花粉症。毎年、憂鬱な気分になる方も多いのではないでしょうか。
毎年、2月3月になると大量の花粉が飛散して、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状、そして目の痒みに多くの方々が苦しみます。
スギ花粉症の方の多くは、ヒノキにも花粉症がでますから、季節性とはいっても1年のうち3ヶ月間以上、人によっては花粉症が終わった後もしばらく鼻の症状が続く方もおられます。
つらい花粉症ですが、さて、あなたは花粉症について、いったいどのくらい正確に理解されているでしょうか。今回は、今ピークを迎えている、スギ花粉症について、ぜひ知っておいていただきたいと思うことを書きました。
花粉症とは何か?
花粉症とは、” 花粉が原因になって起こるアレルギー症状 ” のことです。
くしゃみ、鼻水、鼻づまりの鼻の症状が昔から有名ですが、今ではそれと同じくらい、つらい目の痒(かゆ)みに多くの方が悩まされています。
また、花粉を吸入することによる喉の痒みや咳、イガイガ感、花粉に接触によることによる皮膚炎も多くみられるようになっています。
これらを総称して1つの疾患としてまとめたのが、「花粉症」です。
まず理解しておいてほしいのは、花粉症の鼻の症状は、ふつうのアレルギー性鼻炎だということです。
” 花粉症 ” という病名が有名になるにしたがって、一つの特別な病気のように感じるようになったのかもしれませんが、花粉症による鼻炎は、 ” 花粉が原因で起こるアレルギー性鼻炎 ” 、であって、一般に耳鼻科に通院されている患者さんが治療している、ふつうのアレルギー性鼻炎と基本的には同じなのです。ここでいう、” ふつうの ” とは、ハウスダストなどによる、通年性のアレルギー性鼻炎のことです。
花粉症とは ” 通年性の(1年中の) ” アレルギー性鼻炎 に対しての、” 季節性の ” アレルギー性鼻炎のことなのです。
花粉の種類は?
スギ花粉症がいちばん有名ですが、広義の花粉症は、季節性の花粉すべてをさします。
代表的なスギ、ヒノキ以外に、ブタクサ、イネ、カモガヤ、ハルガヤ、オオアワガエリ、セイタカアワダチソウ、ヨモギ、ススキ、アシ、ネズミムギ(イタリアン・ライグラス)、カナムグラ、ハンノキ、シラカンバ(北海道と東北の一部)、オオバヤシャブシ(カバノキ科)、コナラ、クリ、イチョウ、アカマツ、ケヤキ、ネズ、など実に50種類以上といわれています。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AE
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%8E%E3%82%AD
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%82%B5
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%82%AC%E3%83%A4
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%A2%E3%83%AF%E3%82%AC%E3%82%A8%E3%83%AA
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F%E3%83%A0%E3%82%AE
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%8E%E3%82%AD
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A9%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%90
この他、じつに多くの草木が花粉症を発症する原因植物になっています。
花粉症は、なぜ起こる?
どうして花粉が飛ぶと、くしゃみ、鼻水、鼻づまりを起こすのでしょうか。
それを理解するには、本来は免疫学の範囲にある、アレルギーについて理解する必要があります。
さらに、花粉が付着してアレルギー反応が起こる鼻粘膜のこと(下鼻甲介や中鼻甲介)の解剖学的特徴を理解しなければなりません。
下鼻甲介
花粉は、鼻腔に吸入されると、鼻腔粘膜のいちばん面積の多い「下鼻甲介」という部分にくっつきます。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Nasal_concha
鼻腔側壁は、鼻中隔の左右にある骨と粘膜の1枚の広い壁です。この壁には、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介などの3つの粘膜の襞(ひだ)が存在しています。この3つの粘膜襞は、それぞれ鼻中隔へ向かって張り出した構造をとっており、鼻腔に吸入した空気に多く触れるようになっています。
下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介は鼻腔側壁にある粘膜だけの襞ではありません。下鼻甲介はじめ3つの甲介は、粘膜の下に骨の構造があります。
https://visual-anatomy-data.net/kokkaku/detail-inferior-nasal-concha.html
図2は、図1と同じ鼻腔側壁です。粘膜を剥がした骨構造のみを図示しています。下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介の3つの骨の突起部分が確認されます。下鼻甲介骨は赤色🟥で示されています。実際の下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介は、この骨突起構造の表面を鼻腔粘膜が覆ってできています。
図2の骨面が鼻腔粘膜で覆われると、このようになります。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Nose
骨構造の裏打ちがあるために、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介は1枚の平面の粘膜ではなく、鼻腔に襞(ひだ)状に飛び出したロール状の立体構造をとることができます。(図3)
この下鼻甲介のロール状構造によって、下鼻甲介の総面積を多くすることができ、そのことが吸気と接触する鼻腔粘膜の総面積を増やすことにつながっています。
3つの鼻甲介(びこうかい)のうち、大きさは下鼻甲介が最大で、次が中鼻甲介です。上鼻甲介はサイズが最も小さく、鼻腔の最深部の鼻腔天蓋に近い部位にあります。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/38369
そのため、鼻腔通気と鼻粘膜の表面積の大きさからは、3つの鼻甲介のうち、下鼻甲介と中鼻甲介が、主としてアレルギー反応の場となります。
下鼻甲介のロール状構造によって、吸気と接触する鼻腔粘膜の総面積が大きくなることは、生理的な鼻呼吸にとって非常に有用なことです。
しかし、この鼻腔粘膜の総面積が大きいことは、花粉症などのアレルギー疾患にとっては逆に、アレルギーの反応の場が増えることになってマイナスの要因の1つになります。
下鼻甲介の粘膜はどうなってるのか?
花粉が下鼻甲介や中鼻甲介の粘膜に付着して花粉症が起こることはわかりました。
それでは、花粉が下鼻甲介の粘膜にくっつくと、どうして花粉症が起こるのでしょう?
そのためには、下鼻甲介の粘膜がどうなっているのか、その構造と機能を知らなければなりません。
以前にも書きましたが、鼻腔粘膜は、線毛運動機能を有した ” 呼吸上皮 ” です。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Respiratory_epithelium
鼻腔、副鼻腔、気管支粘膜はすべて、組織学的に同じ構造をしていて、粘膜に” 線毛上皮細胞 ” があり、粘膜の上に粘液層(mucous layer)を載せて、ベルトコンベアのように移動させています。(矢印→の方向) (図4)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Cilium
鼻腔粘膜も呼吸上皮ですから、鼻腔粘膜の上皮細胞には写真9のように、多数の線毛 cilia が存在して、線毛運動によって粘液層を常に移動させています。
下鼻甲介粘膜は、表面に粘液層を載せて線毛運動をしている、呼吸上皮であることが理解できました。
下鼻甲介粘膜の下は何があるのか?
下鼻甲介粘膜の表面は、粘液層にコートされた呼吸上皮で、線毛運動を行っていることが理解できました。
では下鼻甲介粘膜の下は、どうなっているのでしょう。
下鼻甲介粘膜下の粘膜固有層の中に、細動脈、細静脈、毛細血管が集まって海綿状になった構造をしています。この部位には12本の脳神経の1つである三叉神経の知覚神経終末が分布しています。副交感神経の節後枝に支配されている鼻腺(せん)細胞があり、鼻汁分泌機能をもっています。
–下鼻甲介粘膜下の解剖-
図5 下鼻甲介粘膜下の解剖(イラスト)
左図 三叉神経の走行(黄色🟡)
右図 下鼻甲介粘膜(線毛呼吸上皮)下の構造
粘膜固有層(lamina propria)に
” 神経終末や血管が集中している “
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Rhinitis
Trigeminal CGRP/SP+ fibers
三叉神経 知覚神経終末(🟡)
sympathetic (nerve) 交感神経(🟡)
parasympathetic (nerve) 副交感神経(🟡)
glands 鼻腺
lamina propria 粘膜固有層
blood vessel 粘膜下の血管(🔴)
ciliated columnar epithelium
線毛円柱上皮(線毛呼吸上皮)
solitary chemoreceptor cell
孤立性の化学受容体細胞
mucin layer 粘液層
airway lumen 鼻腔
(図5)
これらの血管や神経終末は、花粉症の免疫応答が起こるときに非常に重要な役割をもっています。(このことについては後述します。)
それでは、吸い込んだ花粉が下鼻甲介粘膜に付着すると、いったい何が起こるのでしょうか?
花粉が粘膜にくっつく
「花粉が鼻の粘膜にくっつくと花粉症が起こるんだよ。当たり前じゃないか。」
と言われそうです。
でも、すこし考えてみましょう。
なぜ、花粉が粘膜に付着すると花粉症が起こるのでしょうか?
それは、花粉が下鼻甲介の粘液層で破裂するからです。
花粉が粘液層に付着すると、花粉は破裂します。花粉の抗原物質(アレルギー反応を起こす原因物質)が出てきて粘液層に吸収されます。抗原物質が鼻粘膜の呼吸上皮細胞に接して、鼻腔粘膜下に入り込むことで、花粉症によるアレルギー反応が進行していくのです。
それでは、花粉の抗原物質とは、どんなものでしょうか。
私たちは、花粉症の症状や花粉の飛散のことはたくさん知っているのに、 “花粉そのもの” の構造は、意外に知りません。
スギ花粉
スギ花粉の飛散する衝撃的な写真は、web上にあふれていますが、皆さんは、スギ花粉をまじまじとご覧になったことがありますか?
