高齢者のめまい

最近、めまいで受診する患者さんが多くなりました。めまい=耳鼻咽喉科と思い込んでおられる方も多いようです。しかし、高齢の方のめまいは、年齢の若い方とまったく同じではありません。
そのアプローチと診断について書いてみます。

高齢者とは?

高齢者は、何歳から言うのでしょう。
正確な定義はありません。
世界保健機構(WHO)の定義では、65歳以上となっています。日本の厚生労働省の定義では、65歳以上を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としています。
ここでは現代の社会認識も考慮して、70歳以上を高齢者と意識して文章を書いています。

高齢であることの意味

人は、みな歳をとります。
生まれてから年数を積み重ねるごとに、人は成長していき、いつしか歳をとっていきます。その折り返し地点がどこなのか僕はわかりませんが、歳をとることは老化が進んでいくことです。では、老化とは一体何なのでしょう。
老化とは、” 時間の経過とともに生物の個体に起こる変化であり、死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程。”と定義できそうです。老化は、人すべてに普遍性があり、必ず起こり、不可逆性です。老化の原因は、プログラム説、遺伝子修復エラー説など諸説がありますが、ここでは議論しません。年齢とともに起こる生体の機能低下が老化の本態です。
老化は、脳神経、心血管、呼吸器、消化器、腎、泌尿器、筋肉、骨、皮膚、目、耳に必ず起こります。じつはこの全てが、めまいの原因の一つかもしれないのです。

ぐるぐる、ふらふら

めまいで病院に行くと、担当医が必ず訪ねます。「ぐるぐる回るめまいですか?フラフラするめまいですか?」
めまいの標準的な教科書にはほとんど、
「 回転性の(ぐるぐる回る)めまいは前庭系のめまい、非回転性の(フラフラする)めまいは、中枢性のめまいのことが多い。」という記載があります。前庭とは内耳のことです。医学は確率の要素が多い自然科学なので、担当医はまず一番多い(確率の高い)病気から疑います。回転性めまい=前庭系(内耳)=耳鼻咽喉科、という図式が、ここで出来あがります。

糖尿病、高血圧、心臓病

70歳以上でめまいを訴える高齢の方は、一般に合併症と呼ばれる病気を持っておられます。1つだけでなく、2つ、3つと持っておられる方も決して少なくありません。これに起立性調節障害(立ちくらみ)を加えた4つが代表的な病気です。高血圧が最も多く、起立性調節障害が2番めに続きます。
これら以外にも、肝臓病、腎臓病、喘息、肺気腫、COPD、骨粗鬆症、ロコモティブ症候群、貧血、白内障、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知症など…。がん治療中の方も、がん治療後の方もおられます。定期的にお薬を飲んでいない患者さんを探すのが難しいくらいです。

めまいの診断

めまいの診断と治療については、過去のトピックスでいくつか書いています。
ご興味のある方は是非お読みください。

めまい -その1-
メニエル病について -その1-
外リンパ瘻 -その1-

この頁では、例外の多い高齢者の方特有のめまいについて、書いておきたいと思います。

高齢者めまいの特徴は?

高齢者めまいの特徴は、先に述べたように高齢者では、老化によって身体機能が著しく低下していることです。
先の4つ、高血圧、糖尿病、心臓病、起立性調節障害などの合併症だけでなく、高次機能の低下、体性感覚の低下、代償能の低下、自律神経機能の低下、関節変形・姿勢の変化(屈曲姿勢)、筋力の低下、薬物代謝能の低下、視力低下、聴力・平衡機能の低下、意欲の低下などです。高齢者のめまいは、これらが複雑に合わさって起こっている可能性があります。

脳血管性?

高齢者のめまいで一番注意が必要な病気は、脳血管性のめまいです。見逃したら命にかかわることが多いからです。” 脳血管性のめまいは回転性ではない” と考えている方がおられるかもしれませんが、それは間違いです。脳血管性のめまいでもぐるぐる回るめまいはあります。小脳出血や梗塞などは回転性のめまいと嘔吐があります。前庭系のめまいとの鑑別はつよい頭痛があることです。手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない(構音障害と言います)などの症状があれば、脳梗塞など脳血管性の病気がめまいの原因だと早く気づきます。でも、そのようなわかりやすい症状がない場合も多いのです。脳幹の微小梗塞は、部位と範囲が良ければすぐには脳血管性だと診断がつきにくい場合があります。
回転性と非回転性のめまいで病気を診断したら診断を誤る可能性があります。もちろんクリニックでできる診断は100%ではありません。しかし、少しでも脳血管性のめまいが疑われたら、即座に脳神経外科医を紹介しています。

何のめまいが多い?

