血管収縮薬 -なぜ劇的に効くのか?- -鼻づまりをとる最高の薬-

点鼻液シリーズの第2弾です。
前回は、ステロイド点鼻液について、書きました。ステロイド点鼻液は、花粉症やアレルギー性鼻炎に対して、非常に効果の高い点鼻液ですが、1つだけ、効果の出現までの時間が”最速ではないこと”があります。その点、血管収縮薬は、非常に即効性が高い点鼻液です。点鼻した瞬間から、効いてきます。いわゆる、最速で効果を現す、”最高の点鼻液”と言っても過言ではないと思います。

今回は、ステロイド点鼻液とともに、点鼻液の2大双璧とも言える、血管収縮薬について、書こうと思います。

鼻づまり…

みなさん、花粉症のとき、いちばん苦しい症状は何でしょうか。それは、もちろん、鼻づまりですね。鼻づまりは、集中力を欠くだけでなく、やる気を無くし、睡眠の妨げになり、生活の質を著しく落とします。このつらい鼻づまりは、一刻も早く取りたい鼻の症状ですが、耳鼻科に駆け込んで、のみ薬を飲んでも、今すぐによくなる症状ではありません。鼻づまりが起こってから、ステロイド点鼻液を点鼻しても、すぐに鼻づまりを取り去るのは難しいことです。しかし、血管収縮薬は違います。点鼻してから10秒、30秒単位で鼻づまりが取れてきます。もちろん、花粉症やアレルギー性鼻炎の重症度によって、血管収縮薬の効果の程度は当然、違ってきます。それでも、血管収縮薬が効果を現すのはほとんど30秒から1分以内です。場合によっては点鼻した数秒後から効果を感じる時さえあります。よく考えれば、こんな薬は、そうあるものではありません。というか、まずないのではないでしょうか。

劇的な即効性をもつ、最強の点鼻液、血管収縮薬。それでは、何故、血管収縮薬は、効くのでしょうか?その答えを探ってみましょう。

血管とは?

血管収縮薬とは、何でしょうか。文字通り、血管を収縮させる薬です。しかし、それでは、血管収縮とは、いったい何でしょうか。まずは、血管は、どんな構造をしているのでしょう。

血管は通常、動脈→細動脈→毛細血管→細静脈→静脈、の順になっています。このうち、動脈と静脈は、わかりますね。重要なのは、細動脈、毛細血管、細静脈の3つです。何故、この3つの血管が重要かと言うと、この3つの血管は、収縮と拡張を繰り返して、血流の調節を行っているからです。

Artery 動脈 Arteriole 細動脈 Capillaries 毛細血管 Venule 細静脈 Vein 静脈
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Arteriole

全身の血管系の基本構造は、このようになっています。血管の太さや本数、血管支配に違いはありますが、血流に視点をあてると、血液の流れ方は、この道筋をとって流れていきます。もちろん、動脈artery は、心臓から出た大動脈の分枝で、静脈vein は、上大静脈または下大静脈に入り、右心房に戻ります。

さて、ここで、血管のどこがどのように収縮するのでしょうか。

動脈、静脈、毛細血管

毛細血管を中心に、全身の血流を考えるとき、毛細血管の前の血管(動脈系)と毛細血管の後の血管(静脈系)を比較する必要があります。どこが違うのか。

動脈Arteryと静脈Vein、その間にある毛細血管Capillaries
血管平滑筋Smooth muscle🟡は動脈にも静脈にも存在します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Capillary

ここで、動脈と静脈について、解剖学にどうなってきるのか。

動脈Artery の壁構造(断面)
動脈は、内膜Tunica intima 、中膜Tunica media 、外膜Tunica externa の3層構造です。このうち、中膜に、血管平滑筋Smooth muscle が存在します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Artery

血管平滑筋は、収縮と弛緩を繰り返して、血管の直径を変化させます。

次に、静脈です。

静脈も基本的に3層構造です。中膜に血管平滑筋(ライトブルー色)が存在します。細静脈(黄色)は、血管平滑筋が非常に薄くなります。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Vein

静脈の3層構造(断面)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Vein
各サイズの静脈では、血管平滑筋の層に違いがあります。中膜がしっかりしている大静脈や中型の静脈では、血管平滑筋の層が厚く、多くの血管平滑筋が存在します。細静脈Venules では、中膜がうすいため、わずかの血管平滑筋しか存在しません。

細動脈と毛細血管には、ある部位に、前毛細血管平滑筋 Precapillary sphincters と呼ばれる小さな筋肉が取り巻いているところがあります。この前毛細血管平滑筋は、ときどき収縮して、臓器や組織の血流を調節する役目を持っています。

前毛細血管平滑筋(Precapillary sphincters) は、毛細血管の手前に存在して、毛細血管の血流を調節しています。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Microcirculation

