたります。2013年の改訂版ではすこし修正されていますが、2003年版では基本的に耳鼻咽喉科医以外の医師が治療可能なようにガイドラインが作成されており、侵襲的な治療は原則記載されていませんでした。
しかし今回の2013年の改訂版ガイドラインでは、抗菌薬の効果がみられない重症の急性中耳炎に対しての鼓膜穿刺による細菌検査や、難治性再発例の急性中耳炎に対する鼓膜チューブ留置術()なども記載されており、より専門的な治療内容が織り込まれています。

日本のガイドラインと違う点ですこし際立っているのは、米国のガイドラインでは、肺炎球菌ワクチン接種の推奨、インフルエンザワクチン接種の推奨、母乳による授乳の推奨、タバコの受動喫煙を禁止することなどが明確に記載されています。
そのほかにも、仰臥位(あおむけに寝た状態)での授乳(supine bottle feeding)をやめること、乳幼児がミルクのボトルから手を離して飲む、いわゆる” bottle propping” の危険性などにも詳しく言及しています。
さらに、生後6ヶ月以降12ヶ月までの間、おしゃぶり(pacifiers)を使用しないこと、なども急性中耳炎のリスクを減らすことが記載されています。
キシリトール (xylitol) の摂取は中耳炎のリスクを減らすとされています。
また、日本のガイドラインにも集団保育についての記載がありますが、チャイルドケアセンター (child care-center )への参加パターンを変更することでの上気道感染を減らす試みが推奨されています。

このように米国のガイドラインには、医療としてのガイドラインのみならず、生活一般に関する事項も直接的に書かれていて、多方面から予防的なアプローチが多彩に盛り込まれているのが特徴と言えます。
国によって独特の取り組みがなされているのが印象的です。


中耳炎の原因は多くの場合、耳管経由の細菌感染です。鼻すすりで中耳が陰圧になって鼻腔の細菌を吸い込んで発症します。
耳管が短く水平な小児に多く、上気道炎や副鼻腔炎が多い冬に多く発症する傾向にあります。
近年は、保育園や幼稚園などの集団保育の問題点も議論されています。

起因菌は、インフルエンザ菌、肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスの3種類の細菌が中耳炎の9割以上を占めます。
この3種の細菌は近年、抗生物質に対する耐性菌の出現が問題となっています。

以下、急性中耳炎について前回も書いていますのでぜひ参考にしてください。

 急性中耳炎 -その1-

 難治性の中耳炎


滲出性中耳炎

中耳に滲出液が貯留する病気です。

小児の滲出性中耳炎で最も多いのは、急性中耳炎が消炎した後に中耳の膿が抜けずに貯留しているものです。

アデノイド肥大による2次的な耳管機能不全も原因になります。   アデノイド

図2 滲出性中耳炎(中耳液貯留)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Otitis_media#/media/File%3AOtitis_Media.png

図2の紫色(🟪)の部分が中耳の滲出液です。

滲出液は、膿(のう)性のこともあれば漿液(しょうえき)性のこともあります。

滲出性中耳炎は、中耳に滲出液の貯留をみとめますが、耳痛や発熱などの急性炎症症状がないことが特徴です。

耳痛がないため、本人も家族も気づかずに経過することがあります。難聴だけ、または難聴と耳の閉塞感(つまり感)だけが主な症状です。
ときどき嚥下によってポコポコと気泡音が聞こえたり、体位によって中耳で水が移動する音を聞くことがあります。

子どもさん本人が耳の痛みを訴えないため、お母さんたちも気づきにくく、

「テレビのボリュームが大きい」
「後ろから呼びかけると振り返らない」
「呼んでも返事をしない」
などによって遅れて気づかれることも少なくありません。

写真7 滲出性中耳炎(漿液性)

膿性でない漿液性の(サラサラの)中耳貯留液がみられます。一部気泡が見られます。鼓膜の一部が石灰化しています。(写真7)

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/16-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%92%BD%E5%96%89%E7%96%BE%E6%82%A3/%E4%B8%AD%E8%80%B3%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%BC%93%E8%86%9C%E3%81%AE%E7%96%BE%E6%82%A3/%E4%B8%AD%E8%80%B3%E7%82%8E-%E6%BB%B2%E5%87%BA%E6%80%A7

滲出性中耳炎の治療は、急性中耳炎と同様に診療ガイドラインが出ています。

日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会編
小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2015年版

https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2015.pdf

小児の滲出性中耳炎では治療全体を通して、
経過観察(watchful wait)が非常に重要になります。

初めに3ヶ月間は保存的治療を継続して、(一側性、両側性を問わず)鼓膜の病的変化が見られなければ、引き続き保存的治療を継続します。

診療ガイドラインに治療アルゴリズムが記載されてきますので、原則としてそれに従って治療を進めます。しかし必ずしもガイドライン通りではなく、個々の症例ごとに治療方針に軌道修正が必要になることは他の疾患と変わりはありません。

治療は、診療ガイドラインでご確認ください。

アルゴリズムの途中で症例によって、

 鼓膜切開

 鼓膜チューブ留置

 アデノイド切除術

などの治療が必要になります。
治療選択肢が多岐にわたります。

以前のtopics も参考にしてください。

 滲出性中耳炎


中耳炎かも…と思ったら

急性中耳炎はとても痛い病気です。
子どもさんは耳を押さえて痛がります。小さなお子さんは泣き続けるだけのことも少なくありません。夜中に痛がり、お薬も効かないことがあります。
高い熱が出たり、耳漏(耳だれ)が出ることもあります。

お母さんたちは子どもさんの中耳炎をとても心配されます。でも、中耳炎は難しい病気ではありません。繰り返す中耳炎や難治性の中耳炎はありますが、普通はきちんと治療すれば治ります。

子どもさんが「中耳炎かも…」と思ったら、すぐにかかりつけの耳鼻咽喉科医に診てもらってください。

中耳炎を起こしているかどうか、もし中耳炎ならどうすれば良いのか、丁寧に教えてくださるはずです。

多くはお薬の治療で、順調に治っていきます。

中耳炎かも…見えないと心配ですよね。
(イメージです)