さて、明らかな脳血管性のめまいではないとき、耳鼻咽喉科で診る高齢者のめまいで多い疾患は、次の10個です。

  1. 椎骨脳底動脈循環不全症
  2. 起立性調節障害
  3. 良性発作性頭位性めまい
  4. 前庭神経炎
  5. メニエル病
  6. 心疾患
  7. 薬物によるめまい
  8. 聴神経腫瘍
  9. うつ病 
  10. 原因不明 

1-10を見ると、純粋に末梢前庭系のめまいは、3, 4, 5, の3つです。8 は中枢性も混ざっています。1番めと2番めはともに脳血流に関するものです。6も、不整脈や頸動脈洞反射、血管迷走反射によるものですので同じく脳血流低下が原因のめまいです。

1. 椎骨脳底動脈循環不全症

心臓から脳へ血流を送る椎骨脳底動脈の循環不全によって、脳幹、小脳、後頭葉の機能障害による発作を繰り返す疾患のことを言います。簡単に言えば、脳血流がうまく流れなくなったことによるめまいです。
症状は、回転性(ぐるぐる)または浮動性(フラフラ)のめまい、眼前暗黒感(突然目の前が真っ暗になる)、複視(ものが二重に見える)、構音障害(ろれつが回らない)などです。手足の一過性の痺れや麻痺を伴うこともあります。症状がひどくなると、一過性脳虚血発作(TIA)と言って、一時的で可逆性の脳梗塞になることもあります。
高齢者で、糖尿病、高血圧、高脂血症などの合併症を持っている方に多く起こります。脳へ行く太い動脈に動脈硬化が起こり、血管内腔が狭くなって血液がスムーズに流れません。進行するとめまいだけでなく、脳に血栓が詰まる脳梗塞が起こりやすくなります。めまいが、脳梗塞の前兆になっていることが多い病気です。耳鼻咽喉科の検査ではほとんど異常が見当たらず、めまいの薬だけ処方されることが多いですが、内科医や脳神経外科医による精密検査を受けて、原因を確認しなければなりません。通常、MRIやMRAの画像診断が必要です。
とくに65歳以上では、脳梗塞の症状が全然ないのに脳の細い血管がすでに微小血栓でつまっている無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)が起きていることがありますので、注意が必要です。
血流不全の原因は動脈硬化だけでなく、頚椎の加齢変化、骨による圧迫などの整形外科疾患によるものや、不整脈によって血流が連続的に流れないため心臓病が原因になっていることもあります。幅広い診療科での対応が望まれます。

2. 起立性調節障害

疾患の定義は、「自律神経の機能低下によって、起立や座位で脳血流が減少する病気」です。起立時に血圧の低下と心拍の上昇がみられます。主な症状として、立ちくらみが起こります。10歳から16歳くらいの小児に起こることが多いとされていますが、じつは成人にもある病気で、高齢者にも多い疾患です。
起立によって通常、血圧は変動せず、脈拍はすこし上がります。起立性調節障害があると、起立によって血圧が大きく低下して、脈拍が大きく上昇します。起立によって重力で血液が下方に集まりやすくなりますから、通常は下肢や腸管の血管が収縮して血液を上方(脳や心臓など)に集めます。同時に心拍数が少しだけ上がります。心臓から送り出す血液量を増やして、脳へ行く血液が減らないようにするためです。これは、自律神経の働きで無意識に反射的に起こります。人は、1日のうちで何度も椅子から立ち上がったり座ったりを繰り返しますが、その都度めまいが起こらないのは、自律神経の働きがあるためなのです。
しかし、高齢者では自律神経機能の低下も起こりますから、この働きがうまくいきません。起立によって下肢や腸管の血管が収縮せず、起立性の低血圧を起こします。逆に起立によって高血圧を起こす人もいます。食事の後1-2時間、起立時に低血圧を起こすことがあります。食後性の低血圧で、注意が必要です。
高齢者で起立性低血圧(高血圧)を起こす人は、1.の椎骨脳底動脈循環不全症を合併していることが多いと報告されています。一般に高齢者では、高血圧の人ほど起立時に血圧の低下が大きいと言われています。これは、血圧の薬を飲んでいても起こります。繰り返すと、脳血流の低下が反復されて、脳梗塞を起こす可能性もでてきます。