前毛細血管平滑筋が収縮すると、図から分かるように、毛細血管の血管網に、血液が流れ込まず、血管網は縮んでしまいます。逆に、前毛細血管平滑筋が拡張すると、毛細血管網に多量の血液が流れ込み、毛細血管網は膨らみます。

図のThroughfare channel は、細動脈と細静脈を直接連結する血管で、毛細血管網と繋がっています。毛細血管網が閉じたときの、細動脈から細静脈への血液のバイパス通路になります。

前毛細血管平滑筋は、初めに腸間膜に存在する血管平滑筋として報告されていましたが、現在では、脳の血管にも存在することが確認されています。腸管と脳の血管において、高い動脈圧が直接、血管壁が非常に薄い構造をしている毛細血管にかからないように、大量の血液が急激に毛細血管網に流れ込まないように、血液の流量を調節していると言われています。

毛細血管の構造は、どうでしょうか。

毛細血管(Capillaries)
毛細血管は、血管内皮細胞(Endothelium)とその外側を取り巻く基底膜(Basal lamina)から構成されています。ところどころ、周囲に周細胞(pericytes)が存在します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Capillary

毛細血管は、直径6-8μmの赤血球がようやく通過できるほどの細い血管です。血管壁は血管内皮細胞1枚のほとんど1層構造で、周囲組織に酸素をはじめ、糖、電解質、水分、そのほか多くの物質が拡散しやすくなっています。

毛細血管の3タイプ
連続型Continuous type、有窓型Fenestrated type、洞様型Sinusoid type の3タイプがあります。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%9B%E7%B4%B0%E8%A1%80%E7%AE%A1

動脈、静脈、毛細血管、の基本的な構造がわかりました。

細動脈と毛細血管網の前には、前毛細血管平滑筋が存在していて、毛細血管の血流を調節していることもわかりました。(腸管、脳)

では、この血管構造の、一体どこがどのように、薬によって収縮するのでしょう。

次は、そこを見てみましょう。

骨格筋と平滑筋

血管の話題なのですが、筋肉です。筋肉は、3つのタイプに分かれています。骨格筋、平滑筋、心筋です。

平滑筋、心筋、骨格筋(左から)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Muscle

さらに筋肉は、組織学的に横紋筋と平滑筋に分かれます。骨格筋や心筋は横紋筋です。血管や消化管などは平滑筋です。

横紋筋は、規則正しい横紋が見られることが特徴で、この横紋は、アクチンとミオシンが規則正しく並んでいることによります。一方で、平滑筋は、この規則正しい横紋が見られません。

骨格筋、平滑筋、心筋(上から下)
骨格筋(1)は横紋が見られ、平滑筋(2)は見られません。(3)は心筋。https://en.m.wikipedia.org/wiki/Muscle 

骨格筋は、アクチンとミオシンが規則正しく並んでいて、横紋を見せています。

骨格筋の構造
いくつもの筋線維が集まって1つの骨格筋を作っています。

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Muscle_contraction

アクチンとミオシンは図のように組み合っていて、アクチンがミオシンによって手繰り寄せられて短縮し、筋収縮が起こります。

ミオシン(左)とアクチン(右)
この2つのフィラメントがスライドすることによって筋肉の収縮が起こります。これを、スライディングフィラメントセオリー(The sliding filament theory)と呼びます。

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Motor_protein

ミオシンの頭部が、アクチンを強く引っ張るとき、このようになります。

スライディングフィラメントセオリー(The sliding filament theory)
ミオシン(紫色🟪)とアクチン(緑色🟩)が収縮する様子がわかります。アクチン(actin)とミオシン(myosin)は、クロスブリッジ(cross bridge)しています。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Muscle_contraction

平滑筋とは?

平滑筋は、どうでしょうか。平滑筋は、骨格筋のような横紋筋は見られませんが、アクチン、ミオシンは存在しています。

平滑筋の構造
紡錘形の平滑筋をフィラメントが網状に覆っています。このフィラメントが収縮することで、筋収縮が起こります。

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Smooth_muscle

平滑筋表面に、自律神経の神経網が走っていて、神経の瘤状の部分に、神経伝達物質が貯蔵されています。これが放出されて平滑筋の電気的興奮が起こり、筋収縮が起こります。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Smooth_muscle

平滑筋は、シングルユニット、マルチユニットの2種類の平滑筋があります。多くの平滑筋は、シングルユニットです。血管平滑筋もシングルユニットです。マルチユニットの平滑筋は、気管、虹彩、大動脈に存在します。

ここで、血管の構造を思い出してください。血管壁に存在する平滑筋は、どこにあったでしょうか。

動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、静脈
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Capillary

動脈Artery、細動脈Arteriole、静脈Vein には、平滑筋が存在します。細静脈Venules にも少ないですが、平滑筋は存在しています。これが、血管平滑筋です。もう一度、血管壁を見てください。