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AE
スギは、北海道から九州まで日本全国に広く植林されている代表的な針葉樹です。スギはヒノキ科に属しますので、スギ花粉症とヒノキ花粉症が重なるのは、何となく理解できます。
スギは1万年前から日本列島に存在し、2000年前には日本中に多く繁茂していたことが報告されています。なので、この時代から花粉は飛散していたと思われます。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AE
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AE
スギは、雌雄同株です。これは、雄花と雌花が同じ木にあることです。大量の花粉を撒き散らしているのは、強い風に乗せて遠くまで花粉を飛ばすことが目的でしょうか。開花は毎年3月から4月です。スギ花粉は2月から3月に大量に飛散します。
https://www.jiji.com/sp/d4?p=mcw612-jlp01012638&d=d4_sce
https://www.jiji.com/sp/d4?p=mcw612-jlp01713075&d=d4_sce
写真12はスギ花粉、写真13はイタリアンライグラス(Italian ryegrass)花粉の走査電子顕微鏡写真です。
この花粉が空気中に大量に飛散して、鼻腔から花粉を吸入し、花粉が下鼻甲介の表面にある粘液層に付着するのです。
花粉が破裂する
スギ花粉がリアルに観察できました。
このスギ花粉は一体何を含んでいるのでしょうか。
スギ花粉の表面には、何か細かい粒子のようなものが付着しています。この粒子は、ユービッシュ小体またはオービクルと呼ばれている、直径0.5 μm の微粒子です。
すこし細かく見てみましょう。
http://www.miyama-analysis.net/micro/2019/03/cedar-micro.php
花粉の直径は 30-40μm、ユービッシュ小体の直径は 0.5μm です。
このスギ花粉が下鼻甲介粘膜の粘液層に触れると、スギ花粉は破裂します。
スギ花粉は水分に接触すると膨張して破裂する性質を持っています。そのため、破裂した花粉の内容物が下鼻甲介粘膜の粘液層に流れ出し、花粉の抗原物質(アレルギー反応を起こす原因物質、アレルゲン)が溶け出します。
http://www.miyama-analysis.net/micro/2019/03/cedar-micro.php
破裂したあとのスギ花粉です。内容物が溶け出して空洞になっています。スギ花粉の外表面にはユービッシュ小体が付着しているのが見えます。
下鼻甲介粘膜に花粉が付着したあと、このようにスギ花粉が破裂することで、スギ花粉の抗原が出てきて、その後のアレルギー反応が進んでいくのです。
” スギ花粉が付着する鼻腔粘膜は、鼻腔内の粘膜のすべてですが、アレルギー反応の主体となる下鼻甲介を中心に説明を進めたいと思います。”
スギ花粉抗原(アレルゲン)
写真12, 14, 15, 16 でスギ花粉を直接見ました。
では、スギ花粉の何がアレルギーを起こすのでしょうか。
” アレルギーを起こす原因物質 ” を抗原といいます。
現在確認されているスギ花粉の抗原は、
cry j1、cry j2、cry j3 と呼ばれる糖タンパクです。
日本スギ(Cryptomeria japonica)の名称から、” cry j ” の名称がつけられました。” クリジェー ” と発音されます。
糖タンパクとは、アミノ酸に糖鎖が結合したもので、生体内の細胞表面や細胞外にある多くのタンパク質は糖タンパクです。
3つの抗原の中で、cry j1、cry j2 の2つがスギ花粉症の主要抗原と言われています。
cry j1は353個のアミノ酸から構成される糖タンパクであり、cry j2は388個のアミノ酸から構成される糖タンパクです。cry j1、cry j2とも分子量は約5万です。
cry j1は、花粉外壁または花粉表面に存在する直径 0.5μm のユービッシュ小体(オービクル)に含まれています。
cry j2は、スギ花粉内部のデンプンを含む色素体(アミロプラスト)に局在します。
cry j1はスギ花粉外壁、cry j2はスギ花粉内部と覚えてください。
スギ花粉が下鼻甲介粘膜に付着すると、花粉外壁にあるユービッシュ小体は剥離して融解し、スギ花粉は破裂して内容物が飛び出し、それぞれ cry j1とcry j2 が出てきます。
この抗原物質はタンパク質です。アレルギーの原因になることから、アレルゲンと呼ばれています。
ユービッシュ小体
スギ花粉表面には直径0.5 μmのユービッシュ小体があることを書きました。
http://www.miyama-analysis.net/micro/2019/03/cedar-micro.php
1個のスギ花粉(写真8)を強拡大すると(20倍)、ユービッシュ小体が明瞭に確認できます。
(写真10)
このユービッシュ小体(オービクル)が付着する表面は、小さな凹凸のある花粉の外壁にあたり、外層(セキシン)と内層(ネキシン)から構成されています。この内側に花粉の内壁(インチン)が存在します。この外層と内層でスギ花粉の外殻が構成されています。
そのスギ花粉の外殻は、破裂した花粉の形状を見るとよくわかります。
花粉の外殻に覆われた、その内側には、多量のデンプン質を含む色素体(アミロプラスト)が入っています。この部分にはcry j2が存在します。
写真10に戻ります。
1個のユービッシュ小体の直径は0.5 μmです。スギ花粉の外壁に存在するユービッシュ小体には、前述したスギ花粉の主要なアレルゲンの1つ(cry j1)が含まれています。
スギ花粉の直径は30 μm であり、微粒子中ではやや大きいほうです。そのため、従来、スギ花粉は肺のずっと奥にある肺胞内までは到達することはないとされてきました。
しかし、花粉症の時期に喘息の症状が悪化することが以前から報告されており、これはスギ花粉の表面に存在する直径0.5 μm のユービッシュ小体がスギ花粉表面から剥がれて、吸気にともなって細気管支の奥の肺胞まで入り込むことで発症することがわかっています。
これは、大気汚染関連の微粒子であるPM 2.5 が、肺胞内に吸入されてさまざまな呼吸器症状を起こすのと同様です。
” PM 2.5 とは、大気中に浮遊する微粒子で、直径が2.5 μm 以下のものです。”
cry j1 cry j2
スギ花粉が鼻粘膜に付着すると、何が花粉症の症状を起こすのか、これですこし理解できました。スギ花粉表面のユービッシュ小体からcry j1が、破裂した花粉内部の色素体(アミノプラスト)からcry j2 が出てきて、粘膜表面の粘液層(mucous layer)に溶け出すのです。それでは、cry j1とcry j2は、次に何をするのでしょう。
まず、cry j1、cry j2 の大きさは、どのくらいでしょうか。
https://news.livedoor.com/lite/article_detail/19647834/
cry j1、cry j2 は、0.1-1.0 μmであり、かなり小さな抗原タンパクであることがわかります。(0.1μmは直径30μmの花粉の1/300)
cry j1はスギ花粉表面のユービッシュ小体に、cry j2は花粉内部の色素体に存在します。
この2つの抗原(アレルゲン)がスギ花粉症を起こすメカニズムを説明するとき、まず知っておかないといけないことがあります。
それは、免疫学の基礎知識です。
免疫応答
免疫は、「疫(えき)を免(まぬが)れる」という意味です。
「一度罹った病気にもう二度と罹らない」、または「二度めは(とても)軽くてすむ」と言う意味で昔から使われてきました。
免疫とは、「自己」と「非自己」を認識して「非自己」を排除する、生体の防御機構と定義されています。
ところが、この免疫応答によって、スギ花粉症のつらい症状が起こり、多くの人が苦しんでいるのです。
” すこし説明が長くなりますが、花粉症の病態を理解するのにとても重要です。すこしだけ読んでください。”
自然免疫と獲得免疫
生体の免疫応答には、2つあります。
自然免疫と獲得免疫です。
自然免疫
自然免疫は、生まれたときから既に備わっている免疫応答です。
自然免疫では、局所を巡回して、ウイルスや細菌などの病原体を見つける言わば監視員のような働きをする細胞があります。
樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞の3つです。
例えば、指先に切り傷ができたとします。
皮膚の下には、この3つの細胞がいますので、傷口から入ってきた細菌に対して反応します。
樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞の3つの細胞の表面には、 ” Toll 様受容体(Toll like receptor) “と呼ばれる「ウイルスや細菌の抗原を認識するもの」が存在しています。
このToll 様受容体によって、3つの細胞は、大まかに病原体がどんな細菌かを識別できるようになっています。
例えばTLR2は、グラム陽性菌のもつリポテイコ酸や細胞壁の共通成分であるペプチドグリカンを認識します。TLR4は、グラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)を認識します。
このToll様受容体は、現在10種類見つかっていて、細菌だけでなくウイルスのRNAやDNAの一部や真菌も認識するとされています。
樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞の3つの細胞は、表面のToll 様受容体によって、細菌やウイルスなどの病原体を大まかに識別できるようになっているのです。
