鼻茸(はなたけ) -その2-

前回、鼻茸について書きました。
今回は2回目です。より専門的な知識をお知らせします。

鼻茸の病理

鼻茸とは、病理組織学的には何なのでしょうか。

鼻茸の組織型分類には、「平出(Hiraide)の分類 」があります。

①浮腫型 (edematous type),
②腺嚢胞型(adenocystic type),
③線維型(fibrous tppe)

と3つに分類 されています。

鼻茸の表面は、多列線毛上皮に覆われていて、線毛細胞と杯細胞が混在して配列されています。

図1 線毛細胞

線毛細胞は、線毛の上に粘液層(粘液のバリア)を作り、線毛運動によってベルトコンベアのように移動させます。主として気道粘膜に存在して、吸入した異物や分泌された老廃物を排出させるために働いています。

図2 杯細胞

杯(さかずき)細胞は、線毛上皮細胞の間に並んで存在しており、細胞の頂上から粘液を産生します。これが粘液層を作ります。細胞の形が西洋の杯に(goblet)似ているため、杯細胞(goblet cell)と呼ばれています。

写真1 杯(goblet)

①浮腫型は、間質の浮腫がつよく杯細胞が多く見られます。好酸球の浸潤も多く見られます。鼻茸全体の60-80%です。

②腺嚢胞型は、粘液腺が多く見られます。鼻茸の20-30%です。

③線維型は、線維芽細胞、弾性線維が多く見られます。鼻茸の10-20%です。

浮腫型の鼻茸が、病理組織学的には最も多い鼻茸です。(60-80%)

鼻茸は病理学的には、線維芽細胞の増生と間質の浮腫です。

写真2 線維芽細胞(マウス)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E8%8A%BD%E7%B4%B0%E8%83%9E

図3 間質(白い部分)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%A4%96%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

間質とは、細胞外基質=細胞外マトリックスのことです。図3で線維性物質を含む白い層状の部分を間質=細胞外マトリックスと呼びます。
細胞外マトリックスには線維芽細胞 (Fibroblast)が存在しています。その他に、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチンなどの線維性物質が含まれています。

図4 鼻茸

鼻茸の発生は、粘膜下に間質の浮腫が起こり、線維芽細胞が増生することによると考えられています。毛細血管から瘤状に膨れた新生血管がループ状に間質に入り込みます。(図4)

どうしてできるの?

鼻茸は、どうしてできるのでしょう。

じつはまだ、完全に解明されていません。
鼻茸の成因は単独ではなく、現在、複数の機序が関与していると考えられています。

黄色ブドウ球菌スーパー抗原

鼻茸がある人には、黄色ブドウ球菌のコロニー形成(保菌)が多く、黄色ブドウ球菌が産生する「スーパー抗原」が増加して、局所のつよい炎症を誘発することが鼻茸の原因の1つと考えられています。

スーパー抗原 (Superantigens) はT細胞を活性化させ、多量のサイトカインを放出させる抗原です。
通常の抗原に反応するT細胞は全体の0.001~0.0001%に過ぎませんが、スーパー抗原は最大20%ものT細胞を活性化すると報告されています。

この大量に活性化されたT細胞が、過剰な免疫応答を引き起こして、つよい炎症を持続させることが、鼻茸形成の成因の1つにあげられています。

T細胞

鼻茸の形成には、いくつかのT細胞が関与していると考えられています。
Th2細胞は、IL-4, IL-5, IL-13 などのサイトカインを産生して、タイプ2炎症と呼ばれる、つよい好酸球炎症を起こします。
とくに好酸球性副鼻腔炎では、アスピリン不耐症や重症の喘息を合併し、上気道と下気道の両方で粘膜につよい好酸球浸潤を起こして、炎症が続きます。
Th17細胞や制御性T細胞(Regulatory T cell, Treg)も、鼻茸の形成に関与していると報告されています。