6. 心疾患

高齢者のめまいで、心臓病が原因のことがあります。不整脈、頸動脈洞症候群、血管迷走神経性失神などです。
重症の不整脈があると脳血流が一時的に途切れたり、脳の血流がスムーズでないために脳血流低下によるめまいが起こります。とくに高齢者で心臓病のある方は要注意です。心房細動などは、常に心臓で小さな血栓(血の塊り)ができやすく、脳の血管に血栓が飛んで脳梗塞を起こす危険性が高くなります。微小血栓のときは、一時的な血液途絶や血流不全によってめまいが起こることがあり、心臓病の治療をする必要があります。重症の不整脈の場合も、頻繁に脈が飛んだりすると脳血流が一定せず、めまいの原因になります。
人の頚部にある太い動脈の周りには圧受容体が存在し、自律神経のコントロールをしています。この受容体を首の皮膚の上からつよく押すと、過剰な迷走神経反射が起こり、一時的な心停止や重篤な血圧低下や徐脈(異常に脈が遅くなること)が起こることがあります。心停止は3秒以上、血圧低下は50mmHg以上におよび、失神が起こり生命の危機に瀕します。これを頸動脈洞症候群と言います。高齢者で心臓の血管が細くなっている方や高血圧がある方に起こりやすいとされています。
急激な頚部の回旋,伸展や、ひげ剃り、ネクタイ 締め,着替え,車の運転,荷物の上げ下ろしなどの行動 に伴って症状が出現しやすいため,それらの誘因を 避けるように注意しなければなりません。失神までいたらず、めまい症状だけのことも多くあります。
血管迷走神経性失神で高齢者に多いのが、排尿失神です。高齢になると夜間トイレに起きることが多くなり、睡眠中に血圧が低下していたところへ、排尿後の血管迷走神経反射によって急激な血圧低下が起こり失神します。脳貧血と同じですので回復しやすいですが、転倒しますので転倒による外傷に注意が必要です。
これらは純粋に循環器内科専門医の疾患です。循環器内科で治療する必要があります。

7. 薬物によるめまい

高齢者の方は、高血圧などの合併症のために、複数の医師から多くの薬を処方されていることが少なくありません。とくに、不眠による睡眠導入剤、気分がすぐれないことによる抗うつ薬、抗不安薬などの継続は、複数の薬剤の相乗効果によって、昼間のふらつきや歩行時の不安定につながっていることがあります。耳鼻咽喉科や他の診療科でも異常が見られないめまいのときは、お薬の確認も必要になります。

3, 4, 5, 8

耳鼻咽喉科のめまいは、3, 4, 5, 8 です。それぞれ高齢者では、若年者と違う特徴がありますが、ここでは頁の関係で省略します。これらの疾患は、受診されたら治療可能だからです。8 の聴神経腫瘍は、50-60歳台に多い疾患ですが、高齢者でも見つかります。良性腫瘍で発育が緩徐なことが多いため、高齢者では経過観察も選択されます。

10. 原因不明

耳鼻咽喉科であらゆる神経耳科的な検査を行なっても異常がなく、他診療科へのコンサルトを経ても異常が確認でない、いわゆる”原因不明のめまい”が、高齢者にはみられます。
高齢者のめまいの20%を占めているとの報告もあります。presbyastasis と呼ばれています。
海外の論文での定義によると、presbyastasis は、” 加齢にともなう平衡障害。知覚系運動系を含めた脳神経機能の加齢が原因で起こる浮動性めまいと平衡失調。”と訳されます。
今後明らかにされてくると考えています。

結論は?

高齢者のめまいについて、書きました。
高齢者でめまいがあったら、まずは症状をしっかり観察しましょう。ぐるぐる回るめまいのときは、とても冷静に自分のことなど観察できないと思いますが、できる範囲で大丈夫です。

つよい頭痛はないか?
手足の痺れや麻痺はないか?
ろれつが回らないか?
ものが2重に見えないか?
目の前が真っ暗にならなかったか?

これらの症状がなかったり、はっきり自覚されないのなら、とりあえず慌てる必要はありません。かかりつけの耳鼻咽喉科医を受診してください。ただし、症状は常に変化しますので、途中で危険な症状が出たら、担当医に必ず伝えることが大切です。
めまいは、つらい症状です。
とにかくお大事に!

フラフラする高齢の女性
(イメージです)