動脈Artery の壁構造(断面)
動脈は、内膜Tunica intima 、中膜Tunica media 、外膜Tunica externa の3層構造です。このうち、中膜に、血管平滑筋Smooth muscle が存在します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Artery

動脈、細動脈の血管壁には、血管平滑筋が存在していて、これが収縮して、血管の直径を変化させているのでしたね。さて、毛細血管の周囲では、どうだったでしょうか。

前毛細血管平滑筋(Precapillary sphincters) は、毛細血管の手前に存在して、毛細血管の血流を調節しています。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Microcirculation

上の図で、血液が、細動脈Arteriole から毛細血管網Capillary bed に入っていくところで、血管平滑筋の働きによって血流量が調節されていることが、イメージとして理解できます。

上図に示されている前毛細血管平滑筋(Precapillary sphincters)は、脳血管と腸間膜の血管に特徴的に存在しています。鼻粘膜にはありません。

鼻粘膜では?

血管と血管壁の構造、そして血管壁に存在する血管平滑筋が理解できました。ようやく、鼻の粘膜の血液に焦点を絞ります。

鼻腔には、3つの鼻甲介があります。鼻づまりは、この鼻甲介粘膜が腫脹したときに起こります。鼻甲介の腫脹は、主として鼻甲介への多量の血液の流入によって起こりますが、花粉症やアレルギー性鼻炎発症時に起こる、血管透過性の亢進によって、血管内の血漿成分が鼻甲介に漏出することによっても起こります。

鼻甲介粘膜(concha)
鼻腔側壁にある左右3枚ずつの鼻粘膜の襞(ひだ)を、鼻甲介(concha)と言います。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Nose

3枚の粘膜の襞(ひだ)が、左右の鼻腔側壁から突出していて、鼻からの吸気がこの鼻甲介(びこうかい)によって一部ブロックされています。この鼻甲介が膨れて大きくなると、鼻腔容積を潰してしまって、鼻からの吸気ができなくなり、強い鼻づまりが起こります。これが、鼻づまりです。

鼻甲介(nasal concha)
下から、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介があります。下鼻甲介(Inferior nasal concha)が最大容積の鼻粘膜です
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Nasal_concha

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アレルギー性鼻炎についてのご理解のときに参考にしてください。

鼻粘膜の血管では?

鼻粘膜の鼻甲介が、血流の増加によって膨らむことが、鼻づまりの最大の原因であることが、わかりました。それでは、鼻甲介の血流は、一体どうなっているのでしょうか。

下鼻甲介の血管は、胸部、腹部の血管のようにCTに写りません。

直径7cmの巨大な胸部大動脈瘤の破裂 黒矢印が動脈瘤
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%83%B8%E9%83%A8%E5%A4%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%98%A4

大血管(大動脈、大静脈)は、CT画像に写ります。小血管(小動脈、小静脈)まではサイズが大きい場合、または造影剤を使用すると写ります。しかし、細動脈Arteriole、細静脈Venules はサイズの問題で、まずはっきり写ることはありません。さらに毛細血管Capillaries は、血管の直径が数μmであるため、当然ですが絶対に写りません。

この下鼻甲介の血管走行は、解剖学の本または、日々の経験に頼るほかありません。

私たち耳鼻咽喉科医は、当然、手術の時に毎日自分の目で見ていますので、血管の位置や走行を理解しています。

下鼻甲介の血管

顎動脈Maxillary artery (🔵)の分枝が下鼻甲介と中鼻甲介を走行します。(🟡)
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下鼻甲介の血流と鼻づまり

鼻甲介に血液を送り込む血管は、蝶口蓋動脈Sphenopalatine artery です。この動脈は、顎動脈Maxillary artery から分岐したあと、蝶口蓋孔という骨の穴を通って鼻腔に出てきます。蝶口蓋動脈は顎動脈の分枝であり、顎動脈は外頸動脈の分枝です。そのため、血液量は意外に多く、ふだんは下鼻甲介血管(動脈)の収縮によって血流がある程度に制限されていますが、血流が多くなると血管が膨らみ、それにともなって鼻甲介容積も増大するため、鼻づまりが起こります。いわゆる、ビニール袋に水をたくさん入れた状態に近いとイメージしてください。

さらに、アレルギー反応が起こると、血管内から血漿成分が漏出するため、下鼻甲介粘膜の容積はさらに増大して、鼻づまりがひどくなります。

ここで、下鼻甲介粘膜を走行する血管を観察してみると、蝶口蓋孔から鼻腔内に出てくる蝶口蓋動脈は、1本からすぐに2本に分かれ、下方の血管はさらに、途中で2-3本に分岐して下鼻甲介内を走行しています。下鼻甲介の粘膜内を走行するこれら数本の動脈は、太さが1mm 程度であり、毛細血管に直接繋がる細動脈Arteriole にしては直径が大きく、おそらくは小動脈Small arteries と思われます。したがって、動脈壁に比較的厚い中膜を持ち、多くの血管平滑筋を有しています。