アラキドン酸代謝

組織で炎症が起きるとき、アラキドン酸カスケード反応と呼ばれる代謝が起こります。

生体の細胞膜は、脂質2重構造で、極性をもつリン脂質が内外2層に並んでいます。

図5 細胞膜の脂質二重構造

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%B3%AA%E4%BA%8C%E9%87%8D%E5%B1%A4

細胞膜のリン脂質に含まれているアラキドン酸から、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンの3種類の細胞間シグナル伝達物質 (セカンドメッセンジャー) が生成されます。この合成過程を、アラキドン酸カスケードと言います。

アラキドン酸とは、ω-6 脂肪酸の1種です。アラキドン酸カスケード反応は、脂質代謝経路です。

図6 必須脂肪酸代謝経路

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%83%89%E3%83%B3%E9%85%B8

図6は、必須脂肪酸の代謝経路です。
pgはプロスタグランディン、txはトロンボキサン、ltはロイコトリエンを表しています。

ホスホリパーゼA2によって細胞膜のリン脂質から遊離されたアラキドン酸は、必須脂肪酸の代謝過程(図5)でエイコサノイドと呼ばれる3つのアラキドン酸誘導体、プロスタグランディン(PG)、トロンボキサン(TX)、ロイコトリエン(LT)の3種類の物質を生成します。

図7 アラキドン酸カスケード

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%83%89%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%89

図7はアラキドン酸カスケード反応です。
この代謝経路で、アラキドン酸(Arachidonic acid, AA) を出発点として、プロスタグランディン(Prostaglandin, PG)、トホンボキサン(Thromboxane, TX)を生成する経路に必要な酵素がシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase = COX)です。図6では、COX-1, COX-2 を合わせてPGH2 synthase と表示されています。(黄色い丸)
ロイコトリエン(LT)を生成するのに必要な酵素がリポキシゲナーゼ(Lipoxygenase)です。(緑の丸)

COXには-1, -2, -3 の3つのアイソザイムがありますが、COX-1は恒常的に発現しており、COX-2は炎症時のみ発現し、COX-3は中枢神経での発現が予想されています。

COX-2は炎症時に発現が誘導されることが知られています。炎症時はCOX-2からのPGE2やPGI2(プロスタサイクリン)等の産生が亢進します。

PGE2は血管透過性の亢進、血管拡張及び痛みの発現を引き起こし、PGI2は血管拡張及び痛みの発現を起こして、炎症を進行させます。

抗炎症薬のCOX阻害薬は、このシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase = COX)を阻害することで、アラキドン酸からPGH2の生成をブロックして炎症物質であるプロスタグランディンやトロンボキサンの生合成を抑制します。(図7)


図8 COX阻害薬作用部位

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代表的な抗炎症薬であるアスピリンは、COX-1, COX-2 両方を阻害します。(赤色の丸)

COXが阻害されアラキドン酸からPGH2が生成されないと、PGE2, PGI2, TXA2 は生成されなくなります。

鼻茸は、好酸球性副鼻腔炎の患者さんに多発しますが、好酸球性副鼻腔炎はアスピリン喘息を合併することが多く、同じタイプ2炎症と呼ばれる病態です。

アスピリン喘息の患者さんの多くは、COX2(シクロオキシゲナーゼ)活性が低下していますが、そこにCOX-1阻害薬が作用するとさらにPGE2生成が低下します。PGE2は5-リポキシゲナーゼ(5-lipoxygenase)の活性を抑制しているため、PGE2が減少すると5-LOの抑制が効かなくなって、LTC4, LTD4, LTE4 などのシステイニルロイコトリエン(CysLTs)が過剰に生成されます。(図6の緑の丸)
炎症物質であるシステイニルロイコトリエン(CysLTs)は間質の浮腫を引き起こすことが知られていますので、過剰に生成されたCysLTsは鼻茸の増大を起こします。