自然免疫は、どんな病原体に対しても短時間のうちにすみやかに起こり、特異性も高くありません。(選り好みをしません)
相手が誰か(どのウイルスや細菌か)も、その強さも考えていません。ただ、悪者を見つけたらすぐに駆けつけて戦うのです。
しかし、2回目の感染のときに強くなることはありません。
自然 リンパ球
自然リンパ球(Innate Lymphoid cells, ILC)も、局所の組織内に存在して、自然免疫の免疫応答を行っています。
自然リンパ球は、あとに出てくるT細胞やB細胞などのリンパ球と違って、細胞表面に” 抗原を認識する受容体 “をもたないリンパ球です。
自然リンパ球は、現在5種類に分類されていて、そのうち1つはNK細胞(natural killer cell)です。
自然リンパ球は、NK細胞とILC1、ILC2、ILC3、LTi 細胞(Lymphoid tissue inducer、リンパ組織誘導細胞)の4つのグループに分類されています。
自然リンパ球は、全身の組織、とくに粘膜に多く存在しているため、花粉症の免疫応答にも、多くの働きをしています。
以下に、自然免疫を担う代表的な4つの細胞を示します。
マクロファージ
マクロファージは、ウイルスや細菌などの病原体を異物と認識して、食べてしまいます。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8
マクロファージは写真10のように、細胞体の突起を長く伸ばして病原体に近づき、よく確認しないまま、とりあえず何でも” 食べてしまう ” 細胞です。食べたあと、細胞内でどんな病原体なのかを認識して、周りの免疫細胞(T細胞など)に教えます。血液中、組織など全身のあらゆる部位に存在します。
樹状細胞
樹状細胞(dendric cell)は、皮膚や鼻腔など外界に触れる部位に存在しています。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Dendritic_cell
樹状細胞は、抗原提示細胞(Antigen presenting cell)として大きな役割を果たしています。
皮膚や鼻腔でウイルスや細菌、異物(花粉)などを取り込み、その抗原タンパクの断片を樹状細胞の表面にあるMHCに載せて、” 抗原提示 ” します。
樹状細胞の動画をご覧ください。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Dendritic_cell
樹状細胞は代表的な抗原提示細胞です。
ナイーブT細胞に抗原提示して、ナイーブT細胞はエフェクターT細胞(Th1, Th2, Th17, 制御性T細胞、キラーT細胞)へと変身していきます。
* ナイーブT細胞
” まだ一度も抗原とであったことがない、無経験のT細胞 “
* Th1 Th2
” ヘルパーT細胞の略 数字は分類を表します ”
マクロファージや樹状細胞の表面には、Toll 様受容体(Toll like receptor)が存在していることを書きました。
このToll 様受容体は、ウイルスや細菌、真菌が持っているタンパク質、DNAやRNAなどの抗原を” 異物として “認識します。
局所に集合したマクロファージや好中球は、” 異物 “と認識したウイルスや細菌をバリバリ食べてしまいます。これを貪食(どんしょく)といいます。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8
肥満細胞
顆粒を大量に含んでいるため、マスト細胞(=顆粒細胞)とも呼ばれます。
粘膜下や結合組織に存在します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Mast_cell
肥満細胞はIgEを介したI型アレルギー反応の主役です。
肥満細胞の中にはヒスタミンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)があります。
肥満細胞の細胞表面にIgE抗体が結合していて、そのIgE抗体に抗原が結合すると、細胞膜酵素が活性化されて、肥満細胞内のヒスタミンなどの顆粒が放出されます。(脱顆粒)
同時に、肥満細胞の細胞膜から、ロイコトリエン、血小板活性化因子(PAF)、プロスタグランジン、トロンボキサンA2などが遊離されます。
自然リンパ球
T細胞やB細胞などのように、抗体を中心とした獲得免疫で働くリンパ球以外に、自然免疫で働くリンパ球が存在します。これを自然リンパ球といいます。自然リンパ球は、表面にT細胞受容体やB細胞受容体を持たず、抗原特異的な反応をしません。
自然リンパ球は、T細胞やB細胞と同じ起源をもちます。3つとも” リンパ球系共通前駆細胞(CLP) “から分化します。
現在4グループ、5種類に分類されています。
グループ1のNK(ナチュラルキラー)細胞とILC1、グループ2のILC2、グループ3のILC3、グループ4のリンパ組織誘導細胞(LTi細胞)です。
各種の自然リンパ球は、活性化されてさまざまなサイトカインを放出します。
* サイトカイン
” 細胞間相互作用に働く生理活性物質の総称 低分子タンパク質 “
NK細胞やILC1ではIFN(インターフェロン)-γ、TNF(腫瘍壊死因子)を放出します。
ILC2は、IL-25、IL-33、TSLPによって活性化されて、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13、アンフィレグリン(Amphiregulin, AREG)のような2型サイトカインを産生放出します。
* IL (interleukin) = インターロイキン
” T細胞、自然リンパ球などの免疫細胞から分泌されて細胞間の相互作用に働く生理活性物質 現在、IL-1 からIL-37まで発見すすされている “(2022)
ILC3は、IL-17AまたはIL-22を産生します。
LTi細胞は、IL-17A、IL-17F、IL-22を産生します。
” 自然リンパ球のILC2(2型自然リンパ球)は、アレルギー性鼻炎や喘息などの病態に深く関与しています。”
これは重要なことですので、よく覚えておいてください。あとで出てきます。
獲得免疫
獲得免疫は、生まれたときには備わっておらず、後天的に形成される免疫応答です。
リンパ球のT細胞とB細胞が担っています。
自然リンパ球も働きます。
特定のウイルスや細菌を” 特異的に(選んで) “ 排除する仕組みです。
” 抗原提示 “や” 抗体産生 “などの過程を必要とするため、応答に時間がかかります。
獲得免疫は、特定のウイルスや細菌などに対して抗体産生などを行って、2回目以降の感染のときには、より強力な生体防御を行うことが可能になります。
獲得免疫はさらに、細胞性免疫と液性免疫に分類されます。
細胞性免疫
リンパ球のT細胞が主役となる免疫です。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/T_cell
抗原提示
まず、マクロファージや樹状細胞がウイルスや細菌を貪食します(バリバリ食べます)。
そのあと、樹状細胞が食べたウイルスや細菌の破片を自分の細胞の表面にある「MHCクラスⅡ分子」という突起に” 載せて ” 提示します。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Major_histocompatibility_complex
ここでMHCクラスⅡ分子とは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の1タイプです。α鎖、β鎖の2本のペプチド(タンパクが繋がったもの)鎖で構成されます。(図8)
樹状細胞、マクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞に見られます。
樹状細胞が抗原タンパクを細胞内のリソゾームで分解したあと、MHCが“抗原のかけら “をくっつけて細胞表面まで出てきて、抗原タンパクを細胞外に” 見せます “。
樹状細胞が、抗原を食べて認識したあと、
「こんなやつ(敵)が入ってきていますよー」と周りに教えているのです。
これを” 抗原提示 ” といいます。
抗原提示細胞
抗原を食べて、自分の細胞表面のMHCクラスⅡ上に抗原提示する細胞は、抗原提示細胞(Antigen presenting cell, APC)と呼ばれています。
代表的な抗原提示細胞は、樹状細胞、マクロファージ、B細胞の3つです。
樹状細胞
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Dendritic_cell
マクロファージ
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8
B細胞
https://en.m.wikipedia.org/wiki/B_cell
樹状細胞、マクロファージ、B細胞の3つの細胞が抗原提示を行っていますが、抗原提示には、樹状細胞が中心的な働きをしています。
T細胞受容体 (TCR)
1つのT細胞の表面には、「ある決まった抗原とだけ結合することができる」たった1つのT cell 受容体(TCR)が存在しています。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/T-cell_receptor
T細胞は1つ1つ、すこしずつ違ったT 細胞受容体を表面に載せていて、あらゆる種類の抗原に対して結合できるように、非常にたくさんの種類が用意されています。
例えるなら、” 同じ洋服の少しずつ色違いの服が何万、何十万種類も並べられている “ のと同じです。
その中のたった1着が、提示された抗原にぴったり合う洋服(T細胞)です。