花粉症やアレルギー性鼻炎などによって、鼻粘膜にアレルギー反応が起きたとき、肥満細胞からは、大量のヒスタミンが放出されます。このヒスタミンが、下鼻甲介粘膜の血管や神経に作用して、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3大症状が起こってきます。

このとき、ヒスタミンは、下鼻甲介粘膜の血管にどのように働くのでしょうか。

ヒスタミンと血管

ヒスタミンの生体内での働き、作用はじつに多岐にわたります。ヒスタミン受容体も、H1、H2、H3、H4の4つの受容体があります。このうち、血管に働く受容体は、H1と、H2です。

一般に、単離血管に対するヒスタミンの効果は、H1受容体に作用すると血管収縮、H2受容体に作用すると血管拡張の作用があるとされていますが、同じ血管でも血管の太さや投与するヒスタミン濃度によっても違った結果が導かれることから、ヒスタミンの血管に対する反応は、複雑で一概には結論づけられません。

血管壁にある血管平滑筋 (左: 弛緩 右: 収縮)
平滑筋を取り巻くフィラメント途中にあるdense body に神経伝達物質が貯蔵されていて、収縮時に放出されます。血管平滑筋の1つの細胞は、30-200 μm
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Smooth_muscle

生体内では、ヒスタミンは、血管平滑筋を収縮させることで血管収縮を、血管内皮細胞を収縮させることで血管透過性亢進を起こすとされています。しかし、だから血管が収縮するわけではありません。

ヒスタミンが血管内皮細胞に働くことで、小動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、小静脈などすべての血管の内腔を覆っている血管内皮細胞から、内皮細胞由来弛緩因子(endothelium-derived relaxing factor: EDRF)が産生されます。このEDRFは、一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン、内皮細胞由来過分極因子(EDHF)などの強力な血管拡張作用を持った物質です。これらの物質が血管内皮から血管内に放出されることで、動脈、小動脈、細動脈は血管拡張を起こします。さらに、小静脈だけは、ヒスタミンH1受容体の働きで血管平滑筋の収縮が強く起こって、血流を止めて、毛細血管網の内圧を上昇させます。

一般的には、ヒスタミンは、毛細血管の血管内皮細胞を収縮させて、毛細血管の後方の小静脈の血管平滑筋を収縮させます。

動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、静脈
ヒスタミンの作用によって、静脈Vein が収縮し、毛細血管網の圧が上昇して、毛細血管が拡張します。小動脈、細動脈、毛細血管、細静脈の血管内皮から内皮由来弛緩因子(EDRF)が産生されて小動脈、細動脈、毛細血管、細静脈が血管拡張を起こします。毛細血管の血管内皮細胞はヒスタミンで収縮して細胞間隙が開き、内圧の上昇と合わせて血管透過性が亢進します。https://en.m.wikipedia.org/wiki/Capillary 

すなわち、ヒスタミンによって、毛細血管の後方の血管、小静脈が収縮することによって、ビニール袋の後ろの口が縛られた状態になるために、毛細血管網が血液で満たされてぱんぱんに膨れます。さらに、血管内皮細胞から、強力に血管を弛緩させる因子が大量に放出されるため、小静脈より前方の小動脈や細動脈、毛細血管は血管が弛緩して拡張します

さらに血管内腔の血管内皮細胞は、ヒスタミンで収縮するため、血管内皮細胞と基底膜だけで構成される毛細血管では、内皮細胞に間隙(すきま)ができて、そこから内圧で血漿が漏れやすい状態になります。これが、毛細血管の血管透過性亢進です。

毛細血管(Capillaries)
血管内皮細胞 Endothelium
基底膜 Basal lamina
周細胞 Pericyte

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Capillary

内皮由来弛緩因子?

血管内皮細胞は、血管内皮由来弛緩因子 (endothelium-derived relaxing factor: EDRF) と総称される血管弛緩因子を産生、遊離します。

血管内皮由来弛緩因子(EDRF)は3種類あります。一酸化窒素 (nitric oxide: NO)、プロスタサイクリン (prostacyclin: PGI2) などのプロスタグランジン、血管内皮由来過分極因子 (endothelium-derived hyperpolarizing factor: EDHF)の3つです。

血管内皮由来過分極因子(EDHF)は、血管平滑筋の細胞を過分極させる電気的シグナルを発生させます。血管平滑筋細胞は、常に過分極の状態になっているため、平滑筋細胞の電気的興奮が起こらず、したがってすぐに収縮できません。この状態が続きます。したがって、血管は弛緩したままになります。