アスピリン喘息またはアスピリン不耐症の患者さんでは、抗炎症薬のCOX阻害薬(アスピリン)の投与によって、喘息の増悪とともに鼻茸の増大が起こることが理解できます。

アラキドン酸カスケード反応の理解が、鼻茸の成因を理解することに繋がりました。

好酸球

鼻茸の成因には、好酸球が深く関係しています。好酸球はタイプ2炎症で増加する白血球です。好酸球の直径は10-15 μm、IL-5によって活性化されます。
好酸球から遊離したシステイニルロイコトリエン(CysLTs)や血小板活性化因子(PAF)は、間質の浮腫を起こしますので、鼻茸の成長を助長します。
さらに好酸球は、線維芽細胞に作用して線維芽細胞からインターロイキン6(IL-6)を誘導します。IL-6は細胞間接着因子の発現を促すため、組織の細胞間同士の結合が強くなり、より硬度のある組織形成が進行します。これは、鼻茸が周囲より硬度のある組織として成長することに繋がります。
またIL-6は、制御性T細胞(Treg)を低下させると報告されており、Treg細胞の低下がT細胞(Th1, Th2, Th17)の活性化を引き起こして、Th細胞による鼻茸増生に関与していると考えられています。

写真3 好酸球

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%BD%E9%85%B8%E7%90%83

好酸球性副鼻腔炎などに発生する、好酸球浸潤の強い鼻茸は、好酸球浸潤の少ない鼻茸に比較して、システイニルロイコトリエン(CysLTs)が有意に増加しています。CysLTsは、間質の浮腫を引き起こしますから、鼻茸の生成を助長します。

鼻茸の成因について、スーパー抗原、T細胞、アラキドン酸代謝、好酸球などの関与を書いてきました。基礎医学的な複雑な内容が多く、理解しにくい部分もあったと思います。
しかし、いまひとつ明解にはなりません。

鼻茸の本質は何なのでしょうか。

リモデリング

鼻茸の病態は、鼻粘膜のリモデリングと考えられています。

リモデリングとは「再構築」を意味し、炎症の治癒過程で正常構造とは違う組織に再構築されることを指します。

骨におけるリモデリングでは、既存の骨が吸収され,その部位に新しい骨が形成されることを言います。骨の吸収には破骨細胞が関与し、骨形成には骨芽細胞が関与しています。骨折の治癒過程でもリモデリングが起こります。

気管支のリモデリングは近年、重症喘息の病態解明として説明されています。気管支喘息は、気管支の慢性炎症の持続です。気道粘膜の炎症、浮腫、組織損傷から組織修復過程による気管支壁の線維化が起こります。気管支壁が線維性に硬くなり分厚い組織変化を起こすのです。

気管支喘息は慢性炎症なので、炎症がコントロールできずに持続すると創傷治癒が遷延して病理学的な組織変化が起こります。
気管支壁が、慢性炎症の治癒過程において正常構造と違う形態に再構築されると、線維化によって壁が分厚く硬くなって気管支内腔の狭窄を起こします。こうなってくると治療によって元に戻らない状態になり、難治性の重症気管支喘息に移行します。

炎症の治癒過程で”組織が瘢痕性に硬くなる”というイメージが理解できるかと思います。
これがリモデリングです。

皮膚の創傷治癒においても、治癒過程に皮膚を何度も引っかいて炎症を持続させると創傷治癒が遷延して、最終的に硬い皮膚に覆われてしまいます。これも皮膚の真皮下のリモデリングです。
このように、リモデリングは「創傷治癒」の1つと言い換えることができます。

鼻茸は、病理学的には間質の浮腫と線維芽細胞の増生です。創傷治癒の最終段階では、線維芽細胞の増生が起こるからです。

創傷治癒

創傷治癒とはどのようにして起こるのでしょうか。

細菌やウイルスなどによって鼻粘膜に感染が起こると、鼻粘膜細胞が傷害され、炎症を起こします。好中球やマクロファージなどの免疫細胞が傷害部位に遊走してきます。好中球やマクロファージによって細菌やウイルスは貪食され、異物の清掃が始まります。