樹状細胞などの抗原提示細胞(APC)が、抗原を取り込んで細胞内で分解し、細胞膜上のMHCクラスⅡ上に抗原を提示します。(①)
提示された” 抗原 “に「ぴったり合うことのできる、たった1種類のT細胞 “」が選び出されて抗原提示細胞に結合します。(②)
抗原にピッタリ結合できたT細胞は、増殖を始めます。(③)
これが(①-③)、抗原提示細胞とT細胞との結合です。(図10)
図10 抗原提示細胞とナイーブT細胞の結合
Antigen Presenting Cell 抗原提示細胞
Immature T Cell ナイーブT細胞
Antigen 抗原
TCR T細胞受容体
MHC 主要組織適合遺伝子複合体
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E5%8E%9F%E6%8F%90%E7%A4%BA%E7%B4%B0%E8%83%9E
図11 抗原提示細胞とナイーブT細胞の結合
(分子模型)
TCR T細胞受容体
HLA Ⅱ = MHC Ⅱ
結合部分中央の小さな緑色の分鎖(🟢)は
” 抗原の断片 “と思われる
「抗原提示された樹状細胞に結合する」T細胞は、じつは「まだ1度も抗原と結合したことがない」T細胞が選ばれるため、” ナイーブT細胞 ” と呼ばれます。
抗原に結合したナイーブT細胞は活性化されて、さまざまな働きをする ” エフェクターT細胞 ” に変化します。
ナイーブT細胞が分化する
ナイーブT細胞から変化するエフェクターT細胞は、ヘルパーT細胞(Th1、 Th2、Th17)、制御性T細胞(Treg)、細胞障害性T細胞です。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/T-cell_receptor
ナイーブT細胞には2種類あります。
CD4陽性細胞とCD8陽性細胞です。
CD(Cluster of differentiation)は、免疫系細胞が細胞表面に発現している糖タンパクで、細胞表面抗原のことです。
CD4+ナイーブT細胞は抗原提示後、ヘルパーT細胞に、CD8+ナイーブT細胞は抗原提示後、キラー(細胞障害性)T細胞になります。(図10)
” じつはこの過程で、抗原提示細胞とナイーブT細胞が結合するためには、あと2つ重要な条件があります。「補助刺激分子の結合」と「サイトカインの分泌」です。”
補助刺激分子の結合
抗原提示細胞とナイーブT細胞との結合には、MHCクラスⅡを介しての抗原提示のほかに、あと、2つ重要なことがあります。
その1つは、” 補助刺激分子 “の結合です。
補助刺激分子とは、抗原提示細胞とT細胞の細胞膜上に発現したCD抗原です。
抗原提示細胞の細胞膜上のB7.2(CD86)とCD40の2つの分子に対して、ナイーブT細胞の細胞膜上のCD28、CD 40L分子が結合します。
この結合が、抗原提示細胞とT細胞との結合をさらに強くします。
さらに抗原提示細胞は、さまざまなサイトカインを放出します。このサイトカインが、ナイーブT細胞の分化を促進します。
MHCクラスⅡ分子上の抗原とT細胞受容体との結合(①)、補助刺激分子の結合(②)、抗原提示細胞からのサイトカイン放出(③)、この3つが揃ったとき初めて、ナイーブT細胞はエフェクターT細胞へと分化していきます。
CD4+ナイーブT細胞はすべてヘルパーT細胞へと分化し、CD8+ナイーブT細胞は細胞障害性T細胞へと、分化を始めます。(図10)
ヘルパーT細胞はサイトカイン産生パターンから、3つのグループに分けられます。
T cell helperの頭文字をとってTh1細胞、Th2細胞、Th17細胞と名づけられています。
ナイーブT細胞から分化したヘルパーT細胞は、抗原提示された樹状細胞から抗原の情報を受け取り、サイトカインという物質を放出します。
(図10 左 黄色の小さい球状の物質🟡)
サイトカイン
“サイトカインとは、細胞から分泌される低分子のタンパク質です。細胞間のシグナル伝達など、細胞と細胞の相互作用(クロストーク)に関与して働きます。”
インターロイキン(IL)、ケモカイン、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、神経成長因子(NGF)など多くの物質があります。
これらのサイトカインは、リガンド(ligand)と呼ばれる” 鍵 “となり、” 鍵穴 “となる標的細胞の細胞膜上にある” 受容体 “に結合することによって生理活性を発揮します。
タンパク質は、アミノ酸配列によって構成される立体構造が決まっており、” 鍵と鍵穴 “がぴったり合わなければ決して錠が開かないように、” サイトカイン “も受容体と結合できないようになっています。
” リガンド 鍵 ここではサイトカインを指す 鍵穴は細胞膜上の受容体 “
ヘルパーT細胞
ヘルパーT細胞とは、” CD4+ナイーブT細胞が抗原提示を受けて分化したT細胞 “です。
ナイーブT細胞から分化するヘルパーT細胞は、
Th1 細胞、Th2 細胞、Th17 細胞、Treg 細胞の4種類に決まっています。
これはナイーブT細胞が、” どのサイトカインの影響下で分化するか “ によって決まります。
さらに分化が終了したヘルパーT細胞から放出されるサイトカインは、” ヘルパーT細胞の種類によって ” 決まっています。
図13 ナイーブT細胞からヘルパーT細胞へ分化
Th0 ナイーブT細胞
Th1 1型ヘルパーT細胞
Th2 2型ヘルパーT細胞
Th17 17型ヘルパーT細胞
Tfh ヘルパーT細胞
Treg 制御性T細胞
Th1 細胞
Th1細胞は主にIL-12の存在下で分化します。
Th1細胞が産生するサイトカインは、IFN-γとIL-2です。
とくにIFN-γは、マクロファージや好中球の貪食作用を活性化し、B細胞のIgMからIgG抗体へのクラススイッチに必要です。
Th2 細胞
Th2細胞はIL-4によって分化します。
Th2細胞が産生するサイトカインは、IL-4, IL-5, IL-13, IL-31 です。
これらは、B細胞が形質細胞に分化、増殖して抗体を産生するのに必要なサイトカインです。
Th17 細胞
Th17細胞はIL-6、TGF-β存在下で分化します。
Th17 細胞が産生するサイトカインは、IL-17です。
炎症を起こす局所の上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞に作用します。
Treg 細胞
Treg 細胞は、制御性T細胞です。
免疫応答が暴走しないように“ブレーキの役目” をします。
ナイーブT細胞からTh17細胞へ分化するとき、IL-6、TGF-β、(+IL-23)の存在下では、Th17細胞への分化が起こりますが、TGF-βのみだとTreg細胞へと分化が進みます。
通常、Treg細胞は、” Th2細胞への分化が過剰に起こらないように “ 、抑制しています。
(Tfh 細胞は省略します。)
花粉症に関係するT細胞は?
これらのうち、花粉症に関係するのは、Th2 (2型ヘルパーT細胞)です。
IL-4, IL-5, IL-13, IL-31 です。
B細胞が形質細胞へ分化して抗体を産生するのに必要です。
Th1 のIFN-γもB細胞のクラススイッチに必要です。
液性免疫
リンパ球のB細胞が主役となる免疫です。
B細胞が産生する” 抗体 “が重要な働きをします。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/B_cell
B細胞が中心となる液性免疫のゴールは、通常では、形質細胞によるIgG抗体産生です。
B細胞は直接抗体を産生するのではなく、形質細胞に分化してから抗体の産生を始めます。
抗体産生
B細胞は生まれながらにして、抗体を持っています。IgM抗体です。
1つ1つのB細胞は、表面に、特定の抗原だけに反応することができる、たった1種類のIgM抗体を持っています。
人の体の中には、1つ1つの違う抗原に対応できる、非常に多くの種類のB細胞が生まれながらにして存在しています。
先に書きました、” 少しずつ色違いの洋服が、何十万着、何百万着も並んでいる様子 “です。
そして、ある抗原に出会ったとき、その抗原に結合できる、どれか1つのB細胞が出てきて抗原に結合します。
1つのB細胞が選ばれると、それがどんどん増殖を始めます。
(T細胞と同じです。)
提示された抗原と結合できるたった1つのB細胞がどんどん分化、増殖して、多くの抗体を産生していくのです。
これを、クローン選択説と呼んでいます。
形質細胞
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Plasma_cell
B細胞は、形質細胞に分化、増殖して抗体産生を開始します。
形質細胞(写真15)は、偏在する大きな核(紫色🟣)をもち、三日月型の細胞質には多くのゴルジ体を含んでいます。
形質細胞は、液性免疫で働く「免疫グロブリン」と呼ばれる抗体を産生する重要な働きをもっています。
免疫グロブリン(抗体)
B細胞が分化して形質細胞になり、形質細胞が分泌型の免疫グロブリンを産生します。これを「抗体」といいます。
図14 免疫グロブリンの構造
内側2本 重鎖(heavy chain)、
外側2本 軽鎖(light chain)
抗原(Antigen)
抗原結合部位(Antigen-binding site)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Antibody#Isotypes
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E4%BD%93
免疫グロブリンは、中心のY字型の重鎖2本(③)とその側方に着く軽鎖2本(④)が組み合わさった構造をしています。
軽鎖(L鎖)④には、先端の可変領域(V領域)(緑色🟩)と、それ以外の定常領域(C領域)(濃い緑色と濃い青色)があります。(図15)