このうち、一酸化窒素(NO)は、大動脈、冠状動脈などの比較的太い血管を中心に作用し、血管内皮由来過分極因子 (EDHF)は、比較的細い血管を中心に作用することがわかっています。これらの血管内皮由来弛緩因子(EDRF)は、強力な血管拡張作用を持っています。

ロイコトリエン

下鼻甲介の血管を拡張させる、もう一つの強力な物質は、ロイコトリエンと呼ばれます。ロイコトリエンは、肥満細胞の細胞膜リン脂質から放出されたアラキドン酸から、アラキドン酸カスケード反応によって、プロスタグランジン、トロンボキサン、などと同時に産生されます。

このうち、ロイコトリエンC4は、気管支平滑筋を収縮させ、血管平滑筋を拡張して、強力な血管拡張作用を持っています。ロイコトリエンの血管拡張作用は、とくに下鼻甲介などの小血管で強力です。

そのため、下鼻甲介の血管は大きく拡張して、血流が増大します。じつは、ロイコトリエンの血管拡張作用は、ヒスタミンよりもずっと大きいと言われていて、花粉症やアレルギー性鼻炎によって起こる下鼻甲介血管の血管拡張は、ロイコトリエンによる影響が最も大きいことが知られています。

ロイコトリエンは、ヒスタミンと同じく、下鼻甲介の毛細血管における血管透過性を亢進させます

血管拡張とは?

血管拡張は、どのように起こるのでしょうか。単純に、血管が拡張すると血流が増えることは理解できますが、確認してみましょう。

血管拡張(左: 正常 右: 血管拡張)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Vasodilation

血管拡張は、血管の弛緩によって起こります。血管の弛緩は、血管収縮の反対です。血管が縮んだ状態から緩(ゆる)んだ、いわば、縛り(しばり)が解かれた状態を想像してください。

血管収縮は、動脈、小動脈、細動脈、小静脈の血管壁の中膜に存在する血管平滑筋の収縮によって起こります。血管平滑筋の収縮は、血管平滑筋細胞の細胞内カルシウム濃度が上昇して起こります。

血管壁にある、この血管平滑筋が弛緩すると、血管が弛緩して血管内腔が大きくなります。これを血管拡張と言います。血管拡張が起こると、図のように、一度に多量の血液(赤血球)が血管内を流れることができるようになります。

下鼻甲介の血管では

ヒスタミンやロイコトリエンの血管に対する働きがわかりました。下鼻甲介の血管ではどうでしょうか。

花粉症やアレルギー性鼻炎が起こったとき、大量のヒスタミンが放出されます。組織間または血液中に吸収されたヒスタミンは、下鼻甲介の血管に直接作用します。ヒスタミンが下鼻甲介の血管に作用すると、以下のことが起こります。

下鼻甲介粘膜内を走行する数本の小動脈Small arteries、それに連続する細動脈Arteriole (直接視認できません)、毛細血管、細静脈、小静脈の血管内皮細胞からは、一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン(PGI2)、血管内皮由来過分極因子 (EDHF)などの内皮由来弛緩因子が産生されて、強力な血管拡張が起こります。

このことで、下鼻甲介の小動脈、細動脈が拡張して、大量の血液の流れ込みが起こります。

さらに、毛細血管網の後方に存在する下鼻甲介の小静脈の血管平滑筋が収縮して小静脈が収縮し、静脈圧が上昇します

また、ヒスタミンと同時に放出されるロイコトリエンC4は、下鼻甲介血管の小動脈、細動脈の血管平滑筋を強力に拡張します。そのため、下鼻甲介血管の強い血管拡張が起こって、下鼻甲介血管には、大量の血液が流れ込みます

その結果、毛細血管網が血液で満たされます。

ロイコトリエンの血管拡張作用は、下鼻甲介血管においては、ヒスタミンよりも強力であることが知られています。

小動脈、細動脈の弛緩によって大量に流れ込んだ血液と小静脈の収縮によって血液の流出が悪くなった下鼻甲介は血液でぱんぱんに膨らむことになります

毛細血管網の血管内皮細胞間隙にすきまができて、血管透過性亢進が起こるため、毛細血管から血漿成分が漏出して組織間に貯留します。組織間隙に大量に貯留した血漿成分も下鼻甲介の体積を増やしますので、下鼻甲介は血漿成分によってもさらに大きく膨らむことになります

その結果、下鼻甲介は、血液と血漿成分を多量に含んで大きく膨れ上がり、鼻腔を完全に塞ぎます。そして、ひどい鼻づまりが起こるのです。これが花粉症のときの鼻づまりの本当の原因です。

実際に花粉症が起こるときは、下鼻甲介粘膜下でヒスタミンによる(延髄を経由した)神経反射によって、くしゃみ、鼻水などの症状が先に出現します。鼻腺細胞からの大量の鼻汁分泌が起こりますので、鼻腔内の鼻水によっても鼻づまりが悪化します。花粉症やアレルギー性鼻炎の鼻症状は単独ではなく、ほとんど複合して起こりますが、今回はヒスタミンの血管に対する作用に焦点を当てていますので、他の症状は省略しています。

血管収縮薬!