マクロファージによる異物の除去作業が終了すると、T細胞やB細胞などの免疫細胞による免疫応答が進行していきます。
これとは別に、感染部位では炎症によって傷害された組織の治癒反応が進みます。

瘢痕治癒

創傷治癒の過程では、毛細血管の新生が起こり、間質に線維芽細胞が出現します。

①炎症部位に集まってきた線維芽細胞はコラーゲン(膠原線維)、エラスチン(弾性線維)、ヒアルロン酸などを合成して、細胞間質に分泌します。
②線維芽細胞から分泌されたコラーゲンによる肉芽組織が増生します。
③コラーゲンが凝集した肉芽組織が瘢痕治癒により硬くなり組織修復が進みます。

多くの場合、コラーゲン線維は初めⅢ型コラーゲンが集まり後にⅠ型コラーゲンに置換されて、組織は太く密なより硬い線維になります。

線維芽細胞による細胞周囲間質のタンパク質合成には十分な酸素と栄養素が必要です。
毛細血管は、周囲の血管から瘤状に発生して、組織の間質へループ状に発育し、網目状になります。(図3、再)

図3 鼻茸

再び、鼻茸の模式図です。(図3)
間質に線維芽細胞の増生とループ状の血管新生が起こっています。

鼻茸は、慢性副鼻腔炎に合併します。
慢性副鼻腔炎では、粘膜下の肥厚、粘膜下組織の浮腫と線維化、腺細胞の増殖などがみられます。これらの組織学的変化は、今まで書いてきたリモデリングによって生じています。

鼻茸(はなたけ)って何?

結局、鼻茸とは何なのでしょう。

鼻茸は病理学的には、間質の浮腫線維芽細胞の増生です。
鼻茸は病態的には、鼻副鼻腔粘膜のリモデリングです。

鼻茸にはまだ解明されていないことも多くありますが、誤解を恐れずに簡単に言えば、

「鼻茸とは、慢性副鼻腔炎の炎症が持続することにより、炎症の治癒過程で生じた鼻副鼻腔粘膜のリモデリングによって、鼻副鼻腔粘膜の浮腫と線維化が起こったもの」

と言い換えられるかもしれません。

線維化とは、線維芽細胞の増生によって正常組織が硬度のある結合組織に置き換えられることを言います。
線維芽細胞が分泌するコラーゲンなどが創傷治癒過程で過剰に蓄積して組織が瘢痕性に硬くなることを言います。

鼻茸って何?

鼻茸が膨れているのは、浮腫のせい。
鼻茸が硬いのは、線維芽細胞の増生のせい。

粘膜の浮腫と線維化がポイントだったのです。

結局どうすれば?

鼻茸とは何か?
大まかには理解できました。
どうしてできるかも。
でも、結局どうすれば良いのでしょう。

自分で鼻の中を覗くことはできません。副鼻腔炎で悩んでいる方も、そうでない方も。
ですから、鼻茸ができているか診断したければ、かかりつけの耳鼻咽喉科医を受診して診断してもらいましょう。
鼻腔を内視鏡で見るだけで、10秒で診断できます。

鼻茸の治療は?

鼻茸の治療は、大きく2つ。

内服治療で症状を抑えていく方法と、手術(ESS)によって完治に近づける方法です。

これらについては前回も書いていますので、詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。

鼻茸(はなたけ)って何?

好酸球性副鼻腔炎

デュピクセント

慢性副鼻腔炎

非常に巨大化した鼻茸は、鼻腔の外から肉眼で観察されることもあります。(写真4)

写真4 鼻腔の外から見えることも…
(右鼻腔に鼻茸が観察されます)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E8%8C%B8