軽鎖には、λ鎖とκ鎖の2種類があります。
軽鎖の分子量は約25,000で共通です。
重鎖(H鎖)③には、先端の可変領域(V領域)(薄い水色)と、それ以外の3つの定常領域(C領域)(濃い青色🟦と濃紺の色)があります。
重鎖の分子量は50,000〜77,000です。
抗原は、先端の可変領域(赤の点線円⭕️)に結合します。
重鎖には構造の異なる、γ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、ε鎖の5種類があります。
この重鎖の違いによって免疫グロブリンの種類(アイソタイプ)が変わります。
5つの重鎖アイソタイプ 、γ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、ε鎖がそれぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE に相当します。
このように5種類の免疫グロブリン(抗体)は、重鎖の構造だけが違っています。
逆に、重鎖のこの部分だけが入れ替わることによって、免疫グロブリンの種類が変化します。
すなわち、IgM抗体、IgG抗体、IgE抗体は、そもそも全く別のものではなくて、内部の構造が一部変化することで、お互いに変化しあう関係にあります。
それは例えるなら、” 同じ人間がいくつかの仮面を被って、ときどき変身するのと同じようなことです ” 、と言って良いかもしれません。
この現象を” クラススイッチ ” と呼んでいます。
クラススイッチ
ナイーブB細胞(一度も抗原に出会っていないB細胞)は、表面にIgM、IgD抗体を発現しています。
ナイーブB細胞が、表面のB細胞受容体で抗原と結合すると、この” クラススイッチ “が起こります。
抗原に出会うまではIgM抗体が発現していたのに、抗原と結合した後は、B細胞表面にIgG、IgA、IgE抗体が発現するようになります。
これは重鎖の構造が、μ鎖、δ鎖から、γ鎖、α鎖、ε鎖のどれかに変化したことによって起こる現象です。(クラススイッチ)
ナイーブB細胞のIgM抗体からIgE抗体へのクラススイッチは、以前まではダイレクトに起こると考えられていましたが、現在ではいったんIgG抗体へクラススイッチした後にIgE抗体へとクラススイッチする可能性が示されています。
クラススイッチには、ヘルパーT細胞の補助が必要です。
オプソニン効果
抗原が抗体と結合するしくみは、図11、図12の通りです。
ところで、抗体(免疫グロブリン)の役割はいったい何でしょうか。
抗体が抗原と結合しても、直接抗原の強さを弱める働きはありません。
では何故、抗体に結合するようにできているのでしょうか。
それは、抗原と抗体が結合すると、その複合体を好中球が異常に貪食するように(食べるように)なるからです。
好中球の貪食作用が強力になって、病原体を除去する効果がとても大きくなるのです。
これを、” オプソニン効果 “と呼んでいます。
オプソニン効果は、IgM抗体では補体系の活性化によって起こり、IgG抗体ではIgG抗体構造のFc領域(図12 ②)を好中球が認識して起こります。
花粉症の免疫グロブリンはIgE
免疫グロブリンの構造はアイソタイプによって違います。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E4%BD%93
B細胞表面に初めから存在しているIgMは5量体、最も多いIgG抗体は単量体です。(図16)
免疫グロブリンは、IgGが最も多く70-75%を占め、次に多いのがIgAで10-15%です。
花粉症で働くIgEは最も少なく0.001%以下です。
花粉症で働く免疫グロブリンはIgE抗体です。
定常状態では、非常に微量しか生体には存在していません。
スギ花粉抗原のIgE抗体を大量に準備する!
スギ花粉症がなぜ起こるのかは、一言で言えば、この事実に尽きます。
生体が免疫応答によって、スギ花粉抗原に対するIgE抗体を大量に産生してしまうのです。
この機序を説明しなければいけません。
下鼻甲介粘膜での免疫応答は?
花粉症は、スギ花粉抗原に対して産生されたIgE抗体で起こります。
下鼻甲介粘膜下で起こるさまざまな免疫応答で、B細胞が活性化され、IgE抗体が産生されます。
まず、IgE抗体がどうしてできるのかを知ってください。
IgE抗体はB細胞が作る
IgE抗体は、B細胞が作ります。
正確に言えば、B細胞から分化した形質細胞によって作られます。
図17 ナイーブT細胞とB細胞との結合
https://commons.m.wikimedia.org/wiki/Category:T_helper_cell
1つ1つのB細胞は細胞表面に、生まれながらにして非常に多くの、1つ1つ違うIgM抗体(+IgD抗体)をもっています。これはB細胞抗原認識受容体(BCR)と呼ばれます。
1つのB細胞は、たった1つの抗原にしか結合できません。
抗原は、抗原とぴったり合うB細胞のIgM抗体と結合し、一部の抗原が貪食されてMHCクラスⅡの上に抗原提示されます。
このB細胞とヘルパーT細胞(ナイーブT細胞)が結合します。
” T細胞によるB細胞の活性化 “
図17 を見て説明します。
特定の抗原(🟡)とIgM抗体(🟥)で結合した1種類のB細胞が抗原提示してナイーブ(ヘルパー)T細胞と結合します。(①)
ナイーブT細胞からのCD40による補助刺激分子の発現があります。(②)
Th2 からのサイトカイン、IL-4、IL-5、IL-13の放出があります。(③)
Th2からのサイトカイン刺激によって、B細胞は形質細胞に分化して、大量の抗体を産生するようになります。
これが大まかに、B細胞から抗体が産生されていく仕組みです。
実際には、B細胞はサイトカインの存在によって、表面のIgM抗体がIgE抗体に変わります。
これを(先に述べた)” クラススイッチ “と呼んでいます。
Th1 のIFN-γもB細胞のクラススイッチに必要です。
” 詳しい説明をしたいのですが、免疫応答に関する事項は、非常に広範囲で深く、到底この頁では書ききれません。詳しい説明はとてつもなく長くなりますので、詳細は省略します。免疫学の詳しい話は、ぜひ次回に譲りたいと思います。“
花粉症と免疫応答
花粉症の免疫応答システムは「獲得免疫」です。
花粉症には、
① 花粉症になるメカニズム
② 花粉症を起こすメカニズム
の2つがあります。
それぞれは全く違う反応です。
花粉症になるメカニズム
スギ花粉が、” 初めて” 下鼻甲介粘膜と接触して破裂して、花粉の抗原が粘膜下に侵入すると、次のことが起こり始めます。
複数のルート
下鼻甲介の粘膜下で実際に起こる免疫応答は、複数の反応が同時並行で進みます。ここでは、わかりやすくいくつかのルートに分けて説明したいと思います。
ルート①
① 下鼻甲介粘膜にある” 呼吸上皮細胞(epithelial cell) “が、スギ花粉のアレルゲン(cry j1, cryj2)によって傷害されます。
② 傷害された呼吸上皮細胞の間隙(すきま)へ樹状細胞が突起を伸ばして、スギ花粉の抗原(cry j1, cryj2)を貪食します。
③ 樹状細胞がスギ花粉抗原を抗原提示します。
④ 抗原提示している樹状細胞とナイーブT細胞が結合します。
⑤ CD4+ナイーブT細胞は、それぞれ違ったサイトカインの存在下で、Th1、Th2、Th17、Treg 細胞へと分化します。
⑥ Th2 (2型ヘルパーT細胞)からIL-4, IL-5, IL-13, IL-31 などのサイトカインが放出されます。
同時にこの4つのILによって、好酸球、好塩基球、線維芽細胞が集合します。
(IL = インターロイキン)
⑦ Th2 からのIL-4によってB細胞のIgE抗体へのクラススイッチが起こり、IL-5によってB細胞が形質細胞へ分化します。
⑧ 形質細胞がスギ花粉抗原に対するIgE抗体を大量に産生します。
⑨ 最後に、スギ花粉抗原に対するIgE抗体が肥満細胞の表面に結合します。
ルート②
① 下鼻甲介粘膜にある” 呼吸上皮細胞(epithelial cell) “が、スギ花粉のアレルゲン(cry j1, cryj2)によって傷害されます。
② 傷害された呼吸上皮細胞は、IL-33、IL-25、TSLPなどのサイトカインを放出します。
③ IL-33、IL-25、TSLPは、粘膜下に存在する2型自然リンパ球(ILC2)を活性化します。
④ 2型自然リンパ球(ILC2)が、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13、Aregulin (AREG)などのサイトカインを放出します。
⑤ 自然リンパ球(ILC2)から放出されたIL-4によってB細胞のIgE抗体へのクラススイッチが起こり、IL-5によってB細胞が形質細胞へ分化します。
⑥ 形質細胞がスギ花粉抗原に対するIgE抗体を大量に産生します。
⑦ 最後に、スギ花粉抗原に対するIgE抗体が肥満細胞の表面に結合します。
じつは、この免疫応答(ルート①、ルート②)がスギ花粉症によって私たちの鼻粘膜で起こっている反応なのです。
” 花粉症になるメカニズム “は、
初めて花粉を吸入した後、免疫応答が起こり、スギ花粉抗原(cry j1, cryj2)に対する”IgE抗体”が作られる過程のことです。
作られたIgE抗体は、肥満細胞(マスト細胞)の表面に結合した状態で、待っています。
スギ花粉抗原に対するIgE抗体が作られることで、” 花粉症を発症する準備 ” が完了するのです。
この花粉症の発症準備を図示したのが下図の「左側」です。真ん中の矢印より右側は花粉症の発症時の反応です。
図18 アレルギー性鼻炎症状発現のメカニズム
(” 鼻アレルギー診療ガイドライン2020 ” より転載)
一見複雑に見えますが、非常に素晴らしい図です!