花粉症やアレルギー性鼻炎が起こり、下鼻甲介がぱんぱんに膨れあがって、ひどい鼻づまりが起こってしまいました。さあ、どうすれば良いでしょう。

抗ヒスタミン薬を飲む必要がありますが、効果の発現まで最低でも数時間かかります。ステロイド点鼻液を使うと即効性もあって良いですが、高度の鼻づまりには効果が薄いこともあります。何か、劇的によくなる薬はないでしょうか。

そこで、血管収縮薬の登場です。

血管収縮薬は、文字通り、強力な血管収縮作用があります。いま、下鼻甲介の血管が最大限に拡張して膨らんでいます。この血管に、血管収縮薬が作用すると、最大限に拡張した血管が強力に収縮するため、下鼻甲介に流入する血液量が大幅に減少して下鼻甲介の血管容積が劇的に減少します。その結果、鼻腔に空間ができて、鼻づまりがよくなるのです。

血管収縮薬が作用する時間は、数秒から十数秒、遅くても30秒から1分以内には効果の発現がみられます。非常に短時間に効果発現し、劇的に症状を抑えるのが血管収縮薬の特徴です。

血管収縮薬は、どのように作用するのでしょうか。

血管収縮薬

生体の多くの臓器は、交感神経と副交感神経の両方の支配を受けており、体内の恒常性(バランス)を維持するために、常に何らかの刺激を受けたり、抑制したりしています。これは、脳、心臓、腸管ばかりでなく、下鼻甲介の血管や神経でも変わりありません。

交感神経の支配 (各臓器)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E6%84%9F%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

交感神経の鼻腔に対する最大の影響は、下鼻甲介の血管収縮です。

副交感神経の支配 (各臓器)
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%89%AF%E4%BA%A4%E6%84%9F%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

副交感神経の鼻腔に対する最大の影響は、鼻腺細胞の分泌亢進、すなわち鼻汁増加です。

鼻腔内には、交感神経、副交感神経ともにその受容体が存在します。鼻腔はとくに交感神経、副交感神経の働きを受けやすい部位の1つです。このうち、下鼻甲介の血管に大きな働きを持っているのは、交感神経です。

一般に生体内には、交感神経α1、α2 受容体、β1、β2、β3 受容体が存在します。α1、α2は、さらに3つのサブタイプに分類されます。これらの多くの受容体は、交感神経が、生体内の臓器に作用するときに、それぞれ違った働きを伝えるためにあります。

この中で、鼻腔の下鼻甲介血管に作用するのは、交感神経α1受容体です。

交感神経α1受容体、α2受容体のうち、鼻腔の下鼻甲介血管に存在して、作用するのは、交感神経α1受容体です。

交感神経α受容体は、アドレナリン受容体と呼ばれていて、細胞膜にあるGタンパク質共益受容体(G protein-coupled receptors, GPCR)です。7回膜貫通型受容体です。

Gタンパク質共益受容体(G protein-coupled receptors, GPCR)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/G_protein-coupled_receptor

交感神経α1受容体は、受容体が活性化すると、血管平滑筋細胞内のカルシウム濃度が上昇して、平滑筋の収縮を起こします。

交感神経α1受容体、α2受容体にリガンド(作動薬)が結合したときの細胞内シグナリング
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Adrenergic_receptor 

交感神経α1受容体にリガンド(作動薬)が働いたとき、細胞内では、PLC(フォスフォリパーゼC)経由のパスウェイで反応が進行して細胞内カルシウム濃度が上昇します。細胞内カルシウム濃度が上昇すると、筋肉は収縮します。

α2受容体が活性化されたときも、cAMP経由のパスウェイで、平滑筋の収縮が起こります。

しかし、下鼻甲介血管の収縮については、今はα1受容体のみを考えると良いと思います。

下鼻甲介の小動脈、細動脈の血管壁の中膜にある血管平滑筋には、α1受容体があります。

動脈Artery 、細動脈Arteriole の血管断面
中膜Tunica media に血管平滑筋Smooth muscle cell が存在します。(ライトブルー色)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Artery

まとめると、こうなります。

下鼻甲介に血管収縮薬を点鼻すると、粘膜下に吸収された血管収縮薬は、下鼻甲介の小動脈、細動脈の血管壁中膜にある血管平滑筋細胞細胞膜に存在している、交感神経α1受容体に、血管収縮薬の化学物質の一部が結合して、血管平滑筋の細胞内カルシウム濃度が上昇することによって、血管平滑筋の収縮が起こり、最終的に血管収縮が起こるのです。

