ANCA関連血管炎

ANCA関連血管炎とは、何でしょう?
今回は、すこし難しい病気の話です。

ANCAとは?

ANCAとは何でしょう?
ANCAは、Anti Neutrophil Cytoplasmic Antibody (抗好中球細胞質抗体) の略語です。”アンカ”と読みます。

細胞質とは、細胞膜に包まれた部分で細胞核以外の部分を指します。
図1で◯11の部分が細胞質です。
細胞質には核②以外の細胞内小器官③-10、12が存在します。

図1 細胞の構造

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E8%B3%AA

好中球

血液中には、白血球という細胞があります。
白血球の一つである好中球の”細胞質”(細胞膜に包まれた中身のこと)に抗体ができてしまい、その抗体をANCAと呼びます。ANCAは好中球に対する抗体なので、自分自身の好中球を攻撃してしまいます。それがANCA関連血管炎です。

写真1 好中球

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%BD%E4%B8%AD%E7%90%83

好中球は、5つある白血球の1種類です。骨髄で作られて成熟します。炎症性サイトカインや細菌・真菌の成分に遊走し、炎症が起こっている部位に集合して細菌・真菌等の異物の貪食・殺菌・分解を行なって生体を防御するはたらきをしています。
成熟すると核が分かれるので、分葉核球と呼ばれます。(写真1)

好中球は、感染症などの炎症急性出血によって増加し、血管壁、脾臓、肝臓、さらに骨髄に大量に貯蔵されています。全血液中には数千億個以上の好中球が存在するとされ、生体反応で必要時には速やかに増加します。血液中の好中球の寿命は12時間です。

ANCA関連血管炎とは?

ANCA関連血管炎は血管炎症候群の1つです。血液中の抗好中球細胞質抗体 (Anti Neutrophil Cytoplasmic Antibody ANCA)が陽性になる「壊死性血管炎疾患群」です。
毛細血管や細動静脈などの中小型血管が障害されることが特徴です。
AAV (ANCA Associated Vasculitis)とも表示されます。

好中球と血管炎

好中球は自然免疫の主役です。
(アレルギーと免疫 -その1-)
傷口から体内に細菌が侵入してきたとき、いち早く好中球やマクロファージが駆けつけて、細菌を貪食(食べる)することで、生体を防御する免疫系が働くようになっています。
好中球は、免疫系の重要な細胞です。
したがって、この好中球に対する抗体(ANCA)ができてしまうと、好中球が本来の働きができなくなります。抗体ですから、好中球の働きが弱まるような印象がありますが、ANCAが好中球に作用すると、逆に好中球が活性化されて暴走をはじめます。

ANCA関連血管炎

本来、好中球は生体防御のために、組織で炎症を起こします。炎症を起こすことで免疫系を作動させます。ところが、好中球が暴走を始めると、細菌が来ていないのに、勝手に好中球が働きはじめて炎症を起こします。好中球は全身の血管内を流れているので、全身の血管で炎症が起こります。好中球が無差別に血管を攻撃するようになるのです。

好中球の暴走による血管炎です。
これが、ANCA関連血管炎の本態です。

P-ANCA, C-ANCA

ANCAには、蛍光染色のパターンによって、(perinuculear)=P-ANCAと、(cytoplasmic)=C-ANCAに分類されます。P-ANCA、C-ANCAは、抗原の種類でそれぞれ、MPO-ANCA、PR3-ANCAと呼ばれています。これらは、診断のための検査にも使われます。

Chapel Hill 分類

全身の血管は、太さによって分類されています。大型血管、中型血管、小型血管です。
全身血管炎は、新しいChapel Hill 分類(2012年) によって、大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎に分類されています。
このうち、ANCA関連血管炎は、主として小型血管から一部中型血管までの太さの血管炎を起こします。(細動脈、細静脈、毛細血管)
体の隅々まで張り巡らされた血管に炎症を起こすことになります。

大型、中型、小型血管炎の病変分布

(Jennette JC et al. 2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides. Arthritis Rheum 2012. より引用)

ANCA関連血管炎

やっと語句が繋がりました。ANCAは、好中球を暴走させて炎症を起こさせる抗体。血管炎は、全身の小型の細い動静脈と毛細血管。
ANCAによって引き起こされる全身の血管炎。これが、ANCA関連血管炎の正体です。

ANCA関連血管炎分類

ANCA関連血管炎は、3つに分類されています。
顕微的多発血管炎(MPA)
多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)

血管は全身に張り巡らされており、とくに血流の多い、眼、耳、鼻の粘膜、心臓、肺、腎臓、全身の皮膚などが全部、炎症を起こします。

このうち、
②多発血管炎性肉芽腫症=GPA(Granulomatosis with polyangitis)
③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症=EGPA(eosinophilic granulomatous polyangitis) が、もっとも耳鼻咽喉科の症状を起こしてきます。
今回は、これを中心に書きます。

EGPA (好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)

EGPAは、血管壁に好酸球浸潤を伴う肉芽腫を形成する、壊死性肉芽腫性血管炎です。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
(EGPAの顕微鏡像)

1951年にChurg-Strauss syndrome として提唱された疾患です。CHCC (Chapel Hill Consensus Conference) 2012で、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatous polyangitis EGPA)が正式名称に採用されました。
好酸球増多を伴い、全身の動脈に壊死性血管炎を生じます。肺動脈も侵されます。
赤血球沈降速度亢進、血清IgE高値、リウマトイド因子(+)、血中好酸球800以上/μℓ、MPO-ANCAが陽性になります。
腎疾患のないEGPAでは25%がANCA陽性、腎疾患のあるEGPAでは75%がANCA陽性、と腎疾患の有無がANCA陽性率を左右します。
確定診断は針生検による病理診断です。