肥満細胞とIgE抗体
スギ花粉症の準備として、肥満細胞の表面にIgE抗体がくっついて、待っていることを書きました。では、具体的にはどんな状態なのでしょうか。
IgE抗体
花粉症で働く免疫グロブリンはIgE抗体です。
図19 IgE抗体の構造(イラスト)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Immunoglobulin_E
IgE抗体が肥満細胞の表面にくっつくための特別な受容体があります。
FcεRI、Fc epsilon(イプシロン)R(レセプター)I(1、ワン)と呼ばれます。
図20 FcεRI の構造(手書きイラスト)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Mast_cell
Fc ε(イプシロン)受容体1の構造は、α 鎖、β鎖、2本のγ鎖からなり、7回膜貫通型受容体です。
IgE抗体がつくと、下図のようになります。
図21 FcεRIにIgE抗体が結合している部分に抗原(Antigen 緑色🟢)が結合したところ(図右上)
実際はまだ抗原(🟢)は結合していません。
FcεRIの細胞外部分、α鎖(α-chain)にIgE抗体のFc 部分が結合しています。FcεRIは、IgE抗体のFc 部分と非常に親和性が高く(くっつきやすく)、IgE抗体の重鎖(heavy chain)とつよく結合しています。
ここで、先に書いた免疫グロブリンの構造を思い出してください。
5種類の免疫グロブリン、IgG、IgD、IgA、IgM、IgE、は何が違っていたでしょうか。
Y 字型の基本構造の重鎖だけが違っていましたね。(図15)
図15 (同) 免疫グロブリンの構造
①Fab領域 ②Fc領域 ③重鎖 ④軽鎖
⑤抗原結合部位 ⑥ヒンジ部
重鎖が γ, δ, α, μ, ε 鎖のときに、免疫グロブリンは、IgG、IgD、IgA、IgM、IgE、になります。他の構造は同じです。
(クラススイッチを思い出してください!)
この受容体、FcεRIは、重鎖がε 鎖であるIgE抗体のFc 部分に強力に結合しますので、この名称があります。
肥満細胞はこの状態で、花粉を待っています。
肥満細胞だけでなく、好塩基球もFcεRIを発現しており、IgE抗体が付着しています。
花粉症を起こすメカニズム
” 花粉症になるメカニズム “で、スギ花粉に対する大量の抗体が産生され、準備されました。
肥満細胞(マスト細胞)の表面には、スギ花粉抗原に対するIgE抗体が大量に結合して準備されています。(図16, 図17)
さあ、ここからです。花粉を吸入するとどうなるのでしょう。
花粉が肥満細胞を破壊する?
スギ花粉抗原のcry j1, cryj2 に対して産生されたIgE抗体は、肥満細胞の表面に結合した形で準備されています。
2回目以降に花粉を吸入して、鼻粘膜の粘液層に花粉が触れると、同じようにスギ花粉抗原(cry j1, cryj2)が出てきます。
脱顆粒
cry j1,cryj2 が肥満細胞表面のIgE抗体に結合すると、肥満細胞の細胞膜透過性が亢進して、肥満細胞内に大量に貯蔵されていたヒスタミンが細胞外に放出されます。
これを” 脱顆粒 “といいます。
図22 肥満細胞の脱顆粒(degranulation)
1 抗原 2 IgE 3 3 FcεR1
4 ヒスタミン、プロテアーゼ、ヘパリン、ケモカイン
5 顆粒(granules) 6 肥満細胞(Mast cell)
7 新しく産生されるメディエイター
(プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサン、血小板活性化因子(PAF))
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Degranulation
肥満細胞は、細胞質にヒスタミンを大量に含んでいます。肥満細胞の表面にはFcεRIと呼ばれる受容体があります。このFcεRIには、IgE抗体のFc 部分が結合しています。
図示22で、いま、抗原がやってきて、抗原にIgE抗体の先端の抗原結合部位がくっつきます。肥満細胞直上にある3つの抗原を見てみましょう。1番左の抗原はまだFcεRI(受容体)とくっついていません。真ん中の抗原は1つの受容体にくっつこうとしています。1番右の抗原は、2つの受容体に” またがって “くっついています。
じつは、この1番右の抗原のように、2つの受容体に” またがって “くっつくこと、が非常に重要なのです。
抗原と結合したIgEが2つ以上のFcεRI(受容体)に” またがって “結合したとき、はじめて肥満細胞が活性化されます。
これを、抗原抗体複合物によるFc 受容体の” 架橋 (クロスリンク)”と呼びます。
肥満細胞のFc 受容体の架橋が完成すると、FcεRIのγ-chain に結合している、ITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) が活性化されて、肥満細胞の細胞質内で反応が進行して、最終的に細胞膜からヒスタミンが大量に放出されます。
これが脱顆粒 (degranulation)です。
” ITAM は多くの免疫細胞の細胞膜に存在して、細胞内における複数のシグナル伝達系の開始をつかさどる必要不可欠なタンパクです。”
このヒスタミンが、スギ花粉症の多くの鼻症状を起こしてきます。
肥満細胞の脱顆粒によって、肥満細胞から放出される生理活性物質は、ヒスタミンだけではありません。
セリンプロテアーゼ、セロトニン、ヘパリン、ATP、ライソゾーム酵素群、TNF-α、IL-4、好酸球走化性因子(eosinophil chemotactic factor)、などが分泌されます。
そして花粉症において重要な物質が、
ロイコトリエンC4、プロスタグランジンD2、トロンボキサン、PAF(血小板活性化因子)、です。
ヒスタミンによって、花粉症の鼻症状がどのように起こるのかについては、後述します。
アラキドン酸カスケード
じつは、肥満細胞から細胞外に放出されるのは、ヒスタミンだけではありません。
スギ花粉抗原の結合によって、肥満細胞はヒスタミンを大量に放出しますが、そのほかの物質も産生します。(図18の 7)
肥満細胞の細胞膜で「アラキドン酸カスケード反応」が起こって、肥満細胞の細胞膜から、ロイコトリエン、トロンボキサン、プロスタグランジン、PAF(血小板活性化因子)などが細胞外に放出されます。
これらの物質と、肥満細胞から放出されるヒスタミンが中心となって、花粉症の症状を起こしてくるのです。
ヒスタミン
ヒスタミンは生体内で、アミノ酸のヒスチジンから合成されます。分子量111の活性アミン(*)です。
*アミン アンモニアの水素原子が炭化水素基で置換された物質
図23 ヒスタミンの構造式(C5H9N3)
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3
ヒスタミンは神経伝達物質であるとともに、アレルギーにも関与します。
ヒスタミンには、血管拡張、血管透過性亢進、平滑筋収縮、腺分泌促進などの薬理作用があります。
ヒスタミンは花粉症のときは非常に悪いイメージがありますが、じつは通常、ヒスタミンは、生体内の肥満細胞、好塩基球、副腎髄質にあるクロム親和性細胞(EC細胞)などに細胞内顆粒として貯蔵されています。
その他、肺、肝臓、胃や大脳に存在しており、神経伝達物質として働きます。他にも様々な生理作用を担っています。
スギ花粉抗原が肥満細胞のIgE抗体と結合することによって、ヒスタミンが細胞外に大量に分泌されます。
この大量のヒスタミンが、全身に分布しているヒスタミン受容体と結合して、受容体の興奮がさまざまな生理作用を起こしてくるのです。
ヒスタミンは、ヒスタミン産生菌として知られる、Morganella morganii(モルガン菌) などによっても産生されます。
ヒスタミンによる神経終末興奮
ヒスタミン受容体にはH1-H4の4種類がありますが、このうち花粉症などのアレルギーに関する受容体は、H1受容体です。
ヒスタミン受容体は、Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor、GPCR)であり、細胞膜を7回貫通する性質をもつことから、” 7回膜貫通型受容体 “とも呼ばれています。
図24 典型的なGタンパク質共役受容体(GPCR)の模式図。(N末端NH3+が細胞外、C末端COO-が細胞内)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/G_protein-coupled_receptor
ヒスタミンのH1受容体は、脳神経細胞の樹状突起、平滑筋、血管内皮細胞、末梢の知覚神経終末、肥満細胞などに分布しています。
下鼻甲介の呼吸上皮直下には、肥満細胞が多く存在しています。スギ花粉抗原のcry j1、cryj2が肥満細胞表面のIgE抗体と結合することによって肥満細胞から細胞外に大量に放出されたヒスタミンは、下鼻甲介粘膜の呼吸上皮直下に分布している、三叉神経の知覚神経終末のヒスタミンH1受容体を刺激します。
三叉神経の知覚神経からの電気信号(インパルス)は、瞬時のうちに、脳幹のくしゃみ中枢神経まで達して、
大量に放出されたヒスタミンが、下鼻甲介粘膜下の毛細血管の血管内皮細胞に存在するヒスタミンH1受容体と結合して、血管透過性亢進や血管拡張などのアレルギー反応が進行していきます。
また、ヒスタミンは肥満細胞の遊走を促す作用があります。ヒスタミンH4受容体を介した反応として知られています。