これが、血管収縮薬で、下鼻甲介の血管が収縮して、鼻づまりが改善するしくみです。

血管収縮薬の種類

鼻づまりをとるために使用される血管収縮薬は、一般にdecongestant と呼ばれています。日本語では、充血除去薬、と訳されています。

これらは、交感神経α1受容体に作用する、α作動薬と呼ばれる薬です。同時にα2受容体に作用するものもあります。

一般に、プソイドエフェドリン(PSE)やフェニレフリンなどが主成分となっています。

点鼻タイプですので、OTC も多く市販されています。以下に代表的な decongestant を示します。

以下の薬剤が一般的とされる。

エフェドリン 
レボメタンフェタミン
ナファゾリン
オキシメタゾリン
フェニレフリン
フェニルプロパノールアミン (PPA)
プロピルヘキセドリン
プソイドエフェドリン
シネフリン
テトラヒドロゾリン
トラマゾリン
キシロメタゾリン

この中で、鼻づまりがひどいとき、医薬品として、またはOTCとして、使用頻度の高いdecongestant をいくつか解説します。

decongestant

鼻づまりの充血除去役、decongestant として代表的な薬を解説します。

ナファゾリン

α1受容体、α2受容体に作用するアドレナリン受容体作動薬 です。結膜の充血に対して点眼としても使用されますが、点鼻液として、decongestant としても使用されます。

ナファゾリン(Naphazoline) Red eyeに対して
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Naphazoline

長期連用による、薬剤性鼻炎の発症に注意する必要があります。

Drug Information では、12歳以上または成人に、ナファゾリン0.05%溶液を各鼻腔に1-2滴ずつ点鼻する。6時間以上の間隔を空けること。3日を超えての連用は避けること。

と記載されています。

さらに、10分以内に血管収縮が起こること2-6時間効果が持続すること、が追記されています。

市販の点鼻液には、ナファゾリン塩酸塩として、成分表示されています。即効性があり、血管収縮作用に優れているため、非常に多くの市販点鼻液に配合されています。

オキシメタゾリン

選択的α1受容体作動性・部分的α2受容体作動性薬です。

オキシメタゾリンは、下鼻甲介血管の中膜の血管平滑筋のα1受容体に作用して血管収縮を起こします。さらに、血管内皮細胞のα2受容体に作用して、血管収縮を起こします。すなわち、下鼻甲介血管の血管収縮作用が強く長く続きます。オキシメタゾリンは、後毛細血管細静脈からの血管透過性血漿成分を減少させることが報告されています。

オキシメタゾリンも、市販の点鼻液に多く配合されています。即効性があり、効果が高く持続するため、使用に依存が伴います。

3日を超えての連用は禁止されています。頻回の使用、長期連用によって、反跳性鼻閉(Rebound congestion)、または薬剤性鼻炎(Rhinitis medicamentosa)が発症するため、注意喚起されています。

薬剤性鼻炎の原因薬剤には、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、ナファゾリン、フェニレフリン、が指摘されています。

元々、医療用に使用されていた医薬品でしたが、現在は、佐藤製薬から、ナシビンMスプレー、ナシビンメディとして販売されています。

ナシビンM、ナシビンメディ
https://www.sato-seiyaku.co.jp/nasivin/

ドイツ、メルク社のナシビンは、50年以上世界各国で使用されている、持続性血管収縮薬オキシメタゾリン配合の点鼻液です。

キシロメタゾリン

キシロメタゾリンは、オキシメタゾリンと同じく、持続性血管収縮作用を有するアドレナリン作動薬です。キシロメタゾリンは、鼻粘膜に発現している、アドレナリンα1受容体、α2受容体に作用します

キシロメタゾリンは、オキシメタゾリン同様、OTC薬に含まれており、世界中でシェアされているオトリビン Otrivin は、キシロメタゾリンが配合されています。

オトリビン Otrivin

フェニレフリン

フェニレフリン(Phenylephrine)は、選択的アドレナリンα1受容体作動薬です。点鼻液decongestant として使用されるほかに、点眼液、経口投与、静脈注射、筋肉注射、経皮投与、と使用方法は多岐にわたります。

フェニレフリンの血管収縮作用は、動脈と静脈の両方に対して起こります。

鼻づまりに対するフェニレフリンの効果は疑問視されてきましたが、経口投与については近年、効果が否定されました。

テトラヒドロゾリン

テトラヒドロゾリン(tetrahydrozoline)は、点眼液、点鼻液ともに使用されます。アドレナリンα1受容体作動薬です。ナファゾリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリンと同様の薬理作用を示します。市販の多くの点鼻液に配合されています。過量投与による毒性があります。用法、用量の遵守が必要です。