喘息やアレルギー性鼻炎が先行してあり、
全身の好酸球増多をともない、全身の臓器に好酸球浸潤が起こり、臓器障害を起こし、
全身に微小血管炎を起こします。

EGPAには、3つの病期があります。
前駆期、好酸球増加期、血管炎期です。これは上記の①②③の病態に一致します。

EGPAの症状

EGPAは、90%以上の喘息、70%の末梢神経障害、40%の好酸球性肺炎、50%の皮膚症状、50%の副鼻腔炎があると報告されています。
全身性の血管炎による、発熱、体重減少がみられます。
神経障害は多発性単神経炎が主体となります。

予後に影響する病変としては、心臓、腎、消化器、中枢神経の病変があります。このうち、心臓病変があるものが、もっとも生命予後に影響し、次は腎病変でした。腎病変は、ANCA関連血管炎の全般に高頻度に見られるもので、ときに急速進行性糸球体腎炎となって積極的な治療が必要となります。

耳鼻咽喉科の症状は、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎です。副鼻腔炎だけを見ていると、まずわかりません。

GPA(多発血管炎性肉芽腫症)

GPAは、上気道(鼻咽腔)、肺、腎に進行性の壊死性血管炎と肉芽腫を生じる、全身性の血管炎です。
男性は30-60歳台、女性は、50-60歳台に好発して、上気道、肺、腎症状を3主徴とします。以前は、Wegener 肉芽腫症と呼ばれていました。

GPAの症状と診断

初発症状は上気道症状で、難治性鼻炎、難治性副鼻腔炎による、鼻閉、悪臭のある膿性鼻漏、鼻出血、眼症状(視力低下、眼球突出など)があります。鞍鼻(あんび、外鼻が凹むこと)がみられることもあります。
肺の結節性病変から血痰があり、血尿、タンパク尿から進行すると腎不全になります。そのほか、関節痛、神経炎、心筋障害などがみられます。

診断は、血液中のPR3-ANCA(C-ANCA)が高率に陽性を示します。鼻粘膜、肺生検による巨細胞を伴う壊死性血管炎、腎生検による半月体形成性腎炎で、確定診断になります。胸部レントゲンで空洞や結節性陰影がみられます。

耳鼻咽喉科の症状は、こちらも、難治性鼻炎、副鼻腔炎です。特徴的な症状が出現すると鑑別診断が可能になります。

治療

いずれの疾患も、強力な寛解導入療法と、維持療法を行います。全身の血管炎ですので、治療の専門は耳鼻咽喉科でなく、内科になります。寛解導入療法は、ステロイドを中心に、臓器障害がある場合は、免疫抑制剤が使用されます。維持療法を行わない場合は高率に再発するため、寛解導入後、免疫抑制剤によって維持療法が行われます。ここでは、治療の詳細は省略します。

ANCA 関連血管炎性中耳炎

ANCA 関連血管炎は中耳炎で初発することがあります。
2012年の日本耳鼻咽喉科学会にて ANCA 関連血管炎に伴う中耳炎を ANCA 関連血管炎性中耳炎(otitis media with ANCA associated vasculitis ; OMAAV)と呼ぶことが提唱され、2013年には日本耳科学会で診断基準案が提案されました。
OMAAV の多くは中耳に肉芽が存在し,進行すれば骨破壊を来すことから,GPA の合併症と考えられています。 ANCA 関連血管炎性中耳炎(OMAAV)は欧米の診断基準でははGPA に分類されます。

OMAAV の一 部に、内耳炎から発症して感音性難聴やめまいといった内耳症状のみを呈し、中耳に肉芽を認めないものが存在します。
これらは内耳の血管炎からの発症を示唆しており、MPA である可能性が高いと考えられています。
耳症状を伴わない GPA と比較して、OMAAV は顔面神経麻痺や肥厚性硬膜炎の合併率が高いこと,MPO―ANCA陽性率が有意に高いことが報告されています。
OMAAV の中にはくも膜下出血などの重篤な頭蓋内合併症をきたす症例があることも報告されています。

中耳炎の進行、増悪が早く非可逆的な難聴に至ることも多いとも言われており、早期診断・治療が重要であるとされています。

耳鼻咽喉科との関係

耳鼻咽喉科との関係を知っておく必要があります。
「免疫系の異常による全身の血管炎から耳鼻咽喉科領域の多彩な症状が見られることがある」
重要なことは、これだけです。

難治性のアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎など、ありふれた疾患の中にも、常に全身状態を観察しながら、診断を確定しなければならない典型です。

局所の観察と治療のみを行なっていては、全身疾患には気づかないことがあります。

患者さんの一言が、疾患を疑うきっかけになります。普段から何か気になることがあったら何でも、かかりつけの主治医に話すことが大切です。その一言が重要な診断を引き出す鍵になるかもしれません。

最後に

人間の器官や臓器は全てが連動しています。
全く機能が違うものでも、免疫系でつながっていたりします。
局所の小さな器官に、全身的な疾患の一症状が生じることがあります。

耳鼻咽喉科医は、耳、鼻、のどの局所のみを観察する機会が多いため、これらを通して常に全身疾患の存在を意識しておかなければなりません。患者さんの何気ない一言が診断の一助となることも少なくありません。

血管走行(腹部)

(By Bodies & Skulls, Photography & Retouching: James Bareham​​​​​​​)
https://www.behance.net/gallery/11823171/Bodies-Skulls

血管走行(頭頸部)

https://farm1.static.flickr.com/79/279486852_a25a523993.jpg?v=0

人体には、信じられないくらい多くの血管が存在しています。血管の病気が起こるとどれだけ重要なことかが、理解できると思います。