* 遊走 集まってくること
CGRP
三叉神経の知覚神経終末には、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide, CGRP)と呼ばれる物質が存在しています。
CGRPは、中枢神経、心臓、末梢血管の知覚神経終末に存在する発痛物質です。
三叉神経の知覚神経終末が刺激を受けると、CGRPが分泌され、CGRP受容体と結合して血管拡張が起こります。
CGRPには、αとβの2つのサブタイプがありますが、下鼻甲介粘膜下に存在しているのは、αCGRPです。
CGRP受容体は、偏頭痛の治療からも注目されています。
図25 (図5同) 下鼻甲介粘膜下の解剖(イラスト)
左図 三叉神経の走行(黄色🟡)
右図 下鼻甲介粘膜(線毛呼吸上皮)下の構造
粘膜固有層(lamina propria)に
” 神経終末や血管が集中している “
鼻粘膜 三叉神経の知覚神経終末
(CGRP陽性、Substance P陽性)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Rhinitis
三叉神経の知覚神経終末
(Trigeminal CGRP/SP+ fibers) は、図21右上の図、中央部分に示されています。
blood vessel (血管)を取り巻くように分布しています。(見にくいので拡大してご覧ください)
Trigeminal CGRP/SP+ fibers
三叉神経 知覚神経終末(🟡)
sympathetic (nerve) 交感神経(🟡)
parasympathetic (nerve) 副交感神経(🟡)
glands 鼻腺
lamina propria 粘膜固有層
blood vessel 粘膜下の血管(🔴)
ciliated columnar epithelium
線毛円柱上皮(線毛呼吸上皮)
solitary chemoreceptor cell
孤立性の化学受容体細胞
mucin layer 粘液層
airway lumen 鼻腔
(図5同)
P物質
下鼻甲介粘膜下、粘膜固有層にはCGRPと同様に、P物質 (Substance P)と呼ばれる神経ペプチドが存在します。
P物質は、三叉神経の知覚神経C線維末端に貯蔵されています。三叉神経の知覚神経が刺激を受けると、知覚神経末端から放出されて、血管透過性亢進とともに神経原性炎症を起こします。(図25)
P物質は、肥満細胞からヒスタミンを遊離させます。ヒスタミンは知覚神経を興奮させてC線維末端からP物質が放出されます。放出されたP物質は、また周囲の肥満細胞からヒスタミンを遊離させます。
このようにP物質は、三叉神経の知覚神経末端でのヒスタミン刺激を増強する、正のサイクルを形成します。
くしゃみ
スギ花粉抗原刺激によるくしゃみ発作は、主として、三叉神経の知覚神経終末のヒスタミン刺激による、脳幹のくしゃみ中枢を介した呼吸反射である、と考えられています。
この刺激は、知覚神経終末にあるヒスタミンH1受容体にヒスタミンが結合することによって、瞬時に起こります。
→ くしゃみ
① 下鼻甲介粘膜下に分布している三叉神経終末の知覚受容体(H1受容体)からの電気信号は、三叉神経の脊髄路核へ伝達され、延髄網様体のくしゃみ中枢に送られます。
② 延髄網様体のくしゃみ中枢から信号伝達された、脊髄前角・横隔神経核、三叉神経運動核、顔面神経核、疑核、舌下神経核から、即座に反射路を介して電気信号のインパルスが送られます。
③ その後、6本の脳神経(5,7,9,10,11,12) と、横隔神経、肋間神経、頚神経、腕神経叢を経由して、横隔膜、肋間筋、腹筋、呼吸補助筋などが連動して、声門を閉じて肺内圧を高め、一瞬で爆発的な空気の呼出を行います。
これが、くしゃみの機序です。(①-③)
図26 三叉神経の走行
https://commons.m.wikimedia.org/wiki/Category:Nervus_trigeminus
鼻腔粘膜からの知覚神経刺激は、三叉神経の大きな神経節(trigeminal ganglion)を経由して、電気信号として瞬時に脳幹へ伝達されます。(図16)
図27 脳幹のイラスト(右図は中脳、延髄は左図の上から3番目 )
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Brainstem
脳幹は生命維持に重要な部位です。
図17 左図で、上から順に中脳、橋、延髄と並んでいます。1番下が延髄です。
ここに延髄網様体があり、くしゃみ中枢が存在します。延髄網様体は、延髄だけでなく中脳の方へも拡がっています。
鼻漏
① 三叉神経の知覚神経終末のヒスタミン刺激は、延髄網様体のくしゃみ中枢と同時に、橋延髄網様体の唾液核へも伝達されます。
図28 上唾液核、下唾液核の位置
(橋から延髄にかけて縦に長く存在する)
http://medicalanime.jp/BrainAndNeuron/12brain%20nerve/index.html
② 唾液核から翼口蓋神経節へ、副交感神経を通じて電気信号が伝わり、翼口蓋神経節から副交感神経節後線維へ神経興奮が伝わります。
図29 翼口蓋神経節(pterygopalatine ganglion)
(青🔵マーク)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Pterygopalatine_ganglion
③ 副交感神経節後線維に支配される鼻腺細胞に興奮刺激が伝達されて、節後線維末端からアセチルコリン(Ach)が分泌されます。
④ Ach分泌によって鼻腺細胞から大量の鼻漏(鼻水)が漏出します。
これが鼻漏(はなみず)の起こりかたです。
(①-④)
ヒスタミン刺激によってくしゃみ発作が起こると同時に、反射性に副交感神経中枢の興奮が起こり、翼口蓋神経節経由で、水様性鼻漏(水のような鼻水)の分泌が大量に起こります。
(図19)
スギ花粉に暴露すると、くしゃみ発作に連続して水様性の鼻水が多量に出てくるのは、こういう理由によるものです。
ヒスタミン、ロイコトリエン、PAFなどは血管拡張作用があり、下鼻甲介の毛細血管からも直接、血漿成分が漏出しますが、全体に占める割合は多くありません。
(ヒスタミンのH1受容体由来)
アラキドン酸代謝産物?
スギ花粉抗原のIgE抗体との結合によって、肥満細胞の細胞膜から分泌されるロイコトリエンは、アラキドン酸代謝産物です。
プロスタグランジンも同様にアラキドン酸代謝産物です。
図15に、アラキドン酸カスケード反応を示しました。
アラキドン酸から、その代謝産物として、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどが生成されることが理解できます。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%83%89%E3%83%B3%E9%85%B8
アラキドン酸は、生体の細胞膜を構しているリン脂質の一部です。
アラキドン酸は、ω-6脂肪酸の代謝産物の1つであり、生体にとっては必須脂肪酸です。
また、アラキドン酸はプロスタグランジンを介して生体内の炎症と深く関係しています。
アラキドン酸の代謝産物は、大きく3つあります。
プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンです。
これらの物質はすべて、スギ花粉抗原の暴露によって、肥満細胞から放出されます。
つまり、スギ花粉抗原と肥満細胞表面のIgE抗体の結合は、肥満細胞の細胞膜の酵素活性を高めて、細胞膜由来のアラキドン酸がカスケード反応を開始して、ロイコトリエン、プロスタグランジン、トロンボキサンなどの生成が起こることがわかります。
これらの物質はヒスタミンのように肥満細胞から直接放出されるのではなく、肥満細胞の細胞膜が活性化して、途中で生成されてくるもの、と理解してください。
ロイコトリエン
ロイコトリエンはアラキドン酸代謝産物です。
ロイコトリエンには、LTA4、LTB4、LTC4、LTD4、LTE4、LTF4の6種類があります。
LTC4、LTD4、LTE4、LTF4は構造に” システイン ” というアミノ酸を含むため、” システイニルロイコトリエン(cysteinyl leukotrienes)” と呼ばれます。
図32 Cysteinel Leukotriene C4 (LTC4)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Leukotriene
” システニルロイコトリエン受容体 “である CysLT1 と CysLT2 は肥満細胞、好酸球、内皮細胞に存在しています。
システイニルロイコトリエンがこれらの細胞表面にある受容体に結合すると、肥満細胞によるケモカインの産生や、血管内皮細胞への炎症誘発性の刺激を引き起こします。
システイニルロイコトリエンは、気管支平滑筋を収縮させ、血管平滑筋を拡張し、微小血管の血管透過性を亢進させます。
LTC4、LTD4、LTE4 の3種類のCysLTは複合体を形成して、アナフィラキシー低速反応物質(slow-reacting substance of anaphylaxis or SRS-A)と呼ばれる物質を作成します。
SRS-Aは、ヒスタミンの1000倍の非常に強力な気管支平滑筋収縮力をもち、緩徐に発現しますが、長時間作用します。SRS-Aは、喘息における主要な気管支収縮作用物質として知られています。