国内では、コールタイジン点鼻液a 、パブロン点鼻JL、アルガード鼻炎クールスプレーa などに配合されています。

パブロン点鼻JL (大正製薬)
https://www.catalog-taisho.com/category/02/003/04585/

コールタイジン点鼻液a (アリナミン製薬)
https://alinamin-kenko.jp/products/bien/cortyzine.html

コールタイジン点鼻液arteryは、プレドニゾロン配合です

アルガード鼻炎クールスプレーa (ロート製薬)
https://jp.rohto.com/rohto-alguard/nose-spray-cool/

Visine Eye Drops (Kenvue)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Visine

海外では、テトラヒドロゾリン(tetrahydrozoline) 配合の点眼液として市販されています。

プソイドエフェドリン

プソイドエフェドリンは、エフェドリンの光学異性体ですアドレナリンα受容体、β受容体の両方の作動薬として働くと同時に、シナプス前方からノルアドレナリンを放出させて、シナプス後方の受容体に作動させます。

エフェドリンは、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔の低血圧に対して使用されています。そのほ他の低血圧治療や、抗アドレナリン作用薬の治療に使われています。ナルコレプシー、夜尿症の治療にも必要です。

エフェドリン
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%B3

プソイドエフェドリンの点鼻液は、海外では、Sudafed Decongestant として市販されています。

トラマゾリン

トラマゾリンは、強力な血管収縮薬です。

トラマゾリン点鼻液0.118%(AFP) (アルフレッサファーマ)
https://www.alfresa-pharma.co.jp/medical/iyaku/detail/34/

トラマゾリン点鼻液0.118%(AFP)
医薬品添付文書

主成分は、トラマゾリン塩酸塩(Tramazoline hydrochloride)です。交感神経α受容体作動薬です。ナファゾリン塩酸塩と同様に、連用または頻回使用によって、反応性の低下や局所粘膜の二次充血を起こすことがある、と記載されています。(医薬品添付文書)

ただし、強力な血管収縮作用を持ちますので、鼻粘膜の充血には非常に効果のある、点鼻用血管収縮薬です。

但し書き

鼻アレルギー診療ガイドライン -通年性鼻炎と花粉症- 2023年版」によりますと、

“鼻噴霧用ステロイド薬使用10〜30分前に点鼻用血管収縮薬を1日1〜2回使用する。鼻噴霧用ステロイド薬の効果発現とともに休薬する。”

との記載があります。さらに、

通年性アレルギー性鼻炎では重症、最重症型に限り、

“点鼻用血管収縮薬を最小回数(1〜2回/日)、短期間に限って使用する。”

花粉症では重症、最重症型に限り、

“点鼻用血管収縮薬は、1〜2週間であれば、1日3〜4回用いても副作用の心配はない。”

としながらも、使用期間を最長2週間程度、とした上で、

“鼻閉の改善とともに、まず点鼻用血管収縮薬を中止する。”

と記載しています。

非常に難しい判断をしながらも、患者さんの鼻症状の改善が最大限に図れるように、との意図が汲み取れます。

結論です!

点鼻液の血管収縮薬が、どうして、劇的に鼻づまりを改善するのか、血管のしくみに焦点を当てながら、解説してきました。

同時に、市販されている薬品から医療用の薬品まで、点鼻用血管収縮薬について、書いてきました。これらの点鼻液の特徴は、すべて、わずか数分で鼻づまりを改善することです。花粉症やアレルギー性鼻炎に悩む患者さんたちには、じつにすばらしい薬です。鼻づまりがほんとうにひどくて苦しいとき、最もつらい症状をすぐに和らげてくれます。これほどありがたい薬は、そうあるものではありません。ただし、安易な連用は、薬剤性鼻炎の発症という1つの危険性をはらんでいますので、注意が必要です。

薬剤師や医師の指示に従って、この点鼻液を使用する分には、何の問題もありません。使用法に疑問を持たれたら、病院や薬局の薬剤師の方、または、かかりつけの耳鼻咽喉科医にご相談ください。

もしあなたが、花粉症で苦しいとき、すぐにでも鼻づまりを取ってほしいとき、薬局の薬剤師の方や、かかりつけの耳鼻咽喉科医に、こう言いましょう。

“鼻づまりがよくなる点鼻液をください。”

きっと、点鼻用血管収縮薬をもらえると思います。

鼻づまりは、憂うつです。(イメージです)

院長 定永正之

定永正之(さだながまさゆき)
耳鼻咽喉科医師・耳鼻咽喉科専門医

先代から50年、宮崎県宮崎市で耳鼻咽喉科診療所を開業。一般外来診療から手術治療まで幅広く耳鼻咽喉科疾患に対応しています。1990年宮崎医科大学卒。「治す治療」をコンセプトに日々患者様と向き合っています。土曜日の午後も18時まで外来診療を行っていますので、急患にも対応可能です。
https://www.sadanaga.jp/

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