図33 喘息による気管支収縮(bronchoconstriction) のモデル
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Bronchoconstriction
右気管支、右肺は正常です。(図左)
左気管支は、内腔の気管支粘膜が腫脹して内腔が狭くなっています。気管支平滑筋(smooth muscle)も収縮して気管支を締めつけています。気管支内腔には粘液(mucous)が喀出できずに貯まっています。左肺は炎症を起こしています。(図右)
これが、典型的な” 喘息発作 “です。
喘息も吸入抗原(アレルゲン)によって誘発される、気管支粘膜のアレルギーであり、花粉症などのアレルギー性鼻炎と病態は基本的に同じです。ハウスダストやダニなどの吸入アレルゲンが気管支粘膜に到達して、気管支粘膜下で下鼻甲介粘膜下と同じように” 免疫応答 “が進行します。
先に書いたように喘息においては、3つのロイコトリエンの複合体であるSRS-Aが主要な気管支収縮作用物質です。
このため、” ロイコトリエン受容体拮抗薬 ” は、喘息に効果があるのです。
ロイコトリエンによって、下鼻甲介粘膜下の血管拡張と血管透過性亢進が起こります。
下鼻甲介粘膜下の血流は増加して(①)、
血管外に血漿成分が漏出して下鼻甲介粘膜下組織に水分が貯留します。(②)
すなわち鼻閉が起こります。
プロスタグランジン
アラキドン酸代謝産物です。
プロスタグランジン(PGx)は現在約20種類ありますが、花粉症に関与するのは PGD2 です。
PGD2 は、気管支平滑筋の収縮、睡眠時の体温下降の調節、好中球の遊走作用、血管拡張作用(低濃度)、血管収縮作用(高濃度)、血小板凝集作用があります。
花粉症に関係するのは、好中球の遊走作用、血管拡張作用(低濃度)、血小板凝集作用です。
スギ花粉暴露部位に好中球と血小板が集合し、下鼻甲介粘膜下の血管が拡張します。
トロンボキサン
アラキドン酸代謝産物です。
トロンボキサン(TX)は、TXA2、TXB2 があります。花粉症に関与するのは、TXA2です。
TXA2は、プロスタグランジン(PG)H2から合成されます。
TXA2は、血小板凝集作用、気管支収縮作用、血管収縮作用があります。
血小板活性化因子(PAF)
PAFは、損傷組織、好中球、好塩基球、マクロファージ、血小板、血管内皮細胞に対しての特異的刺激に応答して産生されます。
多くの白血球機能の強力なメディエーターです。
PAFは血小板を凝集させて、血管を拡張させます。
下鼻甲介粘膜下の血管は拡張します。
炎症細胞動員因子
アラキドン酸カスケード反応によって生成された、ロイコトリエン、トロンボキサン、プロスタグランジンは、それぞれが、下鼻甲介粘膜下の血管や神経終末に作用します。
これらの物質は最終的に、炎症細胞動員因子と呼ばれる、多くの生理活性物質を産生、放出します。
IL-4, IL-5, IL-13、eotaxin、TARC、RANTES、ペリオスチン、などです。
eotaxin
eotaxin はケモカインの1種です。
ケモカイン(Chemokine)は、構造中に4つのシステイン残基を含む塩基性の低分子タンパク質であり、” 走化性の “(chemotactic)” サイトカイン ” (cytokine) を意味します。
白血球などの遊走を引き起こし、炎症の生成に関与しています。現在50種類以上、同定されています。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%B3
eotaxinはケモカインの1種で、” CCL11 “という名称がつけられています。
eotaxinの主な産生細胞は上皮細胞や線維芽細胞です。
Th2型のサイトカインにより産生が誘導され、Th1型のサイトカインにより抑制されます。
eotaxinは強力な好酸球遊走活性のほか、骨髄系前駆細胞の分化促進、骨髄からの好酸球動員、好酸球と血管内皮細胞との接着亢進、脱顆粒、活性酸素産生など広範な作用をもっていて、アレルギー炎症における中心的な働きをしています。
TARC
TARC (Thymus and Activation-Regulated Chemokine) は、CCL17の名称で呼ばれるケモカインです。
炎症部位に白血球を遊走させる働きをもっています。
RANTES
RANTES (regulated on activation, normal T cell expressed and secreted)は、CCL5の名称のケモカインです。
炎症部位に白血球を遊走させます。
T細胞、好酸球、好塩基球、単球、NK細胞、樹状細胞、肥満細胞なども遊走させます。
ペリオスチン
細胞接着分子であるインテグリンのリガンドであり、上皮細胞の接着および遊走を支えています。喘息と関連しています。
” 炎症細胞動員 ” 因子によって、好酸球、好塩基球、好中球、リンパ球などが集合してきて、スギ花粉症による、さらなるアレルギー反応が進行していきます。
” これらの物質の薬理作用については、1つ1つ確認したいところですが、誌面の関係で今回は省略します。しかし、これら1つ1つの物質がそれぞれスギ花粉症によるアレルギー性鼻炎の発症に重要な関与をしていることは疑いのない事実ですので、いずれまた、個別に説明したいと思います。”
ここで、もう一度見てください。
これが、” 花粉症の起こり方のすべて ” です 。
図18 (同)
アレルギー性鼻炎症状発現のメカニズム
(鼻アレルギー診療ガイドライン2020より転載)
即時相と遅延相
ところで、アレルギー症状の中でも鼻づまり(鼻閉)はすこし遅れて起こります。
これは、どうしてでしょうか。
くしゃみ、鼻水(鼻漏)は、三叉神経の知覚神経終末のヒスタミン刺激による神経反射ですので、即時に反射的に起こります。
ヒスタミンによる受容体刺激で起こる、血管の拡張および血管透過性亢進によって、血管容積の増大と血管内からの血漿漏出が起こります。このため、鼻粘膜は腫脹して鼻閉(鼻づまり)が起こります。
さらに、ヒスタミン刺激による神経反射によって起こる副交感神経興奮が、副交感神経終末や血管内皮細胞からのNO(一酸化窒素)の放出を促して、反射的に鼻粘膜容積血管の拡張を起こしてきます。これも鼻閉の原因となっています。(即時相)
一方で、抗原暴露後、鼻粘膜下では、IL-4、IL-5、IL-13、IL-25、IL-33、TSLP、PAF、ロイコトリエン、プロスタグランジンD2、トロンボキサンA2、eotaxin、RANTES、TARC、などによって好酸球や2型自然リンパ球を中心に炎症が持続します。
2次的に遊走した好酸球が産生するロイコトリエンによって、6-10時間後に遅発性の鼻閉が起こります。(遅発相)
花粉症(アレルギー性鼻炎)では、鼻閉(鼻づまり)は、くしゃみ、鼻漏に比べてすこし遅れて起こります。
最小持続炎症
(Minimum persistent Inflammation)
最小持続炎症(MPI)は、” 症状を発現しない程度の抗原曝露 “でも鼻粘膜には好酸球や好中球などの細胞浸潤がみられて、炎症が持続して起こっていることを示します。言わば、鼻症状がほとんど軽快していても、” 鼻粘膜ではまだ目に見えない下火(炎症)がくすぶっていて、いつでも燃え上がることができる準備が整っている “と言い換えられるかもしれません。
MPIによって起こる鼻粘膜過敏性は、本格的な症状の発現に寄与しています。とくに好酸球の浸潤が鼻粘膜過敏性に関係します。いったん抗原暴露が始まると、急速に症状が悪化することも、これで説明できます。
花粉症に対して初期療法が有効な理由の1つはMPIを抑制することである、と考えられています。
プライミング効果
花粉症では、連続するスギ花粉抗原の刺激によって、” 鼻粘膜の過敏性が亢進する “ といわれています。
これを、プライミング効果と言います。
具体的に言うと、スギ花粉の飛散時期に毎日大量の花粉に暴露されていると、雨が降ったり、花粉の飛散量が少ない日にも、少ない花粉量で同じように強い症状が出ること、です。
また連日大量の花粉を連続して浴びているとき、後になるほど” 鼻粘膜が敏感になって “、より短時間で花粉症の症状が発現します。多くは花粉症の症状そのものもひどくなります。
アレルゲンディスクを鼻粘膜に置く抗原誘発試験を行った翌日に、再び抗原誘発試験を行うと、初回に必要とした10-100分の1の抗原量ですでにアレルギー反応が始まります。
いったん花粉症が始まると、わずかな花粉の刺激にも過剰に反応してしまうようになるのです。花粉症の治療をすこしだけ難しくしている理由の1つになっています。
スギ花粉症と免疫学
スギ花粉症という疾患について、臨床医学と基礎医学を繋ぎながら、できる限り詳しく解説してみました。
すこし専門的に免疫学に踏み込んだ、やや難しい内容だったのではないでしょうか。
花粉症という病気の1つ1つについて完全に理解する必要はありません。診断と治療については、決まったプロトコールがあります。
知っておいて欲しいことは、
花粉症などのありふれた病気についてさえ、免疫学の深い理解が必要となる、
という事実です。
現在、難病指定されている病気を含め、医学には実にさまざまな免疫疾患とその病態があります。これらの疾患の多くが、免疫学のさらなる研究とその発展を待っているという事実があるのです。
いつの日か、すべての病気が飲み薬1個で治ってしまう日が来ると良いと切に思っています。
花粉症も同じです。
関連記事リンク先 (当院HP)
→くしゃみ
→はなみず